更新日 1989年(平成元年)2月14日〜2023年(令和5年)3月28日
※ 私なりの解釈なので、あくまでも参考までに。
※ 突然の解説変更ございます。
陽明病脉證并びに治 第八
陽明の病の脈状と証候ならびに、それに対する治方を詳しく述べたもの・第八
(1)問ふて曰はく、病に太陽陽明有り、正陽陽明有り、少陽陽明有り、何の謂ひぞ也。
お伺いします、病に太陽陽明が有り、正陽陽明が有り、少陽陽明が有りますが
各々どういうものなのでしょうか
答へて曰はく、太陽陽明なる者は脾約是也。
先輩が答える。この太陽陽明の者は脾水を得ることなく乾くというのがこれである。
正陽陽明なる者は胃家實是也。
正陽(内外全く偏らない陽)陽明なる者は胃が詰まるというのがこれである。
少陽陽明なる者は汗を發し小便を利し、已り胃中燥煩實して大便難き是也。
少陽陽明という者は、十分に汗を発したり小便を出し終った後、胃の中の水気が減ってしまった為に
胃中が燥いでやりきれなくなり実して大便が出にくいというのがこれである。
(2)陽明之病爲る胃家實也。
陽明の病になると胃中全体が実して熱気が一杯にこもるのである。
(3)問ふて曰はく、何に縁りて陽明病ひを得るか。答へて曰はく、太陽病汗を發し若しくは下し、若しくは小便を利し、
お伺いします、何によって陽明が病気を得るのですか。
それは、太陽病を発汗したり或は下したり或は小便を出させ、
此に津液を亡ひ胃中乾燥すれば因って轉じて陽明に屬す。衣を更へ不、内實し大便難き者は此れ陽明と名づくる也。
これらにより津液を失い胃中が乾燥すれば、それにより病の場所が変わり陽明に転がり込み陽明経にくっついて大便が遠のき、
内が実して大便が出なくなる。これを陽明と名づけるのである。
(4)問ふて曰はく、陽明病の外證は云何。答へて曰はく、身熱し汗自から出で惡寒せ不反って惡熱する也。
お伺いします、陽明病の外証はどんなものなのですか。
それは、身が蒸し蒸しと熱くなり、汗がひとりでに出てきて寒気はせず、
悪熱(熱がって全裸になってもその熱は解せず悶える)するのである。
(5)問ふて曰はく、病に之を一日発熱せ不して惡寒する者有り、何ぞ也。
お伺いします、病気にかかり始めの第一日目に発熱せず悪寒する者が有りますが、これはどうしてですか。
答へて曰はく、之を得て一日惡寒すると雖も、将に自から罷み、即ち自汗出でて惡熱する也。
それは、病気を発した一日目に熱が出ないで悪寒しても、その悪寒は自然に治まってしまい、
それと同時に汗がひとりでに出て、そして悪熱がするのである。
(6)問ふて曰はく、惡寒何が故に自から罷む。答へて曰はく、陽明は中に居して土也。
お伺いします、悪寒はどうして自から止むのでしょうか。
それは陽明経は中(太陽経は外、少陽経は内)に在り土(働き)だからである。
萬物の歸する所復た傳ふる所無し。始めに惡寒すると雖も二日には自から止む。此を陽明と爲す也。
土は全ての物が戻る所で再び移してやる所はどこにも無い。それで始めの第一日目には悪寒するが
二日目には自然に止んでしまう。(この病を得て一日発熱せず悪寒だけするのは陽気が内に入り表が虚するから)
この様なのを陽明病とするのである。
(7)本太陽に初めて病を得たる時、其の汗を發し汗先ず出でて徹せ不、因って轉じて陽明に属する也。
元々始めから太陽病だけが病を得て、病み始めた時に発汗を行ったところ汗はいちをは出たが出きらず、
病が除けないと病は転じて陽明に属するに至るものである。
(太陽を病めば熱表に在り。その始めは熱が盛んになる。この時発汗して通わなければ、発汗により熱が尚旺盛となり、
外にもれることができず、内攻し陽明の為に傷を破る。これによりその熱は陽明に著けば遂に陽明病になる。)
(8)傷寒、發熱汗無く嘔して食する能は不、而反って汗出づることシュウ(サンズイ+口+耳+戈)シュウ(サンズイ+口+耳+戈)然たる者は
是れ轉じて陽明に屬する也。
傷寒で発熱して汗は出ず、ゲーゲーと吐きたがり物を食べることが出来ず、病は初期だから自然に汗が出ないはずなのに
