更新日 1990年(平成2年)6月19日〜2022年(令和5年)8月30日
※ 私なりの解釈なので、あくまでも参考までに。
※ 突然の解説変更ございます。
太陽病脉と證と併せて治を辨ず・中の第六
太陽病の脈状と証候並びにそれに対する治方を詳しく述べたもの・中の第六
(1)太陽病項背強ばりて几几とし、汗無く惡風する者は葛根湯之を主どる。
太陽病(足の太陽膀胱経)で項や背中が強ばって伸びそり、汗が出ず、悪風する者は、葛根湯を使う。
葛根湯の方 葛根四兩 麻黄三兩節を去る 桂二兩 芍藥二兩切る 甘艸二兩炙る 生薑三兩切る 大棗十二枚擘く
葛根湯の作り方 葛根4g 麻黄3g節を去る 桂枝2g 芍薬2g 甘草2g炙る 生姜3g 大棗4g
右の七味をフ(口+父)咀し、水一斗を以って先ず麻黄葛根を煮て二升を減じ、沫を去り、
諸藥を内れ煮て三升を取り、一升を温服す。
右の七味を刻み、水400tと共に先ず麻黄と葛根を煮て80t減らし、アクを取り、諸藥を入れて120tになるまで煮詰め、
熱いうちにカスを去り、1日3回40tずつ温め服す。
覆ふて微しく汗に似たるを取り、粥を啜るを用ひ不、餘は桂の如く將息し、及び禁忌す。
服や布団で体を覆い、湿ってきた肌の汗を拭き取ってやり、その場合熱いお粥をすすらせなくてもよい。
その他の事は桂枝湯を与えた時の様に様子をみて手心を加え、そして食物の注意をすること。
(2)太陽と陽明との合病の者は、必ず自下利す。葛根湯之を主どる。
太陽病と陽明病との合病の者は、必ず自然と下痢をする。それには葛根湯を使う。
(3)太陽と陽明との合病下利せ不、但だ嘔する者は、葛根加半夏湯之を主どる。
太陽病と陽明病との合病なのに下痢せず、但だ吐きたがる者は、葛根加半夏湯を使う。
葛根加半夏湯の方 葛根四兩 麻黄三兩節を去り湯泡黄汁を去り焙乾稱 生薑三兩切る 甘艸二兩炙る 芍藥二兩
桂枝二兩皮を去る 大棗十二枚擘く 半夏半升洗う
葛根加半夏湯の作り方 葛根4g 麻黄3g節を去り浸してアクを抜き量をはかる 生姜3g切る 甘草2g炙る 芍薬2g
桂枝2g皮を去る 大棗4g擘く 半夏5g煮る前に洗って湿らせる
右の八味を以って水一斗を以って先ず葛根麻黄を煮て二升を減じ沫を去り諸藥を内れ煮て三升を取り
滓を去り一升を温服す。覆ふて微しく汗に似たるを取る。
水400tと共に先ず葛根と麻黄を煮て80tほど減らし、アクを取り、諸薬を入れ、120tまで煮てカスを去り、
1日3回40tずつ温め服し、服や布団で体を覆い、少し汗をかかせる。
(4)太陽病、桂枝の證を醫反って之を下し、利遂に止まず、脉促なる者は、表未だ解せ不る也。
太陽病で桂枝湯の証候(発熱悪寒汗出て脈弱い者)が有るのに、医者が発汗すべきなのに反対に下痢を起こさせ、
ついに下痢が止まらなくなり、脈が前より早くなる者は、表に在る病が未だとれていないのである。
喘而汗出づる者は、葛根黄連黄ゴン(草冠+今)湯之を主どる。
未だ表解せず、胸がゼイゼイと言い汗が出る者は、葛根黄連黄ゴン(草冠+今)湯を使う。
葛根黄連黄ゴン(草冠+今)湯の方 葛根半斤 甘艸二兩炙る 黄ゴン(草冠+今)二兩 黄連三兩
葛根黄連黄ゴン(草冠+今)湯の作り方 葛根8g 甘草2g炙る 黄ゴン(草冠+今)2g 黄連3g
右の四味を水八升を以って、先ず葛根を煮て二升を減じ、諸藥を内れ煮て二升を取り滓を去り、分かち温めて再服す。
水320tと共に先ず葛根だけを煮て80tほど減らし、諸薬を入れて80tまで煮詰め、カスを去り、
1日2回に分けて温め服す。
