そのことすべて 2 「何、言って…ん…っ!」 グンマの返事を待たず、更に奥に突き入れられるシンタローの熱。 …怖い。 そう、好きなキンタローにでさえ己の全てを曝け出すのにはいくらかの勇気を必要とした。秘所を晒し、足を開く。一番弱い所を手で、口で攻められ、恥ずかしさと気持ちの良さに自分でも信じられないくらい乱れてしまう。 そして自分より遥かに大きな身体が覆い被さり、熱い塊に貫かれる。 好きだ、グンマ。そう耳元で囁かれ続けても、今の自分の格好を想像すると涙が出そうになる。女のように男の欲望を受け入れ、揺さぶられる。そのまま、キンタローが先にグンマの中に熱を放出する。 その後はグンマも幾度となく頂点に導かれ、2人に挟まれた自分自身から放たれたもので腹を白く汚す。そのうち言葉も無くなり、ただお互いを求め絡み合い、そして疲れきって果てる。ただしこれはキンタローが満足するまでで、その前にグンマはとっくに限界を超えている。体力が違いすぎる。 壊れちゃう。そう訴えても行為に夢中になっているキンタローの耳には届かない。 組み敷かれ、楔で貫かれるだけならただの拷問だ。 だけど止めてと言えない。 初めは、本当に気持ちよかったのに。 ひとつになれる喜びの方が大きかったのに。 キンタローが寝入った後、力の入らない足でよろよろと逃げるように部屋を後にする。そんな時、ひとりになれる唯一の場所がこの総帥室だった。 「ん?おい。」 急に力に抜けた身体をシンタローはあわてて支える。 「こら、このまま寝るんじゃねえ。」 思わずグンマ自身を掴む手を離すと、ようやく放たれることを許された液体がどくどくと迸った。 「…どうして…。何で2人とも…僕…。」 半ば放心状態のグンマを繋がったまま今度は上向きにさせる。そうしておいて、己の欲望をグンマに衝き立て、掻き回す。 「…あ…はあ、あっ…あっ…。」 既に喘ぎ声を抑えることもできない口からは涎が流れ、反り返った身体を力なく捩る。 「いや…痛い…痛いよ…。」 泣きながら首を振り、何とかしてこの状況から逃れようともがく。そんなグンマにお構いなしにシンタローの腰は動きを加速させていった。 「お願い、やめ…痛い…キンちゃん…!」 遮られた視界のせいで、今誰に抱かれているのか混乱して判らなくなっているらしい。 「ふうん、そうくるか。」 一旦動くのを止めるとグンマの様子を伺う。柔らかそうな金色の髪が床に広がっていた。 室内には空調の低い音しかしない。否、後はグンマの浅く速い呼吸の音。 「どうすれば楽しめるかな。」 開いた唇に指を這わせる。と、瞬間、グンマは固く口を閉ざしてしまった。顎を引き歯を喰いしばる。 「少しはお前にも動いてもらおうかな。」 シンタローは片手をグンマの頭の後ろに入れ支えるようにしながらゆっくり起こし、反対に自分は床に寝転ぶ。シンタローに跨る格好にさせられ戸惑うグンマ。まだ手は後ろに縛られたまま。 「自分で動け。これで一度俺をイカせたら終わりにしてやる。」 「いや…だ。」 「なんか、よく聞こえなかったなあ。さっさと動けよ。」 一度、軽く突き上げるとグンマの身体が強張りシンタローのモノを包み込んでいる箇所に力が入り締め付ける。 「うお、いいねえ。自分で腰振ってそれをしてみろよ。」 シンタローが動くと突き上げて落とされるため、更に結合が深まる。 「ぐ…!」 腰を浮かせ、逃げの体勢を取ろうとするグンマ。それを逃がすまいと勃ち上がりつつあるグンマのモノをシンタローは荒々しく扱く。 「こっちは構ってやるからさ。でもひとりでイクんじゃねえよ、俺をイカせるんだ。」 「や…いやだ…。」 弱々しく首を振り、あくまでシンタローに逆らう。 「ち、きりがねえ。自分でした方が良かったと後から言っても遅いぜ。」 グンマのモノから手を離し、両手で腰を掴むと激しく突き上げ揺さぶった。 「…っ!あ!」 自分の上で揺れるグンマを見ながら、何故かアラシヤマを思い出す。『あいつもこの体勢好きじゃないんだよな』と。 シフトを組むのはシンタローの仕事ではない。だから自分とアラシヤマの遠征が同じ場所とは限らない。何日も、それこそ何週間も会えない事も珍しくない。だから同行しているキンタローの気持ちも良く判る。帰ったら、一刻も早く会いたい。ずっと傍にいて欲しい。そして、抱きたい。 「んんっ!」 「あ。」 グンマが達したと同時に自分も中に放ってしまった。自分でも驚いたがグンマの方がもっとびっくりしたようだった。 「終わり…だよね…?」 「は…、仕方ねえ。」 アラシヤマの事を考えていてイッてしまったなんてとても言えない。肩で息をしているグンマを支えたまま自分も起き上がる。 