更新日 1993年(平成5年)1月21日〜2024年(令和6年)3月4日
※ 私なりの解釈なので、あくまでも参考までに。
※ 突然の解説変更ございます。
黄疸病脉證併治・第十五
黄疸の病の脈状と証候ならびに、それに対する治方を
詳しく述べたもの・第十五
(1)寸口の脉浮而緩、浮は則ち風と爲し、緩は則ち痺と爲す。
寸口の脈が浮いて緩く、その浮は風を現わし緩は痺を現わす。
痺は中風に非ず。四肢苦煩し脾色必ず黄いろく、オ(ヤマイダレ+於)熱以って行く。
緩(水がある時に現れる)の痺は内虚(湿)から来たもので中風の痺は外寒から来る。
二つとも痺と言いがちだが全く違うものである。
手や足が怠く、唇の周囲が必ず黄色く、オ(ヤマイダレ+於)熱(湿熱)が風と痺とによって体内を巡る。
(2)趺陽の脉緊而數、數は則ち熱と爲す。熱は則ち消穀す。
趺陽の脈が緊で数の場合、その数は熱を現しその熱は消穀(消化力が強い)させる。
緊は則ち寒と爲す。食すれば即ち滿と爲す。
その緊は寒を現し寒は少量の食をしても腹が直ぐに一杯になり苦しくなる。
尺脉浮は腎傷らるると為し、趺陽の脉緊は脾傷らるると爲す。
尺脈が浮の場合、腎が傷られているのであり、趺陽の脈が緊の場合、脾が傷られているのである。
風寒相搏ち穀を食すれば即ち眩し穀の氣消せ不、胃中濁を苦しみ濁氣下流し小便通ぜ不、
この尺脈の浮の風と趺陽の脈の緊の寒とが互いに打ち合うと、穀を食すれば目眩が生じ、
その食べた穀気が消えず胃中が濁の為に苦しめられ、その濁気が下流して小便を出さなくさせ、
陰其の寒を被り熱膀胱に流れ身體盡く黄なるは名づけて穀疸ち曰ふ。
濁気の寒は陰を傷り濁気の熱は膀胱を傷り、身体中を黄色くする。これを名付けて穀疸と言う。
(3)額上Kく微に汗出で手足中熱し薄暮即ち發し膀胱急小便自利するは、名づけて女労疸と曰ふ。
腹水状の如きは治せ不。
黄疸病で額の上が黒く、少し汗が出て、手足が火照り、日の暮れかけになると病が酷くなり、
膀胱の部分が苦しく小便がダラダラと出る。これを名付けて女労疸と言う。
そしてこの場合、腹が膨れて浮腫み、水気病の様な者は治せない。
(4)心中懊ノウ(立心偏+農)而熱し食する能は不、時に吐せんと欲するは、名づけて酒疸と曰ふ。
黄疸病で、心中懊ノウ(立心偏+農)(胸中がいいようの無い程に悩ましく苦しい)して、物も食べられず、
時に吐き気を催す者は、これを名付けて酒疸と言う。
(5)陽明病脉遲なる者は食し難く、用ふれば飽き、飽くれば則ち發煩し、頭眩小便必ず難きは、
陽明病で脈が遅になる者は、食べ物が思う様に食べられず、それを我慢して食べると直ぐに満腹感を生じ、
満腹感を生じれば気が乱れて頭がボーっとしたりグラグラしたりして必ず小便の出が悪くなる。
此穀疸を作さんと欲す。之を下すと雖も腹満ること故の如し。然る所以んの者は、脉遲なるが故也。
そういう者は穀疸の病を起こしそうとしているのであるが、これを下してやっても満腹感は解れない。
それは脈遅だからである。
(6)夫れ病、酒黄疸は必ず小便不利。其の候は心中熱し足下熱す、是れ其の証也。
酒黄疸の病というものは必ず小便の出が悪く、
その証としては、心中が熱する事と足の裏が熱する事である。これがその証である。
