更新日 2002年(平成14年)5月29日〜2022年(令和6年)3月18日
※ 私なりの解釈なので、あくまでも参考までに。
※ 突然の解説変更ございます。
嘔吐エツ(口+歳+ノ)下利病脉證并びに治 第十七
嘔病、吐病、エツ(口+歳+ノ)病、下痢の病の脈状と証候ならびに、
それに対する治方を詳しく述べたもの・第十七
(1)夫れ嘔家に癰膿有れば嘔を治す可から不。膿盡くれば自から愈ゆ。
現在、嘔を催している人で身体に腫物や膿を持って腫れている場合、いくら嘔を苦しんでいるからと
その嘔だけを止めようと薬を用いて治してはいけない。膿さえ出し尽くせば自然に治る。
(2)先に嘔し却より渇する者は、此れ解せんと欲する爲す。先に渇し却より嘔する者は水心下に停まると爲す。
此れ飮家に属す。
先に嘔が始まり後に渇する者は病が解けようとしているのである。もし先に渇した後に嘔する者は、
水が消化されず心下部に一時的に溜まっているということになるからこれは飲病に属する。
(3)嘔家もと渇して今反って渇せ不る者は心下に支飮有るを以ての故也。此れは支飮に屬す。
嘔病で元々渇していたのが渇しなくなったのは、心下に水が溜まったからである。
これは支飲に属す。
(4)問ふて曰はく、病人脉數、數を熱と爲す。當に消穀引食すべし而るに反って吐する者は何ぞ也。
お伺いします。病人の脈が数で、数を熱とするから当然その人は物を食べてもいいはずなのに
反って吐く者はどういうことですか。
師の曰はく、其の汗を發するを以て陽を微ならしめ、膈氣虚し脉乃ち數。
師匠が言われるには、それはその汗を発した為に陽を少し減らしてしまい、胸と腹の間が虚して
脈が数になってしまったもので、
數は客熱と爲す。消穀する能は不胃中虚冷するが故也。
その数は外から来た熱となるから物を食べさせてはいけないのである。
(5)脉弦の者は虚也。胃氣に餘り無く朝に食すれば暮に吐し變じて胃反と爲る。
脈が弦の者は虚である。胃気にゆとりが無い為に朝食した物を夕方に吐き続けると、
胃反(吐を主訴とし食物が消化せず胃中に有る状態)と言う病気になる。
寒上に在るに醫反って之を下し、今脉反って弦故に名づけて虚と曰ふ。
寒が胃に在るのに医者が反ってこれを下した場合、今反って脈が弦だからそれで名づけて虚と言う。
(6)寸口の脉微而數、微なれば則ち氣無し、氣無ければ則ち榮虚す。
嘔を病む者が寸口の脈が微で数ならこれは胸中が冷えた為である。胸中が冷えている者は栄気が虚している。
榮虚すれば則ち血足ら不、血足ら不れば則ち胸中冷ゆ。
栄気が虚すれば血が足らなくなる。血が足ら無くなれば胸中も冷える。
(7)趺陽の脉浮而ショク(シ+嗇)、浮は則ち虚と爲し、虚すれば則ち脾傷らる。脾傷らるれば則ち磨せ不。
趺陽の脈が浮で渋、その浮は虚から来たもので、虚なら脾が悪くなる。脾が悪くなれば穀物を消化できなくなる。
朝に食すれば暮には吐し、暮に食すれば朝に吐す。宿穀化せ不。名づけて胃反と曰ふ。
脉緊而ショク(シ+嗇)なるものは其の病治し難し。
朝食べた物が夕方に吐下し、夕方に食べれば朝吐下する。食べて胃に入っている物が消化せず、
これを名付けて胃反と言う。脈が緊で渋る者は治し難い。
(8)病人吐せんと欲する者は之を下す可から不。
病人が吐きたいという者は吐かせてやり、これを下してはいけない。
(9)エツ(口+歳+ノ)而腹滿するは、其の前後を視て何部の利せ不るかを知り、之を利すれば即ち愈ゆ。
