傍観
触手とは違ってその先はもう形になっている。
勃起した男性器のそれに。
手を後ろで縛られて、目隠しをされ床に転がされた後でそれを聞かされた。
ぐちゅ、ぬちゅ、と嫌な湿った音が近づいたと思った瞬間、上下の口をいきなりそれが貫く。
身体中をその形に弄られ、気持ち悪くて逃れようと動く度に自分の中のものが大きさを増す。
見えないけれど、多分これらは元は全部繋がったひとつのもの。
生き物でもなく植物でもない、その先が無数のこの形になっているもの。
「気持ちイイ?楽しめそう?」
これをじぶんの為に用意してくれたじゅうだいめ。
だけどその大きさが出入りするのが痛くて、頭を振って何とかそれを伝えようともがく。
「物足りないの?そのうちよくなるから待っててよ」
声を出せなくて、せめてこの口のものを追い出したくて思い切り歯を立てた。
「…っぐ…!」
お腹の中で、もうこれ以上は大きくなれないというほど膨らんだそれが、ゆっくり抜けてゆく。
冷や汗が流れる。
まさか、そのまま、また奥を…?
口の中もあごが外れそうになる大きさになりもう噛みつくこともできない。
じれったくなるような動きがぴたりと止まった。
嫌な予感は的中した。
このまま気を失えた方が楽だと。
体内を突き上げる音が耳鳴りのように聞こえる。
揺さぶられるというより内側から叩かれる振動が外に向かって出ているような、
拷問に近い責められ方。
「あ、怒ってるみたいだよ。噛んじゃダメだよ」
でも、でもじゅうだいめ…じぶんも苦しいです…。
出入りするスピードが人間のそれではない。
おおきさも、かたさもすべてが。
「ハヤト、腕がちぎれちゃうよ。落ち着いて」
手首に食い込む縄の痛みなんか比じゃない。たすけてじゅうだいめ…!
「殺されることはないから少しだけ我慢しててね」
その時、風船が破裂するような勢いで何かがお腹の中に広がった。
粘液ではなく霧が拡散して腸壁から取り込まれて吸収されたような。
だけどそれを機に大きかったものたちは自然に元の大きさへと変化し、
動きもひとの律動に近いものに戻ってきた。
改めて感じる感触はまさしく人間のそのもの。
ふたつの口を塞がれたまま、同時に中に熱い迸りを受ける。
味もまるでひとの出すそれなのに、量は格段に多い。
いちどの収縮では出し切れず、数回に分けて中から押し出されるように流し込まれた。
ぴくぴくと側面に脈打つ浮き上がった血管の感触を舌で感じ、
いつもじゅうだいめにするように吸い上げ先端を舐め取る。
そうすればそれはゆるりと口から出てゆく。
後孔から抜け出したものは裏筋をなぞりながら前に回る。
さっきと違い、何の余韻も無く動くものたち。
「どう、よかった?これからこれが全て一度ハヤトの中に出したら終わりになるからね」
ぞく、と、弛緩した身体が粟立った。
すぐに次のものが待ちわびていたように双方の口に侵入する。
それらは早速挿出を始め、細かい揺さぶりをかけながら奥を突いてくる。
喉を突かれると吐き気がくるので、それは止めてほしい。
でもそれをどうやって伝えればいいのかわからない。
「…ん、んっ…!」
先程は感じなかった別の刺激。
自身を数本のものが擦り、挟んで先の敏感なところを剥こうとする。
指のように器用ではない分、ぎこちない動きにもどかしさが募る。
だから無意識に腰を揺らしてその後に来るはずの、あの感覚を求めた。
もう嫌悪感はない。
体内に染み込んだものがそういった感覚を鈍らせているから。
長時間愉しめるように。
「本当は手の戒めを解いてもいいんだけどね」
強張っていた身体から力が抜け、緩んだ口を見てそう声を掛けられる。
「ねえ、でもこのままがいいよね?縛られたままっての、すごく感じない?」
首を縦に振るが、これは自分の意思ではない。
ちゅ、と本来はありえないその先からの吸い付きを身体の至る所に感じる。
胸の突起を、耳朶の裏を、勃ち上がる自身にも数箇所同時に。
「ん…っく…」
特に強い刺激を感じる股間に集中するそれらは、先走りを溢れさせる口元を拭うように、
あるいは己の先をそこにぴったりとくっつけてキスをするように吸った。
その感触に思わず腰を引くと、中で揺れるものが内部の急所に外と同じように吸い付く。
いつもは突かれ、擦られるところを吸われる。
「あ、こいつ待ちきれないってさ。一緒に挿れてあげてよ」
…いれ、る…?