(7)酒黄疸の者或は熱無く靖言了に腹滿吐せんと欲し、鼻燥き、
酒黄疸の者、或は熱は無く様子が安らかで言葉はハッキリとしていて、腹が満り、吐きたがり、
鼻の内がカラカラに燥き、
其の脉浮なる者は先ず之を吐し、沈弦なる者は先ず之を下す。
その脈が浮の者は先ずこれを吐かせてやり、脈沈弦の者には先ずこれを下してやりなさい。
(8)酒疸心中熱して吐せんと欲する者は、之を吐すれば愈ゆ。
酒疸で心中が熱して吐きたがる者は、これを吐かせてやれば治る。
(9)酒疸は之を下せば久久してK疸と爲る。目青く面Kく、
心中は蒜セイ(草冠+韲)をクラ(口+敢)ひたる如きの状ちし、
酒疸はこれを下していると長い間に黒疸になっていく。眼球は青くなり、顔面は黒ずみ、
心中は生の大蒜の酢物を食べた様な辛くて切ない様な気持ちになり、
大便は正K皮膚爪之不仁、其の脉浮弱Kしと雖も微黄故に之を知る。
大便は真っ黒く皮膚や爪の艶が無くなり油焼けも失せる。
その脈は浮で弱く、黒い中にも多少なりとも黄色身が有り、それで黒疸となったのが判るのである。
(10)師の曰く、病黄疸發熱煩喘し胸滿口燥する者は、病發時に火にて劫し、
師匠が言われるには、黄疸を病んで発熱して苦しそうにゼィゼィと言い胸満して口燥する者は、
初めて病んだ時に火で温め、
其れを汗するを以って兩熱して得る所。然も黄家得る所濕從り之を得、
無理やり汗をかかせた為に裏の熱と火の熱が一緒になってこの病気になったのである。
黄疸は湿熱が原因で起こり、
一身盡く發熱し面黄いろく肚熱するは熱裏に在り。當に之を下すべし。
身体中に熱が出て、顔面は黄色く、腹は熱する。熱が裏に有る者は当然これを下してやればいい。
(黄疸の治療には、吐かす、下す、汗を出させる場合が有る)
(11)脉沈、渇して水を飮まんと欲し、小便利せ不る者は、皆黄を發す。
脈が沈(病裏に有り。裏に有れば気表に向かず)で、のどが渇いて水を欲しがり、
小便が出ない者(熱が有り下部が塞がれる)はこの証候を現している場合どんな病気でも皆黄疸を発する。
(12)腹滿舌痿黄燥して睡るを得不るは、黄家に屬す。
腹が満って舌は血色が悪くさえない黄がかった色をして口中や舌が燥いで眠ることができないのは、
黄家に属す。
(13)黄疸の病は、當に十八日を以って期と爲すべし。
黄疸の病というものは、十八日をひと回りとして癒えるものであるが、
之を治するも十日以上イエ(ヤマイダレ+差)ず反って劇しきは治し難しと爲す。
これを治していながら十日以上も全く癒えず、反って激しくなるのは治し難い。
(14)疸而渇する者は其の疸治し難く、疸而渇せ不る者は其の疸治すべし。
黄疸でのどが渇く者は治すのが難しく、その反対にのどが渇かない者は治してやりなさい。
陰部に發すれば其の人必ず嘔し、陽部は其の人振寒而發熱する也。
黄疸が陰部に発する者は、その人は必ず嘔がある。
陽部に発する者は、振寒(振るえて寒がる)して発熱する。
(15)穀疸之病爲る寒熱不食、食すれば即ち頭眩し、心胸安から不久久黄を發し穀疸を爲す。
茵チン(草冠+陳)蒿湯之を主どる。
穀疸の病というものは、悪寒と熱とが有って食欲が無い。
