ブラッド 血が、止まらない。傷ついたところが焼けるように痛い。唇を噛み締めて息を殺し、体を丸めてシーツに包まる。 いつもと同じ行為のはずだった。いつものように、ほんの少しの我慢のはずだった。しかしその日のルーザーは、部下の不手際でこれまでの研究の成果が得られないばかりか、逆にその研究の全てが無に帰すような最悪の1日だった。 当然機嫌は悪く、その捌け口がハーレムに向けられる。 些細なことで殴られ、抵抗すれば首を締め上げられた。息が出来ない体勢のまま貫かれ、激しく揺さぶられる。泣きながら、苦しいのでせめてこの手を離してと訴えるハーレムに浴びせられる、ルーザーの冷たい言葉。 「僕の手に爪でも立てて傷付けてみろ、このまま首の骨を折る。」 出入りを繰り返すルーザーのモノが容赦なく奥も傷付ける。優しさなど微塵も感じさせない交わりは今に始まった事ではないが、今日はこれまでに受けた仕打ちの中では最も酷かった。 何度も失神をしながら、ハーレムの流す鮮血がシーツに大輪の紅い花を咲かせる。 聞きなれたサービスのノックの音で目が覚めた。 「ハーレム…お水持ってきたんだけど…。」 そっと開かれたドアからサービスが顔を覗かせる。思わず飛び起きたが一瞬目の前が真っ暗になった。声が出せない。 力の抜けたハーレムの身体をルーザーは優しく抱き寄せベッドに寝かせる。サービスはその様子を無言でじっと見つめていた。兄の腕の中で恐ろしさに震えているハーレムの気持ちには気付かずに。 「サービス、ありがとう。君にまでうつってはいけないからもう戻りなさい。」 今日もハーレムは病気で寝込んでいることになっていた。 サイドテーブルにそっと水を置くと、そのままサービスは部屋を出ようとする。 「こ、ここに…いて…。」 ハーレムの必死の呼び掛けにサービスが振り返った。そしてハーレムではなく、ルーザーに問いかける。 「だって、うつっちゃうんでしょ?」 「あれでも寂しいのかもしれないね。君たちはいつも一緒にいるから。」 「僕は別に寂しくないよ。こんなワガママな奴、病気の時くらいしか大人しくならないもん。こうして時々熱でも出してもらった方が、静かになってバランス取れていいんじゃない?」 「そんな事は言わないで、可哀想に。…おや、汗をかいている。パジャマを着替えようね。」 着替えを取ろうとルーザーが傍を離れる。それと同時にサービスはハーレムに駆け寄り、小さな声で耳打ちする。 「仮病を使ってまでルーザー兄さんを独り占めするんじゃないよ。兄さんは優しいから、ハーレムが本当は病気じゃないと知っていても黙って傍についていてくれる。だけど調子に乗ってそれをいつまでも続けないでよね。」 その言葉に固まっているハーレムの様子を一瞥して、くるりと踵を返す。 「兄さん、何かあったら呼んで。手伝うから。」 「ありがとう、君は本当に優しいね。」 「また来るよ。」 サービスは猫のようにしなやかな身のこなしでドアの向こうに姿を消した。足音は聞こえないが、気配は確実に遠ざかって行く。 ルーザーは笑顔で見送り、手に新しい着替えを持ってベッドに歩み寄る。 そして。 笑顔のまま静かな口調で言う。 「さあ、服を脱いで。」 ただ着替えて終わるわけがない。それはもう、言葉にしなくても判ること。 「…無理…できない…。」 起き上がることすらままならない。それでも求めてくるのか。もう、気力だけで意識を保っている状態なのに。 拳にも力が入らない。 「いやだ…。」 盲目的にルーザーを慕うサービスにはこんな気持ちは判らないだろう。 ルーザーの冷たい手が額に触れる。 「さっきより熱は下がったようだ。…脱ぎなさい、全部、ね。」 「まだ、痛い…血も…止まらな…。」 上手く喋れない。 「素直じゃない子は嫌いだよ。」 怖い、助けてと心の中でサービスの名を呼ぶ。 ゆっくりと、優しくルーザーの手によって起こされた身体。シーツにはうっすらと血の染みが残る。 「貧血にならないように、後で栄養のあるものを用意させるよ。大丈夫、治るまで僕がずっと傍に付いているからね。」 「どうして…何で…こんな…。」 こんな酷い事をという言葉は続かない。 代わりに出るのは、押し殺した悲鳴と、青い瞳から零れ落ちる大粒の涙。 そして、再び開いた傷口からの新たな紅い血。 真っ白いシーツの上は、ハーレムの闇。 終 ※ マイ設定では双子とルーザーの年齢差は結構あります。10歳まではいきませんが。いや、いくかな? 本当は5歳違い位?(汗) |