それぞれの物語

 

 

 

最悪だ。

今日のこれは完全に八つ当たりだ。

両手で頭を抱え、横目で自分の傍らで気を失っているハヤトを見下ろす。

つい先程まで痛みに耐えながら、それでも必死に笑顔を作ろうとしていた。

オレが、笑ってよと言ったから。

この世の中、全てが思い通りに動くとは限らない。

そんなこと百も承知だ。

なのに仕事上のイライラを、何の関係もないハヤトにぶつけてしまった。

その些細なきっかけは自分が作っておきながら。

 

 

 

食事に混ぜる睡眠薬をほんの少し増やしておいたら、いつもオレが行く時間にはまだ眠っていた。

シーツに包まり身体を丸め、起きる気配もない。まるで仔猫のように無防備に熟睡している。

こうしてみると、ハヤトはまだこんなに幼い。

オレの大好きな長い睫毛と少し癖のある銀髪。

でも、それを眺めているだけでなく、やはり触れて、それから先のことをしたい。

穏やかな寝息を立てる柔らかい唇にそっと口付け、それでも目を覚まさないので

「もう起きてよ」

と、軽く身体を揺すった。

 

それは、多分無意識の行動。

 

身体に置いた手をハヤトが払うように叩き、うっすらと目を開く。

「…じゅうだいめ?…あ…ごめんなさい…」

たったそれだけで、何故か、頭に血が上った。

 

 

 

今日は、大きな取引と会合で分刻みのスケジュールに追われた一日だった。

それに加えてファミリーを陰で支えるはずの暗殺部隊の面子との軽い小競り合い。

奴等はオレよりもその組織のボスを敬愛していたから。

そのボスが、まがりなりにもオレを頂点にいるべき者と認めているので、

これまでは表立った衝突が起こらなかったのだ。

これまでは。

今日に限って云えば、オレの下した決断がどうしても腑に落ちない、納得できないとボス自らが出向いてきた。

こんな事、そうあるものではない。

それ程に自分の考えが否定されたのかと、反省するよりも先に腹が立った。

子供みたいな逆切れってやつ。

そこに水を差す…ではなく、火に油を注ぐようにあいつらが割って入ったものだから、

元家庭教師の一言がなければ今頃皆で死闘の真っ最中かもと。

 

そんな風に疲れて帰ってきてみれば、この子はぐっすりと眠ったままで。

 

「おはよう、ハヤト。今日はオレ、酷くするね」

 

すぐには意味を飲み込めない君は、とりあえずといった感じの返事を返す。

「はい…あの…でも俺、お腹、痛くて…」

そんなことはどうだっていい。

「しようよ、今、すぐに」

今日の君への目覚めのキスは、少し苦しそうだったけどそれを承知の上で、

わざといつもより長い時間をかけてゆっくりと深く舌を絡ませ味わった。

 

 

 

 

「…ひ…っん!」

喉の奥のから上がる鳴き声。

君との接点になっている下の口の中はオレのモノで掻き回され、

それでもハヤトの腕はオレの首にしがみつくように廻されて、激しい揺さぶりに耐えている。

ただでさえ狭い蕾に殆ど慣らすことなく突き入れられた熱に、最初は耳元で痛い、痛いと泣き声を上げていた。

それがかえって自分に火を点け、体内で更に大きくなった肉棒に圧迫されて君は簡単に精を吐き出してしまう。

「気持ちイイ?」

「はい…すごく…」

イッたばかりでまだヒクついている腸壁の一番弱いところ。

そこに熱く猛るモノを押し付けて再び腰を振る。

苦しそうに、空気を求めて開く口。

自分で意地が悪いと判っていても、わざと蓋をするように口付け空気の出入りを止めて、

それと同時に最高の刺激を身体の奥へ与えてあげる。

そうするうち、息苦しさの方が上回り、腕がオレを引き剥がそうと突っ張りはじめたから、

その手首を取ってベッドに押し付けてから急所への攻めに専念した。

可愛いハヤト。今、どんな気分かな?

オレはいい気分だよ。

奥のしこりで自身を擦りながらハヤトの舌を思う存分味わって。

ここで噛み付くかな?そうしたらその後どんな目に遭わせてあげようかな?