しゃっくりをしてお腹が満る者は、小便か大便のどちらかに出きっていないところがないか聞き、
これを利してやれば治る。
(10)嘔して胸滿する者は茱萸湯之を主どる。
嘔によって胸が満って苦しい者は呉茱萸湯が主となる。
茱萸湯の方 呉茱萸一升 人參三兩 生薑六兩 大棗十二枚
呉茱萸湯の作り方 呉茱萸5g 人参3g 生姜6g 大棗4g
右の四味を水五升を以て煮て三升を取り、温めて七合を服す。日に三服す。
右の四味を水280tと共に80tまで煮詰め滓を去り、1日3回に分けて温め服す。
(11)乾嘔吐涎沫頭痛する者は呉茱萸湯之を主どる。
ゲーゲーと音ばかりの嘔吐し、口中から湧き出る泡の混じった濃い水の様な液を吐いて頭痛する者は、
呉茱萸湯が主となる。
(12)嘔して腸鳴り心下痞する者は半夏瀉心湯之を主どる。
嘔して腸が鳴り心下が痞える者は半夏瀉心湯が主となる。
半夏瀉心湯の方 半夏半升洗 黄ゴン(草冠+今)三兩 乾薑三兩 人參三兩 黄連一兩 大棗十二枚 甘艸三兩炙
半夏瀉心湯の作り方 半夏5g 黄ゴン(草冠+今)3g 乾姜3g 人参3g 黄連1g 大棗4g 炙甘草3g
右の七味を水一斗を以て煮て六升を取り滓を去り再び煮て三升を取り温めて一升を服す。日に三服。
右の七味を水400tと共に240tまで煎じ、滓を去り再び120tになるまで煎じる。1日3回に分けて温め服す。
(13)乾嘔而利する者は黄ゴン(草冠+今)加半夏生薑湯之を主どる。
ゲーゲーと音ばかりの嘔をして下痢する者は黄ゴン(草冠+今)加半夏生薑湯が主となる。
黄ゴン(草冠+今)加半夏生薑湯の方 黄ゴン(草冠+今)三兩 甘艸三兩炙 芍藥二兩 半夏半升 生薑三兩 大棗十二枚
黄ゴン(草冠+今)加半夏生姜湯の作り方 黄ゴン(草冠+今)3g 炙甘草2g 芍薬3g 半夏5g 生姜3g 大棗4g
右の六味を水一斗を以て煮て三升を取り滓を去り温めて一升を服す。日に再びし夜に一服す。
右の六味を水400tと共に120tまで煎じて滓を去り、午前中1回、午後1回、夜1回の1日3回に分けて温め服す。
(14)諸の嘔吐にて穀下るを得不る者は小半夏湯之を主どる。
様々な嘔と吐で、穀物が胃に入らない者は小半夏湯が主となる。
(15)嘔吐而病膈上に在り後に水を思ふ者は解す。急に之を與えよ。水を思ふ者は猪苓散之を主どる。
嘔吐してみぞおちの辺りに病が在り、その後水を欲しがる者は解ける。急いで水を与えてやりなさい。
もし水を与えても相変わらず水を飲みたがる者は猪苓散が主となる。
猪苓散の方 猪苓 茯苓 白朮 各等分
猪苓散の作り方 猪苓 茯苓 白朮 各等分
右の三味を杵いて散と爲し飮にて方寸匕を服す。日に三服す。
右の三味を杵いて散とし、1回1.5〜2gを1日3回服す。
(16)嘔而脉弱小便復た利して身に微熱有って厥を見す者は治し難し。四逆湯之を主どる。
嘔をして脈が弱くその上小便の出がよく、体が少し熱っぽく、手足の先から冷たくなってきている者は、
普通の考え方で他の方を持っていったのでは治し難い。四逆湯が主となる。
四逆湯の方 附子一枚生用 乾薑一兩半 甘艸二兩炙
四逆湯の作り方 附子生用0.2g(白川1g) 乾姜1.5g 甘草2g炙る
右の三味を水三升を以て煮て一升二合を取り滓を去り分ち温めて再服す。強き者は大附子一枚乾薑三兩にしても可し。
右の三味を水120tと共に50tになるまで煎じて滓を去り、1日2回に分けて温め服す。
