更新日 1995年(平成7年)1月31日〜2022年(令和4年)11月17日
※ 私なりの解釈なので、あくまでも参考までに。
※ 突然の解説変更ございます。
太陽病の脉證と併せて治を辨す・下の第七
太陽病の脈状と証候並びにそれに対する治方を詳しく述べたもの・下第七
(1)問うて曰はく、病に結胸有り、藏結有り、其の状ち如何。
お尋ねします。病名に結胸と臓結が有りますが、その形はどんなものなのですか。
答えて曰はく、之を按ずれば痛み、寸脉浮、関脉沈なるは名づけて結胸と曰う也。
それは、胸又は胸の下を押したりなでたり触ったりすればそこが痛み、
寸脈が浮で関脈が沈を名づけて結胸と言うのだ。
何をか藏結と謂う。答えて曰はく、結胸の状ちの如く、飲食故の如く、時時下利し、
ではどういうのを臓結というのですか。それは結胸の様な感じで、いつも通りに飲み食いが出来て、
たまに腹が下り、
寸脉浮、関脉小細沈緊なるを名づけて藏結と曰う舌上に白胎滑なる者は治し難し。
寸脈が浮で関脈が少し細で沈緊なるのを臓結というのだ。
舌の表面に白苔が有り、それがツルっと滑らかな者は臓結で、この様な舌候の者は治しにくい。
(2)藏結陽證無く、往来寒熱せず、其の人反って静かに舌上胎滑なる者は、攻む可から不る也。
臓結を病んでいて、頭痛、発熱、悪寒などの陽証は無く、往来寒熱もせず、その人の様子は反対に静かで穏やかでいて、
舌上の苔がツルっと滑らかな者は、肺と心臓共に虚しているのだから攻めてはいけない。
(3)病陽に發するに、返って之を下し、熱入れば因って結胸を作す。
患う場所が身体の表面に在る場合、汗を発したりして上に気を抜くべきなのに、反対にこれを下に下してしまえば、
その表の病は治らず、表の邪気が結ばれて熱となりその熱が内に入り、その為に結胸を起こす。
病陰に發するに、返って之を下せば、因って痞と作る。
病気が体の中から始まり、それを反対に下すと、その為に胸が痞えてくるのだ。
結胸と成る所以の者は、之を下すこと太だ早きを以っての故也。
結胸と成る理由は、病が陽に発したのを下した時期があまりにも早すぎた為だ。陽虚は下してはいけない。
(4)結胸の者、項も亦強ばること柔ケイ(ヤマイダレ+至)状の如きは、之を下せば則ち和す。大陷胸丸の方に宜し。
結胸している上に、項も強張り痛み、首や背中を動かすことが出来ず、熱が在り、汗が出て、寒気が無い様な
柔らかい風邪の様に診えるのは下してやればそれで治まる。そういう者には大陷胸丸の方が好い。
大陷胸丸の方 大黄半斤 テイ(草冠+亭)レキ(草冠+歴)半斤熬る 芒硝半升 杏人半升皮尖を去り熬りて黒くす。
大陷胸丸の作り方 大黄8g テイ(草冠+亭)レキ(草冠+歴)5g火にかけて水分を取り去る 芒硝6g
杏仁5g皮と芽を去って火にかけて水分を飛ばし黒くする
右の四味の二味を搗き篩い杏人芒硝を内れ、合わせ研りて脂の如くし、
右の四味中の大黄とテイ(草冠+亭)レキ(草冠+歴)の二味を搗いて篩い、
杏仁と芒硝を入れて薬研で磨り合せてベトベトの油状にし、
散に和して弾丸の如くし、一枚を取り、別に搗きたる甘遂末壹錢匕と白蜜二合と水二升とで、
煮て一升を取り、温かくして頓に之を服す。
この四味を混和させて散にし、それをいくつかの弾丸大の玉を作り、その一個を別に末にしておいた甘遂末1gと
蜂蜜40tと水80tと共に40tまで煮詰め、その温かい汁を1回に服用する。
一宿して乃ち下る。如し下ら不れば、更に服し下を取るを效と爲す。禁じて藥法の如くせしむ。
これを服すれば一晩を過ぎて下痢する。下痢しなければ更に服し下痢をさせれば薬が効いたという印である。
絶対に薬法に従うこと。(*初めは1/3程度から与えるのが安心である。)
(5)結胸の證、其の脉浮大の者は下す可から不。之を下せば則ち死す。
結胸の証を表し、その人の脈が浮いて大の者は、裏虚だから下してはいけない。
裏虚が激しい者を下せば死んでしまうことがある。
