おわりに
2006年5月現在、大阪芸術大学の通信教育を卒業して、ちょうど2か月が経ちました。卒業制作の発表が2月5日で、私にとってはそれが最後の科目でしたので、通信教育が終わって実質的には3カ月半経ちました。
卒業制作発表の直後から、長い間、脱力感と喪失感で無気力な状態に陥ってしまいました。時間的にも精神的にも、解き放された状態の中で。頭の中では、次にやらなければならないことがある、ということは十分理解しているのですが。
この5年間、ずっとプレッシャーがありました。仕事をしていても、休みの日でも、課題をしなければという思いがどこか頭の片隅にありました。うまく切り替えができればいいのですが、私にはできませんでした。
この体験記は、私の5年間の通信教育が終わった区切りとして備忘的に記録しておこうと思い書きました。
通信教育で大学を卒業してどうするのか、ということをたずねる人がいます。私が通信教育を始めた理由は、純粋に建築について興味があったので学びたかった、ということと、建築士試験を受験したかったというのがその主な理由です。資格試験の受験のため、公務員試験のため、昇給のためなどの公的なことを目的にするのならば、通学であろうと通信であろうと大学卒は同じ大学卒です。
それでも普通に考えれば、通学して大学を卒業したほうがいろいろな意味ではるかにいいと思います。ただし、通学で学べることができる環境であればいいのですが、私や他の多くの会社員の人たちのように、日頃普通に勤務している状況ではほとんど不可能です。夜間大学が近くにあって、通学できるというような場所に住んでいるとすればまだ可能かもしれませんが、特に地方では、自分が学びたい学部がある大学を見つけること自体もなかなか困難です。
その点通信教育は、スクーリングの問題があるのですが、住んでいる場所の制約を(国内居住に限るというような場合を除いて)受けません。多くの通信制大学の場合、入試もありませんから始めるのも簡単です。逆に、大学で学びたいと思っていても、時間や場所の都合上、通学できないという人たちにとっては、通信教育以外の選択肢はほとんどありません。
学生の授業に対する真剣度に関して言えば、私が20数年前学生だった時の講義状況と、今回通信教育で参加したスクーリング時の講義状況では、まったく異なっていました。もちろんスクーリングのほうが、社会人が多いので真剣でした。自分が学費を払い、仕事の合間の貴重な時間を使って参加しているのですからごくあたりまえの話なのですが。
ただし、良いことばかりではありません。一番の問題が、学習意欲を持続できるかということです。1年次に入学したとすると、卒業までには少なくとも4年かかります。その間、学習の進捗状況について、だれもアドバイスはしてくれません。たとえば1年間、自分が何もしなければそのまま時間が過ぎるだけです。大学は、課題集やスクーリングのスケジュール表を送ってきたり、提出した課題を受付けたり返送したりといったことをはしてくれますが、遅れているから、早く提出しなさいなどとは言ってくれません。基本的には独学です。
私の場合、1年目から学習のペースがつかめず、忙しいこともあって、すっかり学習意欲が低下してしまいました。あれこれ、いろいろな科目に手を出すわりには科目一つ一つが中途半端で終わってしまい単位がとれませんでした。1年目が終わってとれた単位が、わずかスクーリングの2単位だけでした。
2年目も同じような状況でした。スクーリングもしたかなく参加するような始末で、自分の作品が酷評されたこともありました。この時ばかりは心底すっかりやる気を失ってしまい、本当に辞めたい気分で一杯でした。でも、自分の意思で通信教育を始めた以上、ここで辞めるわけにはいかない、建築の勉強をやめるにしても通信は最後まで終わらせてから辞めようと奮起し、3年目、4年目、5年目は自分ができることはできる限りのことはしようと考えるようになりました。その後は、以前、作品を酷評した同じ先生から、別の作品を激賞されたこともあります。
振り返ってみると、結果的には途中で辞めなくて本当に良かったと思います。もし途中で辞めていたら、それ以降また何か別なことを始めたとしても、途中で挫折するかも、と考えてしまうかもしれません。そう思うことが自分にとって一番良くない影響だと思います。最初は大したことに思わなくても、続けてさえいれば何か結果を得ることができます。
とりあえず、卒業することができましたが、私は卒業することが目的ではありません。今は、これから自分がしたいと思うことへのスタートラインにようやく立てたというだけのことです。建築について学ばなければならないのはむしろこれからで、これからも少しずつ勉強は続けようと思います。