水のループ

 

 

 

目が回る。

手足に力が入らない。

混濁した意識の中で闇雲に振り回した手があのひとの顔に当たったから、

だからじぶんも殴られた。

痛くて涙が出ても、もつれた舌で悲鳴さえ上げられず、ただ、このひとの手で蹂躙される。

「媚薬も量が多すぎると毒になる…ホントにそうみたい」

敏感になりすぎた身体に触れられたくない。

火照って、動悸がひどい。

きもちわるい。

あたまがいたい。

じぶんに、さわらないで。

体内で蠢く、奥深くまで突き刺さったものを取り除きたい。

なのに、じぶんの両手をこのひとは軽く片手で頭上にまとめ、

空いた片手で恥ずかしく反応を見せる自分自身を握り込む。

「嫌だって?嘘ばっかり」

うそじゃない、本当にいやだ。

大声で泣き叫びたいのに、口から漏れるのはまるで喘ぎ声のようで、

それがかえってこのひとを悦ばせる。

軽く数回上下に扱かれただけで、その先からはちゅぷんと水音がするほど粘液が溢れ出し、

それを塗りたくられて滑りの良くなったじぶんのものがまた形を変えてゆく。

繰り返される吐精。

繋がったままの身体。

激しく動かれるわけではないのに、体内が疼く。

「中、欲しがってるね。…オレのを」

だ、出さないで…お腹の中にこのひとのあついのを…。

声にならずパクパクと動くだけの唇を凝視される。

舌なめずりして、このひとが顔を近づけてくる。

いやだ、いやだ…!

首を振る。

じぶんの精液が付いたままの手で前髪をつよく掴まれる。

たすけて…!

声は、全てこのひとの口の中へ。

嗚咽をしながらのくるしいキスに耐えきれない。

また殴られると、それはよくわかっていても、だけど…!

「…っつう…、いい加減に…」

噛み付いた舌から出た血をぺっと吐き出して、また。

重なる大人の身体は重くて苦しくて。

脚を閉じられなくて手も動かせなくてお腹のなかも今度はじぶんが噛まれている舌も、

全部痛い。

 

こわい。

 

だいきらい。

 

こんなことも、

 

これをしてくるこのひとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハヤト」

小さな声だったけど、大好きな優しい声に飛び起きた。

「じゅうだいめ、今日は来てくれたんですね!嬉しい!」

いい匂いのする広くてあたたかい胸に飛び込む。

だけどじぶんの体調に僅かな違和感が。

「どうしたの?」

頭を撫でられて、思わず

「何でもありません」

と、答えたけれど。

「また怖い夢でも見たの?ハヤトよくそんな夢見るって言ってたよね」

柔らかい声に少し納得する。

「夢…そう、夢です、全部」

内容は覚えていないけど、とても恐ろしい夢。痛みを伴う…。

…痛み…?

悩む隙を突いてじゅうだいめに口付けられた。

抱きしめられてそれに応えるように広い背中に手を回す。

気持ちイイ…。

じゅうだいめとのキスは大好き。

…でも、どうして、舌が痛いんだろう?

離れてからそっと仕立てのいいスーツを着たじゅうだいめの肩口に顔を埋めると、

耳元で静かに、しかし笑うように愉しそうな声で囁かれた。

 

「全部、夢だから、ね」

 

その一言で。

悟る。

 

「ハヤト、好きだよ」

「じゅうだいめ、俺も、大好き…」

声が、震える。

「さ、いつものおクスリ飲もうか。そして始めよう、『いつもみたいに』」

 

あれは夢の中での出来事。

怖いけど、必ず覚める…。

 

「目覚めたらオレを大好きでいてくれるハヤトに戻る。だから今は…」

 

これは、今のこれが…夢?

 

「オレの大好きなハヤトになってね」

 

今日はこれを飲んでねと、ただし下のお口からと。

じゅうだいめが片手でじぶんを抱いたまま、ポケットから取り出したそれは。

「超強力な媚薬入りのローション。いっぱい使ってあげるからね」

 

 

夢からは、逃れられない。

 

 

 

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     何となく続いてるふたりのお話シリーズのどこか途中に入ってそうな感じで…(20100129

 


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