(6)結胸の證悉く具わりて、煩燥する者も亦た死す。
結胸の脈証(寸口脈浮で関上脈沈)が全部そろっていて、熱がりもだえ苦しむ者もまた下せば死に至らしめる。
(7)太陽病脉浮にして動數、浮は則ち風と爲し、數は則ち熱と爲し、動は則ち痛みと爲し、數は則ち虚と爲す。
太陽病で脈浮で指触りの動きが荒々しく早い者は、その脈浮は風から来て、数脈は熱から来ているのだ。
脈の動きが荒々しいのは痛みがある印であり、数脈は虚から来ているのである。
頭痛發熱微に盗汗出でて而も反って悪寒する者は、表未だ解せざる也。
頭痛、発熱、少し寝汗をかき、しかも反って悪寒する者は、表が未だ解けてないのである。
醫反って之を下し、動數遅に變じ膈内拒痛胃中空虚客気膈を動じ、
医者がアベコベに下しをかけ、早かった脈が遅くなり、胸中の下部で腹に接した所が拒むように痛み、
胃中は空っぽだが、外から来た膈(胸中の下部で腹の接した所)を動かし、
短氣躁煩心中懊ノウ(立心偏+農)、陽氣内に陥り、
息が早くて苦しくジッとしていられなくなり心中がやるせない気持ちになり、外に在った陽気が内部に落ち込み、
心下因ってカタ(革+更)きは、則ち結胸と爲す。大陷胸湯之を主どる。
その為に自分でも心下が硬いのが分かり、外から触っても硬いのは、これを結胸とする。
そういう時は大陷胸湯を用いる。
若し結胸せず、但頭汗出で、餘に汗無く、頸で劑りて還り、小便不利すれば身必ず黄を發す也。
もし下した後で結胸にならないで、但だ頭からだけ汗が出てて他には汗が無く、首を境にして汗の出る所と汗が出ない所が
ハッキリと仕切られ、小便が出ないのは、身体に必ず黄疸を発するものである。
大陷胸湯の方 大黄六両皮を去る 芒硝一升 甘遂一錢
大陷胸湯の作り方 大黄6g皮を去る 芒硝12g 甘遂1g末にする
右の三味を水六升以って、先ず大黄を煮て二升を取り、滓を去り、芒硝を内れ煮ること一両沸し甘遂末を内れ、一升を温服す。
先ず水240tを以って大黄と共に80tまで煮てカスを去り、その中に芒硝を加えて1〜2沸させて溶解させ、
その中に甘遂末を入れて40tになるまで煮詰め、40tを温めて服する。
快利を得て後服を止む。
便通が気持ちよく出れば、残りの1回分は服用を止める。
(8)傷寒六七日、結胸熱實脉沈にして、緊心下痛み、之を按ずれば石コウ(革+更)なる者は、大陷胸湯之を主どる。
傷寒になって6日目か7日目に結胸を生じて熱を持ち、脈が沈緊になり、心下が痛み、
これを押すとそこが石の様に硬い者は、大陷胸湯が中心となる。
(9)傷寒十餘日、熱結裏に在り。復た往来寒熱する者には、大柴胡湯を与う。
傷寒を病んで11〜13日目位に、熱の寄りが体の中にできて、胸中が痛んだり胸中が詰まったり胸中が苦しい等の証候を訴え、
その上往来寒熱が有る者は、大柴胡湯を与えてやれ。
但だ結胸し、大熱無き者は、此れ水結胸脅に在りと爲す也。
但だ結胸だけを病んで大熱が無い者は、これは体中の水が一カ所に縛られて他所へ流れていけなくなり、
それが胸と脇に在るということである。
但だ頭に微汗出づる者は、大陷胸湯之を主どる。
但だ頭からだけ汗が少し出る者は、大陷胸湯が中心となる。
(10)太陽病重ねて汗を發し、而して復た之を下し、大便せ不ること五六日、舌上燥して渇し、
太陽病で一度汗を発したが治らないので何回も汗を発して更に下しをかけたら大便が出なくなり、
大便が出なくなって5〜6日も経つと、舌の表面がカラカラに乾いてはしゃぎ、
日ポ(日+甫)所小し潮熱有り、心下從り少腹に至ってコウ(革+更)滿して痛み、近ずく可から不る者は、大陷胸湯之を主どる。
夕方近くになると少し潮熱が出て来るようになり、心下から下腹にかけて硬く張って痛み、
その痛みは少しの音でも激しく痛ませるから近寄れない。そういう者には大陷胸湯が中心となる。
(11)小結胸の病は、正に心下に在りて、之を按ずれば則ち痛む。脉浮滑なる者は、小陷胸湯之を主どる。
