開け放たれたドアの向こう。

その薄暗い部屋に横たわる少年は、気を失っているのかピクリとも動かない。

身体にはあちこちに傷があり、何よりほとんど全裸に近いその下半身には明らかな性行為の跡が見て取れた。

自分自身が放ったものと、他の者に汚され、傷つけられた血の染み。

長めの金髪の前髪に隠された顔は、ひどく打たれた様に頬が腫れ、唇にも血がこびり付いていた。

男は部屋に入ると後ろ手にドアを閉めた。その音に少年はうっすらと目を開く。

身体を起こそうとするのだが力が入らない。否、後ろ手に縛られていて動けない。

 

 

「おはよう、ハーレム。もういい加減に言う事を聞きなさい。」

優しい声。柔らかな物腰。そして冷たい眼差し。ルーザーはゆっくりとハーレムの傍で膝をついてその顔を覗き込む。

「だ…誰が…貴様なんかに…。」

怒りに燃えたハーレムの視線を受けとめ、ふっと笑う。

「言葉遣いが悪いですね、ちゃんとお兄さんと呼びなさい。」

「これを…解け…。」

手首に食い込む縄の痛みはもう感じない。既に感覚は無くなっていた。

「ハーレムが抵抗しなければ、こんなことをしなかったのに。…何て言ったかな?黒い髪のあの子は大人しく言う事を聞いてくれたよ。」

その言葉にはっとして顔を上げ、ルーザーを睨み付けた。

「高松に、何をした!」

 

 

今春、サービスと共に士官学校に入学した高松は、同年代と殆んど付き合いのないハーレム達にとって、数少ない友人と呼べる人物だった。

ガンマ団お抱えの研究者の息子である彼は、幼い頃から父に連れられ度々士官学校やガンマ団本部を訪れていた。本当はお互いに近づける関係ではなかったのだが、早々に子供同士気が合うのが判ると、上手に大人達の目を盗んで一緒に遊ぶようになるのは容易い事だった。

そのうち不思議なことに、弟達の面倒を見なかったルーザーが、何故か高松にだけはあれこれと世話を焼いてやり、『大きくなったら自分と同じ研究室に来るといい』とまで言いだした。

 

 

高松にとって入学を待たずに通い慣れた士官学校の、ルーザーの研究室。そこで…。

 

 

「キスをしただけで真っ赤になってね。可愛いね、あの子は。ハーレムとは大違いだ。」

「…それだけなのか?」

「まさか。あの子は初めてだったみたいでね、だから優しくしてあげたよ。」

 

 

できるだけ声は出さないで。そう、いい子だね、君は。少し痛いかもしれないけど大丈夫。僕に摑まっていれば、気持ち良くしてあげるからね。

 

 

何でも言う事を聞き、自分の事を信じ切っていた。ひとつになり、徐々に動きを激しくしても本当に呻き声ひとつ上げなかった。震えながらしがみついてくる腕。涙を流しながらも高松は最後まで耐え切った。

声を我慢した唇にご褒美のキスをすると、そっと頭を撫でながら耳元で囁く。

痛かった?嫌ならもうしないから

その言葉にはっとして、嫌じゃない、そんな事を言わないでと高松は言った。

それで確信した。この子はもう、自分のいいなりだと。決して自分を裏切らないだろうと。

 

 

「ああ、でも安心して。恋愛感情は無いからね。あの子はこれからのガンマ団に必要な人材だから大事にしてるだけだよ。僕が好きなのはハーレムひとりだから。」

言葉掛けは優しく、しかし容赦なく押さえ込みその身体をうつ伏せにさせる。腰を持ち上げ受け入れの体勢に整えた。

「や…!やめろっ!」

初めての時にこれでもかというほど抵抗し暴れたハーレムを、それを上回る力でねじ伏せ押さえ込んだ。両腕の自由を奪ってもなお諦めない彼を、気を失うほど殴り付け、やっとの思いで交わった。

「どうして士官学校に行かずに戦場に行きたがるんだろうね。そんなにこの僕から離れたいの?」

卒業をしてもルーザーは学校に自身の研究室を持っていたため、ここに入学すると必然的に顔を合わせるようになる。

「俺は早く戦場に出たかっただけだ!」

「…知ってるかい?戦場では毎日誰かが行方不明になっている。入隊したての若者が一人いなくなっても、誰にも何とも思われないよ。」

「な…。」

「ここで、ずっと僕のものになりなさい。」

 

 

どれだけ悲鳴を上げても、助けは来ない。ハーレムは狂気の時間にいつまで耐えられるだろう。いつか壊れてしまうだろうか。正気を手離すことが本望ではないが、それによって自分を拒まなくなれば、それは結果としては最良だ。

頭の奥が痺れるような快感。

 

 

「お前は僕のものだ。」

 

 

終わりは、来ない。

 

 

 

 

 

END


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