丈夫な人は2倍位まで増やしても構わない。人により附子と乾姜の量を加減してやりなさい。
(17)嘔して發熱する者は小柴胡湯之を主どる。
嘔している間に発熱する者には小柴胡湯が主となる。
小柴胡湯の方 柴胡半斤 黄ゴン(草冠+今)三兩 人參三兩 甘艸三兩 半夏半升 生薑三兩 大棗十二枚
小柴胡湯の作り方 柴胡8g 黄ゴン(草冠+今)3g 人参3g 甘草3g 半夏5g 生姜3g 大棗4g
右の七味を水一斗二升を以て煮て六升を取り滓を去り再び煎じて三升を取り温めて一升を服す。日に三服す。
右の七味を水480tと共に240tまで煎じて滓を去り、再び120tまで煎じる。1日3回に分けて温め服す。
(18)胃反で嘔吐する者は大半夏湯之を主どる。
(千金云ふ胃反食受け不食入れば即吐を治す。外臺云ふ嘔心下痞コウ(革+更)者治す。)
食べ物が消化せずそれを嘔吐する者は、大半夏湯が主となる。
(千金には、胃反、食を受けず食入れば即ち吐するを治す。外台には、嘔して心下痞コウ(革+更)する者を治す。)
大半夏湯の方 半夏二升洗完用 人參三兩 白蜜一升
大半夏湯の作り方 半夏20g刻まない物を使う 人参3g 蜂蜜20t
右の三味を水一斗二升を以て蜜に和し之を揚ぐる。二百四十遍藥を煮て二升半を取り温めて一升を服す。餘の分は再服す。
右の三味を水480tと蜂蜜とを240回ムラなく丁寧に行き渡る様にかき混ぜ、火にかけ100tになるまで煎じ、
40tを温めて服し、余った60tは後に温めて服する。
(19)食し已り即ち吐する者は大黄甘艸湯之を主どる。
食事をした後に直ぐ吐く者は、大黄甘草湯が主となる。
大黄甘艸湯の方 大黄四兩 甘艸一兩
大黄甘草湯の作り方 大黄4g 甘草1g
右の二味を水三升を以いて煮て一升を取り分ち温めて再服す。
右の二味を水120tと共に40tまで煎じ、1日2回に分けて温めて服す。
(20)胃反吐して渇し水を飮まんと欲する者は茯苓澤瀉湯之を主どる。
胃反の病(食べた物が消化せずいつまでも胃中に在る病)で吐けばものすごく喉が渇き
水を欲しがる者は茯苓澤瀉湯が主となる。
茯苓澤瀉湯の方 茯苓半斤 澤瀉四兩 甘艸二兩 桂枝二兩 白朮三兩 生薑四兩
茯苓澤瀉湯の作り方 茯苓8g 澤瀉4g 甘草2g 桂枝2g 白朮3g 生姜4g
右の六味を水一斗を以て煮て三升を取り澤瀉を内れ再び煮て二升半を取り温めて八合を服す。日に三服す。
沢瀉以外の五味と水400tと共に120tまで煎じ、沢瀉を入れて再び100tまで煎じ、1日3回に分けて温め服す。
(21)吐して後、渇して水を得んと欲し而して貪り飮む者は分蛤湯之を主どる。兼ねて微風の脉緊、頭痛を主どる。
吐いた後に喉が渇いて水を欲しがりむさぼる様に水を飲む者は分蛤湯が主となる。
同時に少しの風で脈が締まり頭痛がする者もまた分蛤湯が主となる。
分蛤湯の方 分蛤五兩 麻黄三兩 甘艸三兩 生薑三兩 石膏五兩 杏仁五十箇 大棗十二枚
分蛤湯の作り方 分蛤5g 麻黄3g 甘草3g 生姜3g 石膏5g 杏仁2g 大棗4g
右の七味を水六升を以て煮て二升を取り温めて一升を服す。汗出でて即ち愈ゆ。
右の七味と水240tと共に80tまで煎じ、1回40tを温め服す。服した後で汗が出れば治る。
(22)乾嘔して吐逆し涎沫を吐するは半夏乾薑散之を主どる。
乾嘔が止まず、口中に泡が混ざった水様の液を出す者は半夏乾姜散が主となる。
半夏乾薑散の方 半夏 乾薑各等分
半夏乾姜散の作り方 半夏 乾姜 各等分
