月が滲む

 

 

 

明かりを点けない室内が青白い。

開かない窓から射し込む光が照らす静寂な時間。

ここは、じゅうだいめの思い通りの世界。

じぶんという意思を持ったおもちゃを気の向くままに弄り、愉しめるところ。

 

「実はね、気を失うと中が弛緩して面白くない。だから意識を保ったまま動けなくするのが最高なんだ」

それがじぶんにとってはいちばんの苦痛。

「力の限り歯向かってもオレに敵わない君を、軽く押さえつけてやっちゃうのは楽しいよ」

抵抗してもしなくても、このひとには関係ない。

このひとにとって、じぶんの意思なんてどうでもいいのだから。

むしろ泣かれる方が搾り取られそうにきつく締まって気持ちイイとさえ言う。

「だから最中はずっと泣いてていいよ」

そう言って、わらいながら、このひとは幾度も容赦なくじぶんの頬を打つ。

両手で防御しても難なくあしらわれ、馬乗りになったこのひとの顔を睨みつけても、

「ああ、いいね。そんな顔も出来るんだ、可愛いよ」

見下され、まるで相手にされない。

そうして何度も繰り返される平手打ちで意識が朦朧となってきた矢先、

今度は逆に気も失えない程の激痛が体内を走る。

挿入時は力を抜いたほうが負担が軽いというのを嫌というほど教えられてきたはずなのに、

痛みが恐怖に置き換えられて押し入ろうとするそれを全身で拒否してしまう。

「…きっつ…。でもやめないからね」

ゆっくりと時間をかけて狭い入り口を解すなんて優しい事はしない。

膝の裏を持って大きく開かせた脚に当たる脈打つ肉棒から滴る透明な粘液だけでは、

挿入の潤いとしてはまだ不十分。

それを判っていて尚、このひとは異物を拒んで噤む口に、無理矢理凶器のような硬い自身を捩じ込んだ。

焼けるような痛みが全身を包む。

悲鳴が喉の奥に引っ掛かって、掠れた声で喘ぐような微かな声しか出せない。

それ程の痛みをこのひとはわかっているのだろうか…?

そのまま、硬直し仰向けだったじぶんの身体を捻って横向きにさせると、いきなり始められる激しい出入り。

つかまるところのない不安定さにせめてとの思いでシーツを掴み、

奥に押し込まれ、突かれる勢いで上にずれてゆく身体を押し留めようと躍起になっていれば、

ぐいと身体を引かれてこのひとに更に近付き奥深くを硬い先端が切り開くように進んでいく。

「締める時と緩める時のタイミングが違うから苦しいんだよ。前に教えてあげたでしょ?」

そんなこと、今はもう考える余裕なんてない。

「でも中、凄いことになってるよ。オレ全体に吸い付いて、ヒクヒクして、内壁が震えてる」

泣くとお腹に力が入る。しゃくりあげるとき、このひとは、くっ、と言ってすこし眉根を寄せる。

「うん、凄い、痛いくらいキツイ…でもこれがイイ…」

休みなく奥を突かれる動きで息が乱れ、苦しい。

でもこのひとはうっとりとした表情で腰を振りながら、いいね、いいよと繰り返して言って、

じぶんのなかでどんどん大きさを増していく。

内臓を内側から擦られる感覚にはいつも鳥肌が立つ。

気持ち悪くて、あれが奥まで入ってくるのが痛くて、嫌だ、止めてと泣き続けても、

やめてくれるどころか動きは一層激しさを増し、そのうち攻撃はある一点に集中し始める。

そこに宛がわれたまま腰を掴まれ一緒に揺らされたり、激しく突き上げられたり。

このひとのものがそこに当たる度に頭の中で火花がぱっと散り、熱を帯びた血液が身体中を駆け巡って熱くて苦しくて。

「イイんでしょ?ここ。他と反応が全然違う。この感覚に早く慣れてね…いや、」

大きく腰を引いたかと思うと、このひとは勢いを付けてその部分をピンポイントで、

「慣れなくてもいいや」

突き上げた。

 

「君のモノから精液が噴出してる時、雄の本能かな?君も自分から腰を振るんだよね。

これがまたいい刺激でさ、中がギュギュって収縮してオレ眩暈がしそうなほど気持ち良くって」

それをまたもう一回ねと、休む間も与えてくれず、再び同じところに硬いままのこのひとのものが当たってくる。

いったばかりで敏感になっているそこは、今はまださっきのような感覚を拾えず痛いだけなのに。

だからそう言って酷くしないでとお願いするのに聞いてもらえない。

まって、まって、せめてあと少しだけ…。

まだ痛いから、苦しいから、おねがいします…!

必死で懇願するのに更に激しく動かれて、身体の中からじぶんが壊れていきそう。

たすけて、まって、いやだ…!

「うるさいよ、少し黙ってて」

狂ったように声を上げるじぶんの目前に、

振り下ろされる大きな掌がスローモーションのように迫って見えた。

 

 

気を失うのが唯一の逃げ道。

だけどそれで許してもらえる訳ではない。

目を覚ました時にはっきりと自覚する。

身体中に散った鬱血と歯形の痕と、下肢を汚す白い粘液を目の当たりにして。

 

「早く起きてよ、オレが面白くないからさ」

一旦自分から出て行ったものがうつ伏せにされて腰をつかまれ、再び中に押し込まれる。

挿れられる向きや角度が変わっても、その攻撃の目的は同じところ。

そこが熱の先端に叩かれるたび、大きく育っていく自身と何かが溜まってくる内部。

それを出したいと思えば自然に揺れてくる腰。

大声で叫んで泣きたい。やめてと。

だけど、もうそんな力も残っていない。

涙の染みが広がるベッドに顔を埋め、シーツを掴む手から力を抜く。

「また寝るの?」

意識を失う寸前のこの感覚。すぐ近くにいる筈のこの人の声が遠くから響いてくる。

「聞こえてる?」

浅く弱い呼吸で揺さぶられて、酸素が足りなくて苦しい。

…のに。

髪の毛を掴まれ一度顔を浮かされて、目の前に柔らかい枕が見えたと思った瞬間、

後頭部をぐっと押されて顔面をそこに押し付けられた。

息が、呼吸が…、空気を求めて溺れるように手足をばたつかせ、暴れるじぶんをこのひとは、

「目が覚めた?凄いよ、今のこの締め付けは。うん、最高」

…愉しんでいる。

 

この体勢のまま弱いところばかりを狙われて、寄せては引く快楽の波に僅かに残ったまともな思考は砕かれ持って行かれる。

「可愛いオレのハヤト。大好きだ、…オレだけのものだ…」

独占欲による狂気、これは、月の光のせい。

月夜の行為がこのひとをこんなにする。

 

月は、黙ってそれを見ている。

その輪郭は、いつもぼやけている。

月を見るじぶんの目には、いつも涙が溜まっているから。

その光に包まれている間中。

そう、今夜も。

 

 

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     これもまた別次元のお話(20100113

 



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