反対に汗がシトシトと出る者は、これは転じて陽明に属したのである。
(9)傷寒、三日陽明の脉大。
1〜2日は太陽を発し、2〜3日目に陽明に伝わればその脈は大(陽)となる。
(陽明の脈=右手関上の浮にとる・傷寒例、尺寸共に長(陽)なる者は陽明に病を受ける)
(10)傷寒、脉浮而緩、手足自から温なる者は、是れ繋りて太陰に在りと爲す。
傷寒で脈浮緩で手足だけが自から温かい者はこれは太陰経にくくりつけられて繋がっているのである。
太陰の者は身當に黄を發するべし。
太陰になっている者は身体に黄疸を発するはずだ。
若し小便自から利する者は黄を發する能は不。七八日に至り大便カタ(革+更)き者は陽明の病と爲す也。
もしも自から小便が出る者は黄疸を発することが出来ない。7〜8日経って大便が硬い者は陽明病になったのだ。
(小便は内の熱を外へ出すから小便自利すれば熱が留まらなくなり黄疸になることは無いが胃中渇いて大便が硬くなる。)
(11)傷寒轉じて陽明に繋る者は、其の人シュウ(サンズイ+口+耳+戈)然と汗出づる也。
傷寒病が太陽から陽明に移って陽明にくくりつけられた者は、シットリと軽く汗をかくものである。
(12)陽明の中風は、口苦、喉乾、腹滿、微喘、發熱、惡寒、脉浮而緊。若し之を下せば則ち腹滿し小便難き也。
陽明経が風に中てられ、口中が苦く喉の奥の方が乾き腹が満り少しゼイゼイとし発熱悪寒して脈が浮いて堅く、
もしもこれを下せば更に腹満が加わり小便の出が難しくなるものである。
(13)陽明病、若し能く食すれば中風と名づけ
陽明病で、もし物が食べられる者は、風に中てられたのである。これを名付けて中風といい、
(胃が緩み満を生じ気が下りにくくても閉塞しない。だから食事が出来る。)
食する能は不れば中寒と名づく。
物が食べられない者は、寒に中てられたのだからである。これを名付けて中寒という。
(寒は胃を冷まして働きを妨げ、更にいつまでも飲食を消化させないから食入らず。)
(14)陽明病、若し中寒し食す能は不小便不利し手足にシュウ(サンズイ+口+耳+戈)然と汗出づるは、
此固カ(ヤマイダレ+假-イ)を作さんと欲す。
陽明病の中で、もしも中寒から来ている為に食することが出来ず小便が出にくく手足からシットリと汗が出るのは、
これは固カ(ヤマイダレ+假-イ)(腹中で腸胃の外にできる腫物)が出来ようとしているからだ。
必ず大便初めカタ(革+更)く後溏す。然る所以の者は胃中冷え水穀を別た不るを以て故也。
必ず大便初めは硬いが後はズルズルと軟らかいのが出る。
こうなる者は胃中が冷えて水分と穀とを分けることが出来ないからである。
(15)陽明病、食せんと欲し、小便反って利せ不、大便自調し、其の人骨節疼み、翕翕と熱有る状の如く、奄然と狂を發し、
陽明病の人が、食を欲しがるのに小便が出にくく大便には変わりは無いという者で
骨や節が痛み、ポッポッと熱が有るかの様で、突然頭がボーっとなって狂った様におかしくなり
シュウ(サンズイ+口+耳+戈)然と汗出でて解する者は、
サーッと汗をかくとそれ(奄然狂發)が解ける者は、
此れ水穀氣に勝ら不。汗與共に併せて脉緊なれば則ち愈ゆ。
これは水が穀気に負けた為に起こる様子なのであって、その汗が出る際に脈も一緒に緊となる者は
その発汗によって一時的ではなく本当に癒えたのである。
(16)陽明病、解せんと欲する時は、申從り戌の上に至る。
陽明病が自然に解けようとする時刻は、午後3時から午後9時の間である。
(17)陽明病、食する能は不、其の熱を攻むれば必ずエッ(口+歳+ノ)す。然る所以の者は胃中虚冷するが故也。
陽明病で、食べることが出来ない者に下しを用いて熱を冷まそうとすると必ずシャックリが出る。
そういう者は熱を攻めることにより胃中が虚冷するからである。
其の人本虚するを故に其の熱を攻むれば必ずエツ(口+歳+ノ)す。
その人は元々虚しているのに、その熱を攻めるから必ずシャックリが起こることになるのだ。
(18)陽明病脉遲、食し難く、用いれば飽き、飽くれば則ち微煩頭眩し、必ず小便難き(熱裏「腎」在)は、
陽明病で脈遅で、食欲は無いが食べようと思えば少しは食べれそうだが、それを無理して食べると直ぐにお腹が一杯になり、
