グンマが、誕生日にはどうしてもして欲しいという事があるらしい。だが、 「でもこれはキンちゃんだけでどうこうなるものじゃなくて〜。」 と、なんだか曖昧だ。 「シンちゃんにも協力してもらうから。」 「どんな大袈裟な事なんだ?」 「全然大変じゃないんだけど…、まあ先にシンちゃんに聞いてくる。」 「それはシンタローでないと駄目なのか?」 「うん、駄目。担当が違うから。」 何のことやら判らないが、ここはグンマの納得するようにさせてやろうと思い黙っておく。 「多分キンちゃんの方は大丈夫だと思うから。問題はあっちなんだよね。」 ぶつぶつ言いながら研究室を後にするグンマは、 「すぐ戻るから、ちょっと待ってて。」 と自分を置き去りにして行ってしまった。 ガンマ団に来て二年目、一応同じ開発課に籍を置いてはいるが、どうも目指す方向が微妙に違う気がして最近は『基本に忠実に』を心掛けるように軌道修正したばかりだ。 こう云っては何だが、グンマの造るものには無駄が多い。そう直接本人に向かって言ってみたら、 「キンちゃんは夢が無いなあ!」 と逆に呆れられてしまった。グンマの行動パターンは大体読めるようになってきたが、この夢という奴はまだいまひとつ理解できない。 グンマとは、既に一線を越えた間柄だ。最初の頃のギクシャクした関係は何だったのだろうという位、今はお互いの事を分かり合えているつもりだった。 それが今回に限って何を考えているのかまるっきり判らない。 ただはっきりしているのは、自分にとってグンマはとても大事な人。人を好きになる楽しさと恐ろしさを同時に教えてくれた。その存在が励みになる反面、失う怖さを知ってしまった。 時々シンタローと共に遠征に出るのだが、グンマと離れるのが正直嫌になる時もある。傍にいて護ってやれないのが辛い。 しかしその前に、シンタローの傍らで彼を補佐すると決めたのは自分。一度決断したらそれを覆すような真似はしたくない。 故にこのままのやり方で暫くは落ち着いていたはずだった。 「キンちゃん!やったあ!」 嬉しそうな顔のグンマが飛び跳ねるように戻ってきた。交渉成立か。 「あのね、あのね!」 これ程にこにこしたグンマは久し振りだ。 「まて、報告の前に。」 一旦グンマを落ち着かせる。 「何をオマエは求めているのか、それをはっきりさせてくれ。」 「え?言ってなかったっけ?」 「何も知らないぞ。」 「そうだっけ。とりあえず、希望通りぼくの誕生日の次の日は、二人して休暇を貰ったから。」 「は?」 何のことだ? 「ぼくの今年の誕生祝いは、キンちゃんの腕枕で朝を迎える事なんだ☆」 「なん…!」 びっくりして声も出ない。 「いつも終わったらキンちゃんて慌ただしく帰っちゃうんだもん。一度くらい、朝まで傍にいてよ。」 「…!」 予想もしていなかった答えに脳内がフリーズする。 「それに、ぼくの部屋に来てもらうとあれでもキンちゃん帰っちゃうといけないからさ、この日はキンちゃんの部屋に行くよ。」 「それは…。」 嬉しい、嬉しいが困る。何故なら。 「いい?ねえ…っ!?」 いきなりグンマを抱きしめる。まずい、抑えが効かなくなりそうだ。 「俺がグンマの部屋に行くのは、どこかでセーブしないと止まらなくなりそうだから…。オマエが眠ってしまえば自分の部屋に帰れるが、俺の処に来れば、寝かせたり帰らせたくなくなるから…。」 腕の中でグンマが真っ赤になったのが判る。 「それでもいいんだな?覚悟は出来ているんだな?」 と、グンマの腕が自分の背中に廻された。 「覚悟とか、そんなん無いよ。ぼくはキンちゃんが好きなだけ。一緒に居たいだけだよ。」 いつまでも、ずっと一緒に居たいのは自分も同じだ。今年の誕生祝いはグンマの為というよりは、もしかすると自分の方が望んでいた事かもしれない。 「楽しみだな♪」 ぎゅっとしがみつくグンマ。 一度その身体を強く抱き、唇を重ねる。 最初の頃はこんな関係を周りに秘密にしていた。イトコで、男同士というタブーを気にして。それがあっさりグンマの一言で吹っ切れた。 『いいじゃん、だってぼくキンちゃんが好きなんだもん。』 無邪気というか、大物というか。 「あ、プレゼントといえば、キンちゃんの作ったケーキが食べたいな。」 「この前のチョコレートケーキか?普通、バースデーにはフルーツ沢山の…。」 「いいの、ぼくが食べたいんだから。おにーさんの言うこと聞きなさい。」 ほんの少し早く生まれただけの違いではないか。 「まあいい、オマエの誕生日だからな。」 喋りながら身体を離し、入り口をロックする。 「なんで鍵するの?」 「このまま、済まなくなってしまった。」 「ちょっと待って、今ここで?」 「オマエが期待させるような事を言うからだ。」 「もう!キンちゃん元気すぎ!」 言葉とは裏腹に、嫌がる素振りは見せない。 グンマの誕生日が、楽しみだ。 終 |