明日の記憶(3) 「そういえば家族ごっこでは以前、親の役が人気だったのに、 今はペットや赤ちゃんになりたがる子が多いって聞いたんだ。 だからハヤトにはペットの役をさせてあげるよ。 オレ、本当は犬が好きなんだけど、君はどっちかっていうと猫だよね」 じゅうだいめは、そう言ってじぶんの髪の毛に触れていた手を喉元に持っていく。 猫はここを撫でてやると喜ぶんだよと。 今は自室で生まれたままの姿にされ、ベッドの上にちょこんと座らされている。 この前はかくれんぼやお医者さんごっこをしたんだよとじゅうだいめは教えてくれたけど、 そんな楽しかったはずの事さえ思い出せない。 「ハヤトは凄くよろこんでいたよ」 いつのこと? 「でもちょっと疲れたみたいで、途中で寝ちゃってオレが抱っこして部屋まで運んだんだ」 どこで遊んだの?ここじゃないところ? じぶんの問いかけには答えてくれない。 そうするうち、近くに置かれた黒い鞄から取り出した、 小さな銀色の鈴が付いた青い首輪を目の前に翳す。 「今日も色々遊ぼうと思ってね」 「じゅうだいめ…」 「ああ、そうそう、この遊びの間は君は猫だから『にゃあ』しか言っちゃいけないよ」 「あの…おれ…」 「聞こえなかった?返事は?」 「…にゃ…」 「うん、いい子だね」 俯いた首の後ろで金具を留める。 「まずは猫の大好きなミルクをあげようね。沢山飲んでいいよ」 頭がクラクラして目の前に曝け出されたモノをすぐに咥えることができない。 恐る恐るといった感じで見上げると、あのひとの視線とぶつかった。 揺るぎ無い強い眼差しに諦め、手と口で奉仕しようとした。 「あ、手も使わないで。口だけで舐めて、吸って」 だって猫だしね。 そう言いながら頭を撫でる大きな手はそのまま後頭部を軽く押し、 自身をそっと口の中に納めさせる。 歯を立てないように唇で締めるように吸うと 「ハヤトの下のお口もそんな感じ。うん、気持ちイイよ」 早くミルク出してあげられそうだよとあのひとは軽く腰を揺する。 口いっぱいに大きくなって、舌で舐める余裕がなくただ吸い付くだけのソレ。 ふと思いついた事を試してみようとゆっくり口から出し、 先っぽだけを赤ちゃんがおっぱいを吸うようにちゅっ、と強めに吸いつく。 「う、わっ!」 じゅうだいめのこんなに驚いた声は初めて聞いた。 きもちよかったですか?と聞いてみたいけど約束は守らないといけない。 今はにゃあとしか喋れない。 更にちゅうちゅうと吸い続け、仔猫が母猫の乳を吸う姿を想像してソコからのミルクを待った。 「ちょ、ハヤト、ホントに猫になっちゃった?」 焦った声。でもすぐに我に返り 「いくよ、ミルク」 そう言ってあのひとは口の中に温かい液体を流し込む。 目を閉じて飲み干し、そうっと口を離した。 「凄いね、君がそんなに楽しんでくれるとは思わなかったよ」 この前よりは面白くなりそうだねと、また頭を撫でてくれた。 …それが、少し嬉しい。 うれしい…? 何が?と思う間もなく思考は移行し行動を伴い感情は流されていく。 「挿れるよ、気持ちよくっても猫の声で鳴いてね」 四つん這いになって腰を掴まれる。 「にゃ…!あ…!」 素早く後孔にローションを塗られて、 再び硬さを取り戻したじゅうだいめのモノが狭い口を押し広げる。 そういえば今日は指で慣らされていない。 痛い…! まってください、すこし、もう少しゆっくり…! 色々な考えが沸き起こり、でもそれを言葉にはできなくて。 「あ…あ…!」 「鳴いて。ちゃんと」 「にゃ…う…!」 体内を進む熱は最奥に到達してようやく動きを止める。 「ハヤトの中はいつも熱いね、子どもの割に体温低いのに」 喋りながら前に回されたじゅうだいめの手が、震えるじぶんを包み込む。 挿れられると出るまだ透明な液体で滑りを良くし、 奥を突くリズムに合わせて扱かれると無意識に腰が揺れて、咥えたところに力が入る。 喘ぐ声は動物的で、時々上がる短い悲鳴にもじゅうだいめは何も言わない。 