お腹が一杯になると気持ちが悪くなり頭がグラグラしてボーッとし、必ず小便の出が悪くなる。
(陽明病脈遅を寒と為し食難を実と為す。実為るを以て用いれば飽を為す。飽すれば胃脈塞がる。
胃脈塞がれば陽気降ら不。陽気降ら不れば熱頭を熏じて頭眩を為す。)
此れ穀疸を作さんと欲す。之を下すと雖も腹滿ること故の如し。然る所以の者は脉遲なるが故也。
これは穀疸の病(食物が原因で黄疸を発する病)を起こしたがっているので、これを下したとしても腹満はとれない。
そういう者は脈遅だからそうなるのである。
(19)陽明病、法汗多し。反って汗無く其の身蟲の皮中を行くが如き状の者は、此れ久しく虚するを以ての故也。
陽明病の者は多汗と決まっている。だから反対に汗が出ず、その人の体を虫が皮の中を歩くような状ちをしている者は、
これは前々から皮の中が虚しているからだ。
(20)陽明病、反って汗無くして小便利し二三日嘔してガイ(亥+欠)し手足厥する者は必ず頭痛を苦しむ。
陽明病の者が逆に汗が出ず、小便は出て、それを発してから2〜3日目にゲーゲーと吐き、
咳して手足が冷える者は必ず頭痛で苦しむ。
若しガイ(亥+欠)せ不嘔せ不手足厥せ不る者は頭痛ま不。
もし咳せず嘔もせず手足が冷たくならない者は頭痛もしない。
(21)陽明病但だ頭眩して悪寒せ不故さらに能く食してガイ(亥+欠)すれば其の人必ず咽痛む。
若しガイ(亥+欠)せ不る者は咽痛ま不。
陽明病の者が、但だ頭眩(頭がボーッとして気が遠くなる)だけで悪寒せず、
その為に食べれそうにないのが思いのほかよく食べ、その後咳が出れば必ず咽が痛む。
もし咳をしない者は咽は痛まない。
(22)陽明病汗無く小便不利し心中懊ノウ(立心偏+農)する者は身必ず黄を發す。
陽明病で、汗が出ず小便が出にくく、心中が淋しく悩ましく何とも言えないやるせない気持ちになる者は、
必ず身体に黄疸を発する。
(23)陽明病、火を被り額上微に汗出で小便不利する者は必ず黄を發す。
陽明病の者に灸等して額の上に少し汗をかき小便が出にくい者は、必ず黄疸を発する。
(24)陽明病、脉浮而緊なる者は必ず潮熱發作時に有り。但だ浮なる者は必ず盗汗出づ。
陽明病で、脈浮緊(硬く締まっている)の者は必ず潮熱して熱が引いていく。
但だ脈が浮いているだけで緊ではない者は必ず寝汗をかく。
(25)陽明病、口燥し但だ水を漱せんと欲し嚥むを欲せ不る者は此れ必ず衄す。
陽明病で、口の中が非常に燥き、その為に水を欲しがるが但だ口を漱ぐだけで飲み込みたがらない者は
これは必ず鼻血を出す。
(26)陽明病、本自汗出づ、醫更に重ねて汗を發し、病已に差えて尚微煩して了了たら不る者は此れ大便必ずカタ(革+更)き故也。
陽明病で、元から自然に汗が出ているのに更に医者が汗を発し、それにより病は治ったにもかかわらず、
尚も気分が優れずサッパリしない者は、これは大便が必ず硬いからである。
津液を亡し胃中乾燥するを以ての故に大便を令てかた(革+更)からしむ。當に其の人小便日に幾行なるかを問ふべし。
津液が滅んで胃中が乾燥した為に大便を硬くしてしまったのだ。
こういう時には、本人に小便の回数が1日に何回位あるかを聞いてみなさい。
若し本小便日に三四行今、日に再行ばれば故に大便久しから不して出づるを知る。
もし元々は小便が1日3〜4回だったのに現在は2回しか出ていないと言えば、
それは大便が程なく出るということが判る。
今小便數少なきを為さば津液當に還りて胃中に入るを以ての故に、久しから不して必ず大便することを知る也。
それは今、小便をする回数が少なければ、その小便になる津液は当然元へ戻り胃の中に入る計算だから
それで遠からず間違いなく大便をするということが判るのである。
(27)傷寒嘔多ければ陽明の證有りと雖も之を攻む可から不。
傷寒病で、幾度も嘔をすれば、陽明の証が有るといえどもこれを攻めてはいけない。
(28)陽明病、心下コウ(革+更)滿する者は之を攻む可から不。之を攻め利遂に止ま不る者は死す。利止む者は愈ゆ。
