更新日 1990年(平成2年)5月7日〜2023年(令和5年5月30日)
※ 私なりの解釈なので、あくまでも参考までに。
※ 突然の解説変更ございます。
厥陰病脉證并びに治・第十二
厥陰の病の脈状と証候ならびに、それに対する治方を詳しく述べたもの・第十二
(1)厥陰病之病爲る消渇し、気上って心を撞き、
厥陰病というものは、消渇(咽が渇いていくらでも水分を摂りたがるが全く渇きが解れない病状)して、
腹の方から心に向って鐘でも突く様にドンドンと突き上げ、
心中疼熱、飢えて食するを欲せ不、食すれば則ちカイ(虫+尤)を吐し、
心臓にあたる所が痛む様に熱く感じ、腹は減るが食物を見ただけでも食べたく無くなり、
食べると腹の回虫(消化器官に寄生する虫)を吐き、
之を下せば利止ま不。
これを下すと、下しから始まった下痢がなかなか止まらなくなる。
(2)厥陰の中風、脉微浮なるは愈えんと欲すると爲す。浮なら不るは未だ癒え不と爲す。
厥陰の経が風に中てられて病み、脈が微浮になってくると癒えかかっているという事で、
脈が浮いてこないのは、未だ癒えないという事である。
(3)厥陰病、解せんと欲するの時は寅至る從り卯上に至る。
厥陰病が解けようとする時刻は、一日の中で朝の三時から七時頃の間である。
(4)厥陰病、渇して水を飮まんと欲する者は少少之を與へば愈ゆ。
厥陰病で咽が渇いて水分を欲しがる者には、少々水を与えて潤してやれば愈える。
(5)諸の四逆し厥する者は、之を下す可から不。虚家も亦た然り。
吐逆、下逆、汗逆、火逆の四逆によって厥(手足逆冷)になった者はこれを下してはいけない。
四逆を受けていなくても虚が原因で厥している者も下してはいけない。
(6)傷寒、先に厥して、後発熱して利する者は、必ず自から止む。厥を見はせば復た利す。
傷寒を病んで最初に厥(手足逆冷)を生じ、それから熱を発し、発熱が原因で下痢する者は、その下痢は必ず自然に止まり、
厥が再び生ずると下痢も復た再び起こる。
(7)傷寒、始めに發熱すること六日、厥すること反って九日にして利す。
傷寒を病んで始めに発熱してそれが六日も続き、七日目から厥が起こり、普通熱と厥とは同じ日数を現すのに、
厥が反って九日間続き、その上下痢までしている。
凡そ厥利する者は當に食す能は不るべし。今反って食し能ふ者は、恐らくは除中と為さん。
通常、厥(手足逆冷)して下痢している者は当然物が食べられないはずである。
それが逆に食べられる者は、恐らく除中(病証・中(胃気)が除かれている)に違いない。
食せしむるに索餅を以ってし發熱せ不る者は胃氣尚在るを知る。
除中か除中でないかを見極める為に、消化しにくい索餅(麦粉と米粉とを練り合わせて縄状にした昔のお菓子)を食べさせ、
二時間以内に発熱しない者は胃気が在ることがそれでわかる。
必ず愈え、恐暴に熱來たり出而復た去るべき也。
そういう者は必ず癒え、恐らく急に熱が出てそして以前の様に引いていくであろう。
後三日に之を脉し、其の熱続いて在る者は、之を期するに旦日夜半に愈えん。
索餅を食べさせてから三日後に脈を診て、その熱がまだ褪め切れないで続いて在る者は、明日の夜半に愈ゆるだろう。
然る所以の者は、本發熱六日厥反って九日復た發熱すること三日前の六日を併せて亦た九日と爲す。厥與相應ず。
そうなる者は、元々発熱が六日続き、厥するのが九日間なら、まだ発熱するのが三日前の六日だから合せて九日になる。
これで厥と同じ日数になる。
故に之を期して旦日夜半に愈えん。
だからこれを予想するとその九日後の夜半に癒えるのである。
三日之を脉するに而も脉數にして其の熱罷ま不る者は、此れを熱氣の有餘と為す。必ず癰膿を發す也。
