更新日 1996年(平成8年)1月23日〜2023年(令和5年)10月20日
※ 私なりの解釈なので、あくまでも参考までに。
※ 突然の解説変更ございます。
百合狐惑陰陽毒病脉證併治・第三
百合病・狐惑病・陰陽毒病の脈と証、并びに治方・第三
(1)論に曰はく、百合病なる者は、百脉を一宗して悉く其の病を致す也と。
他の論を引証して述べると、百合病(精神病)になる者は、三陰三陽のどれからでも病むものである。
意食せんと欲し、復た食する能はず、
食物を欲しがらなかった者が何かを食べてみたいという気持ちになったが、食べようとするとまた食べれなくなり、
常に黙然たり臥せんと欲して臥する能はず。行かんと欲して行く能はず。
常にボンヤリとしたり、横になろうとして寝転んでも、身体が怠くなってきて長く横になれず、
何かやろうとするが遣る気が起こらず、何処かに行こうと思うが行く気になれず、
飲食或いは美なる時有り、或いは食臭を聞くを用い不る時有り。
どうかすると、飲み物や食べ物が美味しく感じたり、そうかと思えば、食物の臭いを嗅ぐのも嫌だと思う時がある。
寒の如くにして寒無く、熱の如くにして熱無く、
寒が有る病気に見えるが寒は無く、或いは熱が有る病気に見えるが熱は無く、
口苦く、小便赤く、諸藥も治する能はず、藥を得れば則ち劇しく吐利し、
何を味わってみても口の中が苦く感じ、小便の色は赤く、様々な薬を与えるが治すことが出来ず、
治らない所を攻めてみるが動じて劇しく吐いたり下痢したりし、
~霊有る者の如し身形和するが如く。
神の祟りか憑依でもされている様に見えるが、身体はどこも悪くないようで正常に見える。
其の脉微數溺する時、毎に頭痛する者は六十日にして乃ち愈ゆ。
その人の脈は微かで速く、小便をする度に頭痛する者は、六十日経てば良くなる。
若し溺する時、頭痛まず、淅然たる者は、四十日に愈ゆ。
もしも小便する時に頭痛せず、ゾーッゾーッと寒気がする者は、四十日経てば良くなる。
若し、溺快然として但頭眩する者は、二十日に愈ゆ。
もしも小便が気持ちよく出て、頭がグラグラとする者は、二十日経てば良くなる。
其の證或いは未だ病まずして預め見し、
前に述べた証で『思ったほど食べれない』から『憑依している様に見える』までの証が未だ現れなくても、
少しでも疑いがある時は、よく観察しなさい。
或いは病、四五日にして出で、或いは病むこと二十日、或いは一月微に見わるる者は、各證に隨いて之を治せ。
病が四〜五日後に現れたり、或いは二十日目に現れたり、或いは一ヶ月後に少し現れ始めたりする者がいる。
各々の現れた証に従って、治してあげなさい。
(2)百合病、汗を發したる後の者は、百合知母湯之を主どる。
百合病を、普通の熱病と思い汗を発し、その為に体液をなくして治らなくなった者は、百合知母湯が之を治してくれる。
百合知母湯の方 百合七枚(擘く) 知母三兩(切る)
百合知母湯の作り方 百合7枚(引き裂く) 知母3g(切る)
右先ず水を以て百合を洗い、漬すこと一宿すれば、當に白き沫出づべし。
其の水を去り、更に泉の水二升を以て煎じて一升を取り、滓を去り、
先ず、水で百合を洗い、水に一晩漬しておけば白い泡が出る。その水を捨て去り、更に清水80ccを加え、
40ccになるまで煎じて滓を去る。
別に泉の水二升を以て知母を煎じて一升を取り、滓を去り、後、合和し、煎じて一升五合を取り、分かち温め再服す。
別に清水80ccと共に知母を煎じて、40ccになったら、滓を取り去り、
