魔法のことば

 

 

 

それを言えば、優しくしてもらえる。

それをやめてはくれないけれど、酷くはされない。

ようやく見つけた魔法のことば。

 

「大好き、じゅうだいめ」

 

口に含む前にひとこと言えば、舐めたり吸ったりする最中もこのひとの手は頭を撫でてくれる。

下手でも怒られない。

口の中に出されたものを飲み込めなくても、

 

「ごめんなさい、じゅうだいめ」

 

きちんとゆっくり謝って、

 

「もういちど、させてください」

 

やり直しをお願いする。すると必ずといっていいほど許してもらえる。

仕方ないねと笑いながら、今日はもういいから次の時は頑張ってねと。

そこでまた魔法のことば。

 

「じゅうだいめ、大好きです」

 

こちらから歩み寄れば痛いことをされない。

この人の懐に飛び込むことが、じぶんの身を守ること。

キスが苦しくても、それくらいがまんする。

 

「震えてる。ハヤト、これは嫌?」

 

目を逸らしたら、このひとには心の奥底を覗き込まれる。気持ちを知られてしまう。

だからまっすぐ見つめ返して静かに答える。

 

「苦しかったから…もっとうまく、なりたいです…」

 

そうしてそのままこのひとの胸に顔を埋めてぎゅっと抱きつく。

もう少しだけ我慢しよう。そしておくすりも、おもちゃも使われないまま終わりたい。

ベッドに寝かされ着ている物を脱がされると、何も言われなくてもじぶんから脚を開いてそこを露にする。

 

「…いれてください」

 

心の準備をして静かにその時を待つ。

恥ずかしいけれど、そこがもっとよく見えるようにじぶんで脚に手を添えて、

全てをこのひとの目の前に晒す。

こうしておけば、

 

「少し待ってね、痛くないようにローション塗ってあげるから」

 

痛みを和らげる処置をしてもらえる。

…何もされないままの挿入時の痛みは、忘れたくても忘れられない。

もう、あんなことは…だから…。

 

「…んっ…!」

 

そこに触れられて、びくっ、と身体が跳ねた。

「どうしたの?ハヤト」

「冷たかった…から…はやく、熱いのを…じゅうだいめのを…」

 

早く来て。早く終わらせて。この時間を。

 

「慌てないで。ちゃんと解しておかないと、辛いんでしょ?」

 

2本の指がそこを浅く出入りする。

ぐるりと円を描くように動いたり、中から外に向かって擦るように塗り込んだり。

時々つぷん、と少し奥まで入り込むけど、それで熱が生まれるほどには激しくされない。

あくまでこれは準備段階。

「挿れるよ、力抜いて」

だけど、どれだけ気持ちを落ち着かせてそれに臨んでも、

「痛い…」

思わず漏れる声に

「大丈夫、最初だけだよ」

優しく応えてくれながら、それでも進んでくるこのひとのもの。

苦しい、痛い。だから、

 

「じゅうだいめ、大好き」

 

突っぱねるのではなく、手を伸ばす。するとその手を取って、軽いキス。そして、

 

「オレも好きだよ、ハヤト」

 

重なってくる大人の身体。全部がじぶんの中に収まると一度動きが止まる。

ここに来るまでに。

途中で嫌がって抵抗していたら、冷たく笑いながらこのひとは幾度もじぶんを叩いていた。

殴られながら挿れられて、それが痛くて泣いて、暴れたらもっと強い力で押さえつけられて。

もう、そんなのはいやだ。

 

「気持ちイイ…大好き…」

 

泣きながらでもそう言えば、そっと涙を舐め取られ、柔らかい唇が顔中に吸い付いてくる。

「早く…下さい…中に…」

そうして終わらせて。

 

 

緩やかな抽挿は奥の同じところばかりを突いてくる。腰を引いては突き、そこを押しては抜く。

焦らすように、執拗に、いつまでも。

ゆっくりと溜まってくる熱が身体を満たしてくる。

「もっと、はげしく…お願い…いきた…」

言葉にならない訴えを尻目に、笑みを湛えてこのひとは

「この出るとき吸い付く感じがいいんだよ。でも、もっと締めてもいいよ」

と、抜き差しを続ける。

殆ど先まで出て行っては、根元までゆっくり押し入るそれに、じぶんから腰を揺らしてみた。

「そんなに欲しいの?」

「はい…早く…」

一刻も早く。

「ところでね、そろそろ…」

声のトーンは変わらないのに、何故かこのひとの何かが変わったような気がした。

「本音を言ってもいいんだよ?」

「…!」

全身に冷水を浴びたように、横になっているのに血の気が引いて一瞬目の前が暗くなる。

「…っつー、そんなに強く締めないでいいよ。うわ、中が痙攣してるみたい」

実際、ぶるぶると身体は震えている。

「オレが知らないとでも思った?ま、でも最初の数日は判らなかったよ。あれ、信じちゃった」

大好き…を。

「嬉しかったよ、ハヤトが好きって言ってくれて。だけど、あんまりにも…」

このひとは…。

「急に今まで嫌がってた事をされてもイイって言うし、激しくしようとすればもっと、って…」

それだけじぶんの変化を見抜いて…。

「何のクスリも使ってないはずだし、暫く様子を見ようと思ってやってたんだけど…」

「いやだ…」

「ん?」

「本当は…こんなの…いや…」

手で顔を覆う。ここから逃げ出したい。

「ねえ、じゃあ聞かせて。君は、オレのこと…」

 

 

「…だいき…ら…」

 

 

いきなり鳩尾に圧迫感。

意識は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

魔法が解けてしまった。

もう、何も起こらない。

 

 

「ハヤトの言うことはもう信じない。言葉なんか、いらないね」

 

 

 

意識を失っている間に、喉を潰されて声を奪われた。

でも。

それからも関係は続いている。

昨日も気を失うまで何度も達して、今日も…。

「嫌いって言われるくらいなら黙っててほしいんだ」

態度で示しても、言葉で表されるよりいい。そうこのひとは言う。

「オレの国では言霊って言ってね、口から出た言葉には魂が宿る。言葉は大事なんだよ」

 

 

魔法を使うのは最終手段。

それによって、滅ぼされたのはじぶん。

 

湿った音を立てて咥える大きなこのひとのもの。

弱いところを休みなく攻められて、押さえ込んでくるこのひとの腕を洋服の上から強く握って身体を反らした。

「下の口にはまだまだ働いてもらうね」

 

頭を振って閉じた目。

その暗闇の中で、

「オレはずっと好きだよ、ハヤト」

魔法は、じぶんに、かけられ続ける。

 

 

 

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         何処とも繋がっていないパラレルシリーズ。共通項は大人綱×子供獄…(20091109

 

 


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