明日の記憶(5) 「…ほね…」 「ん?」 唐突に口から出た言葉にじぶんでも驚いた。 「何の骨?」 「え…わかりません」 暗い部屋に、人間の骨。一瞬浮かんだイメージがそのまま零れて出たような。 「まあいいや、あれは本物だったんだし」 「じゅうだいめ?」 「何でもない。」 それ以上は何も言えない。口を塞がれたから。 あのひとの唇で。 …心の奥に押さえ込まれた何かが爆発しそう。 でもそんな夢を見て飛び起きても、その内容を覚えてはいない。 だけどそれはいつか必ず、何かを伴って浮上してくる。 確実に。 「どうしたのハヤト?泣くほど怖い夢だった?」 既に起きて服を着ているじゅうだいめが心配そうに近寄ってくる。 急いで涙を拭い、手を伸ばして目の前の広い胸に顔を埋めて呼吸を整えた。 じゅうだいめの着ているものはこのシャツでも手触りがいい。 「服を着なさい、風邪を引くよ」 「はい…でももう少しこのまま…で」 ふたりが重なっていたこのベッド。 ひとりで寝るにはここは広すぎます、って小声で言ったのにちゃんと聞こえていた。 同じく小さな声でハヤトが暴れても落ちない位の広さだから、だって。 「暴れるって…俺そんなに寝相悪いですか?」 「う〜ん、前はもっとじたばたしてたからね」 なんだか恥ずかしくなって目の前で縦に並んだボタンを指でつついていると、 ふわりと頭からシーツをかぶせられた。 こんな世界にいても、このひとは春の陽だまりのようないい匂いがする。 銃を持つこともあるというのに。 敵を倒すということは、ファミリーを護るということ。 それは、このひとの周りの大切な人たちのためでもある。 だからじゅうだいめをお護りするために、じぶんも強くなりたいと願った。 「本当は君にそんな事してもらいたくないんだけどね。 オレの可愛いお人形さんでいてくれるだけでいいからさ」 「だめです、じゅうだいめは俺が護ります」 「はいはい、よろしくね」 ぽんぽんと片手で頭を軽く叩かれ、ちらりと見上げるとあのひとの笑顔が降ってきた。 強くなりたい。 誰よりも。 なのに。 「俺は、どこにいればいいんですか?」 湧き上がった素朴な疑問。どうしてそう言ったのかわからないけれど。 でもその瞬間、背中に回された温かい手がほんの僅か動きを止め、 そのまま何事もなかったかのように抱きしめられる。 「ここ、だよ。君のいるべき所はここだけだ」 どこに行く気?耳元でそう聞こえた気がした。 じぶんの明日は、このひとが握っている。 だから強くなって、このひとよりも強くなって…。 この思いが悟られないうちに、いつかは…。 「…いっ!」 唐突にじゅうだいめが耳朶を甘噛みした。 歯を立てず唇で挟むようにして舌を動かす。 呼吸する僅かな空気の流れさえも敏感なそこは感じ取り、身体が密かに緊張する。 「ハヤトの匂い、好きだよ。鼻の奥をくすぐって、オレを誘ってその気にさせちゃう」 そのままゆっくり首から肩にかけて舌が這い降りる。 それとは逆に下肢から背筋を上ってくるぞくぞくした感覚。 身体を離そうとするのにつよく抱かれ、じゅうだいめの背中をぐしゃぐしゃに掻き乱す。 「シャツが皺になる、やめなさい」 「…じゅうだいめが脱いだら皺になりません」 「言ってくれるね、せっかく着たのに」 笑いを含んだ声。 「まあいいや、汗もかくし脱いじゃえ」 じゅうだいめは一旦体を離して、素早く身に着けていたものを脱ぎ、 近くにあった椅子の背にポンポン放り投げて掛ける。 「今日のお仕事はいいんですか?」 「ええっと、今が何時か判ってる?夜中の12時だよ」 「…え?」 「仕事が終わって来て君を抱いて、終わったらハヤトひとりで寝たんじゃないか」 「そうでした?」 「だからオレが自分の部屋に帰ろうと思って服着たら、君は夢見て泣いて起きたんだよ」 時間の感覚がずれてたんだね。もう朝だと思った?かわいいなあ。 そんなことを口にしながら、じゅうだいめはじぶんに覆いかぶさるように体を重ねた。 顔中にキスをされ思わず目を閉じると、その瞼をちろちろと舐めてくる。 