その中にあるもの

 

 

 

開発課の奥にあるルーザーの秘密の部屋でハーレムは目を覚ました。軽い睡眠薬で眠らされ、ここに運ばれるのはもう何度目か。

しかし今日は手足を拘束されていない。どこか何かがいつもと違う。

それでも室内には白衣のルーザーと助手を務めている高松の姿。

「起きたようだ。では早速始めよう。」

…嫌でたまらない新薬の実験台。

だけど決して逆らえない、兄の命令。

ルーザーの声に身を固くしたハーレムにゆっくりと近づいて来るのは、何故か見慣れた液体の入った小さな瓶どころか、錠剤一粒さえ手にしていない高松だった。

「今回はね、ハーレムにばかり負担をかけさせてはいけないと思ってね。」

気のせいか高松の息が荒い。

「彼に薬を飲んでもらったんだ。改良した点がどの位反映されるか、楽しみだね。」

飛び起きたハーレムに高松は言った。

「舐めて下さい、潤滑剤を使わなくても楽に貴方の中に入れるくらいに。」

目の前に翳されたモノを見て、ハーレムの身体は無意識に逃げの体勢をとる。

「おっと、念のためこうしておこうね。」

いつの間にかすぐ後ろに来ていたルーザーがハーレムの両腕を後ろで縛った。

もうこれで逃げることは出来ない。その言葉に、従うしかなかった。

 

 

 

「これを。」

ルーザーに手渡された薬を飲み下すと同時に沸き起こる始めての感覚。まるで体内で爆発寸前の熱い溶岩が燻り、出口を求めているかのような苦しさ。

高松は吹き出る汗を拭きながら、これからの実験内容を聞かされた。

「遠慮はいらない。あくまでもお互い合意の上での実験だ。」

ベッドに寝かされていたハーレムが、まるでこの薬の効き目と連動するように目を覚ました。睡眠薬の量も計算されていたのかと思う程正確に。

「高松、始めて。」

その言葉に背中を押された。

 

 

 

ハーレムの口を責めると、たった数回の出入りで刺激は頂点に達した。

直前でそこから出すと同時に弾け、目を閉じる間もなかった顔にそれをぶちまける。

「まだ、舐めて。」

閉じようとした口に再び大きさを取り戻したモノを捻じ込み、喉の奥を突く。

嘔吐感で震える様子には気付かないふりをし、二度目は口腔内に。

そのまま飲み下す間を与えず、休むことなく腰を進める。苦しさに顔を歪めるハーレムは、三度目が近いことを中で感じ、頭を振って拒否の態度を示した。

「これくらいで嫌がってどうするんですか。下の口からは、もっと沢山飲ませてあげようと思っているのに。」

その言葉で、初めてハーレムが高松のモノに歯を立てた。

「…っ、このっ!」

顔を上げさせ頬を力任せに殴る。両腕が使えないため、よろけてバランスを崩したハーレムは、受け身の姿勢もとれないまま頭から床に叩き付けられた。

脳震盪を起こしたのか目を見開き一瞬動きが止まる。

だがそれもつかの間、自由にならない身でありながら体を起こして逃げようとするハーレムを捕まえ再びベッドに引きずり上げ、乱暴に洋服を脱がす。

「や…。」

力なく足掻く様がこちらを誘っているように見える。

先に手を縛った為、上半身にはボタンだけを外したシャツが残り、下は全てが露になって高松の目の前に晒された。

まだ挿入の為に何の準備もされていない蕾に、そそり立つ自分のモノを無理矢理押し込む。

ハーレムにとってはまさに凶器を衝き立てられるようなもの。巨大な異物の侵入に身体は軋み、悲鳴を上げる。

優しく扱うことはしない。行為を楽しむ余裕など与えない。大きく足を開かせ、体重をかけて上から突き刺すように一気に最奥まで進めると、自分のモノに刺激を与えるためだけに高松は激しく出入りを繰り返す。最も痛みを伴うやり方で。

声を殺し必死に耐えているが、激痛に身体が硬直している。

そこで、息を整え腰を落とし、今度は細かく内壁を擦るように突き進める。高松自身がハーレムの前立腺を刺激する度、ビク、ビクと身体が反応して銜え込んだモノを痛いほど締め付ける。

「…ひっ…くっ!」

泣きながら突き上げられているハーレムの顔には、先ほど自分が放出した白濁した液体が乾いてこびり付いていた。

最初の頃にはよく上がっていた甲高い子供の悲鳴。その泣き声に躊躇したこともあったがすぐに慣れた。

そして海の色の大きな瞳から溢れ出す珠のような涙にも。

いつも不思議に思っていたのだが、何故子供の涙は珠の粒になり、流れるというより頬を転がるように落下していくのだろう。

 

とりとめのない事を考えながら、高松は無言でひたすらに腰を打ちつける。一方ハーレムは幾度も体内に流し込まれる液体に胃液が上がる感覚を感じながら、時折思い出したように刺激される急所への責めによっていきなり頂点に導かれる。波紋が広がるような優しい快感などではない。

高松は自分の欲望の赴くままに動き、体内の熱を発散させることが出来るがハーレムは違う。受け身の身体には負担が大きい。何より、ハーレムはこの行為を望んでいない。

むしろ嫌悪していた。

 