物を食べれば頭がグラグラし物が見えなくなり胸辺りがソワソワして長い期間黄疸を発すると穀疸になる。
これには茵チン(草冠+陳)蒿湯が主となる。
茵チン(草冠+陳)蒿湯の方 茵チン(草冠+陳)蒿六兩 梔子十四枚 大黄二兩
茵チン(草冠+陳)蒿湯の作り方 茵チン(草冠+陳)蒿6g 梔子1.4g 大黄2g
右の三味を水一斗を以って先ず茵チン(草冠+陳)を煮て六升を減じ二味を内れ、
煮て三升を取り、滓を去り、分温三服す。
先ず茵チン(草冠+陳)蒿と水400tと共に160tまで煮詰め、その中に後の二味を入れて120tまで煮詰め、
滓を去り、三回に分けて温め服す。
小便當に利し尿は皀角汁状の如く色正赤なるべし。一宿して腹減じ黄小便從り去る也。
小便が出やすくなり、その尿の色は皀角の汁の様に真っ赤で泡沫が多い。
一晩で腹が減り黄疸が小便から出るのである。
(16)黄家日ポ(日+甫)所發熱而反って惡寒するは、此は女勞に之を得たりと爲す。
黄家で、午後三時から午後五時の間に発熱し、反って悪寒するのは女労から得た黄疸であり、
膀胱急少腹滿、身盡く黄、額上Kく足下熱し、因って黒疸を作せば其の腹脹ること水状の如く、
その証は、膀胱が引き攣り、下腹が満って、身体全体が黄色く、額上が黒く、足裏は火照り、
それが黒疸に変わると、その腹が水気病の形の様に脹り、
大便必ずKく時に溏す。此れ女勞之病水に非ざる也。腹滿する者は治し難し。消石礬石散之を主どる。
大便は必ず黒く時にはドーっと下痢する事もある。これは女労の病であって水気病ではない。
腹が満る者は治すのが難しい。これには消石礬石散が主となる。
消石礬石散の方 消石 礬石燒等分
消石礬石散の作り方 消石 礬石焼く 各等分
右の二味を散と爲し、大麥の粥汁を以って和し方寸匕を服す。日に三服す。
右の二味を散にして、大麦の粥汁を茶呑茶碗に半分量入れてその中に2gの散を
よくかき混ぜて一回に服す。一日三回服す。
病大小便隨り去る。小便正黄、大便正Kは是の候也。
病は大便小便から去る。小便が真っ黄色で、大便は真っ黒がこの証である。
(17)酒黄疸、心中懊ノウ(立心偏+農)或は熱痛するは梔子大黄湯之を主どる。
酒黄疸で心中懊ノウ(立心偏+農)、或いは心中が焼ける様にチクチクと熱く感じる痛みがあれば、
これは梔子大黄湯が主となる。
梔子大黄湯の方 梔子十四枚 大黄一兩 枳實五枚 シ(豆+支)一升
梔子大黄湯の作り方 梔子1.4g 大黄1g 枳実3.5g 香シ(豆+支)10g
右の四味を水六升を以て煮て二升を取り、分ち温めて三服す。
右の四味を水240ccと共に80ccになるまで煮詰めて滓を去り、三回に分けて温め服す。
(18)諸病黄家は、但だ其の小便を利す。假令脉浮なる者は當に汗を以って之を解すべし。
宜しく桂枝加黄耆湯之を主どる。(方見水気病中)
諸々の病状で黄疸を患っている者は小便の出を良くしてあげなさい。
例えば、脈浮の場合は病は表に有るのだから当然汗をかかせてやれば解ける。
それには桂枝加黄耆湯が主となる。(水気病中第二十九項の方を見よ)
(19)諸黄は猪膏髮煎之を主どる。
色々な黄疸病に猪膏髮煎が主となる。
(小便から出血する者や婦人で気が下に洩れる為絶えずガスが出る様な気がする者)
