翌日から、キンタローは常にグンマと行動を共にしていた。先に立って色々な事を教えるというより、グンマの後をついて歩き、何か疑問を持つのを待っているかのように。

口数も増え、笑顔も出るようになったグンマを見ていると、あの日の様子はまるで嘘のように思える。

何事も無く過ぎた数日後。

「高松に呼ばれたから行って来る。」

開口一番そう言ったグンマ。しかし一緒に行こうとするキンタローには駄目だという。

「なんか、大事な話だからひとりで来いって。」

「大丈夫なのか?」

「何が?」

ついこの前、怖いと言っていたのを忘れたように平然としている。なんとなく、放っておけない。

「俺も行く。」

「駄目だよ、ひとりでって言われたんだから。」

「かまわん、行くぞ。」

グンマより先に高松の部屋に向かう。

「おや、キンタロー様が御一緒ですか。グンマ様おひとりでいらして下さいと申し上げたつもりだったのですが。」

「俺も話がある。」

「何ですか?」

「グンマの記憶についてだ。」

「ちょっと、キンちゃん!」

グンマが慌てて間に入る。

「僕の事はいいってば!後で行くから、今は2人で話をさせてよ。」

「そうですね、グンマ様とのお話は急ぐ事ですしね。」

「急がないと思い出してしまうのか?」

「…キンタロー様、何か思い違いをされているようですが、ともかくここはお引き取り願います。」

「断る。」

睨み合いになる。高松はこんなに冷たい目をしていただろうか。

「来い、グンマ。」

グンマの手を引いて部屋から出ようとした。

「た、高松…。」

「いいですよ、また後でいらして下さいね。」

静かな口調。ドアが閉まって改めてグンマに向き直った。

「キンちゃん!高松になんて言い方だよ!」

怒る時の声が耳につく。高い声だ。

「聞いてるの!?」

「ああ、聞いているとも。…しかし、少々うるさいな。」

ごく自然な動作で素早くグンマの身体を壁に押し付け、自分の口でグンマの口を塞ぐ。グンマの両手首を片手でひとつに掴み頭の上の壁に押し当て、空いたもう片方の手でグンマの顎を持って動けないようにして。

「!!」

自分の身に何が起きているのか判らないグンマは目を見開いて固まっていた。いきなりのキンタローの行動にどうしてよいか判らない。第一、動けない。こんな廊下で、他の人が通るかもしれないというのに。

グンマにとって、随分長い時間に感じられたそれからようやく解放された。

「落ち着け、グンマ。」

「何を!何だよ、これは!離してよ!」

どう足掻いても体格の違いは否めない。壁とキンタローに身体を挟まれて、なおかつ両手の自由を奪われていては言葉でしか反撃できない。

「とりあえず、一度戻ろう。…俺の部屋に来い。」

低い声でゆっくり喋るキンタローの声を掻き消すようにグンマは叫ぶ。

「行かない!自分のトコに帰る!」

騒ぐだけならいい。この前のような取り乱し方ではないから。

しかし続いて出た言葉がキンタローの次の行動を決定付けた。

 

「助けて!高松!」

 

気持ちがすっと冷えた。

身体を離し、グンマの鳩尾に拳を当てる。うっ、と一瞬呻くとその身体はキンタローの腕の中に崩れ落ちた。少し考え、グンマを自分の部屋に運ぶ。

ガンマ団の建物内だが、自室には狭いながら仮眠用の寝室もある。そのベッドに横たえ先程の言葉を思い出す。

あの時、何故高松に助けを求めた?

グンマの顔を覗き込む。何かが胸の奥でくすぶっている様な、もやもやした気持ち。

薄く開いた唇に指でそっと触れる。

その刺激でグンマの目が開いた。怒って文句を言うだろうか?どんな態度に出るのかと様子を伺った。

「あ…。」

眩しそうに目を細めると、グンマはゆっくり身を起こした。

 

 

 

…また、いつものように…。

 

そんな声がする。

 

…自分から、して下さいね…。

 

嫌だけど、従わなければいけない。

目の前に立つその人の顔は見ないようにし、そっと手を伸ばす。

 

 

「…?!」

グンマの様子がおかしい。目は覚めているのだが、まるで何かに操られているかのような動きでキンタローのベルトを外しにかかる。

まさか?

しかし、もしかすると?

一瞬湧き上がった不埒な考えを確かめるようにキンタローは自らそれを取り出し目の前に翳すと、グンマは躊躇いも無く自分から口に含み、ぎこちない愛撫を行い始めた。

舌と手を使い、慣れた仕草で勃起を促す。

キンタローのモノは刺激に敏感に反応し、見る間に大きさを増してグンマの口の中で熱く脈打ち始めた。

このまま出してしまいたいと思った矢先、グンマは頭を振りそれを静止する。

一度口から出すと唾液と混じり合った透明な汁がグンマの舌から糸を引いていた。それを軽く指先で拭き取ると、グンマは自ら服を脱いだ。

ベッドにうつ伏せになり腰を僅かに上げる。準備は整った。

一連の動作に迷いが無い。完全に慣れている。誰に教えられた?…誰と、していた?