その三日後に脈を診て、脈数でその熱が少しも弱くならない者は、これは熱気が有り過ぎるということである。
必ず腫物を発する。
(8)傷寒、脉遲六七日而反って黄ゴン(草冠+今)湯を與へて其の熱を徹す。
傷寒を病んで脈遅が六〜七日も続いている時にこれを温めることもしないで、それとは反対の黄ゴン(草冠+今)湯を与え、
その熱を無理にとり去り、
脉遲を寒と爲すに今黄ゴン(草冠+今)湯を與へ復た其の熱を除けば、腹中冷え當に食す能は不るに應ずべし。
遅脈は寒であるのに黄ゴン(草冠+今)湯を与えて重ねてその熱をとってしまえば、腹中は冷えてしまうのが当たり前で、
腹中が冷えれば当然物を食べることが出来なくなるはずであるが、
今反って能く食すれば此れを徐中と名づく。必ず死す。
それが逆に余計に食べられるのは、これを除中といい、そういう者は必ず死ぬ。
(9)傷寒、先ず厥し、後に發熱下利するは必ず自から止む。而るに反って汗出で咽中痛む者は、其の喉痺を爲す。
傷寒を病んで厥が先に起き、その後から発熱して下痢する者は、その下痢は必ず自然に止まるものであるが、
それが反って止まらず、汗が出て、咽中が痛む者は、咽に痺れが有る。
發熱汗無くして利するは必ず自から止む。
先に厥した後で発熱して下痢する場合、汗が出ない者は必ず自然に止まるものであるが、
若し止ま不れば必ず膿血を便す。膿血を便する者は其の喉痺せ不。
もし止まらない場合は必ず大便から膿血を出す。膿血を排便する者はその喉の痺れは出来ない。
(10)傷寒、一二日四五日に至りて厥する者は必ず發熱し、前に熱する者は後必ず厥し、
傷寒を病んで一〜二日目から四〜五日の間に厥を起こす者は後で必ず発熱するものであり、
この期間中に厥より前に熱する者はその後で必ず厥を起こすものであり、
厥深き者は熱も亦た深く、厥微なる者は熱も亦た微し、
この時、厥が強い者は後から発する熱も酷く、厥が軽い者は後から発する熱も少ない。
厥之を下すに應ずるを反って汗を發すれる者は、必ず口傷れて爛れ赤し。
この厥を起こした者に下しをかければ癒えるものを、反対に汗を発した場合には必ず病人の口中が傷られ、
その場所に赤い爛れが出来る。
(11)傷寒、厥を病むこと五日、熱も亦た五日なれば設しも六日に當に復た厥すべし。
傷寒で厥を病んで五日間、熱も同じく五日間だとすると、六日目には当然前の様に厥が始めるわけであるが
厥せ不る者は自から愈ゆ。厥終に過ぎ不五日を熱も五日なるを以って故に自から愈ゆるを知る。
厥が起きない者は自然に癒える。それは厥が五日以上ならずに終わってしまい熱も五日間であることから
それで自然に治るということがわかる。
(12)凡て厥する者は、陰陽氣相順接せ不、便ち厥を爲す、厥する者は手足逆冷是也。
大体厥になる者は、陰陽の気が相順接しない為に厥になるので、厥になった者は手足が逆冷するのである。
(13)傷寒、脉微而厥し、七八日に至り膚冷え、其の人躁して暫くも安き時無き者は、此を藏厥と爲す。
傷寒を病んで脈微でそして厥して七〜八日になって肌が冷たくなり手足を騒がしく動かし全く落ち着けない者は
これは蔵から起こる厥であり、これを名づけて蔵厥という。
カイ(虫+尤)厥と爲すは非也。カイ(虫+尤)厥の者は其の人當にカイ(虫+尤)を吐すべし。
回虫から来る厥とらえては宜しくない。回虫から来る厥の者ならその人は当然回虫を吐くべきで、
病者を令て静にせ令め而して復た時に煩せしむ。此を藏寒と為す。
病人が静かになったり騒ぎ出したりと繰り返すはずである。これが蔵寒、則ちカイ(虫+尤)厥というものである。
