あなたの出会いは どんなふうに 世界を変えただろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   今から4年前、第一のパプワ島より帰還してすぐの頃…。

 

 

 

 

お互いの第一印象は最悪だった。何しろ、最初は敵だったのだから。いくらイトコ同士だと高松に諭されても、実は頑固に気を許さなかったのはグンマの方だった。

 

「あの時の仲間っていうか、ハーレムおじ様達と一緒に居る時と、高松に手をさしのべられた時って、感じが違ったんだよね?」

まだ必要最低限の事しか喋らなかったグンマが珍しく聞いてきた。

「ああ、何しろ俺のために涙を流してくれたのは高松が初めてだったからな。正直嬉しかった。」

その高松はまだ怪我が酷く、治療中で会えない。

「ぼくは反対に、高松に突き放された気分だった。」

既に父親がいないと思って育ってきたところに、本当の父親と弟が現れた。これは嬉しい事ではないのか?

「まあ半分は冗談として、でも色々考えさせられたよ。」

ここガンマ団本部に戻ってからというもの、グンマはキンタローとあまり視線を合わそうとしない。むしろ会うのを避けているようにも感じられる。そうなるとかえって気になり、余計にグンマの姿を探してしまうのだった。

少しずつ、自分の中でグンマの存在が大きくなる。

 

 

 

「単純な奴に見えて、実は付き合うの難しいんだぜ、グンマは。」

シンタローはそう言っていた。

「追いかけると逃げるからな、どっしりと構えて待ってたらいいんだ。追って来なければ自分から近寄って来るから。」

「何故そんな事を知っているんだ?」

この男がそんなに人の事を見ているとは思えない。

「いや、あいつ小さい頃は女の子みたいで可愛かったし、すぐ泣くんでよくからかってたんだ。構いすぎると嫌がるくせに、一人にされるのはもっと嫌って奴で。」

「オマエ、もしかしてグンマの事を…?」

「あー、一時期な。あいつは他の同年代と近づく事が出来なくて、俺が構わなければ一人ぼっちになってたからな。それを逆手に取ってと思ったんだが、嫌がられたんでそれ以上は…。」

要はまだ手を出していないという事か。

「まあ、これからずっと付き合っていくイトコだしな。他人なら嫌われて別れてもいいが、そんな訳にはいかんだろ。」

シンタローも、グンマは大事なのだろう。だが自分の、この感情は何なのだろう?

「焦るなよ、あいつは興味ない奴に対しては警戒心ゼロな奴なんだ。そこまで意識してるって事は少しはお前に関心を持ってる筈だぜ。」

そうなのか?それにしてはあの態度は素っ気無い。

「気長に様子を見ようぜ。」

暢気に笑うシンタローに

「ああ。」

と返事をしてふっとため息をついた。

 

 

 

 

しかし気長に待てなくなる事態が起こる。新総帥になったシンタローを補佐する人物として、キンタローの名が挙がったのだ。もしそう決定すれば常にシンタローの傍に控え、もちろん遠征にも同行しなければならない。短くて数週間、長ければ数ヶ月に及ぶそれに、キンタローはすぐに返事を出せない。

周りの反応も様々だった。彼の頭脳や力に対して文句のある者はさすがにいないが、これまでの人生の経験不足さや、ほんの少しの間でも敵だった事を知る者達にとっては少々不満の声も上がる。

 

 

 

「今、いい?」

久し振りにグンマから声を掛けてきた。ひとりになって考えたくて、地下にある書蔵庫で棚に並ぶ本をぼんやりと眺めながら、ゆっくりと歩いていたキンタローが振り返る。

「キンちゃんがここに入るの見えたから…、何か探し物?」

「いや、ちょっと考え事を、な。」

天井近くまである棚いっぱいにぎっしりと、しかし整然と並べてある沢山の本。その棚も何十とある。

こんな広い空間の中に、これ程の書物があることに最初は驚いた。しかしこの殆どを集めたのはルーザーだと知って納得した。ちょっとした図書館並みに様々な本が揃っている。特に科学に関するものは素晴らしい。

