絆(4)

 

 

 

何かを犠牲にしなければ、大事なものを護る事ができない。

その為には妥協せず、切り捨てる決断を迫られる。

優しさという感情さえも。

 

 

 

「じゅうだいめ!おめでとうございます!」

深夜に訪れたというのに、何て嬉しそうな笑顔で迎えてくれるのだろう。

「継承式、お疲れさまでした。これでほんとに、このファミリーの頂点に…」

「ハヤトは…」

「え?」

言葉を止めてしまったオレを、じっと見上げている澄んだ瞳。

後悔した。

この子を拾わなければよかった。

この国に来て、大切なものは作らないように心掛けていた。

それに心奪われてはいけないから。

…それを失うのを恐れてはいけないから。

「なんですか?じゅうだいめ?」

そんなオレの気持ちに気付かず無邪気に笑うきみ。

思わずそっと頭を撫でると、

「あの、こんなめでたい日に、どうして泣きそうな顔をしているんですか?」

そう言って笑顔が不安そうに曇る。

 

それで、自分の感情が抑えきれなくなった。

 

 

 

伝統と格式を兼ね添えた由緒正しきこのファミリーの頂点に立つ。

その意味。

その重み。

覚悟はしていた。

だけどいざとなると、自分はそんな器ではないと思い知る。

居並ぶ幹部達。

突き刺さる視線。

重厚な雰囲気の中、執り行われる儀式。

 

もう、後戻りは出来ない。

 

覚悟を決めて臨んだ筈なのに、全てが終わった後のこの虚脱感は一体何故だ?

緊張感は?

高揚した気持ちは?

それらの代わりに心を占めるもの、それが

この子に対する想い。

 

「じゅうだいめ?」

 

10代目なんて呼ぶな。

オレはなりたくてなったんじゃない。

 

「どうしたんですか?疲れたんですか?」

 

眩暈がする。

視界がぼやける。

 

「じゅうだいめ!誰か呼びましょうか?」

 

オレに背を向けたハヤトを、後から抱きしめてゆっくり床に押さえ込む。

それでもきみはオレの具合が悪いものだとまだ思っていて、

「あのっ、俺はじゅうだいめを背負って運べませんから!誰か呼んできますから!」

焦ってオレから逃れようとしている。

「いい、人を呼ぶな」

「でも、このままじゃ…」

「いいから」

静かな声を耳に流し込む。

それで動きを止めた身体をゆっくりと弄る。

「祝ってよ、めでたいんでしょ?ねえ…きみの、身体で」

 

 

 

 

 

感情に流されず、冷静に周りを見渡す。

このファミリー全体を護る事がすなわち個々を護ること。

逆に、個を護るため全体を犠牲にしてはならない。

 

 

 

 

意識を手放したきみに打ち込んだまま、体内に精を放出する。

あんまり抵抗が激しかったものだから、少々手荒く扱ってしまったね。

頬や首に残る赤み。

涙のあと。

…挿入時に出来た裂傷。

確かに痛かっただろう。

だからあんなに泣き叫んだんだね。

だからといって止めなかったけど。

止められなかったけど。

ネクタイで後手に縛り自由を奪った。

それで済むと思ったのに、きみは全身でオレを拒んだ。

こんなのはいやです。

やめてください。

たすけて。

終いには言葉にならない声で大声を上げるものだから、頬を打ち首に手を掛け、

無理矢理受け入れを拒否する狭い口に己を捩じ込んだ。

口にハンカチを噛ませて声を封じても、漏れ出す軋むような悲鳴。

涙はもう流れっぱなしで、なのにそんな目でオレを見るものだから、かえって興奮してしまったよ。

ああ、こうすればいいんだ。

大切に扱っていたものが他人に壊される前に、オレがこの手で壊せばいいんだ。

もっともっと壊してあげる。

オレのこと、嫌いになってここから居なくなるくらいに。

オレが、君の思うオレでなくなったと思われる前に。

きみを自分から遠ざけることが出来ないなら、きみの方から逃げてしまうように。

 

…オレは、変わってしまったと思われるように…。

 

 

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     別設定でも大人綱と子供獄というのは変わりませんですよ(20100605