陽明病でも心下が硬く満っている者は強く下してはいけない。これを下してしまえば満ってその為に下痢が起こり
止まなくなり死ぬからである。下痢が自然に止む者は癒える。
(29)陽明病、面合赤色なるは之を攻む可から不。必ず發熱し色黄いろく小便利せ不る也。
陽明病で、顔が赤くなっている者はこれを攻めてはいけない。必ず発熱して色が黄色くなり小便が出なくなる。
(30)陽明病、吐さ不、下ら不、心煩する者は、調胃承氣湯を與ふ可し。
陽明病で、吐きもせず、大便もせず、胸が苦しい者は、調胃承気湯を与えてやりなさい。
(31)陽明病、脉遲汗出づと雖も悪寒せ不る者は、其の身必ず重く短氣腹滿して喘す。
陽明病で、脈が遅く汗が出ても悪寒しない者は、その身体は必ず重く呼吸が短くなりお腹が満ってゼイゼイと言いだす。
潮熱有る者は此れ外解せんと欲す。裏を攻む可き也。
潮熱が有る者は、これは外が解そうとしているのであるから裏を攻めるべきである。
手足にシュウ(サンズイ+口+耳+戈)然と而汗出づる者は、此れ大便已カタ(革+更)き也。大承氣湯之を主どる。
手足からシットリと汗が出る者は、これは大便がすでに硬くなっているのである。
それには大承気湯が中心となる。
若し汗多く微に發熱惡寒する者は外未だ解せざる也。其の熱潮せ不れば未だ承氣湯を與ふ可からず。
もしその汗が多くても軽い発熱と悪寒がする者は外が未だ解かれていないのである。
もし外が解れて発熱悪寒しない者でも、潮熱を起こしていないのなら未だ承気湯を与えてはいけない。
若し腹大滿通ぜ不る者は小承氣湯を與ふ可し。微しく胃氣を和し大いに泄下せ令むる勿れ。
もしお腹が大きく満って気の漏れる所が塞がれない様な感じが有る者は、小承気湯を与えてやりなさい。
少し胃気を和してやる程度に与えてやり、うんと下らせない様に注意しなさい。
大承氣湯の方 大黄四兩酒で洗ふ 厚朴半斤皮を去り炙る 枳實五枚炙る 芒硝三合
大承気湯の作り方 大黄4g酒で洗う 厚朴8g皮を去って炙る 枳実3.5g炙る 芒硝4.2g
右の四味を水一斗を以って先ず二物を煮て五升を取り滓を去り大黄を内れ煮て二升を取り滓を去り
芒硝を内れ更に上せ微に一兩沸させ分温再服す。
先ず右の厚朴と枳実を水400tと共に煮て200tまで減じて滓を去り、その中に大黄を入れて再び煮て80tにし、
また滓を去って芒硝を入れて溶解し、2回に分けて温め服す。
下を得れば餘は服する勿れ。
大承気湯を1回服し下痢すれば、後は服用させてはいけない。
小承氣湯の方 大便四兩 厚朴二両皮を去って炙る 枳實三枚大者炙る
小承気湯の作り方 大黄4g 厚朴2g皮を去って炙る 枳実2.1g炙る
已上の三味を水四升を以て煮て一升二合を取り滓を去り分ち温めて二服す。
以上の三味を水160tと共に煮て50t取り滓を去り2回分にして温め服す。
初め湯を服すれば當に更衣すべし。爾せ不る者は盡く之を飮む。若し更衣する者は之を服する勿れ。
始めに1回服したらその大便が平常の大便と同じようなものが出るはずだ。
大便が出ない者は全部これを飲ませ、もし大便が出る者は2回目は服させてはいけない。
(32)陽明病、潮熱大便微にカタ(革+更)き者には大承氣湯を與ふ可し。かた(革+更)から不る者は之を與へ不。
陽明病で、潮熱して大便が少し硬い者には大承気湯を与えなさい。
硬くない者には大承気湯を与えてはいけない。
若し大便せ不ること六七日ならば恐らくは燥屎を知らんと欲するの法は少しく小承氣湯を與ふ。
もし大便が出なくなってから6〜7日になると手足からシットリと汗が出なくても
恐らく腹中の熱で糞が燥いているだろう。それを知る方法は、少し(1回分の1/3量程)小承気湯を与えてみればいい。
湯入りて腹中に轉矢氣する者は此れ燥屎有り。乃ち之を攻む可し。
小承気湯が胃に入って落ち着いてから腹中で糞が動き移る気配が起こる者は燥いた糞が有るということである。
そうなれば大承気湯で攻めてやりなさい。
若し轉矢氣せ不る者は此れ但だ初頭カタ(革+更)く後必ず溏す。之を攻む可から不。
もし糞の動く気配が無い者はこれは但だ始め硬い糞をするだけで