(5)太陽病、頭痛、發熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、惡風、汗無く、喘する者は麻黄湯之を主どる。
太陽病で頭痛、発熱、体が疼き、腰痛、関節が疼き痛み、悪風、汗無く、ゼイゼイいう者は、麻黄湯を使う。
麻黄湯の方 麻黄三兩節を去る 桂枝二兩皮を去る 甘艸一兩炙る 杏仁七十箇湯にひたし皮尖を去る
麻黄湯の作り方 麻黄3g節を取る 桂枝2g皮を去る 甘草1g炙る 杏仁3gぬるま湯に浸し皮を去り尖りを除く
右の四味を水九升を以って先ず麻黄を煮て二升を減じ沫を去り諸藥を内れ煮て二升半を取り滓を去り八合を温服す。
水360tと共に先ず麻黄を煮て80t減らし、後の諸薬を入れて90tまで煮詰め、カスを去り、1日3回30tずつ温め服す。
覆ひて微しく汗を似たるを取り、粥を啜るを須ひ不。餘は桂枝の法の如く將息す。
その間、服や布団で体を覆い湿ってきた肌の汗を拭き取ってやり、その場合熱いお粥はすすらなくてよい。
後は桂枝湯の法に従い様子を診て手心を加えてやりなさい。
(6)太陽と陽明與の合病、喘而胸滿する者は下す可から不。宜しく麻黄湯之を主どる可し。
太陽病と陽明病の合病で、ゼイゼイ言っていてしかも胸満する者は下してはいけない。当然麻黄湯を使う。
(7)太陽病、十日以去脉浮細而臥するを嗜む者は、外已に解する也。
太陽病を患って十日経った後、脈浮細で横になり寝たがる者は、外は既に病が解したのである。
設し胸満脇痛する者は、小柴胡湯を與へ、脉但だ浮なる者には麻黄湯を與ふ。
もし胸が張り脇辺りが痛む者は小柴胡湯を与えよ。ただ脈が浮いているだけ(細でない)の場合は麻黄湯を与えなさい。
(8)太陽の中風、脉緊、發熱、惡寒し、身疼痛、汗出で不而煩躁する者は、大青龍湯之を主どる。
太陽の経が風に中てられて、本来汗が出るべきなのに汗が出ず、脈浮で固くしまり、発熱、悪寒、身体が疼き痛み、
汗が出ない為にもだえ騒ぐ者は大青龍湯を使う。
若しも脉微弱、汗出で、惡風する者は、服用す可から不。
もし脈が微弱で、汗が出て悪風する者は、服用させてはいけない。
之を服すれば、則ち厥冷、筋タ、肉潤す。
そういう者に大青龍湯を与えれば、身体の調子がいっぺんに狂い手足が冷たくなり、
筋が詰まって手足が引き攣りブルブルと震え、皮膚がぴくぴくと動き出す。
之を逆と爲す也。
これは、大青龍湯が身体の働きに逆らい、この様にさせたのである。
大青龍湯の方 麻黄六兩節を去る 桂枝二兩皮を去る 甘艸二兩炙る 杏仁四十箇皮尖を去る 生薑三兩切る
大棗十二枚擘く 石膏鶏子大如く碎く
大青龍湯の作り方 麻黄6g節を去る 桂枝2g皮を去る 甘草2g炙る 杏仁2g皮尖を去る 生姜3g切る 大棗4g擘く
石膏10g鶏子大如く碎く
右の七味を水九升以って、先ず麻黄を煮て二升を減じ上沫を去り諸藥を内れ煮て三升を取り滓を去り一升を温服す。
水360tと共に先ず麻黄を煮て80t減らし、アクを取り、後の六味の諸薬を入れて120tになるまで煮詰め、
カスを去り、1日3回1回量40tを温めて服す。
微して汗似たるを取り、汗出ずること多き者は、温粉にて之を粉す。
服し終わり皮膚が湿気てきたらその汗を拭きとり、汗が出過ぎる者は、温かい米粉を布袋に入れて
体の皮膚に着くよう打ち付けてやれ。
一服して汗いでたる者は、後服を停む。汗多ければ陽を亡ひ、遂に虚し、惡風、煩躁して、
眠るを得不る也。
1回分服して汗が出た者には後は飲まさない。汗大ければ陽気を失い、遂には虚し、悪風し、煩躁し、