限界に近い様子を楽しみながら、引いた腰でひときわ大きく中を突いてみた。

達してすぐのせいか思ったほど吹きこぼれなかったが、それでもハヤトの先端からは確かに白濁が飛び出した。

そして強張っていた身体から力が抜ける。

だけどね、まだ寝ないでよ。今までたっぷり休んでいたんだからね。

そこで自分自身を包む粘膜の中にオレも最初の放出。

この精液が奥の奥まで染み渡るように、ハヤトの腰を浮かせて。

唇を離すと絡まり合っていた舌から唾液が糸を引く。その繋がりが切れるとまた口付けたくなったが、

それはちょっとだけ後回しにして、噛まれなかった舌でハヤトの涙を舐め取った。

耳や首、顎の下もねっとりと舐め回す。美味しいね、ハヤトは。食べたいくらい。

肉付きはあまりよくないけど、きっと味はいいよね。

ずるりと自身を体内から引き抜くと、舌なめずりをして君の左肩に吸い付き、

そのまま骨に達するかと思うほど強く噛み付いた。

「…い…たいっ!」

悲鳴と共に身体が跳ね上がった。

飛んでいた意識が戻るほどの痛みだったんだ。まあそれを狙ったんだけど。

歯を立てていた肩から口を離すと、大きな瞳からはポロポロと真珠のような涙。

「いたい…です、じゅうだいめ…」

「傷が痛い?」

「…おなか、も」

さっきからやたらと腹痛を訴える。

「どの辺りが痛む?」

「ここ…が」

お腹というよりそこは…。

「大丈夫、熱はなさそうだし、終われば痛み止めをあげるから」

急ぐ処置は必要ないと判断した。

そのままくっきりと歯型のついた箇所を人さし指で軽く撫でると、

既に熱を持って少し腫れているそこは、暫くの間は鬱血の跡が残りそうで。

「…ここと、どっちが痛い?」

「どっちも…でも、じゅうだいめのことを考えると、こっちの方が…」

握った自分の拳で胸を押さえている。

「くすり…早くほしいです」

「だけどね、もしもそれが恋の病なら、薬なんか効かないよ」

「…恋の…?」

「君は、オレに恋してる。胸の痛みはきっとその痛みだよ」

「じゅうだいめに…俺…」

「そう。オレの事を考えて…ここを、こんな風にされるのを望んで…」

きゅ…とハヤトのモノを掴んで軽く扱く。

「キスされて、挿れられて、いかせてほしいんだよね?」

「…んっ…!じゅ…だいめ…!」

「ごめんね、いつも一緒にいてあげられなくて。だけど、オレはハヤトが…」

大好きだよ。

そう言いかけた口を、驚いたことに君の唇が塞いでしまった。

必死で伸ばしてきた腕が、オレの首に廻され引き寄せられて。

唖然としたまま、なすがままになっていると、ゆっくりと君の手がオレから離れていった。

少し身体を起こして、自分のした事の大胆さに真っ赤になっているハヤトを見下ろす。

当然ながら、あそこからは手を離して。

「…ごめんなさい…でも、俺…じゅうだいめ…」

「オレを、そんなに好き?」

余裕の笑みで問えば

「…違います…」

「ん?」

「普通に好き…ではなくて、大好き、です…」

これまた何とも嬉しい発言。

「それなら…」

ハヤトの耳をぺろんと舐め、耳朶を甘噛みすると、身震いをするその反応が面白い。

「笑っていてよ、オレの前では」

いつでも。いつまでも。

今度はオレの方からキスをしてそう告げた。

 

 