その後、百合の煎液と知母の煎液を合わせて60ccになるまで煎じ、それを1日2回に分けて温め服す。
(3)百合病、之を下したる後の者は、滑石代赭湯之を主どる。
百合病を、内熱が有るとして之を下した後、小便の出が悪くなった者は、滑石代赭湯が中心となる。
滑石代赭湯の方 百合七枚(擘く) 滑石三兩(碎き綿にて裏む) 代赭石弾丸大如一枚(碎き綿にて裏む)
滑石代赭湯の作り方 百合7枚(擘く) 滑石3g(砕いて綿に包む)
代赭石弾丸の大きさ1枚(砕いて綿に包む)
右先ず水を以て百合を洗い、漬すこと一宿なれば、當に白き沫出づべし。其の水を去り、更に泉の水二升を以て煎じて
一升を取り、滓を去り、
まず、水で百合を洗い、水に一晩浸けておくと白い泡が出る。
その水を捨てて、更に清水80ccを加えて40ccになるまで煎じ、滓を取り去り、
別に泉の水二升を以て滑石代赭を煎じ、一升を取り、滓を去り、後合和し、重ねて煎じ、一升五合を取り、分かちて温服す。
別に、清水80ccで滑石と代赭石を煎じ、40ccになったら滓を取り去り、その後、二種類の煎液を合わせ、
60ccになるまで煎じ、1日2回に分けて温め服す。
(4)百合病、之を吐して後の者は、後方を用いて之を主どる。
百合病を患っていて、胸中に寒が有るとして之を吐かせ、それでも後に治らない者は、百合鶏子湯が中心となる。
百合鶏子湯の方 百合七枚(擘く) 鶏子黄一枚
百合鶏子湯の作り方 百合7枚(擘く) 鶏子黄1枚
右先ず水を以て百合を洗い、漬すこと一宿なれば當に白き沫出づべし、其の水を去り、更に泉の水二升を以て煎じて、
一升を取り滓を去り、鶏子黄を内れ、攪勺し、五分に煎じて温服す。
まず水で百合を洗い、一晩水に漬しておけば白い泡が出る。その水を捨て去り、更に清水80ccを加え40ccになるまで煎じ、
滓を取り去り、その中に卵黄1個を入れてよく掻き混ぜ、半量になるまで煎じて温めて服す。
(5)百合病、吐下發汗を經不、病の形初めの如き者は、百合地黄湯之を主どる。
百合病で、未だ吐き下しも発汗もされておらず、容態が初めと同じ状態の者には、百合地黄湯が中心となる。
百合地黄湯の方 百合七枚(擘く) 生地黄汁一升
百合地黄湯の作り方 百合7枚(擘く) 生地黄汁40cc
右水を以て百合を洗い、漬すこと一宿なれば當に白き沫出づれば其の水を去り、
まず水で百合を洗い、一晩水に漬しておけば白い泡が出る。その水を捨て去り、
更に泉の水二升を以て煎じて一升を取り、滓を去り、地黄汁を、煎じて一升五合を取り、分かち温め再服す。
更に清水80ccを加え、40ccになるまで煎じて滓を取り去り、そしてその中に地黄汁を入れ、60ccになるまで煎じ、
1日2回に分けて温め服す。
病に中れば更に服する勿れ、大便當に漆の如かるべし。
百合地黄湯を服した後に効果があった者は、その後、粘りけがありドロドロとした黒い大便をするから、
更に服させてはいけない。
(6)百合病、一月解せ不、變じて渇と成った者は、百合洗方之を主どる。
百合病が一ヶ月も治らず、今まで無かったのどの渇きが出てきた者は、百合洗方が口渇を治してくれる。
百合洗方の方 上記百合一升を以て水一斗を之を漬すこと一宿。以て身を洗い、洗い己れば餅に煮たるを食す。
百合洗方の作り方 百合180gと1800ccの水に一晩漬けて置き、その水で身体を洗い終えたら、
その百合を煮て、餅の様にして食べる。
鹽シ(豆+支)を以てする勿れ。