擦られて、突かれて、なかに集中していると、 じぶんのモノの先端の剥き出しの敏感なところに爪が立てられる。 弱いところを同時に攻められて、暴れて、押さえつけられて。 気持ちイイのか苦しいのかもう判らなくなって涙が溢れる。 「う〜ん、この体勢じゃハヤトのイイ顔見れないなあ」 抜かずに体勢変えるのって結構オレ大変なんだよ?と言いながら、 あのひとはゆっくりと対面できる体位に変えてゆく。 「ああ、やっぱりこの方がいい。可愛いよ、ハヤト」 涙を舐め取り口付けて、そしてそのまま律動の再開。 ズンズンと響く刺激が直接脳に快感を送り込む。 夢中で抱きつき脚をあのひとの腰に絡めて背中は仰け反って。 「…っあ…あ…!じゅ…あ…にゃあ…あ!」 限界が近づき、ソコに早く辿りつきたくて、本能のままに身体を揺らす。 「はやく…もっと…そこに…!」 「『そこ』に遠回りして行くのも楽しいんだよ」 じゅうだいめの何かを含んだような言い回しに気が付く余裕なんてなかった。 「まだ、ダメ」 背中と後ろ頭を持たれて起こされたじぶんを、 あのひとは胡座をかいた脚の間に勢い良く落とす。 体重が掛かった下からの突き上げで、我慢の限界は一気に頂点を越えた。 イク瞬間の解放感と突き抜けるような甘い痺れ。 ほんの僅かな短い時間、目の前が白く染まる。 「ダメって言ったのに。しかも人間の言葉喋ってるし」 抱きついた耳元でじゅうだいめの呆れたような声。 「まあいいよ、そんなに良かったんだよね?」 返事が、できなかった。 じゅうだいめが繋がったままじぶんを抱いて立ち上がったから。 落ちる…! 痛い、奥、入り込んで…! 怖い、歩いて、痛い、嫌だ…! 全てが声にならない。ずり落ちそうになる身体を必死で両腕と両足で繋ぎとめしがみつく。 たすけてじゅうだいめ! 叫んでいるつもりなのにあのひとの手はじぶんを支えてくれない。 それどころかそのままベッドから離れ、部屋の隅に歩いてゆく。 衝撃に揺さぶられ意識を手放しそうになる。 …たすけて…。 「このまま落ちたら床で頭を打つよ」 ようやく手が添えられ落下の恐怖から逃れられた。 「猫を抱いていて落としそうになったら爪を立てられるからね。背中と首、少し痛いよ。 後で爪を切ろうね」 そのまま歩いて、壁に背を押し付けられた。 支えがある安心感に、喰いしばっていた口から息が漏れた。 しかしそれも束の間。 「ん…!」 声を封じるように口付けて再び突き上げが始まる。 立ったまま。 こんなに不安定なところで。 あのひとが出入りする度、湿った肉のぶつかる音がする。 首輪に付いた鈴の微かな響き。 キスの合間に漏れる声にならない吐息。 静かな室内でそれらが混ざり合う。 下半身から上ってくるあの感覚は何度でも身体中に広がり、弾け、また生まれ。 それを作るのはこのひと。 このひとは、じぶんに様々なものを与えてくれる。 だから出来ることでお返しをしていくのだ。 『ハヤトは忘れんぼさんだから』 教えてください、何を忘れたのか。何をすればいいのか。 『時々記憶が混乱しているよ。そんな時は焦らずに目を閉じて』 ゆっくり思い出せばいい。じゅうだいめはそう言って抱きしめてくれた。 じぶんはとても怖い目に遭ってきたから。 これからはそんな思いをさせないから。 じゅうだいめはそう教えてくれる。 優しいじゅうだいめ。 だいすき。 怖かったあそこから、助け出してくれた。 …あそこって? 頭が痛い…。 こんなときこそ目を閉じて、焦らずに忘れていくんだ。 …忘れる?思い出すではなく? なに、を? 「終わったら薬を飲むといい。良い眠りが得られるように。あと、今日辛かった?ごめんね」 「また…あそんでください…」 辛くなんて、ない。あんなことに比べたら。 …だから、なに?何と比べて? 足元がしっかりしていないところに、じぶんはいる。 そんな不安。 薬は眠りを誘う。 でもあのひとが勧めてくれるから飲む。 毎日。 明日も、きっと。 ※ (20090413) |