反対のもの 「…だから近親相姦を避けるためにですね…あれ、10代目?」 食事時の話題じゃないよと紙パック入りの牛乳を噴きそうになっていたオレに構わず、暢気にそのまま話を続ける獄寺くん。 「人は無意識に自分に近い遺伝子を遠ざけようとしているんですよ」 「あ、それでか!」 山本が空になった弁当箱を片付けながら納得したように呟いた。 言いたいことはわかるから。あえて口に出さなくてもいいよ。 そう思っていたのに。 「凸凹コンビだからお前ら仲がいいんだ〜」 「山本…もうそれ以上…」 どっちがどうかまで言うな、流石に落ち込むから。 なのに箸を持つ手が止まっているオレに構わず、獄寺くんがエキサイティングして 「そうだろう!このお互い自分に無い部分を求め合う、これが俺達の愛のカタチだ!」 なんて言うもんだから益々食欲は減退してしまい、オレはそのまま食べかけの弁当にそっと蓋をした。 「容姿も成績も運動神経も完璧なこの俺は、10代目の右腕その他に相応しい…って、ちょっと待て…」 どうやらようやくその意味に気付いたらしい獄寺くん。 「…あの…10代目…?」 だらだらと脂汗をかき始めたのが傍から見ていても判るほど。 「その…決してそんな意味ではなくですね…いや元々何の話でしたっけ…?ああそうだ、身内が恋愛の対象にはならないかっていう話でしたよね、姉貴がいくら美人でも…って…」 言葉を積めば積むほど泥沼だよ…。 「でもそんな10代目でも俺は大好きです!」 「そんなって、どんな?」 一気に周りの空気が固まった。 「おおお俺と違ってカッコいいんではなく可愛いとか、動きがシャープな俺と違って守ってあげたくなる小動物系だとか…いやいや!」 「ふうん、そんなふうにオレのこと見てたんだ…」 こんな時、野生のカンが働く山本は逃げ足が速い。 「あ、俺、部室に忘れ物!」 屋上のドアを開けるが早いかあっという間に階段を駆け下りる音を響かせて、ここに残されたのはオロオロと戸惑う獄寺くんとオレの2人だけ。 「オレ、獄寺くんに相応しくない?」 「…えええ!?なに言ってんスか!10代目!」 「だってそうだろ?前より少しはマシになったって感じはするけどさ、やっぱダメツナ返上までは程遠くない?」 「そんな事ないですっ!俺、10代目が大好きです!」 「オレの好きと獄寺くんの好きは違うのかなあ?」 「10代目こそ、お、俺の事どう想ってるんスか!?」 「だーいすき。それだけ」 「…!」 座ったままのオレと、勢い付いて立ち上がったきみ。 だけど言葉はお互い出さない出せない。 まいったなあ…。 ていうかそうなんだ。 細胞レベルの恋心。 小さいようで、そうじゃない。 だって、それはこの身体を形作って支えてる。 「俺は…」 膝を折って傍に寄り添う獄寺くん。 「真剣です。初めてこんなに他人を好きになりました」 「オレは…」 両手でぎゅっと君を抱きしめる。 「初めてこんなに好きになってもらえた。ありがとう。大好き」 「10代目の好きはお返しではないですよね?」 「違うよ。だって獄寺くんより先に好きになってたんだから、多分」 「多分、ですか?」 「出会った瞬間一目惚れ」 「嘘でしょう」 「うん、嘘」 一呼吸置いて、同時に吹き出して大笑い。 大口開けてげらげら笑う獄寺くんのこんな姿、他の人が見たらビックリするだろうな。 表情豊かで感情的で、優しくて強くて、大好きだよ。 笑いすぎて出た涙を拭きながら立とうとして、ふと思いつく。 「仲直りのキス、しようよ」 「はい!」 ホントは喧嘩してないけどね。 昼休みの終わりを告げるチャイムが響く。 「そういや山本に喧嘩してないって言っとかないと、誤解したまんまじゃ…」 「ああ、そんなの大丈夫っすよ、それより…」 今度は獄寺くんから抱き付いてきて、 「…しませんか?」 「ん…と…」 少しその気になりかけたところで。 「君たち、午後の授業始まるよ」 「うわあ!」 いつの間にか背後には、泣く子も黙る風紀委員長が気配も無く立っていた。 「雲雀さん!」 「聞こえなかった?学生の本分は勉強だ。さっさと教室に戻りなよ」 「わ、わかりました!けど、雲雀さんは?」 オレたちと一緒に屋上を後にする様子がない。 「僕はこれからここで…」 「サボるんですか?」 「違うよ」 ぎろりと睨まれて、でもすぐに視線を逸らし高く澄んだ空を見上げて、 「ここが平和だと学校全体が平和なんだ。ここからみんなの様子を伺う」 そう言って背を向けた。 「早く行きなよ」 階段をゆっくり降りながら思う。 山本と雲雀さんも似てないなあと。 何で惹かれ合ってるのか判らない2人だけど、それでも何だか幸せそう。 だからいいんだ。 人は人、自分は自分。 色んな面があって、驚いたり見直したり、より深く惚れちゃったり…。 特に君の事、知れば知るほど好きになる。 「獄寺くん、今日帰り…」 全部言い終わらないうちに返ってくる返事。 「いいっすね!俺もそう思っていました!」 「…うん…」 それでも、想いの向かう方向は一緒だよね? 大好きだよ。 「…ならせめて居残りくらわないように、午後の授業頑張ろう」 「はい!そんで一緒にウチに帰りましょう!」 似てないからこそ、オレたちはうまくいっている…と思う。 <終> ※ 獄は綱のいいとこいっぱいわかってるよ!ふたりとも相手が大好きだよ!(20100317) |