小結胸という病は、当然心下が硬くなるが結胸より範囲は狭く、その心下を押すと痛がる。
そして脈は浮で滑らかな者は、小陷胸湯が中心となる。
小陷胸湯の方 黄連一兩 半夏半升洗う カ(木+舌)楼實大なるもの一箇
小陷胸湯の作り方 黄連1g 半夏5g洗う カ(木+舌)楼実5g
右の三味を水六升を以って、先ずカ(木+舌)楼を煮て三升を取り、滓を去り、諸藥を内れ、煮て二升を取る。
滓を去り、分ちて温かきを三服す。
先ずカ(木+舌)楼実だけを水240tと共に120tになるまで煮詰めてカスを去り、他の二味を入れて
更に80tになるまで煮詰めてカスを去り、1日3回に分けて温め服す。
(12)太陽病二三日、臥する能は不、但だ起きんと欲し、心下必ず結し、脉微弱なる者は、此れ本寒分有る也。
太陽病を病んで2日目か3日目に、陽気が虚して表に熱有れば、寝ようとしても横になれないでただ起きたがり、
内の陰気が実すると心臓の下辺りがギュッと結わえられた様になり脈が少し弱いのは、
これは元々その中に寒を持っているからである。
反って之を下し、若し利止めば必ず結胸を作す。未だ止まざる者を、四日復た之を下せば、此れ協熱を作す也。
逆にこれを下し、もし下した為に下痢が自然に止めば必ず結胸を起こす。
下痢が止まないうちに4日目に再び下しをかければ、裏寒と表熱とが合わさり、下痢を引き起こすものである。
(13)太陽病之を下し、其の脉促結胸せ不る者は、此れ解せんと欲すると爲す也。
太陽病を下した後、その脈が促(速くて不規則な不整脈)で結胸しない者は、これは病が解けようとしているのだ。
脉浮の者は、必ず結胸する也。脉緊の者は、必ず咽痛し、脉弦の者は、必ず兩脅拘急し、
下しても脈沈にならず相変わらず浮いている者は必ず結胸する。
下した後で脈が緊になった者は必ず喉が痛みだし、脈が弦になった者は必ず左右の脇部が引っ張られるように詰まり、
脉細數なる者は、頭痛未だ止まず。脉沈緊なる者は、必ず嘔せんと欲し、
脈が細く数になった者は頭痛が未だ止まないのである。脈が沈んで緊になった者は必ず吐きたがり、
脉沈滑なる者は、協熱利し、脉浮滑なる者は、必ず下血す。
脈が沈んで滑になった者は寒と熱とが合わさり下痢をする。脈が浮いて滑になった者は必ず血便が出る。
(14)病陽に在り、應に汗を以って之を解するに應ずるを、反って冷水を以って之にフ(シ+巽)き、
病が外(表面に熱を帯びている)に在れば汗を出させて治してやりなさい。
あべこべに冷水を用いて病人の体に口から吹きかけたり、
若しくは此れに灌げば、其の熱却け被れて去るを得不。彌よ更にuす煩し、肉上粟起す。
又は冷水を体に浴びせれば、その表面にある熱が再び中の方へ追い込まれて外へ出ることが出来なくなり、
間違いなく冷水をかける前より余計に酷くなり増々苦しみだし肌が鳥肌の様に立つ。
意ふに水を飮まんと欲して、反って渇せ不る者は、分蛤散を服す。
水を飲みたいという気持ちは有るが、別に喉は渇かない者には分蛤散を服すればいいが、
若し差え不る者は五苓散を与う。寒實結胸し、熱證無き者は、三物小陷胸湯を与う。白散も亦た服す可し。
もし分蛤散を呑ませても煩や鳥肌が治らない者には五苓散を与えればいい。
外の寒が内に迫り、終りに内に実を生じて結胸し、発熱や渇などの熱証が無い者には
三物により成り立つ小陷胸湯を与えればいい。
分蛤散の方 分蛤五兩
分蛤散の作り方 分蛤5g
右の一味を散と爲し、沸湯を以って一錢匕に和し服す。湯は五合を用ゆ。
右の一味を搗いて散とし、沸騰した湯20tと分蛤末2gを混ぜ合わせて服用する。
白散の方 桔梗三分 芭豆一分皮心を去りKく熬りて研りて脂ぼ如くす 貝母三分
桔梗白散の作り方 芭豆1g堅い外皮と薄い内皮を去り中身を二つに割って内に有る薄い胚葉を除き
仁を黒くなるまで熬って薬研で下ろしバターの様に擂り潰す 桔梗3g 貝母3g
右件の三味を末と爲し、芭豆を内れ更に臼中び於て之を杵き、白飮を以って和し、
