絆(7)
「今日はここまで、と言いたいところだけど、オレのも中で飲んでくれるんだよね?」
掠れた声しか出ないので頷いて応える。
「オレがイクまでに君がまたいっちゃうかもしれないけど、いいよね?」
こくりと、意味をあまり理解しないままに声なき返事。
「痛くないように、ってのは難しいんだよね。だけどその分、極上の気分にさせてあげるね」
優しい声で囁かれると、言われた内容に気持ちが向かない。
そうして止まっていた動きが再開する。
今度は出入りを伴い、湿った音が耳に響く。
打ち付けられる腰。
その度に当たるところ。
寸分の狂いも無く突かれては達し、吐き出す精の生温かさと白さ。
涙が流れてもそれをじゅうだいめは舌で舐め取ってくれる。
痛みが大きくなって、喘ぎ声が泣き声に変わるとそれを封じるようなキスを落とされる。
舌での慰め。
粘膜同士の接触は快感を生むんだよとじゅうだいめが教えてくれた。
でも、まだじゅうだいめはいかないのかな?
じぶんはあれから何回もいったのに。
口の中では舌を擦り合わせ、舐め回され続けている。
流し込まれる唾液の味を覚えそうなくらい飲んでもまだ終わらない。
上から下から挿し込まれた物で、身体の中がじゅうだいめでいっぱいになる。
やわらかいところ同士で触れ合って、体温を共有し合って溶け合うように揺れる。
こころも、身体も。
…少しずつ息も苦しくなって、じゅうだいめが出入りするところも痛くて、
でも、それを伝えたくてもことばを発する口はまだ自由を許されない。
押さえ込まれたように動けないのに、突き上げられて小刻みな振動は続く。
じゅうだいめ、もう、痛いです。
擦り切れて血が出ているのかそれともじぶんの放ったものが垂れてシーツを濡らしているのか判らない。
べとべとした体液の感触。
それに気を取られていると、じゅうだいめの手がじぶんの脚を持ち上げた。
そのまま正面から肩車をするように、肩に脚を乗せられ更に深くまで熱を打ち込まれる。
じゅうだいめの汗が滴る。
腰の振りが速くなる。
唇が離れ、はっ、はっと余裕の無い呼吸。
己の欲情に任せた、本能的な交わり。
次第に早くなる揺さぶりで近付く絶頂…。
じゅうだいめのことは大好きだけど、
じぶんは、本当は、こんなこと…。
…身体の奥から湧き上がる痺れに精神まで呑まれそう。
ああ、もう、これ以上…だめ…かも。
意識を切り離そうとしたその瞬間、体内に溜まっていた熱が膨張して、
おなかの奥深くで爆発した。
腸壁に叩き付けるようにどくん、どくんと続く長い放出。
全てを吐き出し終え、じゅうだいめはほっとため息をついた。
「今からこんな感じだと、君の身体がもたないね」
優しく笑いかけてくれ、
「次からは手加減する、悪かった」
そう言ってじぶんに体重を掛けて覆いかぶさるように沈んだ。
そんなじゅうだいめの背中にそろりと腕を回す。
「強くなります…だから、これからも、ずっとお傍に…俺を…」
抱きつくほどの力はなく、すがるように指先が背を掻く。
「ん、ハヤト、これからは…」
最後にぎゅっと両手で抱かれ、耳元で約束の言葉。
驚くじぶんを誤魔化すように、キスでその唇を軽く塞がれた。
いちどは切れてしまったと思っていた絆が、
より一層強く繋がった。
そう。
このひとの一言で。
「オレを護ってくれるようになるまでは、オレが君を護るよ」
傍にいるのを許された以上に、これからのことを約束された。
そして、
「オレも強くならないとね。護る物に対して自信が無いなんて言ってる場合じゃないよ」
と前向きな姿勢。
起き上がるじぶんに手を貸してくれながら微笑みも添えて問う。
「それにしても、ハヤトのその揺るぎない自信は何処から来るの?」
「ここからです」
軽く握った拳でじぶんの胸を叩く。
「オレの何がそんなに好き?」
「か、格好良いところとか、その、じゅうだいめの全部が好きです…」
「ありがとう、ハヤトも綺麗だよ」
照れて赤くなるじぶんの姿は、情事の最中とは別人のようだとじゅうだいめが笑う。
「でも継承式の日、どうしてすぐに返事をしてくれなかったんですか?」
「だから言ってるだろう、自信が無かったんだ。君を護れるわけがないって思っていたんだ」
「あの時は俺がじゅうだいめをお護りしますって言った筈ですが」
「その頃のオレは、全てにおいて…」
「?」
「…何も信じられなかった…」
もう終わったことだけどねと視線を逸らし、
戻ってきたその目の色は普段より濃い琥珀色…いや、燃えるようなオレンジ色に光っていた。
じぶんはこのひとの瞳の色が大好きだ
もっと、この視線をこの身に受けていたい。
…この目にじぶんを映してほしい。
見つめ合って呆けていたようなじぶんにじゅうだいめの手が伸ばされ、頭を撫でられた。
「でもハヤトはオレを信じ続けてくれた。そんな君を追い払おうとして、
オレを嫌いになるように振舞って、随分酷いことをしてしまったね」
「そんなこと…じゅうだいめは優しいですから…」
「優しさと弱さは似ているんだ」
「いいえ、似てません。優しさは強さです」
絶句するこのひとは、その内に秘めた強さを知っているのだろうか?
炎を身に纏うようなその雰囲気を自覚しているのだろうか?
…じぶんが惹かれる理由を。
「ま、ハヤトも早く成長して、強くて綺麗なオレの自慢の右腕になるんだよ」
「…は、はいっ!…え…?」
突然の台詞にうろたえる。
「お、俺、強くなりますけど、きれい…には…。
というか、じゅうだいめはやたらときれいを使いますが、俺は、そんな…」
「え?綺麗だよ?掃き溜めに鶴という感じであの場所にそぐわない子がいるなあと、
思わずさらうように連れて来ちゃったんだよね」
「俺は、強そうで格好の良いひとがおいでと言ってくれたので思わず来てしまいましたけど、そんな、さらうなんて…。
でも確かに他に誘われたファミリーの誰にもついて行こうなんて思わなかったから、
やっぱりなにか惹かれるものがあった、じぶんの野性の本能を信じてみたんですが」
「え、初耳だな。他に君に声を掛けてた奴いたの?」
「沢山、いました。実は…」
「ちょっと行ってそいつら潰して来ようか」
「わ!じゅうだいめ!待ってください、…あの、まだ一緒に居て下さい…」
「…潰しに行くなじゃなく、後でならOKなんだ」
「それに関しては全然構いませんが…でも、本当に、じゅうだいめは一目で運命のひとだ…って…」
「ふうん、一目惚れは相性最高なんだって。俺達まさにそんな感じじゃない?」
まだ洋服を着ずにシーツに包まっていたじぶんを、じゅうだいめは
「好きだよ、ハヤト」
とつよく抱きしめてくれた。
じぶんたちは幸せな、そして希望の朝を迎える。
絆という目に見えないつよい繋がりをもって。
決して切れないそれは、
これからずっとふたりの間に存在、
する。
<終>
※ この設定はこれっきり。続きはありません。(20100722)