クスリのリスク

 

 

 

綺麗な肌だと思っていた。いや、実際にそうなんだけど。白くてきめが細かくて、ホントすべすべで触れていると気持ちがいい。

だけど今までの環境のせいか、使っている武器(ダイナマイト…!)のせいか、うっすらとだけど怪我の跡はたくさん残っている。今だって、

「こんぐらいの怪我、なめときゃ治ります!10代目はお気になさらず…」

なんていつも言うけれど…。

でもオレだって心配してるんだよ?

 

「へ?薬ですか」

「うん、獄寺くん常備薬持ってないだろ?」

「はあ、まあ…。で、これが、そのそれですか」

「日本語おかしいって。だけど、ホント持ってたほうがいいかも」

一箱しか買えなかったけど、一応痛み止めというか熱冷ましにもなるお馴染みのもの。獄寺くんの家に来る途中、店に寄ってきたんだ。

「10代目にお気を遣わせてしまって申し訳ありません!だけど俺、今までそれに頼らない生き方してきましたんで大丈夫っす!」

あれ、珍しい、受け取らない気?このオレからの贈り物を。

無言で目で訴えてみても、

「熱には強いし怪我するのも日常茶飯事だったので。だから…」

と、手を出さない。

「ふうん、じゃあさ、言わせてもらうけど、オレいつも遠慮してるって知ってた?」

「遠慮…ですか…?」

一瞬ひるんだ隙を突いていく。

「終わった後、やっぱ辛そうに見えるから…あんまり激しくしちゃいけないのかなって思うんだけど…」

「あの…、10代目?」

「そんな時痛み止めがあれば、オレも安心して獄寺くんともっといっぱいできると思うんだ」

にこりと微笑んで見せると、赤くなりながらも獄寺くんはしれっと驚くような事を爆弾発言。

「だ、大丈夫…っす。俺、辛くなんて…まだ足りないくらいの時だってあるし…」

「はあ!?」

 

…何それそんなの聞いてない…!

 

「あの…10代目が遠慮して下さってるのなら、そんな心配無用ですんで。それこそ俺の方が体力あるわけですし、もし途中で疲れたんでしたら俺が上になって自分で…」

「ちょっと待って!それ以上言わなくていいから!」

今度はオレの方が赤くなった。

「10代目?」

「物凄い告白ありがとう…てゆーか、何だオレ、遠慮する必要これっぽっちもなかったってこと?」

「そういうことです」

あああ…本音が聞けて良かったような悪かったような…。恥ずかしすぎて、まさに穴があったら入りたい状態。

「10代目、ありがとうございます」

頭を抱えていた自分に向かって突然、改まった声の獄寺くんが両手を差し出してきた。

「何が?」

「薬、です。こんな俺のためにわざわざ…、実はすげえ嬉しかったんですが申し訳ない気持ちもあって…」

照れ隠し半分、いつか言おうと思っていた本音を曝け出せて安心した気持ち半分。そんな表情に見えた。

「まあ、こんなの使わないで済むならそれに越したことないんだけどね。オレは単純に獄寺くんが心配だっただけだから」

手の中で強く握られて少し変形してしまった箱を、きちんと揃えられた手の上にそっと乗せた。

「ほんとに俺、10代目から頂ける物は何だって嬉しいんです。まじでありがとうございます」

こんな時の獄寺くんの表情はかわいい。

いつもはきれい…いいや、カッコイイかな。

そしてアノ時は…。

脳裏に浮かぶ映像を慌てて散らす。

「10代目、顔赤いですよ?熱測ってみます?」

そう言われてみれば何だか寒気もして…。

 

 

 

 

「15歳以下は一回一錠…」

外箱の説明書きを読みながらコップに注がれた水を受け取る。

「熱を見なければ案外知らずに帰れたのかも…」

小声で呟くオレに向かって

「早速役立ちましたね!流石10代目っス!」

などと暢気に言っている獄寺くん。でもおんぶして連れて帰りますという申し出は丁寧にお断りをしたもんだから、ならとりあえず応急措置にとこれの初使用。

「実際、どっかの誰かが作った怪しい薬なんかじゃなく、10代目が店で買われた封を切っていない新品なんだから、用心することなかったんですがね」

 

…あの?オレこれ飲んだよね?つーか、今の明らかに心の声が表に出てしまったってやつじゃない…?

 

「それにしても今日が土曜日で、最初から泊まることにしていた日でよかったですね。このまま寝ちまったら汗かくでしょうから、そしたら身体拭いて着替えを…」

やけに嬉しそうな獄寺くんの弾んだ声。珍しいなあ…。

…じゃなくて。

 

「汗、かいたら熱下がるよね?ねえ、獄寺くんも一緒に汗かくことしようよ」

君はオレが寝てしまうと思い込んでいたようで、その言葉に手にしていた空のコップが派手な音を立てて床に落下する。何で割れてないのか不思議なくらいの音だったけど。

「じゅーだいめ?」

「上になって、自分でオレのを挿れてくれるんだよね?遠慮もしなくていいんだよね?だったら、しようよ今すぐここで」

獄寺くんのベッドにころんと寝転がり手招きする。

「でも、熱が…体調とか…」

「大丈夫!それよりせっかく泊まりに来て何にもせずに帰りたくないよ。熱は絶対明日下げるから、いや下がるから」

この効き目を証明させなきゃ、獄寺くんも安心できないかも…と少々冷や汗をかきながらの熱弁。

「でしたら、まじ遠慮なくいただきま…」

「それはちがう」

「…いただかれます?」

「う〜ん、そんな感じ?」

 

 

後日談としては、オレはこの夜のことをあんまり覚えていない。

が、翌朝やたらと獄寺くんの機嫌がよくって、熱は見事に下がっていた、と。

 

 

 

 

あの日から獄寺くんのカバンの中には少し潰れかけた箱のまま、あの薬が入っている。

「今度は傷薬もあげるね。君が怪我した後とか、傷が出来た時に塗ってあげるよ」

「10代目…なんてお優しい…」

 

飲むのも塗るのも、それを使うことが本当は無い方がいいんだけど。

だってその時は君が痛い思いをしてるって事だから。そんなのない方がいいに決まってる。

だけど、もしそれが必要になった時、少しでも早く良くなってほしいと願うオレがいること、覚えておいてね。

 

「これで安心して10代目を狙う奴等と喧嘩して来れます!ありがとうございます!」

 

…って、全然オレの気持ち判ってないみたいだけど…。

 

「大好きです!10代目!」

「うん、オレも大好き」

 

でもこれは、この想いは伝わってるみたいだから、まあいいか、な。

 

 

 

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     〇ファリン派と〇ブA派、私は後者です…(20100117

 


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