綿菓子の言葉

 

 

思っていても口に出せなかったこと。

出さないようにしていた言葉。

今日はお互いにそんな想いをぶつけあう日。

 

「オレからいくよ」

こくりと頷く獄寺くん。

 

「まずは…大好き!すごいきれいでかっこよくて、何着ても似合ってて、ほんと立ってるだけでもさまになる!放課後に教室でオレが戻るのを待ってる時なんか、煙草吸いながら窓の外を眺めてる姿を見たら、そのまま走り寄ってその場に押し倒したいくらい!無意識に誘ってるんじゃないかって思うよ!きれいなんだってば!…以上、終わり!」

はーはーと肩で息をしながら伺い見る君は、外では決して見せない程赤くなって汗をかいて、膝に乗せた手は自分のズボンをぎゅっと握って固まっている。

「どうぞ、次…獄寺くんだよ…」

「はい、では…」

ぺこりと何故かお辞儀をしてから顔を上げた。

 

「す…好きです…10代目…。その…可愛い仕草とか声とか、なのにすげえ気持ちイイ処を的確に押さえてくるとことか、俺の前を歩いててふと振り向いた時の笑顔とか…。山本と話してる時にいきなり俺に話を振ってきたりされるとドキドキします。今日だってここに、ウチに来るまでゆっくり歩いて来ましたけど、本当は一刻も早く連れ込みたかった位…。10代目は、お、お姫様抱っことやらをされるのを嫌がりますけど、俺、あれでベッドまで運びたいんです。前に一度やって『これじゃ立場が逆だからオレがする』って言われてやってコケましたよね。でもそんなとこも大好きです…」

「…あったよな、確かにそんなこと…」

「あとですね…」

「まだあるの?」

「まだまだです」

「わかった、聞くよ」

聞いてるこっちは別の意味で恥ずかしくなる。でも本人はいたって真面目に語ってるつもりだから、そこんとこはあえてツッコミを入れずに大人しくしておこう。

 

「…ええとですね、ともかく大好きなんです。以前、はしゃぐだけはしゃいでパタッと行き倒れるように寝てしまう仔猫みたいに、する前に10代目が寝入ってしまった事がありましたよね。その時の寝顔は未だに俺のオカ…もとい、良い思い出ですし」

 

「…あの時はオレが起きるまでじっと待ってたみたいで、悪かったと思ってはいたんだけど…退屈してなかったんだね」

 

「あの、すみません…でも他人が自分のすぐ近くで無防備に寝息を立ててくれるのが嬉しくて…。完全に信用しきってここは安全だと云わんばかりに夢見て時々身体がぴくっとしたり、微かに寝言言ったりしてるのは、マジでもっと見ていたかったくらいで…」

 

「なんか変なこと言ってなかった?オレ自分の寝言で目を覚ましたりするから」

 

「いいえ、はっきりとは聞き取れなかったんです。だけど思いました。最初は早く10代目と一緒に暮らしたいと考えていましたが、そうしたら起きている時だけでなく、眠っていても目が離せなくなるからこれはまずいって。何にもしないで10代目だけを見て過ごせますから、俺は」

 

今度は自分が赤くなる番だった。

何でこんな事照れずに言えるかなあ?

 

 

 

面と向かって胸の内を曝け出す日を決めたいと言ったのはこのオレ。

それが毎月27日。

言いたくて言えずに溜まっていく気持ちのわだかまりを無くしたくて、足りない言葉や届かなかった言葉のせいですれ違ってしまうのを止めたくて。

それが相手に対する不平不満でも好意の囁きでも何でも全部、包み隠さず言葉にして口に出そうというこの気持ちを君は判ってくれた。それだけでもうれしかった。

獄寺くんはきれいと言われるのがあまり好きではないみたいだし、オレは可愛いとは言われたくない。でも心の中では相手のことをそう思っている。

だって本当に獄寺くんはきれいだし。

獄寺くんも時々『10代目のそんなとこがかわい…うっ』と自分で口を押さえてる。

だから、たまには王様の耳はロバの耳をしたいよね。

想いを聞いてほしいよね。

 

 

「でも結局、いつも最後は大好きで終わっちゃうんだよね」

「だからですよ」

「ん…?」

「相手が何考えてるか判らないっていうのは不安です。黙って下を向かれるより、耳に痛い言葉でも自分に向かって主張してほしいです」

その結果があの言葉になる。

 

「大好き」

 

更には極上の笑顔を伴って。

 

 

「色々な好みや考え方は違うけれど、話すことによって理解はできるし、しようとする。そしてまたそこに惹かれる。これはいい傾向です。流石10代目!」

ぐっ、と親指を立てて力強く笑う獄寺くん。

「そんなとこもかっこいいなあ…好きだなあ」

 

本日何度目かの赤面する姿を見て、今日もオレの勝ちを確信した。

…つもりだった。

次回のこの日にそれを聞かされるまでは。

 

 

 

 

「俺、すごく耐えてたんですよ。寝言に返事をしたらいけないから。本当は寝言、はっきり聞こえる声で喋ってて、『オレは獄寺くんのことが好きで大事にしたいと思ってるけど、獄寺くんはどう?はっきり言って!』って。マジ起きてんのかと思う程大声で。で、またスースー寝ちまったんで心の中で『俺もです!』と返事しておきました」

 

 

ちなみに寝言に返事を返してはいけないというのは本当のようで、それはリボーンから聞いたとか。

寝てまでそんな事を言ってるなんて、どれだけ君のことが好きなんだろうね。

きっと大好きなんだろうね。

それよりどうしてあの時にこれを話してくれなかったかなあ?

そこらへん、今晩じっくり聞かせてもらうよ。明日は日曜日だし。

今月は27日が土曜日でよかったな。

ちなみに来月は夏休みに入ってる。

またゆっくり話し合って、それから楽しいこと沢山しようね。

大好きだよ、獄寺くん。

 

 

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     砂糖で出来た言葉はフワフワして甘い。混じりけのない甘さで。…なんて、そんなのを目指したつもりのこのお話…(20090608

 



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