再びひとつに繋がると、今度はハヤトがオレの上になるようにして抱き、

腰を密着させて腸壁で肉竿を扱くようにしながら君の前立腺も刺激してあげる。

ぐりぐりと腰を回してそこを擦り、時に軽く突き上げれば、君の口からは悲鳴にも似た嬌声。

あまりの快楽に耐えられず自分から腰を引こうとするが、

「ハヤトの良いトコとオレのモノが、君の身体の中でキスしてるって感じじゃない?もっと触れ合っていたいな」

と笑って見せれば、辛そうな表情は途端に蕩けて

「じゅうだいめの…と…キスを…なか…で」

想像を膨らませ、進んで急所を押し付けてくれる。

そんな甘い喘ぎ声や滴る汗が降り注ぐ中、快感の極みに最も近付いた頃を見計らって

君を強く抱いていた腕を解き身体を起こさせる。

「ハヤトのここが精液を撒き散らす瞬間が見たい。後は自分で動いてイって、それをオレに見せてよ」

お互いが深く繋がりあった秘所がオレからは丸見えという絶景。

その上、ハヤトの泣きながらも頬を染め、半開きになった唇から覗く赤い舌のチラリズムにも興奮して、

「早く!」

と思わず声を荒げてしまった。

叱られて怯えるかのようにビクッと硬直した時、咥え込んでいるオレ自身をどれほど強く締め付けたのか…

君は知る由もないよね。

「じゅ…だいめ…俺…」

「出来るよね?ハヤト、それから…泣いていないで笑って」

自分の手の甲で涙を拭い、無理に作った笑顔の君に、オレはそっと手を伸ばし…

それに君は頬を撫でてもらえると思って目を閉じる。

だけど。

「…い…あっ…!じゅ…!」

オレの手は君の想いとは別方向の場所へと進んでいた。

「や…痛いです…!そこ…握られたら」

「気持ち良くなる手助けしてるんだけど?いいから動いてて」

片手で完全に勃ち上がっていたハヤトのモノを下の袋ごと強く掴み、

もう片方の手はその先端からの迸りを塞ぐように指先で封をするようにつまむ。

「じゅうだいめ…!…それじゃ、でない…!」

泣きながらオレの手を引き剥がそうとするハヤトに、声だけでそれを制する。

「駄目。ハヤトは笑ってオレの言うことを聞くんだ。このままで腰振って」

いきそうになったら解放してあげる。ギリギリまで我慢して、そうして達した方が気持ちいいから。

そう諭して軽く一度突き上げた。

ハヤトの涙は止まらない。

溢れる涙を両手で拭きながら懸命にぎこちなく腰を前後に揺らす。

オレの手が吐精を赦すその時まで。

時に大きく震えて、気持ちは達しても身体は熱を溜めたまま。その苦しさにより一層激しく、

自らを追い詰めるように、意識を失くす直前まで、

君は、オレの命に従って、

揺れ動き続いていた。

 

 

 

 

「…ん、じゅうだいめ…?」

ハヤトの意識が戻り、泣き腫らした目をまた擦ろうとしたので軽くその手を取って瞼にキスをした。

「…嬉しいです」

「ん?」

「目を覚ましてすぐに、じゅうだいめを見ることができて…嬉しい…」

「それ…どういう…?」

「いつも起きると一人きりで、じゅうだいめに早く会いたくて仕方ないのになかなか来てもらえなくて。

だけど今日は目を開いた時にはじゅうだいめが居て、俺すごく嬉しくて。なのにお腹…胸が痛くて。

おまけにせっかくじゅうだいめが笑ってくれているのに何故かまだ眠くてもうどうしていいか判らなくて。

…そうしたらじゅうだいめが怒り出して…。悲しくて…」

「ハヤト…」

結局、全ての原因はオレにあった訳か。

益々自己嫌悪。

「まったく、今日は最低最悪の日だ。八つ当たりして悪かった、もう自分の部屋に戻る」

ため息をついて立ち上がろうとしたオレの腕に、ハヤトが慌てたようにしがみついてきた。

「じゅうだいめ、俺、まだ笑えます、だから、まだ…!」

…あれだけ酷いことをしてきたはずなのに、この子は…。

「まあ、別に奴等にどれだけ嫌われたって、ハヤトに好かれてさえいればいいんだけどね」

「なに…?誰のことですか?じゅうだいめ?」

「何でもない。それよりも…オレだってハヤトが好きだよ」

湿布…それよりも消毒か傷薬が先か…。

ハヤトの肩に残った傷を優しく舐めながら考えていると、君はおずおずと口を開いて

「あの、手当てをするの、もう少し後でいいです…」

その言葉の意図するところは。

「薬塗ってあげるの、また『した』後でも構わない?」

「はい!お薬は何時間先でもいいです!」

「じゃあ、先に胸の痛みを取る処置をしようか。寂しかったり悲しくなると痛くなるんだよね?

もうそんな思いをさせたくないから…安心していいからね」

「じゅうだいめ…俺、じゅうだいめが大好きです…!」

 

 

…もう暫く、この心地良さに身を預けていよう。

そうして今度は心に余裕を持って、もっと優しく接してあげる。

 

「俺、大人になったらじゅうだいめのお仕事のお手伝いをしたいです。すぐ側で、いつも…」

「うん、そんな時代が来るといいね」

だけど今は、遠い未来の事よりも、近くにいる君の事だけを考えよう。

一緒に居られる時間が限られる短い夜には…。

 

オレの事を大好きと言ってくれる子どもの君に貰ったちからで、

明日を、頑張る。

 

 

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     大人綱吉×子供獄寺で、たまには両思いバージョンのパラレルって感じで…(20091206

 

 


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