絆(5)
じゅうだいめ、だいすきです。
俺は、じゅうだいめを護ります。
だから、大人になってもずっとそばに居させて下さい。
この時、じゅうだいめのくれた返事は…。
「目が覚めた?」
すぐ近くで声が聞こえる。優しい声が。
「起きて、ハヤト」
でも痛くてからだを動かせない。
「もう慣れたでしょ?言うことを聞くんだ、『10代目』の」
初めてあんなことをされた日からもう何日経ったのか覚えていない。
それまでは自由だった屋敷の行動。それがあの日を境にここに軟禁状態にされて。
部屋から出ない、オレの命令には必ず従う、と何度も念を押された。
そうすれば君はファミリーの一員だと。君を護ってあげると。
「じゅうだいめ…」
自分を見下ろす琥珀色の瞳。
身体を起こしながら考える。
あんなに優しかったひとがそう簡単に変わったりしない。
きっと何か考えがあって…例えばじぶんを試そうと…。
「ハヤト」
返事をする前に視界が反転した。
左の頬に一瞬遅れて痛みが走る。
ベッドに沈む身体に馬乗りになったこのひとが、また手を振り上げて、
「オレが怖い?」
反対の頬が鳴る。
「オレが嫌い?」
首に手がかかる。
「ここから、出て行きたくなった?」
ぐっ、と力が込められた。
「…い…」
「どう?」
指の力がゆるんだ。
「いかない…どこにも…」
驚いている。手が離れた。
「大好きです、じゅうだいめ…」
「嘘だ!こんなにされて、どうしてそんな事が言える!」
片手が再び首にかかり、もう一方は上着の内側に…。
「俺、もう…ここに、いてはいけないのですか?」
涙が出てきた。寂しくて、悲しくて。
「じぶんは…じゅうだいめのお役に立てない…足手まとい…ですか?」
取り出そうとしていた銃をゆっくり懐に収めると、
「そうだ、邪魔なんだよ」
このひとは冷たく言い放つ。
「それでも、俺…は、じゅうだいめが…すき…」
嫌いになんてなれない…!
「…何をされても?」
「はい…」
「ふうん、それなら愛人として置いてあげようかな…いいや」
ゆっくりとした動作でじぶんの上から降りて離れる。
「おもちゃとして、オレに遊ばれるだけのものでもいいの?君の人格なんて無視してさ」
愛人…おもちゃ…思いがけない単語に思考がついていかない。
「起きて、オレを愉しませて」
「…え?」
「ハヤトがオレを気持ち良くしてよ…役に立ちたいんだろ?」
こんなの、おかしい。夢…なのか。
微動だにしないじぶんに少し苛立った様子で声を荒げる。
「オレに奉仕しろと言ってんだよ」
伸ばされた手が顎を掴む。
「できない?…嘘吐きだなあ、この口は」
いきなり親指以外、4本の指が口を突く。
首を振って喋ろうとするが声にならない。
「何でもするって言ったくせに」
なんでも…このひとの、望むことを…。
動くのを止めて、ちゅ…とそれに吸い付く。
「おっと、ようやくその気になった?」
こくりと頷いてもう一度指を吸い、舌を這わせる。
「ふふ、そうまでして…うん、君の気持ちは判ったよ。しっかり働くんだよ」
指がそっと抜かれた。滴る唾液。
「脚を開いて、よく見えるようにね。今度は、コッチ使うから」
まだ服を着ていないじぶんは言われたとおりに脚を開き、秘所を晒してみせる。
「ここが、君とオレの接点だ」
くちゃり、と濡れた指の侵入。
「このくらいが限界かな」
挿れられたのは3本。もうこれ以上は確かに無理…。
「…ここで繋がって」
ぬちゃ、くぷん、と湿った音と広げられるそこに走る痛み。
「オレの為に腰を振って中を締めてオレの出すものを受け留めて」
…恥ずかしい、痛い…きもちわるい…。
「だけどハヤトはイッっちゃだめだ。オレを悦ばせる事だけを考えて」
「…!」
いきなり急所を狙い撃ちされた。
ぐりぐりと押しまわし爪で掻き、擦られる。
「…あ…あ…!」
「駄目なんだよ、イクのは。我慢して」
こりこり…ぐりゅ…こしこしと、ソコだけに集中する指の動き。
「う…あ!」
ごりっ…ぐいっ…ぐぐっ…。様々に蠢き刺激する指は激しさを増す。
「あ…じゅうだいめ…!」
「これ以上無理?なんだ、つまんない」
擦り上げるだけではなく、抜き差しも加わった動きで指に犯されて達しそうになるのを、
もう気持ちだけで耐え続ける。
「いいよ、イキなよ。所詮ハヤトってばそんなもんなんだから」
指は多彩な動きで攻撃を仕掛ける。内臓を内側から引っ掻く。入り込んだ指全部が内部でくねる。
常に一番弱いところに触れながら。
「いかない…まだ…!」
「これでも?」
今度はバラバラだった指をひとつにまとめ、ズン、ズンと押し突く。
堪えきれない、でもいかない…!
気力は身体に受ける刺激を跳ね返す。
これから先、このひとと一緒に居たい。そのためにはどんな事も耐えてみせる…。
初めのうちはわらっていたじゅうだいめが、次第に怒ったように口をつぐんでゆく。
言うことを聞いているのに、どうして…?
おなかの中を掻き回される嫌な感覚も我慢しているのに…。
不意に指が引き抜かれる。
「ハヤト…もういい」
「じゅうだいめ…?」
「もういい。君はもう、何処へでも行けばいい」
いきなり遠ざかるひとに追い縋ろうとするが、
熱を煽られてそのまま放り出された形の身体は今や、起き上がることすらままならない。
「ま、待ってください!」
「さよなら、ハヤト」
「だ…駄目…じゅうだいめ…っ!」
これが最後になる、このひとと触れ合うのが。
予感がする。だから絶対に行かれたくない。
「じゅうだいめ!」
「…ハヤトは、一体…」
ドアに手を伸ばしながら独り言のように問う。
「何をされたら一番嫌がるのかな?」
ようやくじぶんを見てくれた目は、冷たいというよりもどこか寂しげで。
「いや…なのは…」
切れたくない、このひととの…
「じゅうだいめに会えなくなる事です」
絆を。
※ (20100612)