更新日 2012年(平成24年)7月5日〜令和5年12月1日
※ 私なりの解釈なので、あくまでも参考までに。
※ 突然の解説変更ございます。
胸痺心痛短氣病脉證併治・第九
胸痺と心痛と短気の病の脈状と証候並びにそれに対する治方を明細に述べたもの・第九
(1)師の曰はく。夫れ脉を當に太過不及に取るべし。
師匠が言う、脈をとる時は、当然浅く触れる部は軽く、深く触れる部は重くして診なさい。
陽微、陰弦なれば即ち胸痺して痛む。然る所以の者は、其の極虚を責むる也。
陽(寸口・指を軽く置き浅く按ずる)が微で、陰(尺中・指を重く深くギュッと按ずる)が弦なら、
きっと胸痺(気血の不通により胸が痛んだり詰まったりする病)して痛むものである。
そうなる者は、その病の責は極虚である。
今、陽虚上焦に在るを知る。胸痺心痛する所以の者は、其の陰弦するを以ての故也。
それは今脈によって陽虚が上焦に在る事が知れたから判るのである。
胸痺心痛する訳は、その陰が弦だからである。
(寸口で上焦の変化を診る、関上で中焦の変化を診る、尺中で下焦を診る。)
(2)平人、寒熱無く、短氣以て息するに足ら不る者は実也。
これといった病が無い普通の者で、寒熱も無く、但だ息切れがして静かに呼吸する事が出来ない者は、
内に実している所があるからである。
(3)胸痺之病、喘息、咳唾、胸背痛、短氣し、寸口の脉沈にして遲、關上小緊數なるは、
括樓薤白白酒湯之を主どる。
胸痺の病で、ゼイゼイとのどが鳴り咳をし痰や唾の様なものが出て胸中や背中の内部が痛んで息が切れ、
寸口の脈は沈で遅であるのに対し、関上の脈は少し早目に打ってやや緊の者は、
カ(木+舌)楼根薤白白酒湯が中心となる。
カ(木+舌)楼薤白白酒湯の方 カ(木+舌)楼實一枚搗 薤白半升 白酒七升
カ(木+舌)楼薤白白酒湯の作り方 カ(木+舌)楼実5g 薤白8g 白酒280t
右の三味を同煮して二升を取り分け温めて再服す。
右の三味を一緒に煮て80tを取って滓を去り、二回に分けて温めて再服す。
(4)胸痺、臥することを得不、心痛背に微する者は、カ(木+舌)楼薤白半夏湯之を主どる。
胸痺で、心が痛んで眠ることが出来ず、その痛みが背中まで突き抜ける者は、カ(木+舌)楼薤白半夏湯が中心となる。
カ(木+舌)楼薤白半夏湯の方 カ(木+舌)楼實一枚搗 薤白三兩 半夏半升 白酒一斗
カ(木+舌)楼薤白半夏湯の作り方 カ(木+舌)楼実5g 薤白3g 半夏5g 白酒400t
右の四味を同じく煮て四升を取り、温めて一升を服す。日に三服す。
右の四味を一緒に煮て160tを取って滓を去り、一回40tを温め服す。一日三回服す。
(5)胸痺、心中痞、留氣結ぼれて胸に在り、胸滿脇下より心を逆搶するは、枳實薤白桂枝湯之を主どる。
人参湯亦之を主どる。
胸痺で、心中が痞えて塞がる様な感じがして常に胸中がサバサバせず、
胸満して脇の下から心の方へ逆に突き上げてくる様な痛みが有る者は、
枳実薤白桂枝湯が中心となる。また人参湯もこういう場合に用いる事がある。
枳實薤白桂枝湯の方 枳實四枚 厚朴四兩 薤白半斤 桂枝一兩 括樓實一枚搗
枳実薤白桂枝湯の作り方 枳実2.8g 厚朴4g 薤白8g 桂枝1g カ(木+舌)楼実5g
右の五味を水五升を以て、先ず枳實厚朴を煮て二升を取り滓を去り、諸藥を内れ、煮ること數沸、分かち温め三服す。
先ず右の枳実と厚朴と水200tと共に40tまで煮詰めて滓を去り、その中に後の薬を入れて数個泡立ったら滓を去り、
三回に分けて温め服す。
人参湯の方 人参三兩 甘艸三兩 乾薑三兩 白朮三兩
人参湯の作り方 人参3g 甘草3g 乾姜3g 白朮3g
右の四味を水八升を以て煮て三升を取り、温めて一升を服す。日に三服す。
右の四味を水320tと共に120tになるまで煮詰めて滓を去り、一回40tを温めて服す。一日三回服す。
(6)胸痺、胸中氣塞短氣、茯苓杏仁甘艸湯之を主どる。橘枳薑湯亦之を主どる。
胸痺で、胸中が痞えて常にサバサバせず、胸満して脇下から心の方へ突き抜く様な痛みが有り息切れがするのには、
茯苓杏仁甘草湯が中心となる。また橘枳姜湯もこういう場合に用いる事がある。
茯苓杏仁甘艸湯の方 茯苓三兩 杏仁五十個 甘艸一兩
