いつかの過去

 

 

 

ドアを挟んだ向こうの部屋には、忙しく働く団員たちがいる。ハーレムは声を漏らすまいと自らの手で口を覆った。

ガンマ団本部のルーザーの研究室。本来まだ12歳になったばかりのハーレムが簡単に出入りできる処ではない。しかし勉強のため、将来の為と言いルーザー自身が彼を度々ここに招き入れていた。

そうなれば他に異論を唱えることが出来る者はいない。

「ちょっとプライベートな話をするから、暫く誰も来ないように。」

そうルーザーが言い残し、奥の私室に弟を連れ込む。

人払いはしても鍵はかけない。

そんな中で、ハーレムはルーザーに犯される。

一方的な行為に快感は無い。冷たい床や、時には壁に背中を押し付けられ立ったままの格好で挿入される。片足を持ち上げられ不安定な状態では、恐ろしくてたまらないルーザーにしがみつくしか頼る所がない。

「気持ちいい?でも出したら駄目だよ、僕の服が汚れちゃうからね。」

自分勝手な言い分にも逆らうことは許されない。嬲られ身体の奥に炎が燻ったままでも、ルーザーが満足すればそこで終わりにされる。苦痛に歪むハーレムの顔を見下ろして、冷たく言い放つ。

「まだ足りない?いやらしい子だね。」

ハーレムは大声を出して泣き叫びたかった。それに耐える拳に力が入りぶるぶると震えている。

「さあ、もうお帰り。みんなの仕事の邪魔になるからね。」

きっちりと洋服を整え、何事も無かったかのように振舞うその姿はまさに悪魔のようだった。

 

半ば追い出されたような形になり、トボトボと廊下を歩くハーレムに声を掛ける者がいた。研究室で何度か見かけた顔。名前は知らないが。

「なあ、お前ルーザー様とやってるんだろ?」

一瞬で顔色の変わるハーレムの肩に手を置いて耳元で囁く。

「誰にも言ってないさ。バレたらやばいんだろ?だったら俺にも口止め料が欲しい訳よ。」

手近にある倉庫に手を引かれて押し込まれた。

「ずっと見てた。上手い具合にみんなが忙しい最中に出て行くから、泣きそうな顔してても判らないと思ってただろ。」

床に寝かされゆっくり服を脱がされても声が出ない。

「可哀想にこんなに震えて。まあ、すぐに天国に行かせてやるよ。」

「その前に、君はここから出て行くんだけどね。」

はっとして振り向いた視線の先には、静かに怒りのオーラを纏ったかのようなルーザーが立っていた。それまで気配など無かったのに。

「僕の大事な弟に何をしているんだ?このままここで命を落とすか、それとも今なら退職願も受け付けるが、どうしたい?」

銃口はまっすぐ男に向けられている。

「辞めてもこの事を外で喋ってみろ、ガンマ団の刺客は世界中どこまでもお前を追いかけて殺すぞ。」

こんなに怒ったルーザーを見たのは、ハーレムも初めてだった。

 

男が出て行った後、無言で服を着るハーレムに優しく声を掛ける。

「駄目じゃないか、隙を見せちゃ。今度からは僕と一緒に帰ろうね。それまで部屋で待ってなさい。」

 

怖くて怖くて、今度こそハーレムの瞳から涙が零れ落ちた。そして思った。どうすればルーザーの目の届かない処に行けるのかを。

 

その後、ハーレムは士官学校に行くのを止めるという発言をする。このままではいつかルーザーに殺される。それよりはいっそ戦場で散りたいと…。

 

 

 

 

 

END

 

 

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