祈りのように
だいすきなこのひとと一緒にゆれる。
ちがう、動いているのはひとりだけ。じぶんは、つられて、揺さぶられて。
じぶんのなかにあのひとがいる。
出入りするのではなく、奥を、突く。
…涙が。
でも目を閉じたくない。
このひとの顔が見えなくなるから。
身体を密着させて体重をかけられると苦しくて息ができなくなる、
ただでさえ最中はまともに呼吸をするのが難しいですと、
そう口にした事がある。
それからは、
できるだけじぶんが苦しくないような体勢をとってくれる。
痛いのは、
仕方ないけれど。
そのかわりこのひとは、気持ちいいことをいっぱいしてくれる。
挿れられるまでに何度もいってしまうほど。
やさしく、時には激しく触れられるところが、
身体に熱を生む。
今は、中から。
摩擦は熱を
急所への刺激は電流のような快感を
内から外へ
溢れ出しとまらない。
痛いのは一瞬。
だけどすぐにお腹の中は、濃密ななにかで満たされる。
このひとが、それをくれる。
沢山注いでくれる。
あつい、奥まで流れ込むものを。
じぶんはそれを外に出す。
時にはこのひとの手の中や、
いいよと言われれば、咥えられた口の中に。
おいしいといってくれるからじぶんもほしいのに、
それはこっちで飲んでもらうと。
下の、口で。
このひとの、なまえ…。
よく知っているはずなのに、
わからない。
考えていると眠たくなる。
眠く…。
いつも、この人が来るのは夜。
今日は起こされて目を覚ました。
カーテンが引かれていて外は見えないけど、暗くなっているはずのこんな時間にいつもは
「おはようございます」
と挨拶する。
…のに…。
「どうしたの?」
「…っ、あ…」
声、が。
「のどが痛いの?」
痛くない、でも声が出ない。
上半身を起こし、座ったままのじぶんの背中をそっと撫でてくれる掌。
「…あ…」
「う〜ん、これくらいじゃ駄目か」
何が?どう駄目?
「強い精神的ショックは身体に変調をきたす。まだこの程度の投薬量じゃ効かないね」
何が起こっている?…何が、起きていた?
「オレのこと、好き?」
首を縦に振る。だいすきだから。
「ここまではいいんだ。でも」
ゆっくりと片手で両目を塞がれた。
視界が遮られた途端湧き上がる恐怖心。
あれは、このひとが…じぶんに目隠しをして手を後ろで縛って、
…そのすぐ後に湿った音が耳元で…。
…いやだ!
悲鳴を上げてそれをふりほどく。
「まだ覚えてる?」
…そうだ
「やっぱり、もう少しクスリ増やそう」
このひとのなまえは
「今起きたばっかりで可哀想だけど、もう一度眠ってもらうね」
…じゅうだいめ…本名は…確か…
「オレも大好きだよ、ハヤト」
鳩尾に打ち込まれた拳は、
それでも
あたたかい手で…。
お願いします、このひとと一緒にいられますように
ずっとそばに
いられますように
子守唄のように
祈りのように
そのことばは夢の中でじぶんに染み込んでくる。
そして変わってゆく。
貴方の為に。
だいすきな、あなたのために。
<終>
※ 『バンボラ』の後。今度は違った雰囲気で…多分…(20090808)