眠ることが出来なくなる。
(9)傷寒脉浮緩疼ま不、但だ重く乍ち軽き時有りて少陰の證無き者は、大青龍湯にて之を發す。
傷寒を病んで脈が浮で緩やかで、体は痛まないが但だ重く、重く感じていたが急にその重さを感じなくなる時があり、
少陰の証(脈微細但だ横になりたがる)が無い者は、大青龍湯でこれを発してやれ。
(10)傷寒表解せ不、心下に水気有り乾嘔發熱而咳し、
傷寒を病んで表に有る悪寒や発熱が解消されず、胃中に水の動きが有り、
水気上昇すれば乾嘔(ゲーゲー空吐き)すると共に水気表に向えば発熱し、そして肺に迫れば咳が出始め、
或は渇し、或は利し、或は噎し、或は小便不利少腹滿し、或は喘する者は、小青龍湯之を主どる。
或いは外熱によりのどが渇き、或いは外熱腸に入り下痢し、或いは表に寒を交えて噎せ、
或いは水道乾いて小便が出ず臍から下腹辺りが満ち、或いは表に水無く裏に水が有りゼィゼィと咳をする者は、
小青龍湯を使う。
小青龍湯の方 麻黄三兩節を去る 芍藥三兩 五味子半升 乾薑三兩 甘艸三兩炙る 桂枝三兩皮を去る
半夏半升湯で洗ふ 細辛三兩
小青龍湯の作り方 麻黄3g節を去る 芍薬3g 五味子3g 乾姜3g 甘草3g炙る 桂枝3g皮を去る
半夏5g湯で洗う 細辛3g
右の八味を水一斗を以って先ず麻黄を煮て二升を減じ上沫を去り諸藥を内れ煮て三升を取り滓を去り、一升を温服す。
水400tと共に先ず麻黄を煮て80t減らしてアクを取り、後の諸薬を入れて120tまで煮詰めてカスを去り、
1日3回40tずつ温め服す。
加減するの法、 若し微に利する者は、麻黄を去り蕘花鶏子大の如きを熬りて赤色となら令めたるを加ふ。
加減する方法。もし少し下利する者は、麻黄を去って蕘花を一掴み(鶏卵大)熬って赤色にしてものを加える。
若し渇する者は、半夏を去りカ(木+舌)楼根を加ふ。
もし渇する者は、半夏を去ってカ(木+舌)楼根3gを加える。
若し噎する者は、麻黄を去り附子一枚炮りたるを加ふ。
もし噎せる者は、麻黄を去って附子を炮じたもの一枚を加える。
若し小便不利し少腹滿するは麻黄を去り茯苓四兩を加ふ。
もし小便が出ず臍から下腹辺りが満ちる者は、麻黄を去り茯苓4gを加える。
若し喘する者は麻黄を去り杏仁半升皮尖を去りたるを加ふ。
もしゼイゼイと咳をする者は、麻黄を去って杏仁4g皮と芽を去ったものを加える。
(11)傷寒心下に水気有り、咳して微喘し、發熱、渇せ不、
傷寒を病んで心下に水気有り、咳をして少しゼィゼィと言い、発熱し、喉は渇かず、
湯を服し已て渇する者は、此れ寒去り解せんと欲す也。小青龍湯之を主どる。
一般の発汗剤の湯を飲み終わってから渇する者は、これは傷寒が解けようとしているんだ。
こういう場合は他の湯を用いるよりも、小青龍湯を使う。
(12)太陽病外證未だ解せざれば、脉浮弱なる者も当に汗を以って解すべし。桂枝湯に宜し。
太陽病で外証が解れない場合には、脈が浮いて弱い者でも当然汗を出させて解してやるべきである。
桂枝湯で汗を出させてやるがいい。
(13)太陽病之を下し微喘する者は、表未だ解せざるが故也。桂枝加厚朴杏仁湯之を主どる。
太陽病を下剤で下しをかけ、少しゼィゼィと咳をする者は、体の表面がまだ解けないからである。
それには桂枝加厚朴杏仁湯を使う。
(14)太陽病外證未だ解せ不る者は、下す可から不る也。之を下せば逆と爲す。
太陽病で外証が未だ解けない者は下してはいけない。これを下せば逆に悪くなる。
外を解せんと欲する者は、宜しく桂枝湯にて之を主どるべし。
