あなたの出会いは どんなふうに 世界を変えただろう
  








グンマをソファに横たえると服を脱がせてゆく。

「ちょっと…全部は…恥ずかしいから…。」

少々の抵抗を見せるが、聞こえない振りをして首筋に軽く口付ける。

「キンちゃん…!」

びくっと身体を縮ませる。シンタローには嫌がったと言うが、こんな顔を見せられて途中で止められたシンタローは偉いと思う。自分は…駄目だろう。

「グンマ…。」

耳に息を吹きかけるように囁くと、グンマが固く目を閉じる。

「すご…、ゾクゾクする。早く来てくれないと、ひとりでいっちゃいそう…。」

「それは困る。もう少し待ってろ。」

グンマの全てを自分のものにしたいと思う。首筋から鎖骨にゆっくりと舌を這わせる。そうっと痕を残さないように優しく、しかし幾つもの見えない印をその身体に刻む。

胸の突起を口に含んで舌で転がすと、我慢できずに声が上がる。息が漏れるような、甘い声。自分でそれに驚き、慌てて手で口を塞ぐグンマの様子が面白くて、かわいい。

グンマの胸に耳を当て心臓の鼓動を聞く。汗ばんだ肌に指を滑らせる。

「あっ…!」

指の間から声が漏れる。

まだ触れていなかったグンマのモノ。

キンタローはそれに軽くキスをし、口と手を使って愛撫する。裏側から舌を尖らせ線を引くように舐め上げると、いきなり身体が大きく反応した。

「…っ!」

悲鳴を飲み込む。小さく震えながら歯をくいしばり、グンマは耐えている。

そのままグンマ自身を銜え込み、吸い上げながら根元を強く軽く握り刺激を与える。

「やっ…!ああっ!」

普段は殆ど人が訪れることのない部屋に響くグンマの声。そしてその声を聞きながら、キンタローは更にグンマを高みに連れてゆく。

歯を立てないように舌を細かく動かしながら、わざと抜き差しをして音を立てる。湿ったいやらしい音はグンマの耳にも届いているだろう。

そして、最も気持ちの良いであろうその時に、いきなりそこへの刺激を止める。与えられる快感を中断され、苦しそうな眼差しのグンマに問う。

「こんな時、何か言いたい事があるだろう?」

「…なんか、やらしいこと、言わせたいの?」

「言わないと、判らないんじゃないのか?」

「ばかっ!キンちゃんのいじわるっ!」

耳まで赤くなって叫ぶ。コロコロと変わる表情は見ていて飽きない。

しかし自分自身もこのまま終わる気はない。身体を起こしグンマの脚を開くとその顔に緊張が走る。

「…いいんだな?」

グンマが小さく頷く。閉じられると思っていたその大きな目は、じっとキンタローを見つめていた。

「…んっ!」

ゆっくりグンマの中に自分自身を埋め込んでゆく。悲鳴こそ上げないが、相当の痛みを我慢しているはずだ。狭い入り口を押し広げながら時間をかけて最奥まで進める。強張った身体を抱き締め、囁く。

「力を抜け、今のままではその方が辛いだろう。」

「だ…いじょうぶ…、我慢、できる…から。」

強がりを言っているのが判る。そこで一度軽く腰を引き、それから大きく揺さぶった。激しく突き上げるように動くと、キンタローにすがるように掴む手に力が込められる。

「ね、もうちょっと、ゆっくり…。」

「大丈夫なんだろう?我慢しろ。」

「…っ!」

涙が溢れている。抜き差しは痛みを伴うはずだ。そうと判っていてさらにお互いの腰を叩きつけるような行為を続ける。

「キンちゃん!」

背をのけ反らせて腰を引き、逃れようともがいた。その声にようやく動きを止め、耳元でそっと問う。

「止めようか?」

「ち…違う…、待って…そのまま…まだ…。」

一度は離れようとした。しかし腕を廻し、今度は抱きついてくる。

「キンちゃん、好き…。」

「…。」

言葉を失う。

 

グンマはキンタローの肩越しに白い天井を見ていた。今、自分の中にはキンタローがいる。ずっとこのまま、ひとつでいたい。途切れそうな意識の中、離れたくなくて、必死になってしがみつく。

「やだ…やめないで、やめたら…だめ…。」

のしかかるキンタローの重みで苦しくなる。息ができない。

その苦しそうな様子にキンタローも気付いた。少し身体を起こすとグンマが大きく息を吸い込む。

「ああ、すまん。オマエがあまりにも我慢するから…。辛いなら、そう言え。」

「うん…ごめん。でも、キンちゃんが、途中で止める方が、嫌だ。」

このストレートな物言いに気持ちが高ぶる。グンマは涙で潤んだ瞳で少し無理して笑って見せる。

「キンちゃん、大好きだよ…。」

 