「約束だからな。」 グンマから身体を離し、手を縛っていたリボンを外す。グンマは自分で視界を覆っていたネクタイを取った。 「シンちゃん…、ひどいよ…。」 泣きはらした目で訴える。 アラシヤマはこんな顔はしない。 「同じだ、俺も、キンタローも。」 「何が?」 「違うのはグンマの方だ。」 「だから、何が?」 「あのドアの向こうはシャワールームになっている。ちょっと行って来い。」 唐突に優しくなったシンタローに戸惑いを隠せないが、それでもグンマは素直にその申し出を受けた。 石鹸の香りと湯気を纏って大きめのバスローブを着て出てくると、シンタローはベッドに腰掛け煙草を吸っていた。 「なんかの本で読んだんだが、知的欲求度とセックスの回数って反比例するんだと。」 煙を吐きながら振り向く。自分の隣に座るようにと手招きをすると、大人しくグンマはやって来て腰を下ろした。 「それとも誰かに聞いたのかな?知的欲求度の高い人の脳は、セックスまで頭で処理出来るんだと。高学歴や芸術系の人の脳は、学問やら創作活動で働く事に満足して、恋愛とか人間関係がどうでもよくなったりするらしい。」 「僕のこと?」 「ああ、お前、セックス好きじゃないだろう。」 「ん、別にキンちゃんとじゃなかったら、しなくてもいい。だけど言えないよ、したくない時もあるなんて。言ったら嫌われちゃうかもって考えるとさ。」 ちゃんと恋愛出来ているではないか。まじまじとグンマの俯いた横顔を見る。 「遠征中にテキト−に女の人と遊んでるシンちゃんには判んないでしょ。」 「っていうか、俺もキンタローも元は同じだ。どうしようもなくサカる事があるんだよ。お前もあいつの事わかってやれ。…まあ、でもやりたくないと言ったらキンタローの奴どうするかな。俺みたいに代わりに誰かで…ってのは出来ないだろうし。」 「あ〜、そうだね。キンちゃん僕しか見えてないから。」 しばしの無言。少し考えてグンマが立ち上がった。 「帰る。」 着替えを済ませドアの前で立ち止まる。 「ね、開けて。どうしたら出られるの?」 シンタローが一見何も無いドアのすぐ横の壁に手を当てて上にスライドさせると、僅かな空間の中に四角い白いボタンが現れた。 「ここの部屋に入ると同時に総帥室の入り口もロックされている。開けて出て、誰かに見つかることはない。」 「ふうん、すごいね。あと、シンちゃんも。ちゃんと本とか読んでるんだ。」 「そんな奴いるか、とあの時は思ったが、まさかグンマがそれとはな。」 「悪かったね、あ。」 そうそう、とシンタローの方に向き直り、耳を貸せという動作。 「なんだ?」 グンマにあわせて頭を下げる。すると。 「これは、好きだよ。」 いきなりのグンマからのキス。首に手を廻し、さっきまでのあっさりした様子からは想像できないような濃厚でねっとりと絡みつくような口付けに、思わずその身体を抱きしめる。 「…これで、おしまい。ね、放してよ。」 「ばか!お前自分でスイッチ入れといて、勝手に終わりにするな!」 キンタローも久し振りの再会でこんなキスをされて、そのまま何もしないで済むはずがない。 「あいつみたいに単純な奴に、これじゃまるでお前から誘ってるみたいじゃねえか。現に、俺だってもうこんなに…。」 グンマに自分の下半身を押し付ける。 「うわ!信じられない!シンちゃんどれだけ溜まってたの?」 「アラシヤマとは、ここ2ヶ月御無沙汰だ。」 「僕でなくても、誰か他にいるでしょ!」 「大丈夫だ、キンタローより俺の方が上手い。」 「僕はキンちゃんの方がいい!キンちゃんでないと嫌だ!」 結局、どうやってもグンマは自分のものにならなかったわけか。 一度強く抱きしめ、それからドアの開閉スイッチを押した。 え?と驚くグンマの背をぽんと押し部屋の外に追いやる。 見慣れた総帥室。 「もうここを仮眠室代わりに使うな。あいつの傍にいてやれ。そうやってグンマが逃げれば余計に必死になって追って来る。」 「シンちゃん…。」 「さっさと行かねえと、またこっちに連れ込むぞ。」 「じゃあね。」 その人の事を想うだけで精一杯。それがまだ自分の感情さえ上手くコントロール出来ないキンタローにとってのグンマ。 そのこと全てが。 その人全てが。 好き、 という、 多分それだけ。 「しまった、あいつらこれでまた余計に仲良くなっちまう。」 得したような損したような複雑な想いを抱えたまま、諦めて途中で止まったままの未処理の書類の山を崩しにかかった。 <終> ※
「知的欲求度と〜」の台詞、大好きな同人作家さんの御本からです(汗) 今はその方、○ルゲイツ本を作っておられます。 それにしてもなんかシンタローも最近好きなんですが…。 |