右の二味を杵いて散と爲し方寸匕を取り漿水一升半を煎じて七合を取り頓に之を服す。
右の二味を臼に入れてキネで潰して散状にして2g前後を取り、
極めて薄い酢水を60tと共に28tまで煎じて急いでそれを服す。
(23)病人胸中喘に似て喘なら不、嘔に似て嘔なら不、エツ(口+歳+ノ)に似てエツ(口+歳+ノ)なら不。
病人が胸中でゼイゼイ音がして息苦しい様子でいて咳にならずゲェゲェと込み上げてきて吐くことはせず
ヒクヒクと突き上げる様でしゃっくりはしない。
心中に徹しカイ(リッシンベン+貴)カイ(リッシンベン+貴)然として奈する無き者は生薑半夏湯之を主どる。
こんな証が有りその気持ちが心中にまで来て、その為に心中がフワフワと乱れ、こんがらがった様になり
どうしようもない者は、生姜半夏湯が主となる。
生薑半夏湯の方 半夏半升 生薑汁一升
生姜半夏湯の作り方 半夏5g 生姜生汁20t
右の二味を水三升を以いて半夏を煮て二升を取り生薑汁内れ煮て一升半を取り小しく冷し四服に分ち、
日に三、夜に一服す。嘔止めば後服を停む。
右の半夏5gと水120tと共に80tまで煎じ、更にその中に生姜汁20tを加えて60tまで煎じる。
少し冷まして4回に分けて服し、朝昼夕夜に服す。もし1回で嘔吐止めば後の残りは服用する必要はない。
(24)乾嘔しエツ(口+歳+ノ)し若し手足厥する者は橘皮湯之を主どる。
乾嘔してしゃっくりが出て、その時に手足の先から冷える者は、橘皮湯が主となる。
橘皮湯の方 橘皮四兩 生薑半斤
橘皮湯の作り方 橘皮4g 生姜8g
右の二味を水七升を以て煮て三升を取り温めて一升を服す。咽を下れば即ち愈ゆ。
右の二味を水280tと共に120tになるまで煎じ、1回40tを温め服す。
橘皮湯を飲み込むと同時に治る。
(25)エツ(口+歳+ノ)逆の者は橘皮竹ジョ(竹+如)湯之を主どる。
しゃっくりが立て続けに出て止まない者は橘皮竹ジョ(竹+如)湯が主となる。
橘皮竹ジョ(竹+如)湯の方 橘皮二斤 竹ジョ(竹+如)二升 大棗三十枚 生薑半斤 甘艸五兩 人參一兩
橘皮竹ジョ(竹+如)湯の作り方 橘皮32g 竹ジョ(竹+如)5g 大棗10g 生姜8g 甘草5g 人参1g
右の六味を水一斗以いて煮て三升を取り温めて一升を服す。日に三服。
右の六味を水400tと共に120tまで煎じ1回40tを1日3回に分けて温め服す。
(26)夫れ六府の氣、外に絶する者は、手足寒え上氣し脚縮まる。
現在、胃・大腸・小腸・胆・膀胱・三焦の六府の栄気が外に巡らなくなる者は、
手足が冷えきって寒え、気が逆上し足が縮まる。
五藏の氣、内に絶する者は利禁ぜ不。下甚しければ手足不仁す。
肝臓・心臓・脾臓・肺・腎臓の五臓の気が内に巡らなくなる者は下痢が止まらなくなる。
その下痢が酷ければ津液を失い手足が痺れて感覚が無くなる(麻痺)。
(27)下利し脉沈弦の者は下重し、脉大なる者は未だ止ま不と爲す。
下痢して脈が沈んで弦の者は腹が渋り、下痢して脈が大きい者はその下痢は止みそうでも止まない。
脉微弱數の者は自から止まんと欲すると爲す。發熱すると雖も死せ不。
脈が微弱で数の者はひとりでに止みそうになっているから発熱しても死ぬようなことは無い。
(28)下利し手足厥冷して脉無き者、之に灸するも温まら不、若しくは脉還ら不。反って微喘する者は死す。
下痢して手足の先から冷えて脈が出ない者はお灸をすえても手足が温まらない。
又は脈が出てこず、そればかりか少し喘する者は死ぬ。