茯苓杏仁甘草湯の作り方 茯苓3g 杏仁2g 甘草1g
右の三味を水一斗を以て煮て五升を取り、温め一升を服す。三服差え不れば更に服す。
右の三味を水400tと共に200tまで煮詰めて滓を去り、一回40tずつ温め服す。
三回服しても良くならなければ更に服す。
橘皮枳實生薑湯の方 橘皮一斤 枳實三兩 生薑半斤
橘皮枳実生姜湯の作り方 橘皮16g 枳実3g 生姜8g
右の三味を水五升を以て煮て二升を取り、分かち温め再び服す。
右の三味を水200tと共に80tまで煮詰めて滓を去り、ぞれを二回に分け、一回40tずつ温め服す。
(肘後、千金に云ふ、胸痺、胸中フク(立心偏+幅-巾)フク(立心偏+幅-巾)として滿が如く、噎塞し習習の如く痒く、
喉中澁燥して喉中澁燥して沫を唾するを治す。)
(肘後備急方や千金方に記載されている書物には、胸痺で胸中が詰まっている様に満り、皮膚がガサガサした感じで痒く、
喉中がイライラして燥き泡唾を吐くのを治す。)
(7)胸痺緩急の者は、ヨク(草冠+意)苡附子散之を主どる。
胸痺で胸痛や心痛などの病証が有り、その証候は良くなったり悪くなったりと著しい者は、
ヨク(草冠+意)苡附子散が中心となる。
ヨク(草冠+意)苡附子散の方 ヨク(草冠+意)苡仁十五兩 大附子十枚炮
ヨク(草冠+意)苡附子散の作り方 ヨク(草冠+意)苡仁15g 大附子3g炮じる
右の二味を杵いて散と為し、方寸匕を服す。日に三服。
右の二味を杵いて散にし一回2gずつ服す。一日三回服す。
(8)心中痞え、諸逆心懸痛するは、桂枝生薑枳實湯之を主どる。
心中が痞えて諸の逆(吃逆・吐き気・咳など)と、心臓が物にでも掛けられ引っ張られる様に痛む者は、
桂枝生姜枳実湯が中心となる。
桂枝生薑枳實湯の方 桂枝三兩 生薑三兩 枳實五枚
桂枝生姜枳実湯の作り方 桂枝3g 生姜3g 枳実3.5g
右の三味を水六升を以て煮て三升を取り、分かち温めて三服す。
右の三味を水240tと共に120tまで煮詰めて滓を去り、三回に分けて温め服す。
(9)心痛背に徹し、背痛心に徹するは、烏頭赤石脂丸之を主どる。
心痛が背中まで響いてそれが背中から心臓へ及ぼしてくる者は、烏頭赤石脂丸が中心となる。
赤石脂丸の方 蜀椒一兩一法二分 烏頭一分炮 附子半兩一法一分 乾薑一兩 一法一分
赤石脂一兩一法一分
烏頭赤石脂丸の作り方 蜀椒1g 烏頭0.1g 附子0.5g炮じる 乾姜1g 赤石脂1g
右の五味、之を末と為し、蜜にて梧子大に丸め、食に先だちて一丸を服す。日に三服。
知ら不れば稍加えて服す。
右の五味を末にして蜂蜜で0.3gの大きさの丸にし、食前に一丸服す。一日三回服す。
効果が少ししかなければ一回量を少し増やして服す。
(10)九痛丸は九種の心痛を治す。
九痛丸は、九種類の虫心通、注心痛、風心痛、悸心痛、食心痛、飲心痛、冷心痛、熱心痛、去来心痛を治す。
九痛丸の方 附子三兩炮 生狼牙二兩炙香 巴豆一兩去皮心熬研如脂 人参一兩 乾薑一兩 呉茱萸一兩
九痛丸の作り方 附子3g 生狼牙1g香ばしくなるまで炙る 巴豆1g皮心を去り熬って研り脂の様にすりつぶす
人参1g 乾姜1g 呉茱萸1g
右の六味、之を末と為し、煉蜜にて丸すること梧子大の如くし、酒にて下す。
強き人は、初め三丸を服す。日に三服す。弱き者は、二丸を服す。
右の六味を末にして蜂蜜で0.3gの丸にし、それを清酒を用いて服用する。
丈夫な者は初め一回三丸、虚弱な者は二丸を服用する。
一日三回服用するが、丈夫な者も虚弱な者も最初は一丸から試すのが安全である。
兼ねて卒中惡、腹脹痛口言ふ能わ不るを治す。
合せて原因不明のショックで急に変になったり腹が大きく脹り出し痛みで何も出来ない者を治す。
又、連年の積冷流注胸痛を治し、併せて冷衝上氣、落馬、墜車、血疾等を治し、皆之を主どる。
また長年蓄積された冷えが心胸に注がれて痛む者をも治し、そして冷えが血気にぶつかって上気したり、
落馬や墜車により生じた血の病等になった者も全部良い。
口を忌むこと常の法の如くす。
自力で飲めない者には、口をこじ開けて噛ますか飲み込ますかして適当な方法で何とか口へ入れてやりなさい。
《胸痺心痛短氣病脉證併治・第九》
↑このページのTOPに戻る↑
←トップページに戻る