外が解けようとするなら、桂枝湯を使えばいい。
(15)太陽病先ず汗を發して解せ不れば、復た之を下したるも、脉浮なる者は癒えず。
太陽病になった初期に汗を発してみたが病が解けず、二度目には下してみたがそれでも解けず
脈が浮いている者は治らない。
浮は外に在りと爲す。而に反って之を下す故に愈え不ら令む。
脈の浮は、病が外に在るとするのに、あべこべここれを下したからそれで病を治らなくさせているのである。
今脉浮故に外に在るを知る。当に外を解するを須ゆべし。則ち愈ゆ。宜しく桂枝湯之を主どるべし。
今脈が浮いているので、それで病が外に在ることがわかるから、当然外が解ける方を用いるべきである。
そうすれば治る。それには桂枝湯を使う。
(16)太陽病、脉浮緊汗無く發熱身疼痛八九日解せ不るは、表證仍お在り。此当に其の汗を發すべし。
太陽病で脈浮緊で汗が出ないで発熱し、身体がうずき痛み、こういう状態が8〜9日も続いている場合は、
表証がまだ在り、これには当然汗を発してやるべきである。
藥を服し已り微しく除き、其の人煩を發し目瞑劇しき者は、必ず衄す。衄すれば乃ち解す。
発汗剤を飲み終わって少し病状が軽くなってから病人が苦しみだし、酷く目が眩む者は必ず鼻血を出す。
そして鼻血を出せば病は解けることが有る。
然る所以の者は、陽氣重なるが故也。麻黄湯之を主どる。
煩目瞑の症状が出た理由は、始めからこもっていた陽気と発汗剤が重なった為である。
こういう場合の発散薬としては麻黄湯を使う。
(17)太陽病脉浮緊、發熱、身に汗無く、自から衄する者は愈ゆ。
太陽病で脈浮緊で発熱し、汗出ず肌がサラサラと乾いていて、自然に鼻血を出す者は、その病は治る。
(18)二陽の併病太陽に初めて病を得たる時、其の汗を発せしに、汗先ず出でたれども徹せ不、因って転じて陽明に属し、
太陽と陽明の併病の場合、太陽が先に病を発した時、発汗させたが汗が十分に出なかった為に陽明に移り、
続いて自ら微汗出で惡寒せず、若し太陽の病證罷ま不る者は下す可から不。之を下せば逆を爲す。
此の如きは小しく汗を發す可し。
続いて、自然に少し汗が出て、寒気せず、もし太陽の病(足太陽経)から発する病(微悪寒発熱)が止まない者は
下してはいけない。
病は表に在るのにこれを下せば病は悪化する。この様な場合は軽く汗を出させるべきである。
設し面色縁縁として正赤なる者は、陽氣沸鬱して表に在り。当に之を解すべし。
もしも顔の色が燃えている様に真っ赤になる者は、陽気が止められて出られなくなり(陽気が外に出たがっている)
この熱は表に在るのだから、当然温剤を用いてこれから解いてやれ。
之を熏じ、若しくは汗を発するも徹せ不、言ふに足ら不れば陽氣沸鬱して越ゆるを得不。
この汗を出させる為に火で体を煖めたり、又は汗を発したりしてもそれが中途半端だったり
力が及ばなかったりした場合は、陽気がこもったままで外へ出られない。
当に汗すべくして汗せ不れば、其の人躁煩して痛む處を知ら不。乍ち腹中に在り。乍ち四肢に在り。
之を按ずるも得可から不。
当然汗が出るべきなのに出ない時は、その病人は躁煩(さわぎ苦しみ)して、痛む所がわからなくなる。
急に腹の中で起こったかと思うと、急に手や足にその痛みが変わり、
痛いと思う所を触ってみても痛みが得られない。
其の人短氣但だ坐するは、汗出でたるも徹せ不るを以っての故也。更に汗を發すれば則ち愈ゆ。
その病人の呼吸が早く、横になって寝ることも出来ずただ座っているのは、汗の出が不十分で、皮膚から外へ
