痕 ネクタイを少し緩めただけで、あとはきっちり服を着込んだままのじゅうだいめにうつ伏せにされて後ろから犯される。 浅く深く強弱をつけて揺さぶられ、体内に深く埋め込まれた熱い楔からの迸りが幾度となく中を濡らす。 声を漏らさないように顔を埋めたシーツを噛むと、反対に声を出してと促され。 「イキそうだったら教えてよ?」 「わ…かりました…」 まだまだこれからと腰を掴んで浮かせ律動を再開させるあのひとが、後で縛られた手は大丈夫かと優しく問う。 「大丈夫…です」 自ら進んで差し出した手の戒めに、少し力を込めてみた。 つい先ほどまでの事を思い出しながら。 首を絞められ、目の前が赤く染まった。これは本気でまずいと、本能で動いた無意識の行動。 「痛いって言ってるだろ?」 静かな口調。あのひとは大きな目を細め、冷たく見下す。 涙で滲む視界に翳される、手の甲にうっすら浮かんだ爪の痕。 「爪も有効な攻撃の武器になる。結構痛みはあるんだよ。だからちょっとお返しさせてもらうね」 軽く舌なめずりをして、ゆっくりと首筋に唇を当ててきて… 「…っ!」 思わず身を固くして茶色い髪の毛を掴む。 「痛いって。…ま、君も痛いだろうけど」 ジンジンと疼くような痛み。噛みつかれたのだとすぐに気付いた。 「しばらく痕は残るはずだよ。もう少し残してあげるからよく見てね」 「あ…!」 いやだと言う間もなく今度は肩に鋭い痛みが走る。 獣が獲物を食い千切るように、捻じ切るように歯を立て、そのまま数箇所立て続けに噛み痕を残す。 「いたい!…じゅうだいめ!」 内股の柔らかい肉を噛まれ、悲鳴を上げて本気で逃れようと全力で抵抗した。 「不思議なんだけどね」 突然攻撃の手を緩めてあのひとが喋りだす。 「人の身体を傷付けるのは、人が持っているものが一番なのかもしれないよ。 ナイフや弾の痕よりも、こんな薄い爪や歯でも一生残る傷が付けられるんだ。 だけど君の爪を全部剥いだり歯を抜いたりしたくない。だから、これ以上オレを傷付けないでね」 温かい手のひらが自分の付けた痕跡をひとつひとつ包み、辿る。 痛みと恐怖で流していた涙をあのひとが指で拭い、言った。 「オレだって、お気に入りのハヤトに傷を付けたくないよ。こんなにきれいな肌をしてるのに。 白くて、すべすべしてて、新鮮な果物みたいないい匂いがしてて」 威圧感と凍りつくような瞳で服従させられる時とは別人のようなことば。 「ねえ、どうしたらいいと思う?」 命令には従う。どんな態度を取りながらでも。 でもこれは、自分から申し出るように仕向けられている。誘導されている。 そう判っていても抗えない。 「…俺の…手…」 「なに?」 「縛って下さい…じゅうだいめを、傷付けないように…」 「いいよ。それが君の望みなら」 起こされて震えながら差し出した両手を後ろで縛ると、あのひとは慈しむように頭を撫でてくれた。 それだけで無性に涙が溢れる。 「いい子だね。オレの思うとおりの行動をしてくれる。口に出して言わなければ判らないほど鈍い子なら、 とっくに命はないっていうのを知っているのかな?」 「…う…」 大声を上げて泣き出したかった。 「挿れるよ、横になって」 手を添えて寝かせてくれる優しさは、これから与えられる痛みと反比例。 「ああ、そうだ、先にクスリを塗ってあげよう。怪我してたトコと、中に」 ひんやりとした感触の直後、すぐに熱くなり火照る身体。 たった一本の指で体内を蹂躙されて、くねる腰は咥えこんだ指に内部で絡み付く。 「何か、言いたい事ある?」 息が荒くなって喋りづらい。でもこれだけは伝えなければ。 「…早く、ください…じゅうだいめの…を…」 「本当に、頭のいい子だ」 満足そうに笑ってあのひとは、 「うん、これじゃないのをあげるね」 と、入り口にいちど引っ掛かるようにして指を引き抜いた。 あれから。 太く硬い肉棒で最奥まで貫かれても気持ちいいと叫び、急所を突かれればそこをもっと攻めてと求める。 自分で腰を揺らして。 …自分を殺して人形に成り下がってまで生きたいのだろうか…? 「何考えてるの?こっちがお留守になってるよ」 「…ひ…あっ…!」 敏感な内壁全体を満遍なく擦り続け出入りするモノに、思考を中断されて現実に引き戻される。 衝かれる衝撃は背筋を突き抜け、脳に直接快感を送り込む。 痛くて苦しい行為のはずなのに、どうしてあそこをあのひとのモノで掻き回されると身体中が痺れるのだろう。 そんな自分の感覚を不快に感じながらも、時にドライな絶頂を迎えて果てる。 「やっぱり痕が残りそうだね。ここにはオレが毎日クスリをぬってあげるよ。治るまで、ね」 「…っ、じゅうだいめ…!」 「いや?」 嫌だ。だけど。 「おねがい…します…」 今は、従っておく。 その手は傷ついた心には届かない。 一生残る見えない痕を抱えたまま明日も生きる …はず。 <終> ※ 歯形や爪の引っ掻き傷は当分残ります。特に子どもの薄い爪でえぐられたように付いたやつは…。子どもは目を離せん…というのは仕事上での実体験…(20090222) |