「くすぐったいです…」 本当はもっと違う感じがするけれど、それをどう言い表したらいいのかわからない。 「目を開けて、オレを見てよ」 そろそろと上がる瞼の隙間からぬるりと入り込むじゅうだいめの舌が、瞳を舐めた。 「じゅ…!」 「きれいだし、美味しい」 「や…」 声はそれ以上出せない。 開いた口に押し付けられる唇。温かく湿ったじゅうだいめの舌に絡め取られるじぶんの舌。 密着し、離れ、お互いの味を確認しあうように舐めあう。 ぴちゃ、くちゃ、と水音がするほど激しく。 でもこれだけできもちいい。 抱きついて柔らかい茶色の髪の毛を掴むと、 同じようにじゅうだいめの手がじぶんの頭の後ろと腰に移動し…。 「…っ!んあ…!」 首筋には添える程度、だけど下は後孔をつんと突きながら軽く出入りを始める。 入り口を解す程度の軽い抜き差しでも呼吸が乱れてきて苦しい。 うまく息が出来ない。 口の中には唾液が溜まり、慌てて飲み下すと気管に入ったのか激しく咳き込んでしまった。 「大丈夫?相変わらず下手だね」 「じゅ…げほっ…!」 喋れないまま暫く口を押さえ落ち着くのを待った。 少し上体を起こしたじゅうだいめの、優しい眼差しに見守られながら。 「もういいかな?」 上下する胸に吸い付き、跡を付けながら降りてくる唇。 「ハヤトのここ、もうこんなに勃ってる」 見なくてもわかる、じんじんするほど育ったじぶんの、そこ。 じゅうだいめの視線に包まれて、とろりと先から汗を流す。 今触れられたらあっという間に達してしまいそう。 「オレのも、一緒だよ」 大きさと硬さを増した大人のそれが、じぶんのものにそっと当てられた。 「あ…!」 手を使わず竿の部分を擦り合わせ、溢れ出す先走りが熱を帯びたそこを湿らせてゆく。 亀頭の部分が下から突くように、棒のところで剣を交えるように、愉しんで腰を振られる。 「じゅうだいめ…こんなの、初めて…」 控えめに、でも敏感なところは刺激され、挿入もないまま震えながら達する自分自身。 ぱしゃ、と粘液がじゅうだいめのお腹に飛び散った。 それをこのひとは指で拭い、さっき解された下の口の周りに塗る。 ああ、くる。 身体を固くして身構えた。 …のに。 「ハヤト、好きだよ」 ずるい。 そのひとことで一瞬緊張がとけてしまった。 「う…あ…!」 上半身を逃げないように強く抱かれ、押し込まれる熱い男根。 内壁の粘膜から伝えられる熱は体内に浸透し、広がり、手足の先にまで到達する。 「あつい…じゅうだいめ…」 抱き合った身体に挟まれ、擦られた自分のモノから再び放たれる体液。 「ハヤトも熱いの出したね」 揺さぶられてしがみつく身体から立ち上る、逞しい雄の香り。 汗と、精液と、唾液が混じってぬめる肢体。 細かく突き上げられ、ゆっくり抜き差しされ、骨が砕けそうなほど強く抱きしめられる。 その全てがじぶんを高みに上らせる。頂点に導く。 そんな時、ふいにじゅうだいめが身体を離すと、大きくなった自身を引き抜き手を添えた。 どくん、どくんと脈打つリズムにあわせ吐き出される白濁がお腹の上に溜まる。 それをつい今しがた出したじぶんのと混ぜ合わすように愛おしそうに手のひらで撫でた。 そして、はあ、と軽く息を吐いて体重を掛けてじぶんにのしかかった。 「燃え尽きた…」 珍しく疲れた声。 「このままここで寝ようかな」 目を閉じた顔がすぐ横に来たので、こつんと額を合わせてみた。 「いつも、じゅうだいめが言ってることがあるんですけど…」 「なに?」 「夜は長いんだよ、って」 「ハヤト…?」 「足りません、まだ」 うそだろ〜?と苦笑するじゅうだいめは、でも嫌だとは言わないで 「まあそんな風に躾けたのオレだしな」 と、いちどキスをくれた。 このひとと、いつからこんなことをしているのかは忘れた。 わかっているのは、じぶんの生きる場所はここしかないこと。 沢山の思い出を、これから作っていくのだ。 目を閉じて明日のことを思い出そう。 なぜかそれがじぶんにはできる。 ほんとうに、どうしてか な? <終> ※ この話はここまで。これからのことは別のお話で(20090424) |