抜けきれない為である(陽気の沸鬱により生ずる)。更に発汗して気を越出してやれば治る。
何を以って汗出で徹せ不るを知るか、脉渋なるを以っての故に知る也。
どうして汗の出が不十分で皮膚から外へ抜けきれないことがわかるかと言うと、
脈が渋っているからわかるのである(気はよく脈行を渋らすから血行の渋りをもって気の鬱を生じる)。
(19)脈浮數なる者は、法として当に汗出て愈ゆべし。
脈が浮いて早い者は、原則として当然汗が出て、それにより治る。
若し之を下して身重く心悸する者は汗を發す可から不。
もしもこれを下した為に身が重く、ドクドクと動悸する者は、汗を発してはいけない。
当に自から汗出でて乃ち解すべし。
当然自然に汗が出て、それにより解すべきである。
然る所以の者は、尺中の脉數、此れ裏虚す。
脈が浮数であっても、これを下した為に身が重く、動悸する者を発汗してはならない理由は、
尺中の脈が微(寸関と比べて)であるからで、これは裏が虚しているからである。
須からく表裏實し津液自から和し、便ち自汗出でて愈ゆるをまつべし。
表も裏も実し、津も液も自然に和し、それによってひとりでに汗が出て治るのを待つべきである。
(20)脉浮緊なる者は、法として当に身疼痛すべし。
脈浮(衛気が傷られた)で緊(栄気が傷られた)の者は、原則として当然身体が疼痛すべきであり
(衛気傷られれば気通ぜず疼み、栄気傷られれば血巡らず身痛む)、
宜しく汗を以って之を解すべし。
それには発汗させてこれを解いてやるべきである。
假令、尺中遲き者は汗を發す可から不。
例えば、尺中の脈が遅い者は、汗をかかせてはいけない。
何を以って之を知る、然るは榮氣足らず血少なきを以っての故也。
どうしてこれがわかるかというと、それは栄気が足らず血が少ないからである。
(21)脉浮なる者は病表に在り汗を發す可し。麻黄湯に宜し。
脈浮の者は、病は表面に在るから汗を発してやれ。それには麻黄湯を用いるがよい。
(22)脉浮而數なる者は汗を發す可し。麻黄湯に宜し。
脈浮で早い者は、汗を出させるがいい。それには麻黄湯を用いるがよい。
(23)病常に自汗出づる者は、此れ榮氣和すると爲す。
常に自然に汗をかく者は、栄気は異常が無いという事である。
榮氣和する者、外諧は不るは衛氣榮氣と共に和諧せ不るを以っての故爾み。
栄気は異常が無いが外は調わない者は、衛気が栄気と共に調和しないからである。
榮は脉中を行き、衛は脉外を行くを以って復た其の汗を發し、榮衛を和すれば則ち愈ゆ。
桂枝湯に宜し。
栄気は脈の中を巡り、衛気は脈の外を巡っているから、また汗を発してやれば栄気と衛気とが調って治る。
それには桂枝湯を用いるがよい。
(24)病人藏に他病無く時に發熱自汗出でて癒え不る者は、此れ衛氣和せ不る也。
病人で五臓に他病が無いのに、時に熱を発し、自然に汗が出ても治らない者が居る。
これは衛気が調わないからである。
其の時に先だち汗を發すれば則ち愈ゆ。宜しく桂枝湯之を主どるべし。
発熱する時に、先だって発汗してやれば治る。これには桂枝湯を使う。
(25)傷寒脉浮緊汗を發せ不るに因って衄を致す者は、麻黄湯之を主どる。
傷寒を病んで脈が浮き緊で、発汗しなかった為に鼻血を出す者には、麻黄湯を使う。
(26)傷寒大便せ不ること六七日、頭痛熱有る者は承気湯を與ふ。
傷寒を病んでいて、大便が6〜7日も出ないで(表熱裏に伝え裏が実している状態)頭痛して熱が出る者は、承気湯類を与えよ。
其の小便清める者は裏に在ら不。仍ほ表に在るを知る也。当に發汗を須ふべし。