右の桔梗と貝母を末にし、これにバター状にした芭豆を加えて臼に入れてよく擦って混ぜ合わせて40tの重湯に混ぜ、
強人の半錢を服し、羸き者は、之を減ず。
丈夫な人は1回0.5gを用い、きゃしゃな人は適当に散の量を減らし、
病膈上に在れば必ず吐し、膈下に必ず利す。
これを服した後、病が胸中に在った場合には病人は吐き、腹が下り下痢をする。
利せ不れば熱粥一杯を進め、利し過ぎて止ま不れば冷粥一杯を進む。
もし桔梗白散を服しても腹が下らない時は、熱いお粥を一杯啜らせてやれば腹が下りだして治る。
もし桔梗白散を服した後、薬が強過ぎて下痢が止まらなくなった者のには冷たいお粥を一杯呑ませてやれば下痢が収まる。
もしも一杯で収まらなければ更に与えれば必ず収まる。
身熱皮粟解せ不、衣を引きて、自ら覆はんと欲する者は、若しも水を以って之にフ(シ+巽)き之に洗げば、
水を体にかけた為に鳥肌が立って身に熱が有り、その鳥肌が治らず服を重ね着して暖をとろうとする者を
もしも更に冷水を吹きかけたり体にかけたりすれば、
uす熱をして却ぞけて出ずるを得不らしむ
増々熱が退かなくなり外へ出られなくなってしまう。
当に汗すべくして汗せ不るは則ち煩す。假令汗出で已り、腹中痛めば芍薬三兩を与うること。上法の如くす。
当然汗を出させればいいが、汗が出なければ病人は余計に苦しみ悶えだす。
例えば、もし汗が出た後で腹中が痛むことが有るとする。
そういう時には芍薬3gを分蛤散や桔梗白散の様に散にして与えてやりなさい。
(15)太陽と少陽との併病頭項強痛し、或いは眩冒し、時に結胸の如く心下痞コウ(革+更)する者は、
当に大椎第一間肺の愈、肝の愈を刺すべし。
太陽の経と少陽の経とが交わって病み、頭や項が強ばり痛み、或いは頭に物を被せられた様に気が遠くなり、
時に結胸を患った様に心下が堅くなったりする者は、当然大椎第一間と肺兪と肝兪とを刺してやりなさい。
慎しんで汗を發す可から不。汗を發すれば、則ち譫語す。
軽はずみに発汗の法を行ってはいけない。汗を出させれば訳の分からいうわごとを言い出す。
脉弦五六日、譫語止ま不れば当に期門を刺すべし。
脈が弦になり五〜六日経ち、うわごとを言い続ける者は、当然期門を刺してやれ。
(柴葛解肌湯(浅田家方)は、太陽病と裏的少陽証の併病に移行した時用いる)
(16)婦人中風發熱惡寒經水適ま來たり、之を得て七八日、熱除いて脉遅に身涼しく、
婦人が中風にかかり発熱悪寒して月経がたまたま来て、それから六〜七日が経ち熱がとれて脈が遅くなり、
身体が薄っすらと寒い感じがして
胸脇下滿ること結胸状ぼ如く譫語する者は、此れ熱血室に入ると爲す也。
胸脇の下の方が満る感じがまるで結胸に診えてうわごとを言う者は、これは熱が子宮に入ったのである。
当に期門を刺し、其の實に隨ひて之を瀉す可し。
当然期門を刺してその実している度合に応じてこれを瀉してやれ。
(17)婦人中風七八日続いて寒熱を得、發作時に有り、經水適ま断つ者は、此れ熱血室に入ると爲す。
婦人が中風にかかり七〜八日が経ち、寒気と熱がずっと続いて、発作が起こる時間が毎日決まって有り、
月経が思いがけなく一時的に止まる者は、これは熱が子宮に入ったからである。
其の血必ず結す。故に瘧状の如く發作時に有ら使む。小柴胡湯之を主どる。
その血は必ず子宮に入り、瘧病の様に寒と熱とが代わり代わる起る発作を時間を決めて起こさせるのである。
それには小柴胡湯が中心となる。
(18)婦人傷寒發熱經水適ま來たり、晝日明了暮には則ち譫語し、
婦人が傷寒にかかって発熱している時に、丁度月経の有る時にぶつかり、月経が始まりだしてから
昼間は別に異常は無いが、夕方過ぎになるとうわごとを言い出す様になり、
鬼状を見るが如き者は、此れ熱血室に入ると爲す。
しかもそのうわごとを言う様子が鬼を見てでもいるか鬼と話している様な者は、これは熱が子宮に入り込んだのであって、
胃氣及び上の二焦を犯すこと無ければ、必ず自ら愈ゆ
