うそつき (4)

 

 

 

「彼の好物だよ。練習が終わったら一緒に食べる約束なんだ。」

「だから、何ですか?すごく気になるんですけど。」

「…購買の、ヤキソバパンを特別に注文してついさっき届けてもらった。並盛牛乳と共にね。」

 

応接室で、2人がヤキソバパンと牛乳を食べている図が頭に浮かぶ。

微笑ましいような、おそろしいような…。

まあでも、好きなひとが美味しそうに食事をする様子を見るのは嬉しいもので。

うん、気持ちは判る、良く判る…けど。

 

「まずは腹ごしらえしてからやるんだ、僕たちは。判ったらさっさと帰りなよ。今回は特別だ、あの子に免じてね。」

山本のことになると人が変わったようになる、意外な一面を垣間見た。

今日のところは確かにこの辺りで退散した方がいいかもしれない。

「では、ご忠告に従います。」

まさか背を向けた途端殺られはしないだろう、と内心ヒヤヒヤしながらドアノブに手をかけ呟く。

「ま、いいか。実のところ山本にはそんなに興味ないし。」

「うそつき。」

何だか声が楽しそう。

「…何がでしょう?心当たりが多すぎて、どのことか思い当たらないんですが。」

「興味がないなんて言って。本当は…。」

「あ、ばれました?」

「でもあげないよ。あの子は僕のだ。」

「代わりに獄寺くんをあげましょうか?」

「いらない。」

「でしょうね。」

 

ふいに浮かんだことがあり、振り返って問う。

「もしかして、食べ物で釣ってます?」

 

(…それって、餌付けじゃん。ひでー)

 

「今、心の中で思ったこと口に出してたら、一撃喰らってたよ。」

きらりとトンファーが光ったように見えた。

「失礼しました!」

雲雀さんのテリトリーに入り、危険レーダーに引っ掛からないなんて、ちょっと山本ってすごいなと思いながら廊下に飛び出す。

「それにしても、あんな山本も見たことなかった…。」

 

一度教室に戻り、鞄を抱えて校門を出た途端、

10代目!遅かったですね!」

と、弾んだ声。

「…獄寺くん、先に帰ってって言わなかった?」

「帰りましたよ、んでここを通りかかったら偶然ばったりと…。」

確かに服は着替えている。

「もしかして、待ってた?」

「いえいえ、ホント偶然っすよ!」

嬉しそう。顔に『待っててよかった』って書いてあるけど。

それならそれでと、あえて知らん振りをしてみた。

「ふうん、それなら一緒に帰る?そのままオレんちに来てもいいよ。」

「マジっすか、それじゃお邪魔します!」

「ところで、ヤキソバパン食べたいな。」

唐突な申し出にも

「腹減ってんですか、帰りに買って行きましょう!」

などと暢気に流している。だから歩きながらさりげなく聞いてみた。

「獄寺くんは、何が好き?」

「それはもちろん、じゅうだ…。」

「たべもの!」

「…え〜と…。」

このひとの好きなものを、オレはよく知らない。

 

やっぱり、今日は雲雀さんの勝ちだ…。

悔しいけれど。

 

 

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