無題 シンタローが居ないことはあっても、キンタローだけが居ないことは今まで無かったように思う。だけどその不自然さにグンマは気が付かなかった。 「高松が呼んでる。」 シンタローが部屋を訪れたのにも何とも思わず、一緒に高松の元へ向かう。しかし入ろうとした矢先、後ろからシンタローに羽交締めにされた。 そのまま部屋に連れ込まれると、中で待っていた高松と共に着ている物を剥ぎ取られる。冷たい床での乱暴な行為。助けを求めて大声を上げるが、二人がかりで容赦なく押さえ込まれ、抵抗を封じられる。信じられなかった。怖かった。 身体を引き裂かれるような痛みに耐える時間はとても長くて、快感を伴わない絶頂を何度も与えられ、泣きながら気を失った。 しかしそれも僅かな時間。すぐに引き戻され更に激しい責め苦に苛まれる。 口の中に広がる血の味は、口付けの度に舌や唇を食い千切られそうな勢いで噛まれていたからだ。 「やめて!助けて!」 どれだけ涙を流しても、それは相手の気持ちを煽るだけ。 「俺たちはそんな言葉を聞きたいんじゃない。」 「もっといい声で鳴いて下さい、キンタロー様の前で出すような、あられもない声で。」 獣と化した二人にこのまま喰われてしまうのではなかろうかという錯覚。そんな状態で嬌声など出せるわけが無い。ただ、痛いと、助けてと泣くばかりで。 「嫌だ、嫌だ、こんなの、違う。」 もう止めて欲しい。自分の身体に打ち込まれたシンタローのモノから迸る白濁した液体が、奥深くを熱く濡らす。気持ち悪さに眩暈がした。 ようやくシンタローから解放されると、待ち構えていた高松が唇を重ねてきた。 「ん…んっ!」 息ができず、苦しさに身悶えする。押し付けられる下半身にはすでに十分な大きさと硬さを感じ、これから与えられる痛みと苦しみを容易に想像させる。 「私も楽しませて下さいね。」 高松に押さえつけられていた腕が痺れて感覚が無くなっている。起きて四つん這いの姿勢を取れと言われても力が入らない。それならとうつ伏せたまま、腰だけを持ち上げられ後ろから犯される。 「ああっ…!あ、ああ…。」 逃げようと、何かに摑まろうと左手を伸ばすと、シンタローに手の甲を靴で踏まれ、前髪を引っ張られて顔を上げさせられた。 「痛いよ…、やめてよ…。」 「何だ、いい声出せるじゃねえか。」 顔を背けられない。 と、いきなり訪れた感覚に声を抑えることを忘れた。 「やん!やだ、ああっ!」 高松の手がグンマのモノを激しく扱く。それと同調するように腰をグラインドさせ、内壁を擦り上げると、一方的だった性交がお互いの快感を引き出させる。 「やめて…、高松…!」 「気持ちイイんでしょう?せっかくですから一緒に楽しみましょうね。」 踏まれたままの手の痛みが薄れてゆく。代わりに高松と繋がった場所から背中に電流が流れるようだ。 「ああ…あ…。」 揺さぶられ、声を我慢できない。虚ろな瞳でシンタローを見つめるが、その表情は変わらず冷たかった。 「キンタロー様は、いつもこの声を聞けるんですね。」 「助けて…キンちゃん…。」 瞼を閉じるとキンタローの姿が浮かぶ。どうしてここに居ないのだろう…?どうして自分はこんな目に? 「キンタローにさせても、俺たちじゃ駄目なのか。我儘な奴だな。」 「ちが…、やあっ!」 びくんと身体が跳ね上がる。いちばん敏感な場所を刺激され、自分のコントロールが利かない。 「高松!やだあ…!」 あと少しで達するという、まさにその時、高松は己の快感を優先させ動きを変えた。激しく出入りし、腰を打ち付ける。グンマのモノから手を離して腰を掴み、大きく揺さぶる。まるで狂ったような勢いにグンマはついていけず、泣き叫ぶ。 「痛い、死んじゃう、やめてえ!」 シンタローに踏まれている手には血が滲んでいた。 「んんっ…!」 グンマの中で高松が達した。 そのまま余韻を楽しむでもなくさっさとグンマから離れると、シンタローも手を離した。支えを失い床に沈むように倒れ込む。横たわるグンマのモノはまだ勃ったまま。シンタローに踏みにじられた傷はズキズキと熱を持って痛む。 「後はご自分でして下さいね。」 冷たく言い放つ高松の顔を見上げる。その横に立つシンタローの眼は、自分の身体を舐めるように見つめていた。 逃げなければ。今すぐにこの場所から。 まるで自分の物ではないかのような、重い手足。ゆっくりと起きても痛みが走り、思うように動けない。 「痛い…。」 起こした上半身。ぽたぽたと落ちる涙。 「おい、一人で出来ねえなら手伝ってやろうか?」 肩に置かれたシンタローの手を払い除けた。 「ぼくに触るな!」 シンタローの顔色が変わった。 「いい根性してるじゃねえか。何にもひとりで出来ねえ奴が。」 「…もう、許してよ…。」 力が抜ける。目の前がぼやけた。このまま気を失えたらどんなに楽だったか。 「…キンちゃん…。」 小さな声で囁く。 