やたら下したり発汗させたりする様な事さえしなければ、きっと自然に治るものである。
(19)傷寒六七日、發熱、微惡寒、支節煩疼、微嘔、
傷寒を病み始めてから六日目か七日目になって、発熱して少し寒気が有り、手足の関節が疼き痛み、軽い嘔吐が有り、
心下支結、外證未だ去ら不る者は、柴胡桂枝湯之を主どる。
みぞおちの下が堅く下から押し上げられている様な感じがして、外証が未だ取り切れない者は、柴胡桂枝湯が中心となる。
柴胡桂枝湯の方 桂枝 黄ゴン(草冠+今) 人參各一兩半 甘艸一兩 半夏二合半 芍薬一兩半 大棗陸枚 小薑一兩半
柴胡四兩
柴胡桂枝湯の作り方 桂枝1.5g 黄ゴン(草冠+今)1.5g 人参1.5g 甘草1g 半夏2.5g 芍薬1.5g 大棗2g 生姜1.5g
柴胡4g
右の九味を水シチ(シ+七+木)升を以って煮て三升を取り、滓を去り、温服す。
右の九味を水280tと共に120tまで煮詰め、滓を去り、1回に40tずつ1日3回温め服す。
(20)傷寒五六日已に汗を發し、而して復た之を下し、胸脅滿微結小便不利渇して嘔せず、
傷寒にかかって5日目か6日目に、既に汗を発した上に下しまでして胸や両脇が張って少し堅くなり、これを触ると痛み、
小便の出が悪く、喉が渇いて嘔はせず、
但だ頭汗出で、往来寒熱心煩する者、此れ未だ解せずと爲す也。柴胡桂枝乾薑湯之を主どる。
但だ頭だけから汗が出て、寒と熱とが行ったり来たりし、胸苦しい者は、これは未だ解けないという事だ。
そういう者には柴胡桂枝乾姜湯が中心となる。
柴胡桂枝乾薑湯の方 柴胡半斤 桂枝三兩皮を去る 乾薑三兩 カ(木+舌)楼根四兩 黄ゴン(草冠+今)三兩
牡蠣三兩熬る 甘艸二兩炙る
柴胡桂枝乾姜湯の作り方 柴胡8g 桂枝3g皮を去る 乾姜3g カ(木+舌)楼根4g 黄ゴン(草冠+今)3g
牡蠣3g熬る 甘草2g炙る
右七味水一斗二升を以って煮て六升を取り、滓を去り、再び煎じて三升を取り、一升を温服す。日三服す。
右の七味を水480tと共に240tになるまで煮詰め、滓を去り、再び火にかけて120tまで煮詰め、
1回40tを1日3回温め服す。
微煩すれば復た服す。汗出でて便ち愈ゆ。
初服して少し気持ちが悪くなれば再服し、汗が出たら直ぐに治る。
(21)傷寒五六日、頭汗出で微惡寒手足冷心下滿口食するを欲せず、
傷寒にかかり5〜6日頃に、頭だけ汗が出て、少し寒気がして、手足の先が冷たく、心下が満り、
喉中がパサパサに乾いて食物を入れて噛むのを嫌い、
大便カタ(革+更)く脉細なる者は、此れ陽微に結すと爲す、必ず表に有り、復た裏に有る也。
大便は堅く、脈が細い者は、これは陽気が少し結わえられて伸びず外へ発出する事が出来ないで表に留まり、
その上裏にも病が有るのだ。
脉沈も亦た裏に在る也。汗出づるを陽微と爲す。
脈が沈んでいるのもまた病が裏に在るという印で、頭から汗が出るのもまた陽気が少しであるという印である。
假令純陰結すれば復た外證有るを得不。悉く入りて裏に在り、此れは半ば裏に在り、半ば外に在りと爲す也。
例えば、陰だけが結ばれれば外証を表すわけにはいかなく皆裏入ってしまう。
それでこれは半分は裏に在るが半分は外に在るとするのである。
脉沈緊と雖えども少陰の病と爲すを得不。然る所以の者は、陰は汗有るを得不るに今頭汗出づ。
故に少陰に非ざるを知る也。
脈が沈んで緊であっても少陰病とすることはできない。なぜなら陰には汗を出せないのに今頭から汗が出ているから
それで少陰でないということが判る。
小柴胡湯を與う可し。了了たら不る者は、屎を得て解す。
これには小柴胡湯を与えてやればいい。もし小柴胡湯を与えた後で具合は好くなったが、
それでも未だサッパリとしない場合は、大便が出て初めてサッパリするのである。
(22)傷寒五六日、嘔して發熱する者は、柴胡湯の證具る。而に他藥を以って之を下し、
柴胡の證仍お在る者は、復た柴胡湯を與う。
