柔らかな檻

 

 

 

 

幾重にも巻きつき、首に食い込む触手を引き剥がそうとすれば、

自然他の場所には手が回らない。

絞め殺されそうな勢いのそれに気を取られ、

その間に触手は自分の全身に纏わり付き蠢いていた。

肌に触れるところは柔らかく吸い付くようにしっとりしているのに、

袖口や襟首からぬるりと入り込んだそれは、

身体に傷ひとつ付けず布地だけを器用に切り裂いてゆく。

まるでカッターの刃が紙を切るように簡単に。

はらはらと足元に落ちて溜まる洋服。

上半身に続き、同じように下半身もあっという間に露にされてしまう。

嫌だと叫んでも、相手はただの触手。

聞く耳を持たないかのように動きに変化はなく、

それでもまるで意思を持っているかのように全身の敏感な箇所に張り付く。

先端は尖っているように見えたのに、

実際の感触はまるで舌の先でちろちろと触れられるように柔らかで。

耳の後ろから首筋にかけてつう…と舐め下ろすように動くそこからは

唾液が滴るような温かい液体が分泌されている。

脇腹から胸、そして自分自身に

まるで何人もの人間が舌で愛撫しているかのように

触手の先端が這い回る。

苦しくて死にそうなのに、でも刺激に対し

身体は素直に反応を示してしまう。

 

そんな時、衝撃がいきなり後孔を貫いた。

 

あまりの痛みに身体が震え、

見開いた目からは涙が零れ落ちる。

悲鳴さえ上げられず開いたままの口にも、容赦なく触手は襲い掛かった。

「…っ!ぐう…」

口腔内をいっぱいに満たすと、

そこから吐き出せないようにと喉の奥へ向かって、

とろりとした液体を流し込んでくる。

溺れそうな苦しみの中、泣きながら飲み下すと

ようやくそれらはそこをゆっくり後にする。

空気を与えられた途端、むせて咳き込み、吐き気を感じて唇を噛む。

…むしろ吐き出したいとさえ思うのだけど、

それはしてはいけないことと判っている。ここでは。

息を整える間もなく、今度は腹の中で

いっぱいに膨れ上がった太い触手が動き始めた。

次第に湧き上がる別の感覚に恐怖を覚え、懸命に逃れようとするのだが

想いと裏腹に腕からは力が抜けて、だらりと両脇に垂れ下がってしまう。

先ほど注ぎ込まれたあれの効力。抵抗を奪うための。

首に巻きついた触手は相変わらずじわじわと気管を圧迫している。

内部に留まっている凶器はそんな様子などお構いなしに出入りを開始する。

両脚を開かされ結合部が見える体勢にされると、

身体に突き刺さる触手のグロテスクさと、

自分のモノに絡み蠢く何本ものそれを目の当たりにして鳥肌が立った。

そのままずるりと一度引いてから奥を叩くように突き上げれば、

落ちる勢いで最奥に届く先端が体内で噴水のように熱い液体を放出する。

何度も何度も繰り返されるこの様は、まるで串刺しの刑。

触手からとめどなく滲み出る粘液は体内に留まり切れず溢れ出し、

凶悪な音を立ててそれが出入りする度卑猥な音楽を奏でる。

対して自身に絡み付くそれらは細く、まるで人間の指がそこを強く掴み、

扱くように刺激を送ってくる。

時には人間ではありえないめちゃくちゃな動きとスピードで

そこを搾るようにして求める、

精射を。

内部の粘膜を剥がしてしまうような勢いの責めは、

それでも急所を的確に捉え、その感覚は背筋を駆け上り突き抜ける。

 

そうして気持ちを煽るだけ煽って、熱を熾して、

堕とす。

 

自身に巻きついた触手が熱の出口を塞ぐようにきつく締め付け、

鈴口を覆うように広がり張り付く。

体内にも攻撃を続けながら。

 

無抵抗のまま揺さぶられ、内と外に最高の刺激を受け、

もう正常な意識を保っていられない。

目を閉じる前に、息が止まる前に弱々しく発したのは

 

「ごめ…なさい…逃げません」

 

という言葉。

 

「…ここ…が…俺の…家…ファミリー…です」

 

「逃げてもいいけどね、どこまでも追うから。

探して、見つけて、この世に生を受けたことを後悔する位、

かわいがってあげるから」

 

「許し…て…くださ…」

 

「だめ」

 

「じゅうだいめ…たすけ…」

 

「いやだ」

 

「し…くるし…」

 

「殺さないよ、ハヤトはオレの大事な『おもちゃ』だし。

ねえ、どうして君は苦しんでる時の方が魅力的なんだろうね。

ずっとこんな姿を眺めていたいよ」

 

 

歴代ボンゴレファミリーのボスだけが扱えるという、

秘密の小さな小箱がある。

それをあのひとが目の前で開いた途端飛び出した、

その見た目から有り得ない質量のこの触手。

これって本来なら人の命を奪うものなんだけど、と優しい声で説明してくれる。

「使い手の意思でコントロール出来る兵器なんだよ、これ。カワイイでしょ?」

 

 

あの時。

屋敷のドアや門、何もかもが全てタイミング良く外へと開かれていた。

知らず足は歩を進め、あとほんの僅かに早く駆け出せば

逃げられると思われるところまで来ていた。

なのに待ち伏せしていたかのように、あのひとが姿を見せて。

「どこ行くの?ハヤトに外は似合わないよ」

君のいる場所はココ、と連れてこられた一室で行われているこの惨状。

「ファミリーに忠誠を誓ったはずなのに、忘れちゃった?」

「…いいえ…」

「もう二度とそんな気を起こさないようにじっくりと教育してあげるよ。

…それにこれもたまには使わないと」

でも見てるだけじゃ退屈かと思ってたら、

意外とこれでも楽しめるよとあの人は革張りのソファーに腰掛けた。

「続き、再開」

合図を受けた触手が体内で更に質量を、増した。

 

 

揺れる視界、

脳天に響く鈍痛が、

疲れを知らない無機質な物体より与えられる。

与えられ続ける。

 

その向こうに見えるのは、

それに咲く花のように微笑む、

あのひと。

 

満開の笑顔で操る、

やわらかな檻に

魂まで、

絡めとられた。

 

 

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     なんかもう、色々吹っ切れました(20090108

 

 

 

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