誰かを必要とし、自分もその人に必要とされる。

最上の幸福。

今、自分がその真っ只中に居ることに気が付き、思わずグンマを強く抱きしめ、貪るようにキスをする。

気持ち良い。グンマを抱いているのは自分なのに、中ではあたたかくやわらかく、ゆるやかに包み込まれている。

ゆるゆると動き始めると、グンマが喉の奥で小さく悲鳴を上げる。細かく奥を突きながら少しずつ角度を変えていくと、明らかに周りと反応の仕方が違う箇所があった。

「やっ…、そこ、やだ…。」

固く目を閉じ、手足を強張らせる。紅潮した顔に汗が浮かぶ。刺激が大きすぎ、嫌というよりむしろ気持ちが良すぎて耐えられないのだ。しかしそんな姿をもっと見たくて、手首をソファに押さえつけ動きを封じ、更に激しく攻め立てる。

揺さ振られ、乱れるグンマを他の誰にも見せたくない。誰にも渡したくない。離れるのが怖い。

「キンちゃん…?ね、待って!」

ふいにグンマが大声を上げた。荒い息を落ち着かせ言葉を搾り出す。

「手、離して、これじゃキンちゃんを抱けないよ。」

「なに?」

「今、キンちゃんちょっと寂しそうな顔してた…から。」

掴んでいたグンマの手首を放すと、その手は自分の背中に廻された。

「ぼくも、キンちゃんを、抱っこ。大丈夫、離れないよ。」

ずっと、見ていたのだろうか?自分の表情の変化を。そして、まるで心の声が聞こえたかのような、この言葉。

「ね、ぼくにもギュッてして。」

満たされていく。もう寂しくなんかない。もう恐れなくていい。相手の感覚も自分の事のように感じる程溶け合い、身も心もひとつになっている。

グンマを強く抱きしめる。放してと言ったって、もう放すものか。再び動き始めると、グンマも一緒になってぎこちなく動きに同調し始めた。

「キンちゃんも、気持ちいい?」

返事の代わりに、急所をそこだけ次第に早く、大きく攻める。

「あ…!い…っちゃうっ…!」

揺さぶり、突き上げ、よがるグンマに少し意地悪く言った。

「まだだ。一緒に、イクぞ。」

「ぼく…もう、だめだってば…っ!」

そう言いながらもぶるぶると震えながら、本当にキンタローを待っている。ここで我慢する事がどれ程苦しいか判るだけに、かえってどこまで持つのか試したくなる。この最高の時がもっとずっと続けばいいのにと思う。頂点を迎える寸前の、この瞬間が。

そして、世界が真っ白になった。

 

 

 

 

「…シャワー浴びたい…汗かいたよう…。」

力の抜けた声でグンマが言った。

「ここにはないだろう、とりあえず自分の部屋に戻れ。」

「こ…腰、力がはいんない…。」

終わった後、一人で起き上がれない程疲れ切っている。力の入らない手で服を身にまとう。まだ頬が火照っているようなその顔に、涙の痕が残る。

「せめて顔は洗えるだろう。そんな顔で廊下を歩くな。」

「ん〜、でも少し休みたいよ。」

起きているのが辛いのか、服を着てもう一度横になった。自分もその傍に椅子を持ってきて座り、ふと思いついて聞いてみる。

「何故、シンタローじゃだめだったんだ?」

一瞬、何のことか判らなかったようだがすぐに気が付き、手で顔を隠す。

「うわー、シンちゃんに聞いたんだ。…ね、怒らない?」

「何で俺が怒るんだ?」

「…だって、どっちかっていうと、ぼくが、シンちゃんを抱きたかったんだもん。なのにあの時の状況だと、ぼくがやられちゃうと思って、それで嫌だって言ったんだ。」

ああ、そういう事か。シンタローも気の毒に、嫌われたくない一心で手を引いたのだろう。これは本当の事を言わないほうが良い。

「でもキンちゃんは違うんだ。何ていうか、ただ好きっていうか、もうどうでもよくなって、ともかくよく判んなくて。」

「大体、何で俺なんだ?オマエの言い方を聞いていると、本当に好きなのはシンタローのように思えるぞ。」

「違うって!キンちゃんは…最初本当に嫌いだったけど、一緒に居るうちに、何だかぼくと似てるとこが有るなって思えてきて。気になりだしたら、もうそのままずっと気になって。で、好きなのかな…って。」