後から出てくる糞は必ず泥の様なドロドロしたものばかりである。だからこれを攻めてはいけない。
之を攻むれば必ず脹滿食する能は不る也。
これを攻めれば必ずお腹が膨れて満り、ご飯が食べられなくなる。
水を飮まんと欲する者は水を與ふれば則ちエツ(口+歳+ノ)す。
そういう者が水を欲しがり、水を飲ませてしまうとしゃっくりが出る。
其の後發熱する者は必ず大便カタ(革+更)く而少なき也。小承氣湯を以って之を和し、
轉矢氣せ不る者は慎みて之を攻む可から不。
その後に発熱する者は必ず大便がまた硬くなり少ない量が出る。小承気湯を用いてこれを和してやりなさい。
それでも腹中で糞が移動する気配を感じない者は、おろそかにせず十分に注意して見分け、これを攻めてはいけない。
(33)夫れ實なれば則ち譫語し、虚なれば則ち鄭聲は重語也。
病が実だとうわ言(裏熱)を発し、虚だと物柔らかい声で同じ言葉を繰り返してしゃべりだす。
(34)直視譫語喘滿する者は死す。下利する者も亦死す。
一カ所を見つめて目の玉が動かず、うわ言(裏熱)を言い出し、ゼーゼーと息を吸い込むことが出来ない者は死ぬ。
喘満の代わりに、お腹が下る者も死ぬ。
(35)汗を發せんと多きに若し重ねて汗を發する者は、其の陽を亡ぼし譫語す。
脉短なる者は死し、脉自から和する者は死せ不。
汗を発することが多い者に重ねてまた汗を発してやると、その為に陽気を失いうわ言(裏熱)を言い出す。
その時に脈がプツプツと途切れる様に短い者は死に、脈が自分から落ち着いてくる者は死なない。
(36)傷寒若しくは吐し若しくは下し、後解す不。大便せ不ること五六日より上りて十餘日に至り日ポ(日+甫)所潮熱を發し
傷寒を、吐かされたり下されたりしたが解けないで、その後に大便をしなくなり、
それが5〜6日から多い時には10日以上も経ち、午後3時から午後5時の間に潮熱を発し、
悪寒せ不獨語鬼を見る状の如し。若し劇き者は發すれば則ち人を識ら不、循衣模牀タして安から不微喘直視す。
悪寒はしないが、ひとり言でいかにも死者の霊とでも話している様に見え、
その病証が酷い者は、潮熱が始まると、気が遠くなり無意識に来ている服を撫でまわしたり
敷いている布団を何か物でも探す様な仕草をしたり、絶えず体をビクビク震わせ
軽い喘鳴(ヒューヒューゼイゼイ)を発して目玉が動かず、
脉弦なる者は生き、ジュウ(サンズイ+嗇)なる者は死す。
微なる者は但だ發熱譫語する者は大承氣湯之を主どる。
若し一服して利すれば後服を止む。
脈弦の者は生き、脈渋の者は死んでしまう。
もし証候がそんなに劇しくない者で、但だ発熱してうわ言を言うだけの者は、大承気湯が中心となる。
もし一服して大便が出れば、後は服用させない。
(37)陽明病、其の人多く汗すれば津液外出し胃中燥くを以って大便必ずかた(革+更)し。
カタ(革+更)くして則ち譫語するは小承氣湯之を主どる。
陽明病で汗が多く出る者は、津液が外に出てしまって胃中がカラカラに燥き、それにより必ず大便が硬くなる。
もし大便が硬く、その為にうわ言をいう者は、小承気湯が中心となる。
若し一服して譫語止めば、更に復服する莫かれ。
もし一服してうわ言を言わなくなれば、更に服さすのはやめなさい。
(38)陽明病、譫語潮熱を發し脉滑而疾なる者は小承氣湯之を主どる。
陽明病の者が、うわ言を言い、潮熱を発し、脈が滑(玉にでも触れる様な手触り)で速い者は、小承気湯が中心となる。
承氣湯一升を與ふるに因り腹中轉矢氣する者は更に一升を服す。若し轉矢氣せ不れば更に之を與ふる勿れ。
小承気湯を40t与えたところ、大便は出ないがお腹の中で糞が移動して動いている者は、更に40tを服させなさい。
もし糞が移動しないからと更に小承気湯を与えるのはやめなさい。
明日大便せ不、脉反って微ジュウ(サンズイ+嗇)の者は裏虚也。治し難しと爲す。更に承氣湯を與ふ可から不る也。
明日になっても大便が出ず、脈が反って渋の者は裏が虚しているのである。これは治しにくい。
更に小承気湯を与えてはいけない。
(39)陽明病、譫語潮熱有り、反って食する能は不る者は胃中必ず燥屎五六枚有る也。
