「てのひら。

 

 

 

 

 

 

グンマはキンタローの手が好きだった。

大きくて、暖かくて。この手に頬を包まれると、それだけで幸せな気持ちになれる。

「グンマ。」

優しい声。自分にだけ見せてくれる少し戸惑ったような眼差し。

「うん、キスしよ。」

にっこり笑って応える。そうして目を閉じる。大好きなこの瞬間。大好きな、キンタロー。

「キンちゃん、好きだよ。」

毎日の挨拶のように、キスをする。

 

 

 

 

「シンちゃんがね、人前で手を繋ぐなってさ。」

ぷうと膨らむグンマに大声が降って来る。

「当たり前だ、幼稚園児じゃあるまいし!」

「わ、いたの?」

シンタローの姿が見えないと思って言っていたらしく、びっくりした様に振り向く。グンマの研究室での雑談中、いつもなら確かにシンタローの居る時間ではない。

「でもー、キンちゃん4才だよ?立派に幼稚園児じゃん?」

グンマも負けてはいない。

「それは屁理屈だ。これのどこが4才児だ!」

ばんばんとキンタローのがっしりとした身体を叩く。

「何だよシンちゃん、アラシヤマがいないからって八つ当たりしないでよね。」

「だからそこで何故アラシヤマの名前が出てくるんだ!」

任務で遠征するのは珍しい事ではない。たいてい何時もどちらかが本部を離れている。そしてそれはグンマとキンタローにもいえる事だった。

だが自分達の場合、離れるといってもグンマがここを動く事はほとんど無く、置いて行かれる方が寂しいのはよく判る。

「顔に書いてあるよ、寂しいよー、って。」

「グンマ!」

「お前たちのじゃれ合いはいいとして、何か用事なのか?」

冷静に対応するとシンタローも我に返った。今回は珍しくグンマに話があるらしい。

場所を変えるということで、すぐ戻るからと部屋を出ようとしたその矢先。

「あ、キンちゃん。」

グンマがトトト…と、小走りに近寄ってきた。

「すぐ帰ってくるからね、待っててよ。」

手を取りぎゅっと握ってくる。

「人前でさ、手を繋ぐってすごいよね。だって素肌だよ、ここ。肌と肌の触れ合いだよ。」

どきっとするような事を真顔で言ってのけ、さっと離れて行く。

「また後でね。」

静かになった部屋で自分の手を見る。改めて考えると、次から手を握れなくなる。

どこか人と違うことを考えているとは思っていたが、そうくるとは。

「だが、それだけじゃ満足できんな。」

戻って来たらああしよう、こうしようと待ち構えているキンタローの思いを、未だ知らないグンマであった。

 

 

 

 

                        終

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