禁煙法

 

 

 

「また吸ってる。オレの部屋では吸わないって獄寺くん言ったじゃん」

台所にジュースを取りに行っただけの、ほんの僅かな時間なのに。

「あ、すいません」

「吸ってる」

「いや、あの…まあつい癖で。すぐにダイナマイトに火を点けられるようにしてた時の…」

銃よりもメンテナンスが簡単で、イタリアでは手に入り易かったそれ。

身を守る術として常に所持していたものをすぐに手放せと言うのも無理であろうが、それでも少しくらい気を遣ってくれてもよさそうなのにとぷりぷり怒ってみせる。

「銃って全部、分解して掃除するんですよ」

「知ってる、リボーンがよくやってる」

細かい部品を取り外し、磨き、組み立てる。その手際のよさに見惚れる。

でもそれはおもちゃではない。

人の命を奪うもの。

「…その煙草の火も、間接的に人を傷つけていたんだね」

ちょっと寂しそうに言うと慌ててポケットから携帯用吸殻入れ(オレがあげたやつだ!)を取り出し、火を消した。

10代目にそんな嫌な思いをさせるのであれば、俺、禁煙します!」

「いや、別にいいよ」

「…え?」

「オレの部屋で吸わなければ禁煙まではいいって。むしろ…」

胡座をかいて座っていた獄寺くんの長い足。そこに、ぽん、と自然に腰を下ろす。

正面から、抱き合うように。

「10代目…?」

グリーンの瞳を覗き込むように顔を近づけ、額を合わせてにっこりと笑い…。

「煙草を吸ってると背が伸びないって言うから、むしろ吸ってていいんだよ?」

そうしてそのままキスをする。

いつもより、長い時間。

唇が離れてもぎゅっと獄寺くんの身体をつかまえたまま。

だけど。

「手、獄寺くんも、オレをぎゅってしてよ」

背中の辺りで彷徨ってたね。行き場に迷うように。

「大好き、獄寺くん」

多分、複雑な想いが頭の中で渦巻いていたんだろう。珍しくそれに対しての返事がなかった。

その代わり、ちょっとびっくりするくらい、いきなり突然強く抱きしめられた。

腕力?があるせいかな、やっぱり力が強いなと何となく考えた。

 

 

「俺、10代目のご期待に沿えるように頑張ります!」

結局、何のことはない。ノー・スモーキングは限定オレの部屋のみ。

まあいいか。

獄寺くんは煙草に火を点けた後、風向きを見てオレに煙が来ないように自分が風下に回る様子で、一応気に掛けてくれているんだと判るから。

「早く行かないと山本の野球の試合終わっちゃうよ。最終回の裏二死満塁でサヨナラホームラン打ちたいって言ってたけど、できるかなあ?」

「あのバカ…」

吐き出す白い煙がそのまま、空に浮かぶ雲にも、見えた。

 

 

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     私は禁煙成功しました。(20081215

 

 



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