陽明病でうわ言を言い潮熱が有り、反って食べることが出来ない者は、腸の中に必ず燥いた糞塊が5〜6個在る。
若し能く食する者は但だカタ(革+更)きノミ(人+小+、)宜しく大承氣湯にて之を下すべし。
もし食べることが出来る者は但だ便が硬いだけで燥いた糞ではないから大承気湯でこれを下してやれ。
(40)陽明病、下血譫語する者は此れ熱血室に入ると爲す。
陽明病で、下血してうわ言を言う者は、これは熱が肝臓に入ったからだ。
但だ頭汗出づる者は期門を刺し、其の實に隨ひて之を瀉すればシュウ(サンズイ+口+耳+戈)然と汗出でて則ち愈ゆ。
但だ頭だけに汗が出る者は期門に針で刺してやれ。その詰まっている度合いに従って
これを漏らしてやればシットリと汗が出て癒える。
(41)汗出で譫語する者は燥屎有り胃中に在るを以って此を風と爲す也。須く之を下すべし。
汗が出始めるとうわ言を言い出した者は、燥いた糞が腸の中に在る為で、これは陽明の中風とみなすのである。
この風から来ている者は、下して治してやるべきである。
過經は則ち之を下す可し。
また病が六経(太陽経・陽明経・少陽経・太陰経・少陰経・厥陰経)を行ぐり盡して
なお癒えずうわ言を言う者も下してやれ。
若し早ければ語言必ず亂る。表虚裏實を以ての故也。之を下せば則ち愈ゆ。大承氣湯に宜し。
もし下すのが早ければ言語が必ず乱れる。
これは下しにより外が空(表虚)になり裏が詰まった(裏実)為である。
だからこれを下してやれば癒える。それには大承気湯がよい。
(42)傷寒四五日脉沈而喘滿す、沈は裏に在りと爲す。
傷寒を病んで4〜5日して、脈沈でゼイゼイ音がして胸が満っている者がいる。この沈は、病が裏に在る証拠である。
而るに反ってその汗を發し、津液越出すれば、大便難きを爲す。表虚裏實久しければ、則ち譫語す。
それなのに表にだけ病が在ると思い反対に発汗させ、その為に裏の津液が外へ出てしまうと、大便が出にくくなる。
それが幾日も続くとうわ言を言いだすのだ。
(43)三陽合病、腹滿身重以って轉側し難く口不仁而
太陽(発汗)陽明(下す)少陽(どちらともいえない)の合病で、腹が満り身体が重く、その為に寝返りも出来ず、
口が緩み閉じる事が出来ず(唇を脾の属と爲す陽明の熱陰を蒸せば唇締まりを怠り口不仁を為す)、
面垢譫語遺尿し汗を發すれば則ち譫語し、之を下せば則ち額上汗を生じ手足逆冷す。
顔に垢でもついている様に汚れた感じで艶が無く、うわ言を言い、小便を知らずに漏らし、
汗を発してやると余計にうわ言が激しくなり、下してやると額の上から生汗を出し、手足が逆冷する。
若し自汗出づる者は、白虎湯之を主どる。
もし自ら汗が出る者は、白虎湯が中心となる。
(下した後も、発汗させた後も、発汗や下しをしていなくても、どれも皆同じ)
(44)二陽の併病太陽の證罷みて但だ潮熱を發し手足チツ(執+水)チツ(執+水)と汗出で大便難く而譫語する者は
之を下せば則ち愈ゆ。大承氣湯に宜し。
太陽と陽明との併病は、太陽の証が自然に衰えて止み、但だ適度の熱だけを発し、手足からジトジトと汗が出て、大便硬く、
うわ言を言う者は、これを下してやれば愈ゆる。それには大承気湯がよい。
(45)陽明病、脉浮而緊、咽燥、口苦、腹滿、而喘、發熱、汗出で、悪寒せ不、反って惡熱身重す。
陽明病で、脈浮緊で咽が燥き、口が苦く、腹が満って、ゼイゼイと言い、発熱して汗が出るが、悪寒はせず、
反対に熱がり、体が重くなる。
若し汗を發すれば則ち燥し、心カイ(リッシンベン+貴)カイ(リッシンベン+貴)として、反って譫語し、
若し焼鍼を加ふれば、必ずジュッ(りっしんべん+朮)タ煩躁眠るを得不。
もし汗を発すると余計に熱がり、心がフワフワして気持ちが乱れ逆にうわ言を言い出し、
もし焼鍼を刺すと、必ず怯えた様に体を縮めてビクビクさせ、酷く熱がって眠ることが出来なくなる。
若し之を下せば則ち胃中空虚客氣膈を動じ心中懊ノウ(立心偏+農)す。舌上胎の者は梔子シ(豆+支)湯之を主どる。
もしこれを下せば胃中が空っぽになり、外から来た気が腹部と胸部の間を動かし心中が淋しく悩ましく