じゅうだいめの言っている意味がすぐに理解できなかった。
ひとつでも容量いっぱいだと思える下の口に別の一本が横から伸びてきたのが判るまでは。
ぴりりとした冷たい痛みを伴って無理矢理侵入を試みるそれに、
塞がれた口からは声なき悲鳴が上がる。
頭を振って身体を捩り、閉じようとする脚を何本ものそれらが容赦なく左右に割り開く。
そこを、切り裂きながらでも入り込むのか。
痛くて痛くて、でも泣くと息ができなくなる。
この苦しさは、まるで水の中で溺れるような。
だけど沈んでしまう前に浮上しないと。
「ん、ダメ?じゃあ仕方ないね」
限界を感じたのか2本目は侵入を諦め、代わりにじぶんのモノに強く吸い付いた。
どうなっているのか見えないけど、確実に形は変わっている。
先で吸い付くだけだった感触は消え、自身を包むように覆い、
全体を揉むように根元から先へと蠢きながら迸りを待っている。
その感触はゼリーのように柔らかくなったり、猫の舌のようにざらざらしたり変化をつけて。
「ん…く…!」
相変わらずその周りには数箇所に一斉に吸い付きながら順番を待つものたち。
体内を行き来しているものは内壁を擦り最奥に吸い付いて、ぶるりとおおきく中で震えた。
いく…!
本能として、意識しなくても腰を振って達したことを知らしめる。
ごくり。と、音がしたような気がした。
じぶんの放ったものを飲み込まれて。
それに少し遅れて体内に流し込まれる多量の粘液。
「お互いに出したり入れたりしてるね。それにしても、ハヤトはこれを見ないほうがいいと思うな。
目隠しを外さないオレは親切だよ、だってすごいグロテスクなんだもん」
いろんな感覚がマヒしている。
気持ち悪いとか、さっきより痛みを感じなくなっているとか、
なのに反対に身体の感度は上がってきているとか。
もう触れられているだけで達してしまいそうなほど。
「…ん…むぅ」
声ももっと出したいのにそれは叶わない。
前のものが出ると同時に次が口腔内をいっぱいに満たすから。
今度はまるででこぼこしたマットの上にうつ伏せに寝るようにされて、一瞬力を抜いてしまった。
…違う。
この下全体が『それ』だと気付いた時には全身に鳥肌が立った。
両の口はもう繋ぎとめられていて身動きがとれず、
そんな身体の前面を一斉に無数のそれらが吸い、舐めるように動く。
つつう…と1本のものが背骨に沿って下から上にのぼり、下がり、またのぼる。
ぞくぞくして、でも気持ちイイなんてものを通り越したこの感覚。
もがき、喘ぎ、達する。
それを延々と繰り返す。
「あ、ハヤト?これ以上はもうココロが耐えられない?」
本当に、壊れる寸前を、このひとは見極める。
「じゃあ、『今日は』終わりにしよう」
細かく痙攣する身体を抱き上げてくれたところまでは、覚えていられた…。
真っ暗な部屋で意識が戻った。
今までのは、夢?
物音ひとつしないここで、起き上がって目を慣らそうと軽く辺りを伺った。
くちゃり。
ぺちゃ。
すぐ背後で感じる気配。
逃げる暇なんてなかった。
「暗闇に目が慣れるのは早いから、あれそのものの形を見て精神的に無事でいられるかなあ?」
赤外線カメラに映し出される異形のものに絡め取られたちいさな身体。
完全防音を施された室内で響く粘着音と悲鳴。
「嫌がってる割に、もうイッちゃってるみたいじゃん?」
音を消してあるスイッチを入れようとして手が止まる。
どうやら断末魔のような声で、意味不明の事を叫んでいるんだろうなという憶測は外れたみたいだ。
その口はひたすら
「じゅうだいめ…!」
と動いていたから。
今ここで助けに行って優しい言葉のひとつでもかけてあげたら、君は…。
いいや、己の楽しみを優先させてごめんね。
大丈夫、ちゃんと見てるからもう少し襲われててね。
オレが満足するのが先か、奴等が終わるのが先か。
それか、…ハヤトがダメになっちゃうのが…。
身体全体を覆われたその中で、一体君はどれ程の刺激を受けているんだろうね。
もう順番なんて待てないあいつらは我先に求めてくるだろうから。
でも殺しちゃったら愉しめなくなるから、命だけは奪わないはずだよ。
だから自分でそうしようとしても止めてくれる。
それが君にとっていい事かどうかは判らないけれど。
優しいでしょ?
オレの方がもっと優しいけどね。
君が喜んでくれそうなものを、また沢山用意してあげるから。
楽しみにしててね。
モニターに映る泣き顔を撫でて、ゆっくり椅子に腰掛けた。
<終>
※ 触手第二弾。ごめんなさいみたいな…なんか、色々と…(20090531)