塩気の有る納豆や味噌等それに類する物と一緒に食べてはいけない。食い合わせの悪い物になるから。
(7)百合病渇す差え不る者は、後方を用い之を主どる。
百合洗方を与えてみたが、のどの渇きがとれない者には、括樓牡蠣散を用いたら治る。
括樓牡蠣散の方 括樓根等分 牡蛎等分(熬る)
括樓牡蠣散の作り方 括樓根等分 牡蛎等分(熬る)
右細末と為し、飮にて方寸匕を服す。日に三服す。
二味を細末にして、1回量 2gとし、1日3回服用する。
(8)百合病、變じて發熱したる者は、百合滑石散之を主どる。
百合病が発熱に変わった者は、百合滑石散が之を治してくれる。
百合滑石散の方 百合(一兩) 滑石(三兩)
百合滑石散の作り方 百合1g 滑石3g
右散と為し、飮にて方寸匕を服す。日に三服す。當に微利すべき者は、服するを止む。熱則ち除く。
二味を散状にして、1回 2g程 1日3回服用する。少し下痢しだした者は、熱が下がるから後は服用しなくてよい。
(9)百合病、陰に見れたる者は、陽法を以て之を救い、陽に見れたる者は、陰法を以て之を救う。
百合病の証が陰証に見える者は、陽気の不足として補陽発散の方法で陽気を補いながら汗をかかせてやりなさい。
百合病の証が陽証に見える者は、陰気の不足として補陰収固の方法で陰気を補いながら大便を出してやりなさい。
陽に見れたるを陰を攻め、復た其の汗を發するは此を逆と為す。
陰に見れたるに陽を攻め、乃ち復た之を下せば此も亦逆と為す。
陽証に見える者に陰を攻めて更に繰り返し汗をかかせれば、これは逆療法である。
陰証に見える者に陽を攻めて更に繰り返し下せば、これもまた逆療法である。
(10)狐惑の病為る状、傷寒の如し、黙黙と眠らんと欲すれども、目閉づるを得不、臥起安から不、
孤惑病(狐病と惑病の総称)というものは、傷寒に似て自ら努めて静かにし寝ようとするが、
どうしても目がさえて目を閉じて眠る事が出来ず、横になっても座っても気分が落ち着かず不安になる。
喉を蝕すれば惑を為し、陰を蝕すれば孤を為す。
この様な症状で、喉(上部)に病(潰瘍等)が出来るのを惑と言い、
陰部や肛門(下部)に病(潰瘍等)が出来るのを狐と言う。
飮食するを欲せ不、食臭を聞くを惡む、其の面目乍ち赤く、乍ちKく、乍ち白し、上部を蝕すれば則ち声喝す。
甘艸瀉心湯之を主どる。
飲食を欲しがらず、遠くから食物の臭いがするのも嫌がり、その目や顔色が急に赤くなったり、
赤くなったかと思うと急に黒くなったり急に白くなったりし咽喉の通りが悪くなればしがれた声になる。
これは甘草瀉心湯の証である。
甘艸瀉心湯の方 甘艸(四兩炙る) 黄ゴン(草冠+今)(三兩) 人参(三兩) 乾薑(三兩) 黄連(一兩) 大棗(十二枚) 半夏(半斤)
甘草瀉心湯の作り方 甘草4g 黄ゴン(草冠+今)3g 人参3g 乾薑3g 黄連1g
棗4g 半夏5g
右七味、水一斗で煮て六升を取り、滓を去り、再煎して一升を温服す。日に三服す。
右の七味を水400ccと共に煮て240ccになるまで煎じ、滓を去り、再び煎じて120ccにし、1日3回に分けて温めて服す。
(11)下部を蝕すれば、則ち咽乾く。苦参湯で之を洗へ。
陰部又は、もっと下の部位辺りに病がでれば、それによってのどが乾く。苦参湯でその爛れた所、病巣を洗いなさい。
(12)肛を蝕する者は、雄黄で之を熏ぜよ。
肛門に病が出来た者は、雄黄の煙を用いて患部を燻らしてあげなさい。
雄黄 左記一味を末と為し、瓦二枚之を合わせて筒となし、焼いて肛に向けて之を熏ず。