(29)少陰趺陽に負なる者順と爲す也。
少陰の脈が趺陽の脈より弱又は小さいのは順とするのである。
(逆に少陰脈大強で趺陽の脈小弱は病気である。)
(30)下利し微熱有りて渇し脉弱き者は自から愈え令む。
下痢して少し熱が有りのどが渇いて脈弱の者は自然に治る。
(31)下利し脉數にし微熱有り汗出づるは自から愈え令む。設し脉緊なれば未だ解せずと爲す。
下痢して脈数で少し熱が有り汗が出ている者は自然に治る。もし脈緊の者は未だ治らないのである。
(32)下利し脉數而渇する者は自から愈え令む。設し差え不れば必ず膿血を清す。熱有るを以ての故也。
下痢して脈数でのどが渇く者は自然に治る。もしも治らない者は必ず膿と血を下すものである。
それは熱が未だある為そうさせるのである。
(33)下利し脉反って弦發熱身に汗する者は自から愈ゆ。
下痢して脈がかえって弦なのに発熱して身に汗が出る者は自然に治る。
(34)下利氣する者は當に其の小便を利すべし。
下痢して気の証(大便を催したい気持ち)が有る者は当にその小便を出させてやりなさい。
(35)下利し寸脉反って浮數尺中自からショク(シ+嗇)なる者は必ず膿血を清す。
下痢して寸口の脈が浮数で尺中が勝手に渋(気が滞る脈)になる者は必ず膿血が出るのである。
(36)下利清穀するは其の表を攻む可から不。汗出づれば必ず脹滿す。
下痢の量が多く回数も多い者は例え発熱身痛など有っても決して汗をかかせてはいけない。
発汗させれば必ず腹が満る。
(37)下利し脉沈而遲、其の人面少し赤く身に微熱有り下利清穀する者は必ず鬱冒し汗出でて解し病人必ず微に厥す。
下痢して脈が沈遅でその人の顔が少し赤く身に微熱が有り下痢の回数や量共に多い者は、
必ず頭がボーっと塞がり被さった様になり汗が出てその顔の赤味と身の微熱が解れ、病人の手足が冷たくなるものである。
然る所以の者は其の面に陽を戴するも下虚するが故也。
その理由は、その顔にだけは陽を載せているが、下の方が虚しているからである。
(38)下利して後脉絶えて手足厥冷しスイ(日+卒)時に脉還り手足温かき者は生き脉還ら不る者は死す。
下痢する前の脈が下痢した後に打たなくなり手足が冷たくなった場合、
二時間以内に脈が打ち出して手足が温まってくる者は助かるが、二時間過ぎても脈が打たない者は死ぬ。
(39)下利腹脹滿し身体疼痛する者は先ず其の裏を温め乃ち其の表を攻む。
裏を温むるは四逆湯に宜しく表を攻むるは桂枝湯に宜し。
下痢して腹が満り身体が疼き痛む者は、先ずその裏を温め、裏が温まったらその表を攻めるのが順序である。
それで裏を温めようと思ったら四逆湯が良く、表を攻めるには桂枝湯が良い。
四逆湯の方(方見上)
四逆湯の作り方(上の第十六項の方を見よ・太陽病上第三十項・厥陰病第四十八項)
桂枝湯の方 桂枝三兩皮去 芍藥三兩 甘艸二兩 生薑三兩 大棗十二枚
桂枝湯の作り方 桂枝3g 芍薬3g 甘草2g 生姜3g 大棗4g
右の五味フ(口+父)咀し水七升を以い微火にて煮て三升を取り滓を去り寒温を適え一升を服す。
右の五味を刻んで水280ccと共に弱火で120ccまで煮詰めて滓を去り、その者の表の適温を見計らって40cc服す。
服し已り須臾して稀き粥一升を啜り以て藥力を助け温め覆いて一時許なら令め、
遍身チツ(執+水)チツ(執+水)として微しく汗有るに似たる者はu佳し。
服し終わってしばらくして薄い粥を40ccすすり薬力を助け身体を衣類や布団で被い二時間ばかり温め、