その場合、小便の色が薄くて澄んでいる者は、病は裏に無くなお表に在ることがわかる。
そういう時は当然汗をかかせるべきである。
若し頭痛する者は必ず衄す。桂枝湯に宜し。
もし頭痛する者は、きっと鼻血が出る。そういう者には桂枝湯を使って発汗させよ。
(27)傷寒汗を發し解し半日許にして、復た煩し脉浮數なる者は、更に汗を發す可し。
桂枝湯之を主どる。
傷寒が発汗により解け、半日ばかりしてから再び熱が出て、病人が熱がり、脈が浮いて早い者は、
改めてまた発汗してやれ。これには桂枝湯を使いなさい。
(28)凡そ病、若しくは汗を發し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは津液を亡ぼし、
陰陽自ら和する者は必ず自から愈ゆ。
傷寒や中風など全ての病を、発汗した場合、吐かせた場合、下した場合、又は自然に汗が多く出たり
自然に多く下痢したり
自然に小便が多く出たりして津液を失った場合、陰と陽とがそれぞれ調えば、必ず自然に治る。
(29)大いに之を下して後、復た汗を發し小便利せ不る者は、津液を亡ぼすが故也。
十分に下した後で、また発汗を行った為に小便が出なくなってしまった者は、津液を失った為である。
之を治する勿れ。小便利することを得て必ず自から愈ゆ。
これを治してはいけない。小便が出る様になって必ず自然と治る。
(30)之を下したる後、復た汗を發すれば必ず振寒し、脉微細となる然る所以の者は内外倶に虚するを以ての故也。
下しをかけた後で、重ねて発汗を行うと、必ずガタガタと震えがきて寒がり、脈が少し細くなる。
そうさせる理由は、内も外も共に虚した為である(陽気と血気が損した)。
(31)之を下したる後、復た汗を發し、晝日煩躁して眠るを得不、
下した後で汗を発したところ、病人は昼間(10時頃から15時頃まで)は悶え苦しみ休むことが出来ないが、
夜而安静嘔せ不渇せ不表證無く、脉沈微、身に大熱無き者は、乾薑附子湯之を主どる。
夜間はその煩躁も静まり休める様になり、吐き気も無く、のども渇かず、熱くなったり寒くなったりもせず、
脈は沈んで皮膚を触っても熱くない者は、乾姜附子湯を使う。
乾薑附子湯の方 乾薑一兩 附子1枚
乾姜附子湯の作り方 乾姜1g 附子0.1〜0.2g生用(炮附子0.3g)
右の二味を水三升を以って煮て一升を取り滓を去り頓服す。
右の二味を水120tと共に煮て40tと為し、カスを去り、頓服する。
(32)發汗後身疼痛脉沈遲の者は、
汗を出させた後で、身体が疼き痛み(衛気通わなければ疼き、栄気通わなければ痛む)、
脈が沈んで(表の陽虚の為に陽気が出れなくなり脈沈む)遅く(栄気疲れれば脈遅くなる)、
桂枝加芍藥生薑各一兩人參三兩新加湯之を主どる。
表塞がり栄気通ぜず裏に熱を持っている者には、桂枝湯で表の不和を解し、
桂枝湯に芍薬生姜(陰陽の気を補う)を各1gずつと人参(裏の熱を消す)3gを新たに加えた湯を使う。
(33)發汗後更へて桂枝湯を行ふ可から不。
汗を発した後で栄の不和は除いたが、血の不和は除かれない者には、もう桂枝湯を用いてはいけない。
汗出でて喘し大熱無き者は、麻黄杏仁甘艸石膏湯を與へ之を主どる可し。
汗が出てゼェゼェいい大熱のない者は、麻杏甘石湯を与えてこれを治してやれ。
麻黄杏仁甘艸石膏湯の方 麻黄四兩 杏仁五十箇 甘艸二兩 石膏半斤
麻黄杏仁甘草石膏湯の作り方 麻黄4g 杏仁2g 甘草2g 石膏8g
右の四味を水七升を以って先ず麻黄を煮て二升を減じ上沫を去り諸藥を内れ煮て二升を取り滓を去り