カイ(虫+尤)上に膈に入る故に煩す。須臾にして復た止む。食を得て嘔し、又は煩する者はカイ(虫+尤)食臭を聞いて出づ。
この病人が静かになったり騒いだりするのは回虫が腹中から胸中に入るからで、物を食べると嘔したり又は
胸中がくるしくなる者は、回虫が食物の香りと臭いで咽喉の上の方に這い出して来るからであり
其の人自からカイ(虫+尤)を吐す。カイ(虫+尤)厥の者は烏梅圓之を主どる。又久利主どる方。
その病人は知らずに回虫を吐く。そういうカイ(虫+尤)厥の者は烏梅圓が中心となる。
又、烏梅圓は長く下痢を病んでいる者も主治する方でもある。
烏梅圓の方 烏梅三百箇 細辛六兩 乾薑十兩 黄連一斤 当歸四兩 附子六兩炮 蜀椒四兩去子 桂枝六兩
人參六兩 黄蘗六兩
烏梅圓(丸)の作り方 烏梅30個 細辛6g 乾薑10g 黄連16g 当帰4g 炮附子6g 蜀椒(川椒)4g 桂枝6g
人参6g 黄柏6g
右の十味を異に搗き篩ひ合せ之を治め、苦酒を以って漬けること烏梅一宿核を去り五升の米と下に之を蒸す。
右の十味を各々別に搗いて篩って粉末にして混合し、別に烏梅の種を去った物を一合の米と共に蒸し、
飯熟すれば擣きてデイ(泥+土)と成す。藥を和し相得さ令む。臼中に内れ蜜與杵こと二千下す梧子大の如くを圓め、
米が炊けたらそのお米と烏梅をかき混ぜてアンコの様にこねて粉末しておいた諸薬を加え、それを臼中入れて
更に蜜を加えて繰り返し丁寧につっつき混ぜ適当な軟らかさにして、1丸を0.3gの丸薬にして、
食の先だち十圓を飮服す。日に三服稍加へ二十圓に至る。
空腹時に10丸を服す。1日3回服用する。場合によっては量を増やして20丸にする。(最初は5丸から試すもよい)
生冷滑物臭食等を禁ず。
それだけでも効果は十分にあるが、本方を服用中は生物、冷物、ヌルヌルする物、臭気の強い物等は食べさせてはいけない。
(14)傷寒、熱少なく厥微に指頭寒え默默として食を欲せ不。
傷寒を病んで熱の度も少なく、厥も軽くて指先が寒える程度で黙りこくって食べたがらず、
煩躁數日にして小便利し、色白き者は此れ熱除く也。食を得んと欲すれば其の病愈ゆると爲す。
煩躁のある者が数日後に小便の出が良くなり、しかもその色が無色の者は、これは熱が解れた証拠である。
これで食欲が出れば病気は治ったということになる。
若し厥して嘔し胸脇煩滿する者は其の後必ず便血す。
ところがもし指先が寒えてそして嘔があり胸脇が満り気持ち悪くなる者は、数日後には必ず血便が出る。
(15)病者手足厥冷し我結胸せ不小腹滿すること言ひ、之を按ずれば痛む者は此れ冷結膀胱關元に在る也。
病人の手足が厥冷し、病人が言うには「私は結胸はしていないが小腹(下腹)は満っている」と言うので、
その小腹を気にかけて診るとそこが痛むという者は、これは冷結(冷えの固まり)が膀胱と關元に在るのである。
(16)傷寒、發熱すること四日、厥すること反って三日、復た熱すること四日、厥少なく熱多きは其の病當に愈ゆべし。
傷寒を病んで発熱が四日間なのに対し厥は一日少ない三日間だけで、その後また四日間も熱すると、厥の期間が熱より短く、
厥より熱が長いのは、当然その病は治るべきだが、
四日より七日に至り熱除か不る者は、其の後必ず膿血を便す。
ところがその熱が四日以降も衰えず、七日になっても止まない者は、七日を過ぎてから必ず膿や血を大便から出る。
(17)傷寒、厥すること四日、熱すること反って三日、復た厥すること五日なれば、其の病進むと爲す。
傷寒を病んで厥すること四日であれば熱を発するのが四日であるべきなのに反って三日で止み、
次にまた厥が前より日数が増えて五日も続けば、その病は未だ進むのである。
寒多く熱少なく、陽氣退く故に進むと爲す也。