軽く汗をかかせてやりなさい。全身がしっとりと少し汗をかいた者は大いに良い。
水の淋漓るが如くなら令む可から不、若し一服して汗出で病差ゆれば後服を停む。
決して温め過ぎてポタポタと溢れる程に汗を出させてはいけない。もし一服で汗が少し出れば病は愈える。
後服はさせない。
(40)下利三分の脉皆平り之を按ずるに心下堅き者は急に之を下せ。大承氣湯に宜し。
下痢をしていて寸関尺の三部の脈には変化なく、心下部を摩ってみると心下が堅くなっている者は、
大急ぎでこれを下してやりなさい。それには大承気湯が良い。
(41)下利脉遲而滑なる者は實也。利は未だ止むを欲せず急に之を下せ。大承氣湯に宜し。
下痢していて脈遅滑の者は実でありその下痢はまだまだ止まらないのである。
だから急いでこれを下してやりなさい。それには大承気湯が良い。
(42)下利脉反って滑なる者は當に去る所有るべし。下れば乃ち愈ゆ。大承氣湯に宜し。
下痢している者の脈が滑になるべきではないのに反って滑の者はその滑にはどうしても去る所があるのである。
その去る所の道は下に有るので下れば愈ゆる。それには大承気湯が良い。
(43)下利已に差え其の年月日時に至り、復た發する者は病盡き不る者を以ての故也。
當に之を下すべし。大承氣湯に宜し。
下痢がその時は一旦癒えたのにその病がまたその時期と同じ様に年、月、日、時が来たらまた出て来る者は、
病の根が残っているのである。当にこれを下してやりなさい。それには大承気湯が良い。
大承氣湯の方(ケイ(ヤマイダレ+至)病中に見よ)
大承気湯の作り方 (痙湿エツ(日+曷)病中の第十三項を見よ)
(44)下利譫語する者は燥屎有る也。小承氣湯之を主どる。
下痢してうわ言を言う者は燥いた糞が有るからである。これには小承気湯が主となる。
小承氣湯の方 大黄四兩 厚朴三兩炙 枳實大者三枚炙
小承気湯の作り方 大黄4g 厚朴2g炙る 枳実2.1g炙る
右の三味を水四升を以いて煮て一升二合を取り滓を去り分ち温めて二服す。利を得て則ち止む。
右の三味を水160ccと共に煮て60ccまで煮詰めて滓を去り、二回に分けて温め服す。
一回服して下痢すれば後は服用しない。
(45)下利膿血を便する者は桃花湯之を主どる。
下痢して大便に膿や血が出る者は、桃花湯が主となる。
桃花湯の方 赤石脂一斤一半切一半篩末 乾薑一兩 粳米一升
桃花湯の作り方 赤石脂8gと末8gの計16g 乾姜1g 粳米14g
(*赤石脂を二分し半分を煮用、残りの半分を粉末にしておく。)
右の三味を水七升を以て米を煮て熟せ令め滓を去り七合を温め赤石脂末方寸匕を内れ日に三服す。
若し一服して愈ゆれば餘は服する勿れ。
右の三味(赤石脂末以外)を水280ccと共に米が煮てた時に滓を去り、更に火にかけて30ccまで煮詰め、
その中に赤石脂末2gを加えて一回に服す。一日三回に分けて服す。もし一服して癒えれば後は服さない。
(46)熱利し下重する者は白頭翁湯之を主どる。
下痢する度に熱く感じ、大便した後直ぐまた大便を催し、しかも大便が思う様に出ず、
肛門の内が詰まっている様でサッパリしない者は白頭翁湯が主となる。
白頭翁湯の方 白頭翁二兩 黄連三兩 黄檗三兩 秦皮三兩
白頭翁湯の作り方 白頭翁2g 黄連3g 黄柏3g 秦皮3g
右の四味を水七升を以いて二升を取り滓を去り温めて一升を服す。愈え不れば更に服す。
