伝える 『自分の作った料理を食べて欲しい』 獄寺くんの誕生日、登校途中にが欲しいかと訊ねたら逆にこう言われた。 「でも、それって…」 …オレに試練ですか?と思ったけど声には出さず。 「わかります、練習しました!俺はナイフは使えても包丁は使えないだろうって、リボーンさんに言われたことありますから!」 …リボーン、獄寺くんに何てことを…。 まあそれは置いといて。 「10代目はカレーがお好きだと伺いました。実は昨日から仕込んであります。今日はうちに来て下さい!」 ここまで言われたらもう行くしかないじゃん。 「でも本当にプレゼントいらないの?」 「ええ、10代目が来て下さるだけで、俺嬉しいっす!」 いつもはここで山本も誘うんだけど、今日だけはなんかふたりきりで過ごしたいよな。そう思いつつ、でもそれなら一度家に帰って行くからと約束した。 「これ、差し入れ」 「あ、ありがとうございます!」 バナナとかりんごとか家にあったものを適当に持ってきたんだけど。それだけでも大袈裟に喜んでくれて申し訳ないような…。 「いや、いいけど…それにしてもどうして自分の誕生日にこんなことを?」 「…あ、それは」 キッチンに連れ立って入ると、思ってたよりはまともなカレーのいい匂い。失礼だけど、いやまじで。 「以前に…」 こちらを向かない獄寺くん。でも、髪の毛を後ろでひとつに結んでいるから見える耳がもう赤いよ。 「10代目が仰ったんですが…『お嫁さんにするなら料理の上手な人がいい』と、それで…」 「…は?」 「10代目は料理の上手い人が好きなのかと思って、俺も何回か作ってみたんですが、まともなもんひとつも出来なくて…頑張ったんですが…。いつもうちでの夕飯って、買ってきた物とかばっかで、満足して頂けなかったんじゃないかと心配で」 「…へ?」 相変わらず背中を向けたまま、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。 「だから、誕生日にわがままを聞いてもらえるのなら、一度だけでも俺の作ったものを10代目に食べてほしかったんです。…その為だけにお呼び立てしてすみませんでした…」 「…」 どうして獄寺くんが謝るの?どうしてそんなにオレのために苦手を克服しようと頑張れるの?どうして君は…。 「オレ、確かに『お嫁さん』にするなら料理の上手い人がいいって言ったけど」 ぎゅ、と背中から手を回して抱きつく。 「獄寺くんには『恋人』になってほしいから、料理のことはもう気にしないでいいよ。…あ、でもこれはご馳走になるね、ありがとう」 洋服の上からでも胸がドキドキしてるのが判るよ。そこで更に、 「獄寺くん、大好き」 と付け加えれば、俯いた君からぽたぽたとオレの手の上に水滴が落ちる。 「俺、誕生日に願いを聞いてもらえてこんなに嬉しいの初めてで、だから…」 オレにとっては些細な事だけど、ここまで喜んでくれるなんて思わなかった。 そんなところが愛しい。 「獄寺くん」 伝えたい。 「お誕生日、おめでとう。今日があるから君がいる。獄寺くんと出会えてオレはすごく嬉しいよ。これからもずっと一緒にいてね」 気持ちを。 好きだと。 大切で、大好きな君に。 「…はい…」 …本当は泣かないで『俺もです!10代目!』と言ってほしいんだけどこれじゃ難しいよね。でも流石に泣き止むのを待ってる時間がちょっと惜しくなってきたので、 「あのさ、カレーって煮込めばもっと美味しくなるから…もう少し経ってから食べない?食事のお礼に、オレからもいいもの君の中にあげるから、ね」 と言いながら、手は既に服を脱がし始める。 「あの…、ここで?」 少し焦った君もかわいいな。 「だめ?獄寺くんはいつでもどこでも美味しいからすぐに欲しいんだけど」 「…いえ…俺も、すぐしたいです…」 照れてる言葉とは裏腹に、君は自分でベルトに手を掛けた。 …オレ達が夕食にありつけたのは、それから結構後の事だった。 「形として残るものもあげたかったな」 「目に見えるものだけがすべてじゃないんですよ」 「…は?」 食事をしながら向かい合ったテーブルの向こうで、獄寺くんがにこっと笑った。 「この日の思い出を形にして、ずっと忘れずに持っています、これからも」 …今一瞬、獄寺くんがすごく大人っぽく見えた。 「なんかお兄さんぶってない?」 「一ヶ月はお兄さんですよ、敬ってください」 「じゃあお兄さん、カレーのお代わり下さい。まだ食べたいです」 「はい、喜んで!」 上手く使われてて何がお兄さん…と思いながら、このカレーが美味しいのは本当に君が頑張ったおかげなのか、それとも単に運動した後の空腹のおかげなのか…と思う自分はまだ人間が出来てないと少し反省した。 <終> ※ 獄寺くんお誕生日おめでとう!とてもすごく遅くなったけど…(20090922) |