箱庭 『聞き間違いじゃないよね?さらりと言ってくれたけど。 「案ずるな、俺が側についている」って。 いつもは遠くでシンちゃんの隣にいるキンちゃん。この頃はずっと自分の近くに居てくれてすっごく嬉しい。だけどそのかわりシンちゃんの姿がここに無い。 明日、僕たちはシンちゃんを助けに行く。』 今日の日記を書き終えてグンマはベッドに寝転がった。 これまでの自分は本部を守るという名目の留守番役だった。遠征に出た事も無いし、どこかの国のお偉いさんが来ても相手をするのは現役を引退したはずのマジック。 今回のシンタロー救出作戦に呼ばれた時、集まった面々を見てびっくりしたが納得した。久々の一族勢揃い。 その中にサービスと共に修行に出ていた弟の姿もあった。 これから先も自分は表舞台に出ることはないであろう。しかし多分、コタローは違う。彼にも父やシンタローと同じカリスマ性がある。 仕方が無い。人にはどうしても向き不向きがある。戦闘能力は鍛えれば上がったかもしれないが、あえて自分はそれをしなかった。 人を傷付けたくない。青の一族に生まれガンマ団に居て、これ以上の我侭はない。 「グンマ、来たぞ。」 約束の時間ぴったりにキンタローが訪れる。 「遅いよ~。」 起き上がり少し膨れて見せると、 「お前の所の時計は進んでいるのか?ちゃんと直しておいた方がいいぞ。」 などと説教される。 「違うって!早く会いたかったら別にこんなにきちんと時間守らなくてもいいって事だよ。そんなにお固いとほかの人から好かれないよ。」 本人は真面目にしているだけであろうが、その分融通がきかない点も多い。いい加減なところもあるシンタローとは対照的だ。 「グンマは俺を好きと言ったな?」 突然切り返されて言葉に詰まる。 「好き、だよ。それがなにか?」 「ならいい。お前にそう言って貰えるならば他人からどう思われようが気にならない。」 「気にして!僕だけのキンちゃんじゃないんだから。」 真面目というか、無垢なのかもしれない。 まだ色々な経験に乏しい為、書物によってそれを補おうとする努力は認める。ただ、誰がこんなものを薦めたのだと思うような本を手にしている事もあり、そんな時は笑ってそれを取り上げるようにしていた。基礎が入っていないのに応用をいきなり知らなくてもいい。 ふと思う。 箱庭に居る自分と枠にはまっているキンタロー。でも彼は広い空間の中で自由に動ける。沢山の人と出会って見聞を広めて、自分を超えていく。自分から離れていく。 「どうした?」 急に考え込んで無口になったグンマにキンタローが声を掛ける。 「キンちゃん見た目は恐いよね。」 「なに?」 「他人に対してフレンドリーな雰囲気持ってないから、良かった。」 「何のことだ?」 いきなり先程とは話の内容が変わっていてキンタローは面食らう。 「いいんだよ、それがキンちゃんらしくて。」 「言わせてもらうがな。」 「?」 「お前はあまり愛嬌を振りまくな。昔はもっと、人を警戒していた。」 びっくりした。確かにパプワ島に行くまでは馬鹿なふりをしつつ他人を観察していた。人が信用できなかった。それをあっさりと見破っていたのか。 「年取って人間が丸くなったんじゃないかとシンタローは言っていたが。」 「同い年じゃん!シンちゃんの言うこと全部信用しないでよね!」 自分の事を見ていてくれる人などいないと思っていた。でもシンタローもキンタローも、変わってゆく自分の内面に気付いてくれていた。 「お前が何を思おうと勝手だがな、俺は昔も今もグンマが好きだ。それではいけないのか?」 「…。」 飾る言葉を知らないキンタローにとって、これは本心だろう。 「僕の方がいっぱいいっぱいキンちゃんを好きだよ。」 この位、と両腕を広げると、手首を優しく摑まえられた。そしてそのまま口付けられる。ゆっくりと押し倒され、抱き合う。彼の鍛え上げられた身体は鋼のように硬く、服の上からでも均整の取れた筋肉を窺い知る事が出来た。キンタローは強い。傍にいるだけで安心できる。 「明日からは忙しくなるぞ。」 「日付変わってるよ。もう、今日だよ。」 ごく自然に、当たり前のように服を脱がされながらも笑顔が出る。 「キンちゃん、大好き。」 返事の代わりにもう一度キスをされた。 朝ちゃんと起きられるかと少し不安になったが、もうそんな事どうでもいい。 あの言葉を、心に抱いていこう。 世界が狭くても今は幸せだからいい。キンタローといられるから。 そうして、短い夜に、何度もキンタローの名前を呼んだ。 終 ※ え~と、サービスとコタローが合流したのって出発当日だったような??? まあ、この話は皆が揃った翌日に出るということで…。 |