一升を温服す。
本黄耳ハイ(杯+一)と云ふ。
先ず水280tと共に麻黄を煮て80t減らしアクを去り、後の諸薬を入れて更に80tまで煮詰めてカスを去り、
1日2回に分けて温め服す。もと黄耳ハイ(杯+一)と言う。
(34)汗を發したること多きに過ぎ、其の人手を叉み自から心を冒へば心下悸し、
按を得んと欲する者は桂枝甘艸湯之を主どる。
発汗させたが汗の出が多過ぎて、自分の両手の指を組んで心臓の上へあてがい動悸を鎮めようとしたが、
今度は心臓の下の方も動悸がしだしたのでそこを誰かに押されてもらいたいと思う者は、桂枝甘草湯が中心となる。
(桂枝は陽気をたすけ表を開き、甘草は急迫症状を緩め肌肉を通ぜさす)
桂枝甘艸湯の方 桂枝四兩 甘艸二兩
桂枝甘草湯の作り方 桂枝4g 甘草2g
右の二味を水三升を以って煮て一升を取り滓を去り頓服す。
右の二味を水120tと共に煮て40t取り、カスを去り、頓服する。
(35)發汗後、其の人臍下悸する者は、奔豚を作さんと欲す。茯苓桂枝甘艸大棗湯之を主どる。
発汗した後、その病人が臍の下辺りに動悸がする者は、奔豚病を起こそうとしかかっているからである。
これには茯苓桂枝甘草大棗湯を使う。
茯苓桂枝甘艸大棗湯の方 茯苓半斤 甘艸三兩 大棗十五枚 桂枝四兩
茯苓桂枝甘草大棗湯の作り方 茯苓8g 甘草3g 大棗5g 桂枝4g
右の四味甘爛水一斗を以って先ず茯苓を煮て二升を減じ諸藥を内れ煮て三升を取り滓を去り
一升を温服す。日に三服す。
甘爛水400tと共に先ず茯苓を煮て80t減らし、後の三味を入れて煮て120t取り、カスを去り、
1回40t温め服す。1日3回服す。
甘爛水を作るの法は、水二斗を取って大盆の内に置き、杓を以って之を揚げ、
水上に珠子五六千顆相逐うを有れば取りて之を用ゆ。
甘爛水の作り方 大きなお盆の中に水(水道水ではない)800t入れ、これを杓子(お玉)で途切れることなくすくい上げ、
水面に細かい泡が一杯に浮き上がって、直ぐに消えない様になったら、これで出来上がったとしてこれを使用する。
(36)發汗後に腹脹滿する者は、厚朴生薑甘艸半夏人參湯之を主どる。
汗を出させた後、お腹が急にパンパンに膨れて張り腹中が詰まって苦しむ者は、厚朴生姜甘草半夏人参湯を用いる。
厚朴生薑甘艸半夏人參湯の方 厚朴半斤皮を去り炙る 半斤切る 半夏半斤洗ふ 人參一兩 甘艸二兩炙る
厚朴生姜甘草半夏人参湯の作り方 厚朴8g皮を去って炙る 生姜8g 半夏8g洗う 人参1g 甘草2g炙る
右の五味水一斗を以って煮て三升を取り滓を去り一升を温服す。日に三服す。
右の五味を水400tと共に煮て120tを取り、カスを去り、40tずつ温め服す。1日3回服す。
(37)傷寒若しくは吐し、若しくは下して後、心下逆滿氣上って胸を衝き、起きれば則ち頭眩し、脉沈緊、
傷寒病(外に熱が有る)を吐かせた後、または下した後、逆に(通常陽の気は上から下へいく)
心下から上に満ちて気が上って胸を衝き、起き上がろうとすると頭がグラグラして物が見えなくなり、
今まで脈浮であったのに沈緊に変った者や、
汗を發すれば則ち經を動じ身振振と搖を爲す者は、茯苓桂枝白朮甘艸湯之を主どる。
傷寒病の者に発汗させてその為に太陽の経脈を動じて身体がユラユラと震え動く者は、
茯苓桂枝白朮甘草湯を用いる。
茯苓桂枝白朮甘艸湯の方 茯苓四兩 桂枝三兩 白朮二兩 甘艸二兩
茯苓桂枝白朮甘草湯の作り方 茯苓4g 桂枝3g 白朮2g 甘草2g
右の四味水六升を以って煮て三升を取り滓を去り分温參服す。