右の四味を水280ccと共に80ccになるまで煮詰めて滓を去り、一回40ccずつ温めて服す。
一回で癒えなければ更にもう一回服す。
(47)下利使て後更りて煩し之を按ずるも心下濡なる者は虚煩と爲す也。梔子シ(豆+支)湯之を主どる。
下痢した後その下痢が収まったと思えば下痢と入れ替わりに悶えだしたので、
心下に何か留まっているのではないかと手で心下を触った所、心下は柔らかで何も入っていない者は虚から来る煩である。
梔子シ(豆+支)湯が主となる。
梔子シ(豆+支)湯の方 梔子十四枚 香シ(豆+支)四合綿裏
梔子シ(豆+支)湯の作り方 梔子1.4g 香シ(豆+支)6.4g綿の布で包む
右の二味を水四升を以て先ず梔子を煮て二升半を得シ(豆+支)を内れ煮て一升半を取り滓を去り
二服に分ち温め一服を進む。吐を得れば則ち止む。
右の二味中の梔子を水160ccと共に100ccまで煮詰め、その中に香シ(豆+支)を入れて更に60ccまで煮詰めて滓を去り、
二回に分けて温めて一回分を服用する。もし服した後吐を生じたら残りは服用しない。
(48)下利清穀し裏寒え外熱し汗出でて厥する者は通脉四逆湯之を主どる。
下痢して穀が止めどなく下り、その為に体の中が冷えて手足を縮め身体の外だけが熱くなり、
汗をかいて手足が冷たくなった者は、通脈四逆湯が主となる。
通脉四逆湯の方 附子大者一枚生用 乾薑三兩強人可四兩 甘艸二兩炙
通脈四逆湯の作り方 附子0.2g生用 乾姜3g 甘草2g炙る
右の三味を水三升を以いて煮て一升二合を取り滓を去り分ち温めて再び服す。
右の三味を水120ccと共に50ccになるまで煮詰めて滓を去り、二回に分けて温め服す。
(49)下利肺痛するは紫參湯之を主どる。
下痢して肺が痛む者は紫参湯が主となる。
紫參湯の方 紫參半斤 甘艸三兩
紫参湯の作り方 紫参8g 乾姜3g
右の二味を水五升を以て先ず紫參を煮て二升を取り甘艸を内れ煮て一升半を取り分ち温めて三服す。
右の二味の中の紫参と水200ccと共に80ccまで煮詰め、その中に甘草を入れて60ccになるまで煮詰め、
滓を去り、三回に分けて温め服す。
(50)氣利は訶梨勒散之を主どる。
ガスのみ多くて腹が脹る類の証が有る者は訶梨勒散が主となる。
訶梨勒散の方 訶梨勒十枚ウズミビ(火+畏)
訶梨勒散の作り方 訶梨勒3g(砂又は小砂利を熱した中に入れよく掻き混ぜて焼く)
右の一味を散と爲し粥飮に和し頓に服す。(疑仲景方非)
右の一味を散にし、粥に和して直ちに服す。(これは張仲景の記では無いのではないか)
(51)附方 千金翼小承氣湯は大便通ぜ不エツ(口+歳+ノ)し數譫語するを治す。
千金翼方に載っている小承気湯は、大便の出が悪く、しゃっくりをして、シバシバうわ言を言う者を治す。
(52)外臺の黄ゴン(草冠+今)湯は乾嘔下利を治す。
外臺に載っている黄ゴン(草冠+今)湯は、乾嘔して下痢する者を治す。
黄ゴン(草冠+今)三兩 人參三兩 乾薑三兩 桂枝一兩 大棗十二枚 半夏半斤
(六物)黄ゴン(草冠+今)湯の作り方 黄ゴン(草冠+今)3g 人参3g 乾姜3g 桂枝1g 大棗4g 半夏5g
右の六味を水七升を以て煮て三升を取り温め分ちて三服す。
右の六味を水280ccと共に120ccまで煮詰めて滓を去り、三回に分けて温め服す。
《嘔吐エツ(口+歳+ノ)下利病脉證并びに治 第十七》
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