それは寒が多くて熱が少なく、陽気が寒に及ばないからそれで進むという事である。
(18)傷寒六七日、脉微に手足厥冷し煩躁するは厥陰に灸す。厥還ら不る者はシ(攴+人)す。
傷寒を病んで六〜七日目になってから脈微で手足が氷の様に冷えて悶え騒ぐ者は、厥陰の経脈に灸をすえてやれ。
それでも厥が解けず手足が温まらない者は死ぬ。
(19)傷寒發熱し下利厥逆躁して臥するを得不る者はシ(攴+人)す。
傷寒を病んでいて新規に熱を出して下痢が始まり、下痢と同時に手足が冷たくなり、
体や手足を動かして少しもジッすることが出来ず、寝ることも出来ない者は死ぬ。
(20)傷寒發熱下利至って甚しく厥止ま不る者はシ(攴+人)す。
傷寒を病んで発熱して下痢する場合、その下痢は必ず自然に止むはずが、止まないばかりか猛烈に下痢し、
そして発熱する前から有る厥も、発熱後も止まないで続いている者は死ぬ。
(21)傷寒六七日利せ不、便ち發熱而利し、其の人汗出で止ま不る者はシ(攴+人)す。陰有りて陽無きが故也。
傷寒を病んで六〜七日目に発熱し、それと同時に六〜七日も無かった便通が有り、
発熱した時から汗がドンドン出て止まらない者は死ぬ。それは陰が有るのに陽が無いからである。
(22)傷寒五六日結胸せ不、腹濡に脉虚し復た厥する者は下す可から不。此れを亡血と爲す。之を下せばシ(攴+人)す。
傷寒を病んで五〜六日目に結胸はせず、病人の腹は柔らかく脈は虚し、しかも厥を生じる者は下してはいけない。
これは亡血となったのである。血を失ったのだからこれを下すと死んでしまう。
(23)發熱而厥し七日に下利する者は治し難しと爲す。
発熱してから厥が起り、厥が始まってから七日目に下痢を生ずる者は治し難い。
(24)傷寒脉促厥逆する者は之に灸す可し。
傷寒を病んで脈が促で、手足が冷たく、しかもその冷えが段々上の方へ上ってくる者は、お灸をすえてやりなさい。
(25)傷寒、脉滑而厥する者は裏に熱有る也。白虎湯之を主どる。
傷寒を病んでいる時に手足が冷たくなり、しかも脈が滑の者は、手足は厥していても皮膚の中に熱があるのである。
白虎湯が中心となる。
(26)手足厥寒し脉細絶せんと欲する者は當歸四逆湯之を主どる。
手足が冷たく、しかも自分からその冷たさを強く訴え、脈細で止まりそうになる者は、
当帰四逆湯が中心となる。
當歸四逆湯の方 当歸三兩 桂枝三兩 芍藥三兩 細辛三兩 大棗二十五箇 甘艸二兩炙 通艸二兩
当帰四逆湯の作り方 当帰3g 桂枝3g 芍薬3g 細辛2g 大棗8g 甘草2g 通草(木通)2g
右七味を水八升を以てニ(者+火)て三升を取り滓を去り、温服一升日に三服。
右の七味を水320tと共に120tまで煮詰め、滓を去り、1回に40tを温め服す。1日3回服す。
(27)若し其の人内に久寒有る者は、宜しく當歸四逆加呉茱萸生薑湯之を主どる。
前條病証の者で、もしその人の内にずっと前から寒が在る場合、当然、当帰四逆加呉茱萸生姜湯が中心となる。
當歸四逆加呉茱萸生薑湯の方 当歸二兩 芍藥三兩 甘艸二兩炙 通艸二兩 桂枝三兩皮を去る 細辛三兩
生薑半斤切る 大棗二十五枚擘く 呉茱萸二斤
当帰四逆加呉茱萸生姜湯の作り方 当帰1.8g 芍薬1.8g 甘草1.2g炙る 通草1.2g 桂枝1.8g皮を去る
細辛1.8g 生姜4.8g 大棗4.8g 呉茱萸6g
右の九味を水六升清酒六升を以て和し、ニ(者+火)て五升を取り滓を去り温め分ち五服す。○一方水酒各四升。
右の九味を水140tと清酒140tと共に煮て120tを取り、滓を去り、3回に分けて温め服す。
(28)大いに汗出で熱去ら不、内拘急し四肢疼み又は下利厥冷して惡寒する者は四逆湯之を主どる。
