淡いひかりと強い想い

 

 

 

「あ〜、お月さま〜。」

グンマが夜空を見上げて嬉しそうに手を伸ばす。

「シンちゃんがいたらお月見団子を作ってもらうのになあ。」

「…食い気か。」

グンマは甘いものが好きだ。食事自体の量は少ないのにデザートは欠かさない。

毎週何かの記念日にかこつけてはケーキを食べているらしい。

「キンちゃん、天体望遠鏡でお月さまを見たことある?」

背中を向けていたグンマがくるりとこちらに向き直る。

「いや、写真なら…。」

「小さい頃、高松に見せてもらったんだ、僕。」

ガンマ団の敷地内でも、珍しく芝生が植えてある温室に続く小路。夜の散歩に行こう、気分転換も兼ねてさ、とグンマに連れ出されてキンタローはここに居る。

「満月よりも、少し欠けている位のほうがクレーターとかよく見えるんだよ。満月だと明るすぎて影が出来にくいから、真後ろから太陽に照らされてるその時より、少し光源がずれてる時がいいんだって。」

レンズを覗いた時、暗い空間に浮かび上がる月の縁の凹凸がとても不思議で綺麗に見え、また表面のクレーターの様子も面白くて、他の星には目もくれず月ばかり見ていたという幼い日のグンマ。

「今は夜に外に出ることなんて殆んど無いけどさ、あの感動をキンちゃんにも話したかったんだ。」

月の淡い光に照らされたグンマはまるでそのまま上空へと浮かんでしまいそうで。思わず慌ててその手を掴んだ。

「なに?キンちゃん?」

「どこにも行くな。」

「は?」

無防備なその身体を引き寄せて口付けて、強く抱きしめる。いきなりの行動に、しかしグンマは抵抗しない。

「…ん…。」

目を閉じ、自分の背中に手を回して完全に受け入れてくれている。

ゆっくりと唇が離れると、暫くの間お互い黙って抱き合っていた。

それを見ているのは、遥か天空で輝く満月だけ。

「少し冷えてきたな、戻ろうか。」

「うん、そしたら2人であったまるコトしようよ。」

さらりと無邪気に誘ってくるグンマに対し、自分も素直に

「そうだな。」

と答える。

「誰も見てないからさ、手を繋いで行こうよ。」

嬉しそうに触れたその手はひやりと冷たい。

「寒かったのか?」

「ううん。キンちゃんと一緒にいるとあったかいよ。」

満面の笑みで手を握るとぶんぶんと大きく振りながら進んでゆく。

「大好き、キンちゃん。」

この調子でいつも『好き』を先に言われてしまう。この想いは多分、いや絶対自分のほうが強いはずなのに。

少しだけ悔しい、と思う。

「あ、もう警備の人が見える。ここまでだね。」

広い敷地内でも監視とセキュリティは行き届いている。その中の、僅かな息抜きが出来るスペースでの短い散歩は終わりに近付く。

「お団子もいいけどさ、白いクリームがたっぷり乗ったケーキでもいいかな。シンちゃん作ってくれないかなあ。」

まだ甘いものの事を考えているグンマ。

「お前には悪いが…。」

「ん?何か言った?」

「いいや。それより早く戻ろう。」

 

シンタローに菓子作りを頼むのは明日の昼過ぎになるかもしれないなんて、今口に出すと怒りそうだから。

 

月が夜明けとともにその姿を隠すまで、グンマを離したくない。

 

 

 

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     静かに強い想い。でもそれは決して重くない。むしろ心地良い。そんなのを目指してみたんですが…。グンマには伝わってるはず…多分、おそらく、きっと。

 





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