殺されてしまうのではと思うような苦しみは、すぐには終わらない。終わらせてもらえない。 「明日も、可愛がってやるからな。」 意識を手放す寸前、遠くでシンタローの声が聞こえた。 翌日、夜になると二人はやって来た。 「薬と道具、どちらがお好みですか?」 高松が問う。逃れられないのなら、痛くないほうがいい。 目の前に並べられた物のうち、小さな透明な小瓶に入った液体を手に取る。 「ちょと強力ですよ。死にそうな位気持ち良くなれます。」 包帯の巻かれた左手は使えない。少し考えた。 「開けて、高松。」 手のひらに置いて差し出す。 「飲むの?」 「ええ。」 「じゃあシンちゃん、飲ませてよ。」 無駄な抵抗はしない方がいい。相手の気の済むままにやらせておけば、そのうち終わる。 諦めたのではない。自分の身を守るためだ。それを昨日嫌というほど思い知らされた。 口移しで流し込まれるそれを飲み込む。しかしすぐには放してもらえず、執拗に舌を絡められ、吸われた。服を脱がされながら、ベッドに寝かされる。 「…ん。」 シンタローの舌が、指が、自分の身体を這い回る。声は我慢しないほうが楽だった。 「苦しいよ、早く…来て…。」 今なら、何もかも薬のせいに出来る。 貫かれる時、キンタローにも聞かせた事のない声で、淫らに腰を振って相手を悦ばせる。 身体が熱い。息が苦しくて大きく呼吸をすると、それに興奮したシンタローの動きが激しさを増した。 このまま堕ちていきそうで、必死になってシンタローにすがりつく。 目を閉じ、何も見ないように…。 そして、緩やかに意識が遠のく。 「おい、起きろ。」 頬の痛みで目が覚めた。 「…起きてる、よ。」 一瞬、印象がダブった。シンタローに抱かれているはずなのに。キンタローじゃないのに。 「ねえ…キンちゃん、何時帰るの?」 あくまでシンタローの代わりなら、そう長い間留守にはしないだろう。 「もう、戻って来ねえよ。」 「え?」 耳を疑った。 「あいつは行った先でテロに巻き込まれたらしい。生きていれば連絡をよこすはずだ。」 ということは、死んだ? そんな、信じない。 でも。 くすりと笑みがこぼれた。 シンタローが不思議そうな顔をする。 「なあんだ、二人して、ぼくを慰めてくれてたんだ。」 口調とは裏腹に気が遠くなりそうな悲しみがこみ上げる。 「キンちゃんが死んだってぼくが知ったら、泣きわめくと思った?」 二人は黙っている。 「ぼくがこんなに嫌がる事を先にしておけば、ショックが和らぐと、本気で思った?」 涙が溢れる。 「シンちゃんの身体って、キンちゃんのとよく似てるよ。駄目だよ、余計に思い出しちゃうよ。」 自分から、シンタローの背中に腕を廻す。さっきの薬は効いているのだろうか?だんだん気持ちが冷めてきた。 「でも、シンちゃんじゃ、キンちゃんの代わりにはならない。」 「お、お前!」 いきなり両腕をベッドに押し付けられた。 「お前、今、自分で目をくり抜こうと…!」 シンタローの声が震えている。 「グンマ様。」 高松が歩み寄る。 「私たちが一番恐れていたのがそれなんです。ご自分で命を絶とうとするのはおやめ下さい。」 「じゃあ殺して。このまま、じっとしておくから。」 シンタローは動かない。 「グンマまで失う訳にはいかない。もし自殺する気なら、お前の自由を奪ってでも生かしておく。」 高松が注射器を取り出した。 「お許し下さい、グンマ様。」 腕に痛みを感じ、身体から力が抜けてゆく。 「キンちゃん…本当に…もう会えないのかな。みんなにも…前みたいに…。」 最後まで言葉は続かなかった。 「これで、良かったんだろうか?」 シンタローが呟く。 「仕方ありません。グンマ様には生きていてもらわないと…。」 「キンタローは俺の身代わりだった。俺が行くと、向こうに伝えてあいつを行かせたらこの有様だ。こんな事グンマに言えるか。」 暫くの間、落ち着いていたガンマ団と周りの関係がこのところ揺らいでいた。特戦部隊もフル活動中だ。 「貴方には、もう一人身代わりがここにいます。」 高松がベッドに横たわるグンマを見下ろす。 「グンマ様、キンタロー様とはそう遠くない未来に会えますよ。ご安心下さい。」 おそらくその青い瞳を見ることはもう無いだろう。言葉を交わすことも。 『キンちゃん、シンちゃん、だあーいすき!』と笑顔で遠征帰りの自分達を迎えてくれたグンマ。ついこの前までの関係が嘘のようだ。 「このまま、グンマ様は周りと接触を絶ちます。後のことはお任せ下さい。」 キンタローやグンマを大事にしてきた高松が、こんな作戦を引き受けるとは思わなかった。というより、むしろこの提案をしたのは彼なのだ。 『私にとって、ルーザー様以外は誰も同じただの人間です。』 その言葉を信じ、仲間に加えた。 「明後日は例のR国との会談だ、こちらももてなしを考えないとな。」 「その件に関しましては私に考えが…。」 グンマを残し二人は部屋を出た。 終 |