何とも言えないやるせない気持ちになり、舌上に苔を生じた者は、梔子シ(豆+支)湯が中心となる。
若し渇し水を飮まんと欲し、口乾舌燥する者は、白虎加人參湯之を主どる。
もし咽が渇して水を飲みたがり、口が乾いて舌が燥いている者は、これは白虎加人参湯が中心となる。
若し脉浮、發熱渇し水を飮まんと欲し小便不利する者は、猪苓湯之を主どる。
もし脈浮で発熱し、咽が渇いて水を飲みたがり、小便が出にくい者は、猪苓湯が中心となる。
猪苓湯の方 猪苓一兩皮を去る 茯苓一兩 阿膠一兩 滑石一兩碎く 澤瀉一兩
猪苓湯の作り方 茯苓3g皮を去る 茯苓3g 阿膠3g 滑石3g碎く 沢瀉3g
右の五味を水四升を以て先ず四味を煮て二升を取り滓を去り阿膠を内下しヨウ(火+羊)消し温かくして七合を服し日に三服す。
右の猪苓、茯苓、滑石、沢瀉の四味を水160tと共に80tになるまで煮て滓を去り、その中に阿膠を入れて沈ませ、
火にかけてかき回しながら溶かし、1日3回温め服す。
(46)陽明病、汗出づること多く而渇する者は、猪苓湯を與ふ可から不。
陽明病で、汗が多く出て、その為に咽が渇く者は、猪苓湯を与えてはいけない。
汗多く胃中燥くに猪苓湯復た其の小便を利するを以っての故也。
その理由は、汗が多く出ると胃中が燥き、猪苓湯を服すと更に小便を出してしまい余計に胃中を燥かせるからである。
(47)脉浮而遲、表熱裏寒下利清穀する者は四逆湯之を主どる。
脈浮で遅く、体表はすごく熱くて熱が有るのに、病人は少しも熱がらずに下痢し(裏寒)、
その尿量も回数も多い者は、四逆湯が中心となる。
(48)若し胃中虚冷し、食する能は不る者は、水を飮めば則ちエッ(口+歳+ノ)す。
陽明病で表熱がある場合に、もし胃中が虚冷していて物が食べられない者は、水を飲めばシャックリが出る。
(49)脉浮、發熱、口乾、鼻燥、食し能ふ者は、則ち衄す。
脈浮で、発熱して、口が乾き、鼻も燥き、食べることが出来る者は、鼻血が出る。
(50)陽明病、之を下し、其の外に熱有り手足温かく、結胸せ不、心中懊ノウ(立心偏+農)、飢えて食する能は不。
陽明病を下し、外に熱が有り手足が既に温かく、心下満痛せず、心中が何とも言えないやるせない気持ちが有り、
空腹感が有って食べたくなるが、いざ食べようとすると急に食べたくなくなって食べられず、
但だ頭汗出づる者は、梔子シ(豆+支)湯之を主どる。
但だ頭だけに汗が出る者は、梔子シ(豆+支)湯が中心となる。
(51)陽明病、潮熱を發し大便溏し、小便自から可、胸脇滿去ら不る者は、小柴胡湯之を主どる。
陽明病で、潮熱を発し、大便がドロドロで、小便は自から出て、胸や脇が満って去らない者は、小柴胡湯が中心となる。
(52)陽明病、脇下コウ(革+更)滿、大便せ不して、嘔し、舌上白胎の者は、小柴胡湯を與ふ可し。
陽明病で、横腹が硬く満り、大便が出ないで、吐き気が有り、舌上に白い苔が有る者は、小柴胡湯を与えなさい。
上焦通ずるを得、津液下るを得て、胃氣因って和し、身にシュウ(サンズイ+口+耳+戈)然と而汗出で解する也。
そうすれば上焦の気を通じる事ができ、身体の中を巡っている水気が下ることができ、
胃気がそれにより和して、身体からシットリと汗をかいて病が解れる。
(53)陽明の中風、脉弦浮大而して短氣す、
腹都て滿ち、胸下及び心痛み久しく、之を按ずるも氣通ぜ不、鼻乾き汗を得不。
陽明病の経が風に中てられて病み、脈が弦浮大で、そして息が早く、お腹全体が満って、
脇下から心にかけて痛み、その場所を長く押してみても気は通じずその痛みは解れず、鼻は乾き、汗はどこにもかかず、
不臥するを嗜み、一身及び面目悉く黄、小便難し、潮熱有り、時時エツ(口+歳+ノ)し、耳の前後腫れ、
寝てばかりいて起きようともせず、身体から顔や眼玉までまっ黄で、小便の出が悪く、潮熱が有り、
時々胃が冷えてシャックリし、耳の前後が腫れて、
之を刺せば小しく差ゆるも外は解せ不、病十日を過ぎるに脉続いて浮なる者は小柴胡湯を與ふ。
その腫れた所に鍼で刺してやれば少しは癒えるが外に在る病は解れず、
病が10日も過ぎた時に脈が相変わらず但だ浮いている者は、多少裏寒が表れても小柴胡湯を与えてやれ。
