これも全て同じ一日 ふと、ためらわれた。 なんか照れた。 「10代目?」 「ご、獄寺くんだって…」 「あ、すみません…じゃ、改めて」 「オレも…」 「隼人」 「綱吉さん」 うわああ…、名前で呼ぶって、こんなに恥ずかしい事だっけ? それだけで真っ赤になってしまったオレと向き合う、これまた顔の赤い獄寺くん。 2人きりのとき、名前で呼び合わないかと提案してそれに気軽に乗ってくれたきみ。 なのに。 「け…っこう、恥ずかしいんだけど…」 自分で言っといて何だけど。 それに。 「名前もかっこいいよね、隼人って」 「そんなことありません!綱吉さんだって、いい響きです!」 他の人(主に大人達だ)が、きみのことを名前で呼んでるのを羨ましく思っていた。 だけど、でも、今更いきなり呼び方変えるなんてやっぱ無理かも。 「は〜、これだけで疲れちゃった」 「あ、気が利かなくて申し訳ありません!すぐ飲み物お持ちします!」 慌てて立ち上がり、キッチンに向かう獄寺くん。この低いテーブルの上には、やりかけの宿題が広げられたまま。 そのノートに突っ伏してふー、とため息ひとつ。 「隼人、隼人…」 練習のつもりで呟く独り言。 「つ、綱吉さん、どうぞ」 空いたスペースにそっと置かれた水滴の付いたグラス。なみなみと注がれている炭酸の泡が氷と一緒に揺れて浮かび上がっている。この透明な液体からは、冷たくてもいい香りがほのかに立ちのぼっているような。 「すみません、先日言っておられたガラス瓶の中にビー玉が入っているラムネという物はネット注文で明日届きます。今日のこれは地域限定版のサイダーです」 「ありがとう。美味しそう」 炭酸の泡が表面でパチパチと弾けるのを見るのは好きだ。 「じゅ…綱吉さんは冷たい飲み物が好きですね。冬でも」 「うん、炭酸が好き。だから、冷たいものが…」 言いながらグラスを傾けた。おいしいな、きれいだな。 そして、ふと思ったことを口にする。 「この氷、透明だね」 「ええ、氷はこれも通販で。透き通った氷が好きと仰っていたので…」 「すごいなあ、よくそんなの覚えているね」 「ありがとうございます!」 ここでその返事か?そう思いながら口の中で固い氷を噛み砕く。空気が入っていない分、溶けにくいし噛み応えがあって、これまた美味しい。 そんなオレを獄寺くんはにこにこと嬉しそうに眺めている。 その笑顔を見ているとオレも嬉しくなって。 「好きなものを食べてるときの顔が好きって、前に言ったよね」 「え?」 「は、隼人が、オレのこと」 「あ、はい、言いました」 「その顔、もっと見せてあげる」 「…あ?え?」 自分のだけ空っぽにしておいて、獄寺くんのグラスにはまだ半分以上残っているサイダーを横目で見つつ、ずい、と顔を近付けて軽くキス。 「この家には美味しいものが沢山あって、大好き」 きれいでおいしいものが。 場所を移動して、美味しいものを頂いて、それから本格的に取り掛かろうか。 宿題に。 「最中に名前で呼ばなかったら罰ゲームだよ」 「…どんな?」 「君が間違えた回数分いかせてあげる」 「な…っ!そんなの10代目が得するだけで…」 「一回目」 はっと口を押さえてももう遅い。 「…綱吉さんは?間違えたら?」 「そこでやめるよ」 「ダメです!」 やけに真剣な返事にぷっと吹き出す。 「うそだよ、可愛いなあ」 きれいでおいしくてかわいくて、大好き。 「隼人、好きだ」 返事は、させない。 オレの口で君のを塞いじゃったから。 向こうの部屋で、君のグラスに残った氷が カラン と、鳴ったような気がした。 <終> ※ 甘〜いのを目指したつもりのお話(汗)…(20090714) |