瞳を閉じて見えるもの(3)

 

 

 

あんなに痛いことを

あんなに苦しいことを

しにそうに恥ずかしいことを

何度もやめてと叫んでも

泣いて暴れても

それでも。

毎日毎日繰り返す。

 

声は枯れても涙は枯れない。

身体に力が入らなくても

あれを受け入れさせられるところはつよくそれを締め付ける。

いたい。

いたい。

くるしい。

こわい。

やめてほしい。

じぶんを見ないでほしい。

冷たい目で優しく微笑みながら囁かれる。

好きと言ってと。

このオレを。

 

 

 

このひとにとって、思い通りにならないことなんてないんだろう。

だから半分意地になって、何が何でも自分の思いのままに動かしたいんだろう。

思いが叶えば、興味も薄れるだろうか。

じぶんに、飽きるだろうか。

 

 

「オレのこと、好き?」

 

いつもの問い。

俯いていた顔を上げて

「はい」

と応える。

 

絶句している。

 

「本当に?」

「はい、好き」

 

感情のこもっていない声でも表情のない顔でもいいのか。

このひとはじぶんの両肩を強く掴んで

「本当に?」

もう一度確認をした。

 

「好き」

 

この一言が何かを変えるのか。

どう変わるのか。

引き返せない道、戻れない扉が開く。

 

口付けを受ける。

噛み付くようないつもの激しさではなく、

ゆっくりと舌を絡ませてくるので自分もそれに応じる。

もう逃げない。

拒まない。

このひとの思い通りに動く。

ひとは、欲しがっていた物が手に入ればすぐに飽きて手放すはず。

願いが叶わないから欲するのであって、

叶う願いに未練はないはず。

だから。

じぶんに早く飽きてください。

 

 

抵抗しないで受ける行為はこんなに痛くないのか。

縛られることもなく、殴られることもなく、首も絞められない。

クスリも道具も使わない。

アレが入ってくるときはやっぱり痛いけど、

信じられないほど優しい声で労わってくれる。

押さえつけて無理矢理服従させるのが愉しいと思うひとなら、

このゆるい無抵抗さには面白味を感じないだろう。

暴れないかわりにこのひとに抱きつきもしない。

泣かないかわりに歓喜の声も上げない。

相手をして満足しきったら、もうここには来なくなって、じぶんは忘れ去られる。

そんな近い未来を想像して、わらう。

「悦んでくれた?」

「はい」

 

従う。

ほんの暫くの間は。

 

 

 

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     20110505