「ぼくね、小さい頃はすっごい怖がりでね、夜も一人で寝れない位だったんだよ。」 グンマがベッドサイドのぬいぐるみを触りながら言った。いい歳をした男が何時までそんな物を大事に取っているんだと聞いた答えがそれだ。 「これは殆んど高松が用意してくれたんだ。寂しいから一緒に寝てって言ったらこんなに沢山。これで寂しくないでしょう、だってさ。」 だからといって、ずっと置いておくのもどうかと思うが。 「それがね、不思議なんだよ。シンちゃんの部屋にこっそり行ってね、一緒に寝てると何故かもう一人の気配がしてたんだ。起きてみても部屋にはぼくとシンちゃんしか居ないしさ。かえって怖くなっちゃってあれから頑張ったんだ。」 部屋中に電気をつけたまま時間が過ぎるのを待つうち、ウトウトとし始め、気が付いたら朝。何度かそれを繰り返しながら、やがてその状況に慣れていった。 そしてぬいぐるみの数も増えなくなった。 「今はさすがに平気だろう?」 キンタローの問いに、グンマが振り返る。 「怖くはないけど、寂しい時があるよ。…ね、来て。」 自分は立ったまま、キンタローをベッドに座らせた。グンマの目線が上にある。 「こうしてキンちゃんを見下ろすことってあんまりないよね。」 黙ったままのキンタローにそっと口付ける。 「今にして思えば、あの時のシンちゃんの中にはキンちゃんが居たんだよね。ごめんね、怖いなんて思って。」 「謝ることはない。あの頃は仕方なかった。」 シンタローから解放され、自分が自分を取り戻したと感じた時、やり場のない怒りと憎しみが身体の中に渦巻いていた。多分そんな気持ちをグンマは少なからず感じていたのだろう。 でもそれは終った事。過ぎてしまえばただの思い出という過去になる。 「キンちゃんは優しいね。大好きだよ。」 グンマが体重をかけてくる。そのまま押し倒されるように、ベッドに仰向けになった。 「なんか、このままキンちゃんを襲っちゃおうかな?」 「それもいいかもしれないな。」 「え?ホントに?」 少し嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。 「何時も俺のことを重いと言っているからな。たまには変わってみるか?」 「わ。」 ぱあっとグンマが赤面した。 「何時も重いなんて言ってないよ。だけどちょっとキンちゃんて、勢いが付くと止まらなくなる傾向があるから。時々ホントに苦しいんだからね。」 「早く言え、そんな時は。」 「言ったら止めてくれるの?」 「…止めない。」 「ばか!」 暗闇を怖がっていたグンマも、今は過去のもの。 「電気、消すよ。」 明るい声でグンマは言った。 「ところでさ、さっきの事、ホント?」 「冗談だ。」 「うそつき〜!」 怒るグンマも愛しいと思った。 終 |