大いに汗が出ているのに熱は一向に引かず、内は拘急(筋が引っ張られる様に突っ張る)して手足が痛み、
又は下痢して手足の先が冷たくなって悪寒する者は、四逆湯が中心となる。
(29)大いに汗し若しくは大いに下利而厥冷する者は四逆湯之を主どる。
大いに汗をかき又は大いに下痢して手足の先が冷たくなる者は、四逆湯が中心となる。
(30)病人手足厥冷し、脉乍ち緊なる者は邪結して胸中に在り、心中滿して煩し、
病人の手足が急に逆冷し、脈も忽ち緊になった者は、これは栄衛の運行を妨げ胸中に閉じ込められた為で、
心臓の所が満って詰まっている様で煩わしく、
飢えて食する能は不る者は病胸中に在り。當に須く之を吐すべし。瓜蔕散に宜し。
腹は減るが食べようとすると食べられない者は、当然吐薬を用いてこれを吐かせてやるべきで、
それには瓜蒂散がよい。
(31)傷寒、厥して心下悸する者は、宜しく先ず水を治すべし。當に茯苓甘艸湯を服し却って其の厥を治すべし。
傷寒を病んで厥して心下部が動悸する者は、手足の冷えを治すよりも先に水を治してやれ。
それには茯苓甘草湯を与え、その厥を治してやれ。
爾せ不れば水漬胃に入り必ず利を作す也。
そうしてやらないと手足の冷えが治らないばかりか水が胃中にまで浸み込んで必ず下痢を起こすものである。
(32)傷寒六七日大いに下りて後寸脉沈而遲、手足厥冷し、下部の脉至らず、
傷寒を病んでから六〜七日目に大いに腹が下ってその下った後で寸口の脈が沈んで遅くなり手足が厥冷し、
その手足が厥冷してからは寸口以外の脈は指に触れなくなり、
咽喉不利し、膿血を唾し、泄利罷ま不る者は難治と爲す。麻黄升麻湯之を主どる。
咽喉の通りが悪くなって膿や血を唾吐き、大便の回数多く少量ずつしか大便が出ず、それが止まない者は治し難い。
そういう者には麻黄升麻湯が中心となる。
麻黄升麻湯の方 麻黄二兩半節を去る 升麻一兩一分 当歸一兩一分 知母十八銖 黄ゴン(草冠+今)十八銖
萎ズイ(草冠+豕+生)十八銖 石膏六銖砕いて綿に裏む 白朮六銖 乾薑六銖 芍藥六銖 天門冬六銖心を去る
桂枝六銖 茯苓六銖 甘艸六銖炙る
麻黄升麻湯の作り方 麻黄2.5g節を去る 升麻1.25g 当帰1.25g 知母0.75g 黄ゴン(草冠+今)1.75g
萎ズイ(草冠+豕+生)0.75g 石膏0.25g砕いて綿に包む 白朮0.25g 乾姜.25g 芍薬0.25g
天門冬0.25g心を去る 桂枝0.25g 茯苓0.25g 甘草0.25g炙る
右十四味を水一斗を以って先ず麻黄をニ(者+火)て一兩沸、上沫を去り、諸藥を内れ、ニ(者+火)て三升を取り、滓を去り、
分温三服す。
先ず麻黄と水400tを以て一二沸させ、一旦火より下して灰汁を去り、残りの諸薬を入れて再び火にかけて
120tまで煮詰めて滓を去り、3回に分けて温め服す。
相去ること三斗米を炊ぐ頃の如く盡せ令むれば汗出で愈ゆ。
服して40分程したら再服し、また40分程したら再服する。三服し終わると汗が出る者は治る。
(33)傷寒四五日腹中痛み、若しくは轉氣下って少腹に趣く者は、此れ自利せんと欲する也。
傷寒を病んで四〜五日目に腹の中が痛みだし、そうでなかったら腹の中でゴロゴロ鳴って
それが臍の辺りから下腹へ下っていく者は、これはどちらも自然に大便が出ようとしているのである。
(34)傷寒本自から寒下するを、醫復た之を吐下し、寒格更に逆吐下し、
乾薑黄連黄ゴン(草冠+今)人參湯之を主どる。
傷寒を病み、前から冷えて下痢している者を医者が吐かせたり下したりした為に、前から有る寒が
新規に入ってきた邪を阻んで、それにより更に吐き下しを発し、