脉但だ浮、餘の證の無き者は麻黄湯を與ふ。若し尿せ不腹滿してエツ(口+歳+ノ)を加ふる者は治せ不。
但だ浮脈だけで弦脈は生じず後の証は何も無い者には麻黄湯を与えなさい。
もし小便が少しも出ず、腹満が前より酷くなり、シャックリの回数も多くなる者は、
小柴胡湯や麻黄湯を与えても治せない。
(54)陽明病、自汗出で、若しくは汗を發し小便自利する者は、此れ津液内に竭すると爲す。
陽明病で、自然に汗が出て、若しくは発汗した為に汗が多く出て、小便が自然に出る者は、
これは身体に巡っている水分が尽きているのだ。
硬しと雖も之を攻む可から不。當に須く自から大便せんと欲するをまつべし。宜しく蜜煎導にて(而)之を通ずべし。
だから糞は硬くなり便通が無くても、下しをかけて出してはいけない。
出来る限り自然に大便を催してくるのを待つべきであり、こういう場合には蜜煎導で便通をつけてやれ。
若しくは土瓜根及び大猪膽汁も與に皆導を為す可し。
若しくは蜜煎導だけではなく、土瓜根や大猪膽汁などの導法を用いて、
病苦を緩め、なおかつ熱の結するのを防いでやりなさい。
蜜煎導の方 蜜七合一味を銅器中に内れ微火にて之を煎じ稍凝りて飴の状に似たれば之を攪して焦著せ令むる勿れ。
蜜煎導の作り方 蜂蜜30t程を銅器製の鍋中に入れて弱火で緩やかに煮詰め、
色濃くなってきたらよくかき混ぜて焦げ付かぬ様に注意し、
丸す可きを欲すれば併手して捻じ挺と頭に令て鋭く大きさ指の如く長二寸許りならしむ。
當に熱時に急に作るべし。冷ゆれば則ち硬し。
飴の様に固くなった物を取り、火傷しない程度に熱いうちに手の平に載せて練り合わせ、指位の太さにして先を尖らせ、
4cm程の長さにする。これは常に熱いうちに手早く作らないといけない。冷めてくると固くなり自由が利かなくなるから。
以って穀道の中に内れ手を以て急に抱き大便を欲する時乃ち之を去る。
これを肛門の内に差し込み、親指の腹でギュッと押し付ける様に押え、病人が便意を催したらこれを抜き去る。
猪膽汁の方 大猪膽一枚汁を瀉し醋少許を和し以って穀道中に灌ぐ、一食頃の如くにして當に大便出づべし。
猪膽汁の作り方 大猪膽(猪又は豚の肝)1個分の汁を取り、これに少量の食酢を加えて和し、
肛門の中に灌ぐ(注射器型が便利)。15〜6分後には当然大便が出るはずだ。
(55)陽明病、脉遲汗出づること多く微しく惡寒する者は表未だ解せざる也。
陽明病で、大便が硬く、その脈は遅で、汗の出方が多く、微かに悪寒が残っている者は、
裏に熱が有る様に見えても表が未だ解しきれていないからである。
汗を發す可し。桂枝湯に宜し。
そういう時は汗を発してやるがいい。その汗を発するには桂枝湯がよい。
(56)陽明病、脉浮汗無く而喘する者は汗を發すれば則ち愈ゆ。麻黄湯に宜し。
陽明病で、脈浮で汗無くそしてゼイゼイと咳をする者は、汗を発してやれば愈ゆる。それには麻黄湯がいい。
(57)陽明病、發熱汗出ずるは此れを熱越と爲す。黄を發する能は不る也。
陽明病で、発熱して汗が出るのを熱越(熱が上がって散り失せる)とする。これは熱が越すからである。
だから黄疸を発することが出来ないのだ。
但だ頭汗出で、身に汗無く頸を劑えて還り、小便利せ不、渇して水漿を引く者は、此れオ(ヤマイダレ+於)熱裏に在ると爲す。
ところがこの場合、汗が出ることは出来るが、その汗は但だ頭からだけで、それが首を境にして首から下には全然汗が出ず、
小便も出ず、喉が渇いてひっきりなしに水や酢気のある飲料を飲みたがる者は、
これは外へ抜けられないで捌け口を失った熱が裏に在るからである。
身に必ず黄を發す。茵チン(草冠+陳)蒿湯之を主どる。
これは必ず黄疸を発するものであり、これには茵チン(草冠+陳)蒿湯が中心となる。
茵チン(草冠+陳)蒿湯の方 茵チン(草冠+陳)蒿六兩 梔子十四枚擘 大黄二兩皮を去る
茵チン(草冠+陳)蒿湯の作り方 茵チン(草冠+陳)蒿4g 梔子3g擘く 大黄1g皮を去る
右の三味を水一斗を以て先ず茵チン(草冠+陳)を煮て六升を減じ二味を内れ煮て三升を取り滓を去り分温三服す。