想い

 

 

 

 

 

水を張ったバスタブに頭を押し付けられる。溺れる、苦しいと足をばたつかせ力の限り暴れても、後ろでひとつに結ばれた紐は外れるどころか益々手首に食い込んでくる。

髪の毛を掴まれ顔を上げられても、すぐには息が出来ない。空気を求めて開いた口からは悲鳴も出ない。

「悪い子だ。すぐに大人を誘惑する。」

「違…う…。」

「そんなに欲しいのならいくらでもあげるよ。」

ルーザーが手を離すと力の入らないハーレムの上半身はバスタブに沈み込む。

苦しむその姿に構わず、腰を掴んで浮かせ背後から無理矢理犯す。

何度も突き上げ揺さぶり、時々動きを止めては空気を与えるように抱き起こす。

 

兄に殺される。

 

今まで何度もそう思う事があった。しかし、このように気を失えばたちまち命を落とすような状況になった事はない。

どうすればいいのか判らない。

ひたすらルーザーの気が済むまで耐えるしかないのか。

それとも、本当に殺す気なのか…。

表情は見えないが冷たい視線だけはずっと感じている。

「僕の居ない間にこっそり研究室に来て、僕以外の者と楽しそうに何を話していたんだい?」

「た…楽しそうなんて…。」

ただ、ルーザーに呼ばれていた時間を間違えて早く来てしまっただけ。出直そうとしたら研究室では今どんなことをしているのか見せてあげようかと声を掛けられた。

さして興味を持てないと思っていた。

しかし意外にもその話に引き込まれ、腰に廻された手に気付かなかった。

その様子を見られた。

「お前に優しくしてくれる人は、心の中ではこんな事をしたいと思ってる人達だ。他人を信用するな。」

「う…あ…!」

動きを止めていたルーザーが再びハーレムの中で暴れ始める。

「お前を護ってやれるのは僕だけだ。憶えておきなさい。」

ここでこのまま命を落とさずにいれば、これから先はルーザーの指示に従って行動するだけの人形になってしまう。

どうしよう。

どうすればいいのだろう。

「そうだ、ハーレムの身体に触れていた彼はどうしたと思う?」

「…え…?」

「今頃一番の激戦区に飛ばされて頑張っているんじゃないかな?」

「な!」

何てことだろう。自分に関わっただけでこんな仕打ちをされていたなんて。申し訳なくて悲しくなる。

ごめんなさい。

無意識に言葉に出ていたようで、それをルーザーが聞き逃す訳がない。

「彼のこと、そんなに気に入ってた?」

「…。」

「こんなふうにして欲しかった?」

激しく奥を突かれ、温かい液体が足を伝う感触に身震いがする。

繋がっているところが痛い。手首が痛い。食い込んだ紐が皮膚を破り、暴れると余計に痛みが増す。血が流れ、背中を濡らしていた。

「逃げない…手が…痛い…。」

「後で傷の手当はしてあげるよ。化膿止めの薬もちゃんとある。…だけど、まだだ。」

「…!!」

耐える時間は永遠に感じるほどに長かった。

 

 

 

 

放心状態でバスタオルに包まれ、ベッドに座るハーレムを愛おしそうに抱きしめる。かわいい弟。大事な家族。汚い他人に触られたくない。そんなルーザーの想いはハーレムに届かない。

虚ろな瞳は何処を見ているのだろう。

 

この子は人を惹きつける。

 

注目を集めることは悪いことではない。しかし、優しすぎる。簡単に人を信用してしまう。情にもろいこんな性格では、いずれ一族に危機をもたらす。もっと冷静に、マジックのように冷たいところがあってもいい。それを教えたいのに。

呼び止め掴んだ手を振り払われると自分も頭に血が上る。

 

「ハーレム、傷を見せて。」

手首に包帯を巻く間も怯えて小さく震えている。

初めてが輪姦のようにショックが大きいと、他人に対しての見方も変わるだろうか?…自分のように。

ああ、思い出してしまった。忘れていたのに。忘れようと努力していたのに。

何年経ってもあれは消し去る事など出来ない。

「…?なに…?」

手が止まったルーザーを見上げるハーレムの声にはっとする。

「何でもない。薬も飲もうね、水を持ってくる。」

思いがけず優しい物言いにハーレムは不思議そうな顔をする。そして立ち上がり背中を向けたルーザーに、おずおずと声を掛ける。

「ごめんなさい。」

と。

だから。

それがいけないのに。

人を大嫌いになることを知らなければ。

 

ルーザーの想いは伝わらない。

 

 

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     ちょっと毛色の違う物になった気が…。ルー様の過去はいつか書きたいですな。

 

 

 


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