遠くてもいつか来る未来に 全国的に祝日でお休みの日が雲雀さんの誕生日。 学校で顔を合わせたらおめでとうを言った方がいいのかと悩むところだけど、今日はその必要がないのですごく助かる。 でも、今オレの正面に座っている山本は少し寂しそうだ。 「なんか約束とかしてないの?」 「昨日から電話してもメールしても返事がこねーのな。学校は閉まってるし、こんな時どこに行けばヒバリに会えるんだ?」 そういえば雲雀さんの家ってどこだ?獄寺くんも知らないって言うし、相変わらず謎の多い人だ。 「だからってここで座って考えてもどうしようもないでしょ?とりあえず一緒に雲雀さんのいそうな所探して歩く?」 せっかく会わなくてすんでるのに、しまった余計なこと言っちゃったと思っても後の祭り。 「いいのか?ツナは優しい奴だな!」 こんなに喜ばれちゃ、やっぱり嫌だなんて言えないよ。 「とりあえず、母さんの作ってくれた柏餅食べたら行こうか?」 この頃お菓子作りにはまっていて、山のように作ってご近所にも配ったという柏餅を仲良く3人で頬張った。 そう、この部屋には獄寺くんもいるのだけどさっきから一言も喋らない。 どうしてだろ?機嫌悪いわけでもないみたいだけど。 おまけに出る直前、お友達のところに行くのならお裾分けに、と母さんにそれを包んで持たされた。 「…ねえ、雲雀さんって甘いもの食べるかなあ?」 「ん〜、和菓子は好きみたいだけどな〜、よくわかんね!」 普通好きな人の好みくらい把握してないか?さすがにオレだって獄寺くんの好物とか嫌いな物とか弱点とか知ってるよ?ここでは言わないけどね。 「いつも不思議なんだけど、山本って雲雀さんとはどんな話してるの?」 「どんなって、別に普通に試合の時の事とか、面白かった出来事とか、最近読んだ本とか今度試してみたい体位とか…」 「それ以上はこんな往来では言わない方がいいと思うよ」 とてもすごくさらりと流しておいて、でも今度その話の続きをゆっくりじっくり聞かせてもらおうと考えた。 「開いてるじゃん、あそこ」 応接室の窓が開いてカーテンが揺れている。 「あれ?さっき通った時には閉まってたのにな」 とりあえず向かった先は並盛中学校。休みの日には閉じているはずのここも、雲雀さんの鶴の一声で(変な言い方だ…)開いてしまうのだろう。 ここで山本一人に行かせればよかったものを、何故かオレ達も一緒に校内へと進んでしまった。 「確かに今日は僕の誕生日だけど、必ず歳を取るとは決まっていないよ」 「いやいや!誕生日とは歳を取るものだって!」 おめでとうを言うついでに何歳になったのか確認しようとするオレもオレだけど、その思考の斜め上を行くのがこの雲雀さんだ。 「僕が何歳になろうと君たちには関係ない」 と、決してそれを認めない。すると、 「関係するのな〜、早く大人になりてえよ、俺は」 にこにこと、先日一足先に誕生日を迎えた親友はオレ達一同をぐるりと見回した。 「子供のうちじゃできねーこといっぱいあるじゃん。そんな限定解除してさ、思いっきりやりたい事やりてーし。そりゃ責任も重くなってくるけどよ、でもそのために毎日べんきょーしていろんな経験を積んでんじゃん?」 すごい一理ある言葉だ。 「だから俺、誕生日大好きなのな。一年に一回しかないのが残念だけど」 …それは、仕方ないよ…。 「今日はその大好きな誕生日なんだぜ?大好きなヒバリの。ほんっと、おめでとう!ヒバリ!」 屈託なく笑うその顔に、思わず皆が見惚れた。 そして、表情こそ崩さないけれどあの雲雀さんが内心喜んでいる。いや、照れている。 オレの超直感ではそう見えた。 今度こそ山本を置き去りにして、というかここは2人の空間にしてあげないといけないような雰囲気になりそうだったので、オレと獄寺くんはそそくさと学校を後にする。柏餅は終わったら食べてねと置いてきた。 「あのさ、獄寺くん機嫌悪い?」 「へ?いいえ、どうしてですか?」 「なんか全然喋らないし、今日はここで解散した方がいいのかなと思って…」 実のところ、このまま真っ直ぐ獄寺くんの部屋になだれこんでしまいたい気持ちを抑えている。 「機嫌、全然いいっすよ!やっと2人になれましたし!」 「でもなんか元気なかったみたいだから…」 「…、あ、誕生日に、俺あんまいい思い出なかったもんで…。申し訳ありません、ご心配おかけしてしまって!」 ようやくいつもの口調に戻ったみたいでひと安心。まあ、獄寺くんの過去については今すぐに全てを知らなくてもいいから、というかむしろ知りたくないのが本心かも。…知ってしまっても、これまでと変わらず付き合っていく自信はあるんだけどね。 秘密にしていた事を話すことによって肩の荷が下りたように楽になる人もいれば、かえってそれが原因でその人が苦しむことになりかねない人もいる訳で(多分獄寺くんはこっち側)。 色々な事情を抱えて生きている人たちのこれからの人生が、明るい未来へ進めるように願ってる。願うことしか今のオレには出来ないけれど。 「10代目…あの、お暇でしたらこれから俺の家に来ませんか?」 「暇…じゃないなあ、忙しいよ」 「そうですか…」 残念そうに呟く君に、後からぎゅっと抱きつく。 「これからオレの大好きな人と気持ちイイ事いっぱいしなくちゃいけないからね、暇じゃないんだ」 「…それは忙しいですね。この俺でよければお手伝い致しますが」 「うん、よろしく」 早く大人になりたい。 身体も心も大きくなって、君を包んで、受けとめてあげたい。 「獄寺くん、大好き」 「…大人になったら、愛してる、って言って下さいね」 「うん、大好き、愛してる」 「毎日それを言うんですか?」 「言うよ。そして言わすよ、言ってくれるよね、君も」 「勿論です」 もう何年かすれば、こどもの日に雲雀さんは大人になる。 面白いな。 オレ達も、大人になる。 早く、なりたいね。 ともかく今はここから君の部屋に向かおう。 時間と違って距離は頑張れば縮まるから 「走るよ!」 少しでも早くそこに着いて 「はいっ!」 一秒でも長く君と一緒に居たいな。 居ようね。 <終> ※ 遅くなりましたがこれでも雲雀の誕生日を祝ったつもり。そして何がなんでもつなごくも絡める!(20090511) |