だが既に殆どの本を読んでしまったという事は、グンマも知っている筈だ。

「ぼくもここの本は一応全部読んだけど、キンちゃんのように短期間で一気には読めなかったな。」

読みやすいのだ、分類が上手い。

「お父さ…いや、ルーザーおじ様と、高松とでこれだけの量を整理したらしいよ。時間はかかったけど、楽しかったって、高松が言ってた…。」

少し機嫌の悪そうなグンマ。

背中まであった長い髪をばっさり切って気を引き締めたと言っていたが、それももう肩に付く位に伸びている。さらさらと揺れる金髪。外で見ると太陽の光を反射して眩しく…綺麗だと思った。

自分もここに来てすぐに髪を短くしたが、それだけで気分まで変わるのが不思議だった。

グンマの姿を眺めながら色々考える。そのグンマはこちらに背を向け、本の題名を確かめるように背表紙を指でなぞっている。

「それで、話とは?本の話をしに来た訳ではなかろう?」

声を掛けるとはっとしたように顔をこちらに向けた。青い瞳がまっすぐ自分を見ている。

「シンちゃんと、一緒に行くの?」

やはりその話か。グンマの事だからそれ程気にしていないと思っていた。そこでわざと突き放すように答えてみる。

「ああ、行こうと思っている。暫く会えなくなるな。」

「…ぼくに、相談してくれると思ってた。」

いつもの高い声とは違う、落ち着いた、しかしかすかに震える声。それに気付かない振りをして続ける。

「オマエには関係ないだろう。」

ぴしゃりと言ってのけると、グンマは目を見開いて一瞬言葉を飲み込んだ。

「何故わざわざ相談する必要があるんだ。俺一人の問題だろう。」

「違う!」

グンマが大きな声を出す。

「キンちゃんがいないとだめなんだよ!寂しいんだよ!」

顔を真っ赤にして肩を震わせている。こんなグンマを見るのは初めてだった。

「だが俺を嫌っていたじゃないか。俺が近くにいない方がいいのだろう?」

「だからそれが違うって!逆なんだよ、好きなんだよ!」

何?なんだって?グンマの言葉を頭の中で繰り返す。

「キンちゃんと面と向かって喋れなかったんだよ。一緒に居ると胸がドキドキして苦しくなるし。子供の恋愛じゃないんだから落ち着けって自分に言い聞かせて、わざと距離を置いていたんだよ。」

何のことはない、二人共が気になっていたのだ。

「それに、キンちゃんのぼくを見る目が怖くって、それで目を合わさないようにしてたんだ。何でいつも怒ってんのさ。」

「悪かったな、怖い目で。これが普通だ。」

しばしの沈黙の後、ぷーっとグンマが吹き出した。笑っているのか泣いているのか判らない位、暫く声を殺して身体を震わせていた。

「何だ、ばかみたい、なにかでキンちゃんを怒らせたのかと思って、ずっと気になってたんだ。」

涙を拭きながらグンマが言う。そんな様子が愛おしい。自然に手が伸び、グンマの身体を抱きしめる。

「キンちゃん?」

「実は、ずっと嫌われていると思っていた。」

こみ上がる想い。これが好きという感情なのか。グンマもキンタローの背中に手を廻す。それだけで全て解り合えた。

「お互い、言葉が足りなかったな。」

「そうだね、言わなきゃ判らないね。」

グンマの声のトーンが上がった。

「ねえ、キスしたい、しようよ。」

そう言って背伸びをしてくるグンマ。軽く唇を重ね、そして。

「うーん、ここだとやりにくいなあ。」

「何を?」

「…判っててぼくに言わす気?まあいいや、せっかく気分が乗ったんだし、いいよね。」

部屋の少し奥まった所には本を読む為の椅子やテーブル、ソファ等が置かれたスペースがある。キンタローの手を引いて、グンマが先にそこまで行くと、くるりと振り返りいきなり抱き付いてきた。

「キンちゃん、好きだよ。」

「オマエの最初頃の素っ気無い態度は何だったんだ。俺はどうやってこっちを向かせようかと随分考えたんだぞ。」

「ごめん。でも、本当は、最初は、…嫌いだったんだ。ごめんね。」

顔を上げ、まっすぐ自分を見る目に吸い込まれそうになる。

「…俺も、最初はみんな大嫌いだったな。」

2人でくすっと笑い、そしてどちらからともなくキスをする。グンマは、キンタローのこんな表情を見られるのは世界でもたぶん自分だけだろうと思って嬉しくなった。






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※ これ、続きは裏に載せようかと…。