これも全て同じ一日 (雲山) 「あ、先日はお返しをありがとうございました」 「何を、今更」 獄寺くんのマンションからの帰り道、角を曲がったそこにいた、正直こんなにいい気分の時には会いたくなかったその人物、と親友。 「なんだ、ツナひとりか?」 「うん、山本は今部活の帰り?遅かったんだね」 「いや〜、それ終わってからヒバリんトコ寄ったんで、あれ終わるのも遅くなったって感じなのな」 「…よくわかんないけど、すごくよくわかった…」 山本も一緒に居なかったら間違いなく走ってその場を後にしていた。そんな雰囲気。 「雲雀さんにはあれからなかなか会えなかったので、ついお礼を言いそびれていました。すみませんでした」 「学校には毎日行っていたよ」 「応接室にはちょっと行きにくいので…」 柏餅のお返しに届けられたのは、紅葉の形をしたあんこの入ったお饅頭。某県ではお土産としてすっごくポピュラーで有名なものらしいけど、それが何故あの場面で…? 「視察方々、草壁に買いに行かせたんだ」 「買いに?現地まで?」 「そうだけど、それが何か?」 「それに視察って…」 「…ここにいる彼が行きたいと言っていた球場の視察だ」 もしかして雲雀さんも山本と一緒に行く気だろうか。あんな人の多い場所に。そうしたら応援がうるさいとか言って、群れてる奴等は以下略とその場が阿鼻叫喚…。 もんもんと最悪の事態を想像して頭を抱えるオレに向かって、山本が笑顔で言う。 「あの饅頭、俺も食ったけど美味かったのな。形も面白いし、いくらでもいけるって感じ。ほんと、ヒバリって俺の好きなもんいっぱいくれて大好き!」 「それ、オレじゃなくて雲雀さんに言いなよ」 顔を上げて山本を正面から見ると、 「いつも言ってるぜ。ヒバリ、大好きだって」 と、爽やかで屈託のない笑み。 ああ、こんな顔でこんなことをいつも言ってもらえてるのか、雲雀さんは。 その当人に視線を移すといきなり睨み返された。けどオレも負けない。 この人の山本を見る目と俺達に向けられる目には温度差がある。以前山本にそう言ってみたら『全然わかんなかった』とびっくりされた。その方が驚きだったけど。 「そういやツナ、チケットの件だけど…」 山本の声に、2人の間でバチバチいっていた火花が鎮火される。 実はまだオレ達もあの球場に行けてないんだよね。 いつにしようか?どの席がいい?どのチームとの対戦が見たい? 聞きたいことは沢山あるけれど、とりあえず。 「それに関してはまた連絡するよ。もう帰らないと…」 時刻はオレの家での夕食時間を過ぎている。早く帰らなければ、まじで自分には何にも食う物が残されていないかもしれない。 「あ、そうだな。じゃ、またな」 まだ明るさを残している空の下、太陽のように笑う雨の守護者。 これを、この笑顔を雲に託す。隠してしまうのではなく、優しく包み込んで慈しむのだと信じて。 「…で、雲雀さんは何処に行くの?」 「俺ん家で寿司一緒に食うのな!今朝いいマグロが入ったのを取っておいてもらってるから」 嬉しそうな山本。 確かに好きな人とご飯を食べるのは美味しさが倍になるもんね。 そう考えて。 もう一度時間を確認する。 「あれ?ツナは家に帰るんじゃ…?」 山本の不思議そうな声に一度振り向いて 「ちょっと忘れ物!またね!」 駆け足で向かうのはオレの好きな人のところ。 今から急いで帰ってもこんな時間だし、それなら。 「…あ、獄寺くん?もう一回、行っていいかな?晩ご飯一緒に食べようよ」 電話をしたのは君の部屋のドアの前から。 はい、喜んでの返事をもらって、家に電話。 「もしもし、母さん?ご飯食べてから帰るね、うん、獄寺くんと…」 空は、もうすっかり暮れていた。 <終> ※ 『遠くても〜』と、『こいの〜』から繋がっています。そして山本というと、どうしてもやきう関係のお話になってしまう…私が好きだし…あの鯉が目印のチームが…(20090719) |