猪膏髮煎の方 猪膏半斤 亂髮鶏子大如く三枚
猪膏髮煎の作り方 猪膏(猪の脂肪)8g 乱髪(抜毛)1g
右の二味を膏中に和し之を煎じ、髮消すれば藥成る。分けて再服す。病小便從り出ず。
右の二味を猪膏中に混ぜて煎じ、髪の毛が溶けて消えれば薬が出来たという事である。
二回に分けて服用する。病は小便から出る。
(20)黄疸病は茵チン(草冠+陳)五苓散之を主どる。
口渇、小便不利等の病証のある黄疸病は茵チン(草冠+陳)五苓散が主となる。
茵チン(草冠+陳)五苓散の方 茵チン(草冠+陳)蒿末十分 五苓散五分(方見痰飲中)
茵チン(草冠+陳)五苓散の作り方 茵チン(草冠+陳)蒿末10g 五苓散5g(太陰病中第三十二項の方を見よ)
右の二味を和し、食に先だち飮にて方寸匕日に三服す。
右の二味を混ぜ合わせて毎食前の空腹時に2gずつ一日三回服用する。
(21)黄疸、腹滿、小便利せ不して赤く、自汗汗出ずれば、此れ表和裏實と爲す。
當に之を下す可し。大黄消石湯に宜し。
黄疸病で、腹満して小便不利でたまに小便が出ると赤く自然に汗が出るのは、
表に邪は無く裏が実しているのである。当にこれを下してやりなさい。
それには大黄消石湯が良い。
大黄消石湯の方 大黄 黄蘗 消石各四兩 梔子十五枚
大黄消石湯の作り方 大黄4g 黄柏4g 消石4g 梔子1.5g
右の四味を水六升を以て煮て二升を取り滓を去り、消石を内れ更に煮て一升を取り、頓に服す。
右の消石以外を水240ccと共に80ccまで煮詰めて滓を去り、その中に消石を入れて再び火にかけ、
40ccになるまで煮詰めて頓服する。
(22)黄疸病、小便色を變ぜ不自利せんと欲し、腹滿而喘するは熱を除く可から不。
熱を除けば必ずエツ(口+歳)す。エツ(口+歳)する者は、小半夏湯之を主どる。
黄疸病で、小便の色が赤や黄に変化せず普通で、小便の出も普通で、腹満して喘すれば、
熱をとってはいけない。必ずシャックリをする。シャックリをする者は小半夏湯が主となる。
(23)諸黄、腹痛而嘔する者は柴胡湯に宜し。
実熱状の黄疸病や、虚熱状の黄疸病で、腹痛して嘔する者は小柴胡湯が良い。
(必ず小柴胡湯。嘔吐病中第十七項の方を見よ)
(24)男子黄、小便自利するには當に虚労、小建中湯を與ふべし。(方見虚勞中)
男子の黄疸病で小便が出るのは当に虚労病から来ているのである。
それには小建中湯を与えてやりなさい。(虚労病中第十三項の方を見よ)
(25)附方 瓜蒂湯は諸の黄を治す。(方見エツ(日+曷)病中)
附方 一物瓜蒂湯は諸々の黄疸病を治す。(エツ(日+曷)病中第二十七項の方を見よ)
(皮中及び胸中の鬱熱を除く故に治黄に用うる)
(26)千金麻黄醇酒湯は黄疸を治す。 麻黄三兩
千金方の麻黄醇酒湯は黄疸病を治す。(外に寒あり身重の者を治す) 麻黄3g
右の一味を美清酒五升を以て煮て二升半を取り、頓に服し盡す。冬月は酒を用い、春月は水を用いて之を煮る。
右のの一味を美清酒200ccと共に100ccになるまで煮詰めて一回に服す。
冬月は酒を用い、春月は水を用いてこれを煮る。
《黄疸病脉證併治・第十五》
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