若し食口に入れば即ち吐するは、乾薑黄連黄ゴン(草冠+今)人參湯之を主どる。
もし食べ物を口に入れれば途端に吐き出す者は、乾姜黄連黄ゴン(草冠+今)人参湯が中心となる。
乾薑黄連黄ゴン(草冠+今)人參湯の方 乾薑三兩 黄連三兩 黄ゴン(草冠+今)三兩 人參三兩
乾姜黄連黄ゴン(草冠+今)人参湯の作り方 乾姜3g 黄連3g 黄ゴン(草冠+今)3g 人参3g
右の四味を水六升を以てニ(者+火)て二升を取り滓を去り、分温再服す。
右の四味を水240tと共に80tまで煮詰め、滓を去り、2回に分けて温め服す。
(35)下利微熱有り、而して渇し、脉弱なる者は、今自から愈ゆ。
下痢して微熱が有りそして喉が渇き脈の弱い者は、今自然に治ろうとしている。
(36)下利數微熱有りて汗出でるは今自から愈ゆ。設し復た緊なれば未だ解せずと爲す。
下痢していても脈が数で微熱があり汗が出ていれば、今自然に治ろうとしている。
もしまたその脈が緊に変われば、未だ解けないということである。
(37)下利手足厥冷し脉無き者は之を灸するも温まら不、若しくは脉還らず、反って微喘する者はシ(攴+人)す。
下痢して手足が厥冷して脈が打たなくなった者は、灸をすえても手足や体に温かさが出てこなかったり、
脈が戻ってこなかったり、更に灸をすえて反って少しゼイゼイ言い出した者は死ぬ。
(38)少陰、趺陽に負なる者は順と爲す也。
少陰(腎の水)の脈が趺陽(胃の土)の脈に背いている者は、病が逆ではなく順である。
(*胃から発する下痢は治しやすいが、腎から発する下痢は治し難い)
(39)下利寸脉反って浮數尺中自からジュウ(サンズイ+嗇)なる者は必ず膿血を清す。
下痢をしていて寸口脈が沈であるべきが、反って浮で数で尺中の脈は当たり前に沈んで渋の者は、
必ず膿血を排便するものである。
(40)下利清穀するは表を攻む可から不。汗を出だせば必ず脹滿す。
下痢して穀がとめどなく下っている時は発汗してやりたいと思っても無理に発汗させて汗を出ささせてはいけない。
汗をかくとそれにより必ず腹が膨れて張る様になる。
(41)下利沈弦者は下重する也。脉大なる者は未だ止まずと爲す。
下痢して脈沈弦の者は、お腹が渋って大便をしてもまた催し肛門の内が詰まる様でサッパリしない。
脈大の者は下痢は未だ止まらないのである。
脉微弱數なる者は自から止まんと欲すると爲す。發熱すると雖も死せず。
脈微弱数の者は下痢が自然に止もうとしているので、この時に発熱することがあっても死ぬことはない。
(42)下利沈而遲、其の人面少しく赤く身に微熱有りて下利清穀する者は必ず鬱冒し汗出でて解し病人必ず微厥す。
下痢して脈沈遅で、顔に少し赤みがあり、身に微熱があり、下痢して清穀する者は、必ず意識がもうろうとし、
汗が出て病が解けると、その後手足が少し冷たくなる。
然る所以の者は其の面戴陽し、下も虚するが故也。
そうさせる理由は、顔には赤色を現し、下部(腹)が虚しているからである。
(43)下利脉數而渇する者は今自から愈え、設し差え不れば必ず膿血を清す。熱有るを以っての故也。
下痢して脈数で咽喉が渇く者は自然に治ろうとしているのである。もしもそれが治らない時は必ず膿血を下す。
それは熱が有るからそうさせるのである。
(44)下痢の後、脉絶し手足厥冷し、サイ(日+卒)時に脉還り手足温かなる者は生き、脉還ら不る者は死す。
下痢した後で、脈が止まって打たなくなりそして手足が氷の様に冷たくなり、二時間以内に脈を打ち始めて
手足が温まってくる者は助かるが、二時間を過ぎても脈が打って来ない者は死ぬ。
(45)傷寒下利日に十餘行、脉反って実する者は死す。