雄黄 左の一味を粉末にし、これを火の上で焼き、筒瓦二枚を合わせて筒状にした中に、その煙をくぐらせ、
肛門に向けて炊き込ませる。これに用いる雄黄末の量は0.5g位が良い。
(脉經に云う、病人或いは呼吸に従り、上其の咽を蝕し、或いは下焦に従り、
其の肛陰を蝕す。上を蝕すれば惑と為し、下を蝕すれば狐と為す。狐惑病は猪苓散之を主どる。)
(13)病む者、脉數熱無く、微煩して、黙黙と但臥せんと欲し汗出づ、初め之を得て三四日、目赤きこと鳩の眼の如く、
病人の脈は速いが体に触れても熱を感じず、気怠く少しもだえ苦しみ、座っていることも出来ずただ横になりたがり、
汗をかき、病んで3〜4日目頃に、眼球が鳩の目玉の様に赤くなり、
七八日に、目の四眥(一本此有黄字)Kくなり、若し能く食する者は、膿已に成る也。赤小豆當歸散之を主どる。
発病して7〜8日経った頃、両方の目尻と目元が黒くなり、
その者に食欲があるのは、これは膿が既に出ているのであって、これには赤小豆当帰散の証である。
赤小豆當歸散の方 赤小豆(三升を浸し芽を出さしめ曝乾せしむ)當歸(原と銖兩を缺く 千金外臺には三兩を用ふ)
赤小豆当帰散の作り方 赤小豆42g(水に浸して発芽させ乾燥さす。※夏は一晩位・冬は2〜3日) 当帰3g
右二味を杵いて散と為し、漿水にて方寸匕を服す。日に三服す。
上記二味を杵いて散とし、漿水(稀い酢・米の磨ぎ汁をねかせ酸っぱくさせた物とも言われている)を用い、
1日3回 1回2gを服す。
(14)陽毒之病為る、面赤斑斑錦文の如く、咽喉痛み、膿血を唾す。五日には治す可し、七日には治す可から不。
升麻鼈甲湯之を主どる。
陽毒の病というものは、病人の顔面に綿織物模様の赤いまだら模様ができ、のどが痛く、唾を吐くと膿や血が出て、
五日間までには治すことが可能であるが、この症状が生じて七日も経過した者は治しようがない。
そして、五日までに治せる者には升麻鼈甲湯の証である。
(15)陰毒之病為る、面目青く、身痛み、枕を被るが如く咽喉痛む。五日には治す可し。七日には治す可から不。
升麻鼈甲湯去雄黄蜀椒之を主どる。
陰毒の病というものは、顔色や目の色が青くなり、身体が杖で打ちのめされる様に痛み、
咽喉が痛む者は五日以内であれば治すことが出来るが、七日経った者は治しようがないのである。
発病して五日以内の者は升麻鼈甲湯去雄黄蜀椒の証である。
升麻鼈甲湯去雄黄蜀椒の作り方 升麻2g 当帰1g 蜀椒1g(炙って揮発性成分を飛ばす) 甘草2g 鼈甲(小指の大きさ一片炙る)
升麻鼈甲湯の方
升麻(二兩) 當歸(二兩) 蜀椒(一兩 炒りて汗を去る) 甘艸(二兩) 鼈甲(手指大 一片炙る)
雄黄(半兩 こする)
升麻鼈甲湯の作り方 升麻2g 当帰1g 蜀椒1g(炙って揮発性成分を飛ばす)
甘草2g 鼈甲(小指の大きさ一片炙る) 雄黄0.5g(杵いて粉にする ※ヒ素の硫化鉱物・毒性)
右六味、水四升を以て煮て一升を取り、之を服す。老小は再服し、汗を取る。
上記の六味を水160ccと共に煮て40ccまで煎じ、滓を去り、これを頓服する。老人や小児は二回に分けて服用する。
服し終われば汗をかくので、服を脱いで汗を取る。
(肘後千金方 陽毒は、升麻湯を用い、鼈甲無く桂有り。陰毒は甘艸湯を用い雄黄無し。)
《百合狐惑陰陽毒病脉證併治・第三》
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