右の四味を水200tと共に煮て120t取り、カスを去り、1回に40tずつ1日3回温め服す。
(38)汗を發して病解せ不、反って惡寒する者は虚するが故也。芍藥甘艸附子湯之を主どる。
汗をかかせたが病は解けないばかりでなく悪寒が始まった者は、発汗に因って虚し悪化したからである。
こういう場合は芍薬甘草附子湯を用いる。
芍藥甘艸附子湯の方 芍藥三兩 甘艸三兩 附子一枚
芍薬甘草附子湯の作り方 芍薬3g 甘草3g 附子0.2g
已上の三味を水五升を以って煮て一升五合を取り滓を去り分ちて温め服す。
以上の三味を水200tと共に煮て60t取り、カスを去り、1日2回に分けて温め服す。
疑ふらくは仲景の意に非ら不るを。
どうも張仲景先生のお考えの様には思われない。
(39)汗を發し若しくは之を下し、病仍ほ解せ不煩躁する者は、茯苓四逆湯之を主どる。
発汗させたり又は下したりしてみたが、病は相変わらず同じ様で、熱がって悶えだした者は、
茯苓四逆湯を用いる。
茯苓四逆湯の方 茯苓六兩 人參一兩 甘艸二兩 乾薑一兩半 附子一枚
茯苓四逆湯の作り方 茯苓6g 人参1g 甘草2g 乾姜1.5g 附子0.3g
右の五味水五升を以って煮て三升を取り滓を去り七合を温服す。日に三服す。
右の五味を水200tと共に煮て120t取り、カスを去り、1回40tずつ1日3回温め服す。
(40)汗を發したる後惡寒する者は虚するが故也。惡寒せ不、但だ熱する者は實也。
発汗した後で悪寒が始まった者は虚した為である。発汗した後で悪寒せずただ熱がる様になった者は実したのである。
当に胃氣を和すべし。調胃承氣湯を與ふ。
当然胃中の熱を取り去り胃気を調えてやれ。これには調胃承気湯を与えよ。
(41)太陽病、發汗後大いに汗出で胃中乾き煩躁眠るを得不、水を飮むを得んと欲する者は、
太陽病を発汗した後で大いに汗が出て胃中が乾いて熱がり、眠る事が出来ず、
水が欲しいが誰か持ってきてくれないかと言う者には、
少少與へ之を飮ませ胃氣をして和せ令むれば則ち愈ゆ。
少しずつ水を与えて飲ませ、胃の乾きを潤してやれば治る。
若し脉浮小便不利微熱消渇する者は、五苓散を與へて之を主どる。
もし脈が浮いて小便が出ないで少し熱がり、いくら飲んでも渇きが止まない者は、五苓散を用いる。
五苓散の方 猪苓十八銖半 茯苓十八銖 桂半兩 白朮十八銖
五苓散の作り方 猪苓1.8g 沢瀉3.05g 茯苓1.8g 桂枝1.2g 白朮1.8g
右の五味末と爲し、白飮を以って和し、方寸匕を服し、日に三服す。
右の五味を末とし、米を煮て取った濃厚な汁をもって1回2g、1日3回服する。
多く煖水を飮ませれば汗出でて愈ゆ。
多く温かい水を飲ませれば汗が出て治る。
(42)汗を發し已りて脉浮數煩渇する者は五苓散之を主どる。
汗を発し終えて脈の浮数が解れないで、水を飲まずにはいられない者は、五苓散を用いる。
(43)傷寒、汗出でて渇する者は、五苓散之を主どる。渇せ不る者は茯苓甘艸湯之を主どる。
傷寒を病んでいる時に自然に汗が出てきて喉が渇く者は、五苓散を用いる。
汗をかきだしたが喉が渇かない者は、茯苓甘草湯を用いる。
茯苓甘艸湯の方 茯苓二兩 桂枝二兩 生薑三兩 甘艸一兩
茯苓甘草湯の作り方 茯苓2g 桂枝2g 生姜3g 甘草1g
右四味水四升を以って煮て二升を取り滓を去り分かち温めて三服す。
右の四味と水160tと共に煮て80t取り、カスを去り、1日3回に分けて温め服す。
(44)中風發熱六七日解せ不して煩し、表裏の證有り渇して水を飮まんと欲し、