傷寒を病んで下痢が一日に十行以上もあるのに、脈は虚していないで反対に実し過ぎている者は死ぬ。
(46)下利清穀、裏寒外熱し、汗出でて、厥する者は、通脉四逆湯之を主どる。
下痢して清穀し、体の裏は冷えて外は熱し、汗が出て、手足が冷たくなっている者は、通脈四逆湯が中心となる。
(47)熱利下重する者は白頭翁湯之を主どる。
裏熱より生ずる下痢で、お腹が渋って大便をしてもまた催し肛門の内が詰まる様でサッパリしない者は、
白頭翁湯が中心となる。
白頭翁湯の方 白頭翁二兩 黄柏三兩 黄連三兩 秦皮三兩
白頭翁湯の作り方 白頭翁2g 黄柏3g 黄連3g 秦皮3g
右四味を水七升以ってニ(者+火)て二升を取り滓を去り、温服一升、愈え不れば更に一升を服す。
右の四味を水280tと共に煮て80tまで煮詰めて滓を去り、2回に分けて1回40tを温め服す。
治らなければ更に40t服す。
(48)下利脹滿し身體疼痛する者は、先ず裏を温め乃ち其の表を攻む。裏を温むるには四逆湯、表を攻むるには桂枝湯。
下痢して腹が膨れて脹り、身体が疼き痛む者は、先ずその裏を温めてからその表を攻めなさい。
裏を温めるには四逆湯を与え、表を攻めるには桂枝湯を与える。
(49)下利水を飮まんと欲する者は熱有るを以っての故也。白頭翁湯之を主どる。
下痢をしている者が水を飲みたがるのは熱が有るせいで、これには白頭翁湯が中心となる。
(50)下利譫語する者は燥屎有る也。小承氣湯に宜し。
下痢をしてうわごとを言う者は、燥いて固まった糞が有るからである。そういうのには小承気湯がよい。
(51)下利の後、更に煩し、之を按ずれば心下濡なる者は虚煩と爲す也。梔子シ(豆+支)湯に宜し。
下痢をした後で更に心下部に煩する所が有り、そこの所を押えて軟らかい者はその煩を虚煩(実する所が無くて生じたもの)
とするのである。そういう者には梔子シ(豆+支)湯がよい。
(52)嘔家、癰膿有る者は、嘔を治す可から不。膿盡くれば自から愈ゆ。
長く嘔を病んでいる者で腫れ物の膿をもっている者は、嘔を治してはいけない。
膿が無くなれば病は自然に治るものである。
(53)嘔而脉弱小便復た利し身に微熱有りて厥を見はす者は治し難し。四逆湯之を主どる。
嘔して脈弱で小便の出はよく身に微熱があり厥が出てくる者は治すのが難しい。
それには四逆湯が中心となる。
(54)乾嘔し涎沫を吐して頭痛する者は呉茱萸湯之を主どる。
ゲェゲェと吐き気を催すが、胃中の物は出ずただ口中から大量の唾を吐いて頭痛する者は、呉茱萸湯が中心となる。
(55)嘔而發熱する者は小柴胡湯之を主どる。
嘔をしてから熱を発する者は、小柴胡湯が中心となる。
(56)傷寒、大いに吐し大いに之を下し極虚し、復た極まりて汗出づる者を、
其の人外氣沸鬱たるを以って
傷寒を病んで、大いに吐かせ、或は大いに下したりした為に激しく虚し、また激しく汗が出る者は、
その様子は皮膚がポッポッと火照り、
復た之に水を与えて、以て其の汗を發すれば、因ってエツ(口+歳+ノ)を得、然る所以の者は胃中寒冷するが故也。
また吐や下により身体に有る水を失って咽喉が渇き、水を飲ませるとその水の為に汗が出て、それによりシャックリが出だす。
その訳は胃中が寒冷するからである。
(57)傷寒、エツ(口+歳+ノ)して腹滿するは其の前後を視て何の部の利せ不るかを知り之を利せば則ち愈ゆ。
傷寒を病んで、シャックリが出て腹が満る者は、小便が出ないか、大便が出ないからである。
それをよく確かめその出ていない方を出る様にしてやれば治るものである。
《厥陰病脉證并びに治・第十二》
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