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合鍵 「10代目、今日はウチに来られるんでしたよね?」 「うん、よろしく」 『一緒に宿題しよう週間』3日目の水曜日。1日おきにお互いの家に寄って宿題をして、ついでに予習復習の癖もつけようと…というのは単なる理由付けであって、実のところはオレが獄寺くんと少しでも長く一緒に居たいだけだ。 2人して帰り支度を済ませてさあ教室を出よう、というところで何故か獄寺くんの足がぴたりと止まった。 「どうしたの?」 「忘れてた。俺、放課後に職員室に呼び出しがあったんでした。ま、そんなのいいっすよ、帰りましょう」 「いや、それはだめだよ、行っておいでよ」 10代目をお待たせするわけには…!とかなんとか騒ぐ獄寺くんを言いくるめて背中を押して教室から追い出そうとすると、はたと何かを思いついたようにくるりとこちらを振り返って君は一言。 「カバン、俺のカバンの中にウチの鍵がありますからそれ持って先に行って下さい」 「…やだ…」 「や…って、え?ウチ…嫌ですか?」 「そうじゃなくて!」 少し勘違いをしたみたいだから、慌ててそれについての補足をする。 「ひとりで帰ってひとりで獄寺くんの部屋にいたってつまらない…ってこと!一緒がいいの、君と!」 …間をおいて、瞬時に真っ赤になる君の反応はいつ見てもおもしろ…じゃなく可愛いや。 「あ、だから先日俺が合鍵を渡そうとしても受け取ってもらえなかったんですか」 「そうだよ。合鍵を使うってことは、君が部屋にいないってことだし。それなら行く意味ないし」 更に赤みを増すその両頬を、オレの両手で包んで顔を近づけさせてお互いの額を軽くこつんと合わせる。 「いつも待たせるのはオレの方だから、たまには待つよ。行ってきて」 小さな子供に言い聞かせるように、笑って囁くように。 「…はい、行ってきます」 魂が抜けたようにおぼつかない足取りで職員室に向かう獄寺くん。暫く廊下でそんな後ろ姿を見送っていると、 「ツナも獄寺の扱い上手くなったよなー」 とすぐ背後で声がして、オレは飛び上がるほど驚いた。 「ややや山本?いつから?」 「額こつん位から?ほんとお前ら仲が良いよな」 「びっくりさせるなよ、でもそれ見てたんならそんな理由でまだオレ帰れないから」 教室で何して待っていようかなと考えていると、山本はいつもの暢気な声で重大発言。 「そうみたいだな。まあ俺だってヒバリに呼ばれてて行かなきゃいけないんだけどさぁ」 「それこそ早く行きなよ!あの人を待たせるなよ!」 「先にちょっと部室とかに行ってくるって言ってあるからな。もう行くって」 それじゃまたなと手を振る親友を、早く行けと言っておきながら思わず呼び止める。 「応接室って、鍵あったっけ?」 「あるし、時々閉まってる。でもその時にはちょっと待ってたらヒバリは戻ってくるからな」 「鍵、貰ってないの?」 「別にいらねーし。だって閉まってるってことは、ヒバリは中に…」 居ないから…。 そんなもんなんだ。 さすが親友、価値観は一緒だと感心して、 「オレ、山本好きだなー」 「ははっ、俺もツナ大好きだぜ」 と告白大会のようになってしまった。 のどかな空気が流れているはずだった。…が。 「10代目!そうなんですか?俺より山本が?」 「げ。獄寺くん、もう終わったの?」 「ソッコー済ませてきました!それよりマジっすか?今の!」 「違う違う!山本、説明して…って、もう行っちゃったのー?」 ナチュラルに姿を消した親友は、よく考えたらオレよりこんな時の状況説明は苦手だった。 「10代目!だから合鍵いらないって…」 「違うー!」 …獄寺くんの部屋に着いたら、今日は宿題より先に、オレのこともっとよく判ってもらおう。というか、判らせよう。どれだけ君のことが大好きなのかを。 で、とりあえず誤解は解けたけど、それが結構時間を喰ってしまって、宿題を済ませて帰った途端にリボーンから『明日も明後日もこれから毎日この家でオレの監視の下で宿題をやりやがれ』と銃を向けられた。 甘い(とオレは思ってた)2人きりの時間は、これで暫く取れそうにない…。 <終> ※ 自分のテリトリーに入っていいのはツナだけなんですよ、獄にとって。そしてこのお話の副題は『愛鍵』ってことでひとつ…(20091115) |