「う…あっ!」

背を反らせ、ハーレムが達した。その声で我に返る。違う、快楽を与えてどうする、と。

更に激しく角度を変えて柔らかい内部を傷付けながら責め続け、腰を強く掴んで揺さぶり、奥へ奥へと突き進める。全く無抵抗の子どもに対しての行為ではない。

何度も意識を失いそうになるハーレムを無理矢理叩き起こし、更に苦しみを長引かせる。

それでもまだ、まだ足りない。満足できない。自分の中で得体の知れない何かが蠢いているようだった。

一度腰の動きを止め、繋がったままの身体をうつ伏せにさせる。

片手で簡単に包み込めるハーレムのモノ。それを強く握り扱くと自慰行為を彷彿とさせる。そこに与えられる刺激で自身を包み込む粘膜は震え、きつく締め付けてくる。それを求めてもっと強く、小刻みに扱くとさらに反応はダイレクトに返ってくる。刺激を与えれば与えるだけ、自分にも快感が戻る仕組み。そして指で先端を弾くように刺激して精射を促すと、大きく腰が跳ね上がる。

幾度も強制的に快感を与え、自分も楽しむ。

時にはぎりぎりまで追い詰めておきながら、イキそうなハーレムのモノを強く掴み精射を留めさせ、内部の急所を刺激する。この時ばかりは流石に無意識だろうが

「いかせて」

と泣きながら訴えられた。

逃げ場を失った熱は体内を駆け巡り、ハーレムを狂わせる。

子どもに我慢できる限界はとっくに超えていた。

それでも、力は緩められることなく責め苦は延々と続く。

 

 

「高松、ハーレムが寝てしまったようだ。」

ルーザーの声にはっとして顔を上げ、慌てて己をずるりと引き抜く。

行為に夢中で気が付かなかったが、シーツに顔を埋めたまま、ハーレムは気を失っていた。

完全な防音を施されているここで声を抑える必要はない。しかし最近は悲鳴を上げたり大声で泣きわめく事も殆んどなくなった。時折短く『鳴く』だけで。

「どんな具合?」

いきなり振られて答えにつまった。本当はまだ足りていない。

「あの…。」

衰えを見せない自分自身。

「これは、ほどいてあげよう。」

ルーザーはハーレムの両腕の戒めを解くと、優しく仰向けに寝かせた。

「もう、終わりなのですか?」

「君はどう?終わらせたいの?」

「…え?」

ルーザーがまっすぐにこちらを向いて問う。それだけで頭に血が上り、心臓は早鐘のように打ち始める。

「起こそうか?」

完全に意識を失い、苦痛から解放された柔らかな寝顔のハーレム。

その傍で氷のような微笑を浮かべて笑うのは、澄んだ青い瞳の憧れのひと。

薄暗い空間に浮かび上がる、まるで対照的な天使たち。

「…はい。」

その答えは、自分の声ではないようだった。

 

 

 

「起きなさい。」

ルーザーがハーレムの耳元で囁くと、それだけで固く閉じられていた瞼がゆっくりと開かれた。虚ろな瞳で確認した人物に焦点が合う。

「まだ終わっていない。」

その一言でハーレムはもう目を閉じられない。いっぱいに見開いた瞳から静かに涙を流す。

「どうして泣くの?おはようのキスをするよ。」

あくまでも口調は優しい。

「…ごめ…んなさ…。」

大粒の涙をポロポロと溢れさせる弟に向かって冷たく言い放つ。

「おしゃべりはいいから、早く。」

ハーレムは人形のようにぎこちなく口を開き、震える小さな赤い舌を差し出す。

「いい子だ。…大好きだよ、ハーレム。」

ルーザーがそれに軽く歯を立て、吸い込むようにしながら唇を重ねてゆく。

二人の唇の間から時々見え隠れする、絡まり合った舌の動き。ほんの僅か離れてはまた口付けるのは、呼吸をさせながら長い時間をかけてキスを続ける為。

あんなに嫌がっているのに、あんなに泣いているのに、顔を背けようともせず、おとなしくそれを受け入れている。ルーザーが飽きて離れるまで、静かに耐え続けている。

多分、これまでの間には何度も血を吐くような激しく耐え難い行為と、完全に抵抗を諦めて従うほうが賢いと思わせるような何かがあったのだろう。

あれほど反抗的な眼をするこの子が操り人形のようにルーザーの言う事を聞く。

 

密室で、2人だけの時間。

何度も、何時間も、何日もかけて。

ハーレムの身体と心に植え付けられた記憶と、傷。

決して消えない、これからもずっと忘れない何か。

 

だけど。

 

大切な弟とあの人は言う。きっとその言葉は本物。

全力で護っているのだ、周り中の敵から。

いざというとき迷わないように、他人の言葉に惑わされないように…自分の言葉だけに耳を傾けるように。

だからあの人は悪くない。

まだ幼くて判らないかもしれないが、言葉ひとつ、仕草ひとつにこめられた想いをいつか感じ取ることが出来るだろうか、この子に。

その中にあるものを。

 

 

「高松、続きを。ハーレムが待っているよ。」

 

 

実験とは名ばかりの、弟のためだけの、躾の時間。

自分はただ利用されているだけの道具。

それでもいい。

それでもいいから、少しでも長く、あのひとの傍にいたい。

 

…あの人に名前を呼んでもらえるこの時間が、ずっと続けばいい…。

 

ハーレムの悲鳴は、もう自分の耳に届かない。

 

 

 

 

〈終〉

 

 

 

 

*高松視点で。

大好きな人と大嫌いな子どもと過ごす時間。

それは幸せ?不幸?

 

 





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