頭の中に様々な疑問が浮かぶ。だが、キンタローの身体は正直にグンマを欲する。

腰を掴んで引き寄せ半ば強引に挿入を行うと、シーツに顔を埋めていたグンマは身体を強張らせ、必死で声を抑えていた。

最初は優しくしなければと思っていた。しかし実際はそんな余裕などない。喰いちぎられそうな程に締め付けてくるそこは、慣れているように見せかけていたこの行為が実は同意の上で行われていた訳ではなかったのかと疑わせる。

グンマの為には止めた方がいいのかもしれないが、もう引き返せなかった。

全てをグンマの体内に納め、そのまま奥を突くように揺さぶる。シーツを強く掴み耐える手が痛々しいと思う反面、自身を包み込む粘膜の感触がキンタローの抑えがたい欲望を一気に高めていく。あまりの気持ちよさに我慢ができず、その奥深くに放った熱い液体の感触にグンマの身体は大きく震えた。

そして。

「なに…?これ?」

ふと我に返ったような、今のこの状況を理解できていない様な声。

「キンちゃん?何で?どうして、こんな事して…?」

「お前から誘った…忘れたのか?」

後ろから抱きしめ耳元で問う。一度達したはずのモノが再びグンマの中で大きくなってゆく。

「僕が?嘘…。」

「お前、誰とこんな事をしていた?静養中の事を憶えていないのか?」

「判らない…思い出せないよ…。」

キンタローのモノを受け入れたまま息も絶え絶えに応える。

「もう放して…嫌だ、こんなの…。」

涙声のグンマの訴えをすぐには聞いてやれそうにない。それ程離れ難い身体。無言のまま一度ずるりと引き抜くと、今度は上向きにさせ再び足を開かせる。

足首を持ち上げ大きくそそり立つ自身を今出てきたばかりの小さな口にぴたりと押し当てた。

「や…、やめて…。」

だめだ、逃がさない。

「キンちゃん…ホントにやだよ…。」

もう、止まらない。

身体全体でのしかかるようにグンマの中に沈めていく。体重をかけて重なり強く抱きしめると、グンマは身を捩り大きく首を振って拒否の姿勢を見せ叫ぶ。

「痛い!キンちゃん!やだ!」

訴えを無視して腰を進め、次第に激しさを増す動き。それから少しでも逃れようと暴れる身体を貫く楔は容赦なく出入りを繰り返し、グンマを責め立てる。

「高松!」

泣きながら出たその言葉にカッとなり、身体を起こして頬を叩いた。

「嫌だ!高松!怖いよ、助けて!」

どうして抵抗する?誰かにはあの姿勢で大人しく抱かれていたはずなのに。

誰かとは…高松なのか?

「誰がお前にあれを仕込んだ?誰に抱かれていた?」

さらに激しく揺さぶりながら問いただす。

答えることも逃れることもできずにキンタローを見上げるグンマ。何故このように苦しい目に遭わされるのか、キンタローは一体どんな答えを求めているのか判らない。怖くて、痛くて、…悲しい。

そして、視線はキンタローに定めたまま、ここにいない人の名を呼ぼうと口を開く。

「…た…か…。」

「やめろ!」

その名前を出させないように何度も力任せに頬を叩く。キンタロー自身、頭に血が上り抑えがきかなくなっていた。グンマはまだ回復しきっていない怪我人だという認識もどこかにいってしまっている。

幾度となく出入りを繰り返してわざと痛みを与え、体位を変えながら続く責め苦。そんな防ぎ切れない痛みに泣きながら、暴れ回るキンタローのモノにグンマは身も心も傷付けられた。

そうして何度目かの精を奥深くに叩きつけられた直後、その様子に変化が表れた。痙攣をするように震えだし、えっ、えっと嘔吐をしそうな息をし始める。

しまったとキンタローは思った。ここまでするつもりはなかった。

「グンマ!」

完全に正気を失って呼び掛けに応じない。

身体を離したその時、内線が鳴った。

「そちらにグンマ様はいらっしゃいますか?」

高松だった。

「いや、自分の部屋に帰ったはずだ。」

しばしの沈黙。

「そうですか、いえ、お部屋には応答がありませんでしたので。失礼致しました。」

受話器を置く。

グンマは気を失っていた。声を上げられなくて少しほっとする。

ともかく今は様子を見るしかない。自分の身支度を整えると、タオルを絞ってきて身体を拭いてやり、服を着せる。

そうしてベッドの傍に椅子を持ってきて座り、グンマが目覚めるのを暫く待っていた。

 

 




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