傷寒にかかって5〜6日経った時に、ゲェゲェと吐き、発熱した者は、小柴胡湯の証が調っている。
それを他薬で下しをかけても柴胡の証が残っている者には、重ねて小柴胡湯を与えてやりなさい。
此れ已に之を下すと雖えども、逆を爲さ不、必ず蒸蒸として振ひ却って發熱汗出でて解す。
そうすると、これは下した後だが病証は変わっていないから必ず蒸し蒸しと熱くなり震えてきて
下す前の様に熱が出てそれから汗が出て解ける。
若し心下滿してコウ(革+更)痛する者は、此れを結胸と爲す也。大陷胸湯之を主どる。
もし下した後で心下が満って堅くなり、そこを触ると痛む者は、これは柴胡の証が変じて結胸となったのである。
そういう者には大陷胸湯が中心となる。
但だ滿して痛ま不る者は、此を痞と爲す。柴胡之を與うるに中ら不。半夏瀉心湯に宜し。
ただ心下は満るが堅くはなく、そこを触っても痛まない者は、これは変じて痞となったのであるから
大陷胸湯はもちろんのこと、柴胡剤を与えても駄目なので、これには半夏瀉心湯がよい。
半夏瀉心湯の方 半夏半升洗ふ 黄ゴン(草冠+今) 乾薑 人参已上各三兩 黄連一兩 大棗十二枚擘く 甘艸三兩炙る
半夏瀉心湯の作り方 半夏5g洗う 黄ゴン(草冠+今)3g 乾姜3g 人参3g 黄連1g 大棗4g 甘草3g炙る
右の七味を、水一斗を以って煮て六升を取り、滓を去り、再び煮て三升を取り、一升を温服す。日に三服す。
右の七味を水400tと共に240tまで煮詰め、滓を去り、再び120tまで煮て1回40tずつ1日3回温め服す。
(23)太陽少陽の併病を而も反って之を下せば、結胸と成る。
太陽経と少陽経との併病は下すべきではないのに、無理にこれを下すと結胸になり、
心下カタ(革+更)く、不利止まず、水漿下らず、其の人心煩す。
心下は堅く、下痢は止まず、飲食類も飲み込むことが出来ず、心下が苦しくなり悶える。
(24)脉浮にして緊而るを復た之を下し、緊反って裏に入れば則ち痞を作す。
脈が浮いて緊の者もまたこれを下すと緊が反って裏に入り痞の病を作ってしまう。
之を按ずれば自ら濡。但だ氣痞する耳。
これを擦ってみると柔らかい。これは但だ気が痞えているだけである。
(25)太陽の中風、下痢嘔逆表解する者は、乃ち之を攻む可し。
太陽経の中風病で、腹が下り、劇しく吐き気を催しゲェゲェ吐き、表に在る悪寒や発熱の病証が解けた者は、
下してやればいい。
其の人チュウ(執+水)チュウ(執+水)と汗出で、發作有り、頭痛心下痞コウ(革+更)滿、脅下に引きて痛み、
下痢や嘔逆している者は、ジトジトと汗が出て、時を切って病が始まったり止んだりする。
頭痛やみぞおちの下が満って堅く張って痞え、脇腹の下までも引っ張られるように痛み、
乾嘔短氣汗出で惡寒せ不る者は、此れ表解して裏未だ和せ不る也。十棗湯之を主どる。
ゲェゲェと音だけ出て物が出ず、息が早く、汗が出て寒気がしない者は、これは表が解けて裏が未だ調わないのである。
そういう者には十棗湯が中心となる。
十棗湯の方 芫花熬る 甘遂 大戟 大棗十枚擘く
十棗湯の作り方 芫花熬る 甘遂 大戟 各等分 大棗4g擘く
右上の三味等分を各別に搗いて散と爲し、水一升半を以って、先ず大棗の肥えたる者十枚を煮て八合を取り、滓を去り、
藥末を内れ、強人は一錢匕を服し、羸人は半錢を服す。温かくして之を服し、平旦に服す。
右の三味を各個別に搗いて散とし、先ず大棗と水60tと共に30tまで煮詰め、滓を去り、
先ず、丈夫な人は後の三味の末を1回1g用い、きゃしゃな人は0.5gを用いて、朝食前に温めて服用する。
若し下ること少くして病除か不る者は、明日更に服するに半錢を加う。快下利を得て後、糜粥にて自から養ふ。
もしこの量を服しても少ししか下痢せず治らない者は、明日の朝更に0.5gずつ増量して服させ、
気持ちよく下りだしたら極く柔らかいお粥を啜らせて力が付くのを待ちなさい。
(26)太陽病醫汗を發し、遂に發熱惡寒す。因って復た之を下し心下痞す。