「実は、自分を好きだろう。」

「あ、うん、自分が一番大事だった。この前まで。今はキンちゃんが大事。ホントだよ。」

グンマの自分が大事と云うのは判る気がする。

「高松は…今迄ずっと一緒に居て、何も無かったのか?」

「ないない!だってこーゆーのは好きな人としたいしね。」

眼中に無かったのか。あっさりと否定するグンマに眩暈がしそうだった。

「そろそろ、シンタローの処に行かないと。」

そう言って立ち上がると、グンマもあわてて身体を起こした。

「…っ!」

顔をしかめる。まだ動けないようだ。

「どうする気?まさか、行かないよね?」

見上げるグンマの頭に手を置いて、ポンポンと軽く叩く。

「行く。グンマは大丈夫だな?」

「…。」

何か言いたそうで、でも口に出さない。グンマに背を向け部屋を出る直前声を掛けた。

「後で、部屋に行く。その時にもう少し話をしよう。」

「うん!」

表情は見えなかったが、明るい声だった。  

 

 

 

 

その足で、直接シンタローの処へ行った。

「何か、すっきりした顔してると思ったら…。」

補佐する事を告げていると、まじまじと見られてそう言われる。察しが早い。

「ちえ、俺なんか小さい頃からずっと一緒だったのによ。」

口を尖らせ拗ねたような言い方は、少しグンマに似ているような気がした。

「一緒に過ごしてきた時間の問題ではなかろう。現にオマエとアラシヤマもそうではないか。」

「ばっ!何でアラシヤマがそこで出てくんだよ!」

秘密にしていたつもりなのだろうか。周りには既に知られているというのに。それを知らぬは本人達だけというのも面白い。ただ、これからは自分達も気を付けねばと思う。

「で、グンマは行くなって言わなかったのか?」

「ああ、言った。でも大丈夫だ、俺達は。」

「えらく自信満々だな。」

呆れたようにため息をつかれるが、すぐに仕事の顔に戻る。

「ま、詳しい話をするから。まずは…。」 

モニター画面に目をやった。

 

 

隣にいても遠く感じていたあの頃に比べると、今は信じあって、離れても繋がっていられる。心の中がグンマの事で一杯になるかと思っていたらそれは逆で、かえって容量が増え、余裕が出た気がする。グンマと自分ではするべき仕事が微妙に違い、場所も離れるが、実は手を伸ばせば届く位置にあるのではとさえ思われる。だから心配することは何もない。

「…俺、なんか面白い事言ったか?」

シンタローがこちらを向く。

「何故だ?」

「笑ってた、今。」

「気のせいだろう。」

今は少し、グンマの事を考えるのはやめておこう。そう思った。

 

 

 

 

 

 

「入るぞ。」

シンタローとの話を済ませ、約束通りグンマの部屋を訪れる。随分遅くなってしまったが仕方ない。扉を開けるとシャワーの音がする。

「あ、ごめん、ちょっと待ってて。」

ひょこっとバスルームから顔を覗かせ、すぐに水音が止まった。ぽたぽたと水を滴らせながらバスローブをひっかけ、慌てて出て来る。

「帰ってからすぐ寝ちゃってて、さっき起きたとこ。キンちゃんこそ遅かったね。」

髪を拭きながら着る物を探している。それほど疲れていたのか。背を向けているグンマに近寄り、後ろからそっと抱きしめる。シャンプーの香りがした。

「キンちゃん…?」

無言でそのまま立ち尽くす。グンマもじっとしていた。

「来週には発つことになった。最初は近場だが、帰る日はまだ判らない。」

腕の中でグンマが身体を固くする。

「そんなに早く…、そうだね、シンちゃん忙しいもんね。」

「戻ったら、すぐにグンマに逢いに来る。」

「いいよ、大丈夫、急がなくて…。」

相変わらず弱音を吐かない。強がって見せるところはこれからも変わらないだろう。

「だから、グンマ…。」

ほんの少し腕に力を入れる。

「いいよ、…しよう。しばらくできないもんね。ね、ベッドまで抱っこしてよ。」

抱き上げるとグンマからキスをしてくる。

「キンちゃんはシャワーしなくていい?終わってからにする?」

「ああ、終わってからだと明日の朝になるかもしれんが。」

「ちょっと…!キンちゃん!」

慌てて暴れるグンマをベッドに降ろし、もう一度キスをする。

「少し寝たんだろう?俺は今夜帰る気はないぞ。」

「嘘でしょ?」

「本気だ。」

バスローブを脱がせると観念したようにおとなしくなった。

「ああもういいよ、疲れたら勝手に寝るから。」

「寝かせんと言ってるだろう。まあ気持ち良過ぎて気絶するかもしれないが。」

「キンちゃんっ!」

グンマに覆い被さり、その口を自分の唇で塞いだ。

 

 

 

 

 

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     テーマは「2人のお初」でした。これも本にして出しました。すみません…。
そしてこっちに載せちゃいました。

あと、このお話は裏に載せている「たくさんの〜」と「意思と〜」から繋がっています。

 

 

 


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