余裕な冷静 山本って、弁当食べるの早いと思う…。 こんなにいい天気だし、今日は屋上で昼飯食おうといつもの人懐こい笑顔で誘われたら、これは行かない訳にはいかないよ。で、その声を聞きつけて獄寺くんも当然のように付いて来るんだけど。 本当は屋上って、山本の一件があってから鍵を掛けられて生徒は立ち入り禁止になっていた。 でも、 「ツナんとこの小僧に教えてもらったんだ」 と、当の本人が器用に針金1本で鍵を開けてしまうものだからいいんだろう、それで。 どうやらすっかり、あの時のトラウマは消えてしまっているらしい。 その証拠がゆうに2人分はあろうかという量の弁当を、オレ達より早く平らげてしまうその食べっぷり。 「野球部って早朝練習もあるよね。お腹空いてた?」 「ん、だから2限目と3限目の間とかにちょっと差し入れ貰ってんだ、ヒバリに」 「雲雀さんに!」 自分もビックリしたが、獄寺くんなんて飲んでた牛乳吹いちゃったよ。 毎日オレと自分用に用意してる牛乳なんだけど…。いつも、もう獄寺くんは飲まなくてもいいって言ってんのに一緒になって飲んでるし。 いやいやそうじゃなく。 相変わらず雲雀さんは山本に甘い。 「でも今日は体育の授業もあったし、まだなんか満腹感ないんだよな」 ヒバリんとこになんかあるかも、と山本は立ち上がる。 「ちょっと行ってみるけど、すぐ戻るから待っててくれよな」 思い立ったら即行動。 あっという間の事にオレ達は口を挟む間もなかった。 「あの野球バカ、まだ食う気かよ…」 改めて2人で再開した青空昼食会。なのに、 「…っ〜、口ん中噛んじまった…」 と、食べかけのおにぎり(こう見えて意外とパンよりご飯が好きなんだよね)を持ったまま、片手で口を押さえて肩を震わせている。 「獄寺くんも落ち着きなよ」 そう言ってふと頭に浮かんだコト。 「怪我したとこって舐めたら早く治るような気がするよね。舐めたげようか?」 「へ…?」 口を押さえたまま、呆けている獄寺くん。 返事を待たずにオレはゆっくり手を除けさせて、唇を重ねる。 血の味がするなと思いながら、舌で傷口を探し、自分の時にもそうするように、舐める。 いつものキスとは違った感じで、少し面白い。 「…ん…」 息が漏れて獄寺くんの閉じられていた目が薄く開く。 このまま押し倒したい衝動に駆られて、でも多分獄寺くんもそれを望んでいるような気がして、だからあえてそこで踏みとどまった。 「治った?」 わざと明るい声を出して身体を離す。 「いえ…いや、はい…」 「どれだよ」 笑いながらふと見ると、手にはしっかりとおにぎりが握りしめられて残っていた。 落としてないや、さすがだ…。 変なところに感心しながら、戻ってこない山本を想う。 『もしかして、もしかすると…?』 結局、山本は午後の授業にも姿を見せなかった 「で、理由って…?」 放課後の教室に、自分と獄寺くん以外誰もいなくなったのを知っているかのようにこっそりと帰ってきた山本。捕まえてさりげなく問いただすと、へへっ、と一度笑ってから周りを見渡して小声で。 「それがさ、何でか反対に俺が食われちゃったのな」 なかなか離してくんねーの、等屈託なく言われると返す言葉がない。 「だからゴメンな、俺から誘っといて…」 「ううん、いいよ。オレはオレで獄寺くんの傷の手当てしてたから」 「え?どっか怪我したのか?」 いきなり話を振られた獄寺くんが慌ててる。 「うるせえ!大食いバカ!」 「大丈夫だよ、もう治ったみたいだから。じゃあみんなで帰ろうか」 「ところで雲雀さんのとこで、オレ達と一緒にいたって言った?」 下駄箱の所でさりげなく、今思いついたかのように振舞って聞いてみる。 「ああ、言った」 「だからだよ」 「何が?」 「あの人らしいや」 ふーん、そうだよねとひとりで納得。 校門を出る直前振り返ると、応接室の窓辺からこちらを伺う雲雀さんの姿。 うらやましくなんかないですよと心の中で叫ぶと、あの人には聞こえそうだな。 「10代目?」 「何でもない、帰ろ」 改めて向きを変え、そして獄寺くんにそっと耳打ち。 「今日の傷、ちゃんと治ったか明日も見せてね、治ってなかったら手当てしないと。これで」 そう言いながら、オレは自分の舌をぺろりと出した。 明日、傷が増えていないといいけど、ね。 <終> ※ 綱獄と共に好きなCPが雲山です。…思い切り季節外れなお話ですが…(20090103) |