太陽病を医者が発汗させ、それにより発熱と悪寒が始まり、だからとまた更にこれを下してしまえば心下が痞えだす。
表裏倶に虚すれば陰陽の氣並びに竭き、陽無ければ則ち陰は獨りなり。
発汗と下した為に表裏共に虚すれば、陰気も陽気も滅びてしまい、陽気が無くなれば陰気だけになる。
復た焼針を加う。因って胸煩し、面色青黄膚ウゴ(目+門+王)く者は、治し難し。
また発汗しても下しても治らないからと重ねて焼鍼を加えて温めた為に胸が苦しくなり顔色が青黄になり
皮膚がピクピク動き出した者は治し難い。
今色微に黄く手足温かなる者は、癒え易し。
もしもその中でも、色が少し黄いだけで手足が温かい者は治りやすい。
(27)心下痞、之に按ずれば濡、其の脉關上に浮なる者は、大黄黄連瀉心湯之を主どる。
心下が痞えて、それを触ってみると柔らかく、関上の脈が浮いている者は、大黄黄連瀉心湯が中心となる。
大黄黄連瀉心湯の方 大黄二兩 黄連一兩
大黄黄連瀉心湯の作り方 大黄2g 黄連1g
右の二味を麻沸湯二升を以って之を漬し、須臾に絞りて滓を去り、分温再服す。
右の二味を、水80tを沸騰させた中に入れて2〜3分漬けてから絞って滓を去り、2回に分けて温め服す。
(28)心下痞して復た惡寒し、汗出づる者は、附子瀉心湯之を主どる。
心下が痞えて悪寒し汗が出る者は、附子瀉心湯が中心となる。
附子瀉心湯の方 大黄二兩 黄連 黄ゴン(草冠+今)各一兩 附子一枚炮じて皮を去り被り別ちて煮て汁を取る
附子瀉心湯の作り方 大黄2g 黄連1g 黄ゴン(草冠+今)1g
附子0.2〜0.3g炮じて皮を去り八片に裂き水40tと共に煮て20tの汁を取る
右の四味を三味を切り、麻沸湯二升を以って之を漬け、須臾に絞りて滓を去り、附子汁を内れ分温再服す。
大黄黄連黄ゴン(草冠+今)の三味を刻み、先ず水80t沸騰させ、その中に三味を漬けて直ちに絞って滓を去り、
附子の汁を加えて2回に分けて温め服す。
(29)本之を下すを以って、故に心下痞し、瀉心湯を與へて痞解せず。其の人渇して口燥煩小便不利する者は、
五苓散之を主どる。
下した為に心下が痞え、瀉心湯を服しても痞えが解けず、その人は喉が渇いて口中がはしゃいでたまらなくなり、
小便の出が悪い者は、五苓散が中心となる。
(30)傷寒汗出で解するの後、胃中和せ不、心下痞コウ(革+更)、乾噫食臭脅下水氣有り、
腹中雷鳴下利する者は、生薑瀉心湯之を主どる。
傷寒を病んでいる者が自然に汗が出て病が解けた後、胃中が調わず心下が痞えて堅くなり、
ゲップをしたら食物の匂いがし、脇下に水が有る為に腹中がゴロゴロと鳴り下痢をする者は、生姜瀉心湯が中心となる。
生薑瀉心湯の方 生姜四兩切る 甘艸三兩炙る 人参三兩 乾薑一兩 黄ゴン(草冠+今)三兩 半夏半升洗ふ
黄ゴン(草冠+今)一兩 大棗十二枚
生薑瀉心湯の作り方 生姜4g切る 甘草3g炙る 人参3g 乾姜1g 黄ゴン(草冠+今)3g 半夏5g洗う
黄ゴン(草冠+今)1g 大棗4g
右の八味を水一斗を以って煮て六升を取り、滓を去り、再び煎じて三升を取り、一升を温服す。日に三服す。
右の八味を水400tと共に240tまで煮て滓を去り、再び120tまで煮詰め、1回40tずつ1日3回温め服す。
(31)傷寒中風、醫反って之を下し、其の人下利日に数十行穀化せ不、腹中雷鳴心下痞コウ(革+更)して滿、
傷寒病や中風病で、表が未だ解けていない者を医者が下した為にその人は下痢が始まり一日数十回も下痢し、
穀物が消化しない為に腹中がゴロゴロと鳴り、心下が痞えて堅く張り、
乾嘔心煩安きを得不、醫心下痞するを見て、病盡き不と謂い、復た之を下し、其の痞uす甚し。
乾嘔と心煩とがあるから病人が心落ち着かないのを、医者は心下が痞えて堅いのを診て、
これは病が未だ取り切れていないのだと言い、またこれを下したところ、その痞えて堅いのが前よりずっと酷くなった。
此れ結熱に非らず。但だ胃中虚し、客氣上逆するを、以ての故にコウ(革+更)から使むる也。甘艸瀉心湯之を主どる。
これは結熱に因るものではなく、胃中が虚している所へ外から入ってきた気が上逆してきて、
それで堅くさせただけなのである。これには甘草瀉心湯が中心となる。
甘艸瀉心湯の方 甘艸四兩 黄ゴン(草冠+今)三兩 乾薑三兩 半夏半升洗ふ 黄連一兩 大棗十二枚擘く
甘艸瀉心湯の作り方 甘草4g 黄ゴン(草冠+今)3g 乾姜3g 半夏5g洗う 黄連1g 大棗4g擘く
(* 現代は人参が加味されているが、この古書では甘草瀉心湯には人参を含まない六味である。
一部の書に人参を加えることもあると記述がある。江戸時代の医書の大部分では甘草瀉心湯は人参を含む七味と記述。
人参を入れるか否かその理由を考えなければならない。
1790年(寛永2年)刊の『傷寒論弁正』には、半夏瀉心湯方に甘艸一兩加え四兩とすると記述有り。
右の六味を水一斗を以って煮て六升を取り、滓を去り、再び煎じて三升を取り、一升を温服す。日に三服す。
右の六味を水400tと共に240tまで煮詰め、滓を去り、再び120tになるまで煮詰める。1日3回に分けて温め服す。
(32)傷寒投藥を服して、下利止ま不、心下痞コウ(革+更)す。瀉心湯を服し已り、
傷寒病の時に下剤の湯薬を用いて下したところ、それから下痢が始まって止まず、
心下が痞えて堅くなったので瀉心湯類を呑ませたが効果が無い。
復た他藥を以って之を下し、利止まず、醫理中を以って之を與へしに、利uす甚だし。
そこで更に他薬で下してみたが、やはり下痢も止まず心下痞コウ(革+更)も解けないので、医者が理中丸を与えてみたところ
下痢は増々酷くなった。
理中は中焦を理す。此の利は下焦に在り、赤石脂禹餘粮湯之を主どる。
元来、理中丸というものは、中焦を調えるものであるから、調わないものが中焦に在れば下痢は治るわけだが
この理中丸を用いて下痢が酷くなった者は、この下痢は中焦に在るのではなく下焦に在るのである。
これには赤石脂禹餘粮湯が中心となる。
復た利止ま不る者は、当に其の小便を利すべし。
ところで赤石脂禹餘粮湯を呑んで一旦止まった下痢が再び始まって止まない者は、
これは病が膀胱の方にあるわけだから、当然その小便を出してやれば治るはずだ。
赤石脂禹餘粮湯の方 赤石脂一斤碎く 禹餘粮一斤碎く
赤石脂禹餘粮湯の作り方 赤石脂16g碎く 禹餘粮16g碎く
已上の二味を水六升を以って煮て二升を取り、滓を去り、三服す。
以上の二味を水240tと共に80tまで煮詰め、滓を去り、1日3回に分けて服用する。
(33)傷寒吐下して後、汗を發し、虚煩脉甚だ微、八九日、心下痞コウ(革+更)脅下痛み、氣上って咽喉を衝き、
傷寒病を自ら吐いたり下したりした後で汗を発し、別に痛いところも苦しい所も無いのに、気が落ち着かず、
脈が甚だ微となり、それが8〜9日も続いて心下が痞えて堅く、横腹が痛み、気が上昇して咽喉を衝き、
眩冒經脉動タする者は、久しくして痿と成る。
目が眩み、経脈が通っている道がドックンドックンと縮まる様に動く者は、
時間が経つと足が利かなくなってしまう。
(34)傷寒、汗を發し、若しくは吐し、若しくは下し後、心下痞コウ(革+更)、噫氣除け不る者は、旋復代赭石湯之を主どる。
傷寒の病を、発汗か吐剤か下剤で攻めた為に熱は解けたが、その後心下が痞えて堅くなり、
ゲップの気が除けない者は、旋復代赭石湯が中心となる。
旋復代赭石湯の方 旋復花三兩 人参二兩 生薑五兩切る 半夏半升洗ふ 代赭石三兩 大棗十二枚擘く 甘艸三兩炙る
旋復代赭石湯の作り方 旋復花3g 人参2g 生姜5g切る 半夏5g洗う 代赭石1g 大棗4g擘く 甘草3g炙る
(*現代は旋復花代赭石湯と称されているが、この古書及び1790年(寛永2年)刊の『傷寒論弁正』では旋復代赭石湯とされる。)
右件の七味を水一斗を以って煮て六升を取り、滓を去り、再び煎じて三升を取り、一升を温服す。日に三服す。